新型コロナウィルスによる金融市場の混乱を回避するため、各国の中央銀行が資金を市場に供給しています。そしてこの潤沢な資金が社債や株式に流れています。
米国の株式市場ではハイテク銘柄を中心としたナスダック指数や半導体指数が史上最高値を付けるなど活況です。日本では小型株や半導体関連銘柄の上昇が目立っています。このように、現在はコロナバブルとも言ってもよい株式相場となっています。
このまま株価がずっと上昇すればなんら問題はないのですが、上がったものはやがて下落するのが常です。そこで、投資初心者が今のタイミングで気をつけるべきポイントを解説します。
目次
- 投機的銘柄に手を出さない
1-1.投機と投資の違いを知る
1-2.「投資」先を見つけるためにPERを参考にする
1-3.高PER銘柄、赤字企業は要注意 - 来るべき下落に備える
2-1.中央銀行の金融政策と株価の関係
2-2.下がる前に市場が発するサインは? - まとめ
1.投機的銘柄に手を出さない
まずは「投機的銘柄に手を出さない」もしくは「投機をしない」ということが注意点となります。
1-1.投機と投資の違いを知る
投機と投資の違いをご存知でしょうか。簡単に説明すると、投機は目先の利益を追求し、売り買いを繰り返すことで収益をあげようとする取引のことです。また投機家はデイトレーダーなど一日に何度も売買を繰り返す市場参加者のことを指します。
投機家が主に取引する銘柄は、株価の値動きが大きいものが多く、なかには1日15%以上変動するものもあります。彼らが投資先を選定するうえで注視するのは、企業の財務内容より株式市場における「テーマ(材料)」です。
「テーマ」とは、新型コロナウィルスのワクチン開発や、在宅勤務の増加に伴う動画配信・ITコミュニケーションツールなど、その時に話題となる材料です。その話題で盛り上がっているときは、テーマに関する銘柄の取引が活況を呈しますが、テーマが過ぎ去ると株価は何事もなかったかのように以前の水準に戻ってしまう傾向が強いことには注意が必要です。
一方、投資というのは、企業の成長の結果を株価の上昇ととらえ、長期的な目線で株式を保有する取引です。そのため、投資家は企業の業績を投資の基準としますが、企業の成長には時間を要するため売買の頻度は低くなります。よって投資家の投資期間は長く、日々売買を繰り返すようなことはしません。企業業績や株価水準を投資の羅針盤とし、「株価の成長」に投資します。
一見すると投機のほうが儲かるようにも思えますが、相場が崩れてしまうと損失が大きくなる傾向があります。初心者は堅実な投資家を目指しましょう。
1-2.「投資」先を見つけるためにPERを参考にする
投資する銘柄を見つける方法として、株価水準を分析する際に用いる指標(指数)を参考にすることがあります。代表的な指数は株価収益率(PER)です。PERは初心者でも簡単に計算できる便利な指数です。
計算方法はまず、一株当たり利益(EPS)を求めます。EPSは、企業の利益を発行している株式数で割ることで算出します。株価をEPSで割った値がPERです。
PERは相対的に株価を比較する際に使います。例えば同じ業種でA社のPERが10倍、B社が20倍の場合、A社の株価がB社より割安といえます。また、日経平均株価等の指数のPERと比較することで相対的に株価の水準が判断できます。なお、指数のPERは日本経済新聞で確認することができます。2020年7月27日現在、日経平均株価のPERは18倍程度です。
1-3.高PER銘柄、赤字企業は要注意
投資している銘柄のPERが指数のPERと比べ、あまりにかけ離れている場合は要注意です。株価の下落局面では大きな損失がでてしまう可能性があります。また、企業の予想収益がマイナスの場合、予想PERはマイナスとなってしまいます。赤字企業や高PERの銘柄に投資していたら要注意です。
今回のコロナ禍では東証マザーズ指数や半導体銘柄の上昇が目立っています。東証マザーズ指数の構成銘柄には赤字会社も多く、株価が割高な銘柄が目立ちます。現在、潤沢な資金が小型株市場に流入し、株価を押し上げています。投資している銘柄が指数のPERと比べ割高な場合や、赤字会社の株式を保有していたら要注意です。
