NPOの成長を「融資」で後押し。米日財団、NPOに対し無利子で延べ総額4.5億円の社会的融資実行へ

米日財団のローレンス・K・フィッシュ理事長

2025年10月30日、米日財団によるNPO向け社会的融資および「日本子ども若者プラットフォーム」設立会見が都内で開催された。この会見で米日財団は、特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンに対し、延べ総額4.5億円(最大残高3億円)を無利子で融資するイニシアチブを発表した。これは、不登校や虐待などが過去最多を更新するなか、課題悪化のスピードに支援の拡充が追いついていないという現場の課題意識に応えるものだ。返済を前提とする「融資」という新たな調達手法は、NPOの持続的な成長を促し、日本のソーシャルセクターのあり方を変える可能性を秘めている。

会見の冒頭、米日財団のローレンス・K・フィッシュ理事長は、これは「日本の歴史上、最も大規模なソーシャルファイナンシングの案件です」と述べ、その意義を強調した。今回、融資という手法が選ばれた背景には、支援現場の深刻な状況がある。認定NPO法人Learning for Allの李炯植代表理事は、「課題が悪化していくスピードに、我々が支援を拡充するスピードが負けてしまっている」と危機感を表明。認定NPO法人D×Pの今井紀明理事長も、公的な制度がないオンライン福祉相談がNPOに集中しており、相談件数は過去最多ペースで増加していると報告し、個々の団体の努力だけでは限界があることを示唆した。

従来の寄付や助成金に加え、事業成長を促す「融資」という選択肢を持つことで、NPOはより戦略的かつ大規模な活動展開が可能になる。フィッシュ氏は、米国のソーシャルセクターが経済の16%を占めるのに対し、日本は1%に過ぎないと指摘。この未開拓な領域の成長を促すため、米日財団が先駆的な役割を担う決断をした。

今回の無利子融資は、新たに設立された「日本子ども若者プラットフォーム」の活動を後押しするものだ。このプラットフォームにはピースウィンズ・ジャパン、Learning for All、DxP、サンカクシャ、全国こども食堂支援センター・むすびえの5団体が参加。資金調達のハブとしてピースウィンズ・ジャパンが米日財団から一括して融資を受け、全体の保証を担う座組みとなっている。

ピースウィンズ・ジャパンの大西健丞代表理事によると、最大時の融資額3億円のうち1.5億円がプラットフォーム参加団体へ、残りの1.5億円が同団体の防災災害対応事業の基盤強化に充てられる。融資を受けた各団体は、その資金を元手に組織基盤を強化し、それによって得られる寄付会費などを原資に、5年間で返済する計画だ。

このプラットフォームは、資金調達の窓口を一本化することで、資金提供者にとっては支援先を選びやすく、NPOにとってはより大きな規模の資金にアクセスしやすくなるという利点がある。将来的には100億円規模の受け皿を目指しており、今回の融資はその第一歩と位置づけられている。

融資された資金の主な使途は、日々の活動費ではなく、団体の持続的な運営基盤を強化するための「投資」だ。具体的には、安定的な寄付者を獲得するためのマーケティング費用や、遺贈寄付を専門に担う人材の確保などに充当される。

Learning for Allの李氏は、ウェブ広告によるマンスリーサポーター獲得の費用対効果はすでに把握できており、初期投資があれば将来的に収益が見込める形で運用可能だと、融資活用の具体的な計画を語った。さらに、この取り組みの成功確度を高めるため、参加団体間でのノウハウ共有が積極的に行われる。大西氏は、マンスリー会員の獲得手法といった本来は各団体の機密情報にあたる知見も、今回は無償で共有し、セクター全体の能力向上を目指すと述べ、連携による相乗効果への期待を示した。

このイニシアチブは、単一の融資案件に留まらず、民間資源を活用した資金循環モデルを提示することで、日本における社会的投資の拡大を目指すものだ。会見で大西氏は、企業の利益剰余金などを社会課題解決に循環させる「共助資本主義」の構想にも言及。企業版ふるさと納税や、企業の損益計算書に影響を与えにくい「出捐金(しゅえんきん)」といった多様な手法を組み合わせ、民間から社会課題解決への資金の流れをさらに拡大していく考えを示した。

今回の日本最大規模となる試みは、NPOが返済のリスクを取って成長を目指すという新たなモデルを提示する。この挑戦が成功すれば、日本のソーシャルセクターに新たな資金が流入し、行政だけでは対応しきれない複雑な社会課題の解決が加速することが期待される。

【関連サイト】米日財団