2.来るべき下落に備える
コロナ禍で株式相場は堅調ですが、一方で実体経済は流れが止まったことで、世界的に大きく減速しています。この緊急事態に各国の中央銀行は、市場に膨大な量の資金を供給することで経済の失速に歯止めをかけようとしています。このことが株式相場を押し上げている要因となっているのです。
IMFの世界経済見通しでは、2020年の経済成長はマイナス4.9%と、2019年のプラス2.9%から大幅な減速が予想されています。しかし、2021年はプラス5.4%と経済の急回復が見込まれています。
IMFの見通し通り実体経済が回復に向かえば、各国の中央銀行は資金の供給を減らし引き締め策をとる可能性があります。引き締め策に転換した場合、市場金利が上昇し、株式市場が下落することが予想されます。来るべき下落に備え、注目すべきポイントを2点挙げます。
- 中央銀行の金融政策
- 下がる前に市場が発するサインは?
これら2点について詳しく見ていきましょう。
2-1.中央銀行の金融政策と株価の関係
株価は金利が上昇すると下落します。金利の上昇が企業の資金調達コストの上昇に繋がり、企業の収益を引き下げるためです。
金利は、中央銀行の金融政策によって上昇したり下落したりします。現在、各国の中央銀行は歴史的な低金利政策をとっており、日本銀行も同様にマイナス金利政策をとっています。このため、長期国債の指標とされる10年債の金利はほぼ0%前後で推移しています。国債の金利は企業が発行する社債の基準金利となるため、企業は低金利の資金調達が可能となっています。
しかし、ここから金利が上昇に転じた場合には株式市場が下落します。例えば1990年代後半に起きたハイテクバブルが崩壊した背景には、99年5月から始まった米国の政策金利の引き上げがあります。この時、政策金利は99年6月から2001年5月にかけて4.75%から6.5%に引き上げられました。
米国のダウ平均は99年12月に11497.12ドルの高値から2002年9月には7591.93ドルに下落しました。タイムラグはありますが株価下落の背景に利上げがあったと考えられます。
現在、利上げの可能性は低いと思われますが、各国の中央銀行の政策や中央銀行総裁の発言等に変化があった場合は注意しましょう。
2-2.下がる前に市場が発するサインは?
来るべき下落に備え、もう1点注目すべきなのは、市場の発するサインです。
ETFという上場投資信託に、iシェアーズ iBoxxハイイールド社債ETF(コード:HYG)という銘柄があります。この銘柄が下落すると株式市場が下落する傾向にあります。
ハイイールド債とは信用力が低い企業が発行している社債のことです。具体的には格付けがBB(ダブルビー)以下の銘柄で組成されたETFです。BB以下の銘柄は債務不履行リスクが高いため、金利が高水準に設定されます。リスクが高いため平常時には不人気な銘柄です。しかし、市場に資金が余り出すと相対的に割安なハイイールド債が買われ、結果的にETFの価格が上昇します。
つまり、このETFが下落に転じた場合はハイイールド債が売られていることを示します。ハイイールド債が売られるとBB格企業の資金調達コストが上昇するため、業績が下がり株価が下落します。これがやがて市場全体に引火します。このETFの動きに注視することで市場の方向性を知ることができるという訳です。
3.まとめ
コロナ禍の中、株式市場には投機資金が入り活況を呈していますが、投資初心者の方は目先の利を追うのではなく中長期的な投資スタンスで参加しましょう。「投機家」ではなく「投資家」を目指すことが重要です。また、株式投資はリスクを伴うため、余裕資金で行うことが大切です。
時間的、金銭的に余裕をもち、株式市場に参入し「余裕」をもった運用を心がけましょう。
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藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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