3月18日に、金融庁はソーシャルレンディング各社に対して、情報開示における方針および方針の変更に関する発表を行いました。従来のソーシャルレンディング事業では、貸金業法にのっとった運用が行われており、ソーシャルレンディング業者による融資先の事業者情報は、投資家に対して公開されていませんでした。
しかし、融資先情報を含めた数々の秘匿性が、投資家の利益を損なうことに繋がっている結果から、金融庁も方針を改めるようになりました。今後は融資先の事業者名を中心に、情報の公開を求めていく方向に舵を切っています。
金融庁の発表を受けて、ソーシャルレンディング各社がどのような対応を取っているのか、取り上げてみました。
目次
- 金融庁からの情報開示の方針
- 各ソーシャルレンディング会社の発表状況
2-1.クラウドバンクは「同意が得られた融資先は公開する」と発表
2-2.Fundsはすべての情報を公開する方針
2-3.LENDEXは積極的に情報公開に取り組んでいくとの方針 - 未発表のソーシャルレンディング会社の動向にも注目
- まとめ
1.金融庁からの情報開示の方針
金融庁は「ソーシャルレンディングへの投資にあたってご注意ください」と題した発表を行い、ソーシャルレンディング事業者に対して情報公開を積極的に行うように指導しています。
その背景には、行政処分を受けるソーシャルレンディング会社がつぎつぎに現れたことが挙げられます。事態を深刻に受け止めた金融庁は、方針を改めることになったのです。本文中では以下のような声明があります。
今般、金融庁では、ソーシャルレンディングに関し、投資者への情報開示の拡充を図るため、貸付先の情報開示が可能となる解釈を公表しました。
平成31年4月12日まで、第二種金融商品取引業業者の自主的な団体である自主規制機関(第二種金融商品取引業協会)において、パブリックコメントを募集中です。
情報開示の内容としては、以下のようなものが具体的に挙がっています。
- 貸付先(借り手)の名称・所在地(貸付先が法人の場合)
- 貸付先(借り手)の属性(業種・事業内容等)
- 貸付条件(貸付金額、金利、貸付け予定日、貸付期間等)
- 貸付先(借り手)の資金使途
- 回収の可能性に影響を与える情報(借り手の財務情報、担保情報(担保物件の場所、評価額等)、返済猶予等の状況)
- 審査態勢(審査体制、審査手続き等)
- 貸付債権の管理・回収態勢
- 返済遅延等に関する情報(当該事業者の他のファンドにおける分配・償還に影響を与える返済遅延やデフォルトの発生など)など
借り手が法人であれば、名前や属性、融資を受けた資金の使い道など、投資家にとって気になる情報が順次公開されていく予定です。これまでは、これらの情報は限られた範囲しか公開されていませんでした。投資家からすれば、推測はできても融資先の企業などを特定することはできなかったのです。
また、返済遅延後の対応に関する情報も公開されることが少なく、投資家としては資金が戻ってくるのかどうかがわからず、不安な状況に追い込まれることが多くありました。情報の公開が行われるようになれば、投資家はより精度の高い投資判断ができるようになっていくことでしょう。また、返済遅延が発生した後も、行動の指針が立てやすくなります。
2.各ソーシャルレンディング会社の発表状況
そこで、金融庁の新たな方針の発表に対し、各ソーシャルレンディング会社の中で具体的な対応に乗り出している会社を見ていきましょう(2019年4月2日時点の情報に基づく)。
2-1.クラウドバンクは「同意が得られた融資先は公開する」と発表
国内第3位の募集実績を誇るクラウドバンクでは、以下のように情報開示に関する方針を発表しています。
この公表を受けまして、弊社といたしましては、「匿名化・複数化以外の方策」として挙げられている要件等を速やかに満たすよう対応し(本年4月上旬頃を予定しております)、以降に募集するファンドにおいては融資先の同意が得られたものから順次、直接的な融資先が特定できる情報提供も行う等、更なる情報充実化を図る方針です。
4月上旬から募集する案件に関しては、あくまで「融資先の同意が得られたものから」という前提がつきますが、情報公開を行っていく方針です。また、資産保全に関しても、従来よりも投資家の資産を守るための取り組みを立てるとしています。
一方、第二種金融商品取引業協会のパブリックコメントの募集と公開以降には、その方針にのっとり一部内容を変更する可能性もあるとしています。全案件とはいかないものの、基本的には4月から融資先情報の細かな内容が順次公開されていくものと思われます。
2-2.Fundsはすべての情報を公開する方針
クラウドポート社が運営するFundsでは、3月18日に早速プレスリリースを発表して、情報開示の方針についての見解を示しています。
Fundsでは、貸金業法にのっとって融資していない案件もあったため、以前から融資先の名前を含む情報が公開されていることもありました。一方で、以下のような案件もありました。
一部のファンドにおいては、匿名化の要請にのっとり、貸付先企業の詳細情報を限定して募集を行っておりました。今回の金融庁の公表を踏まえた匿名化解除により、4月以降は、Fundsで公開する全てのファンドにおいて、投資家の皆様はファンド組成企業の直接的な貸付先の詳細情報をご理解いただいた上で、投資をご検討いただけることとなります。
そこで、4月以降はFundsで募集を行う全ての案件に対して、直接的な貸付先の詳細情報を公開するとしています。金融庁が発表した指導に最も近い内容で情報公開を行う事業者が、このFundsだとも言えます。
また、以下のような見解も発表しています。
Funds(ファンズ)では、ファンド組成企業による貸付けはリコースローンであり、最終的な借り手からの返済の有無に関わらず、直接的な貸付先には返済の義務があるため、直接的な貸付先の情報が投資判断においてもっとも重要と考えております。
ソーシャルレンディングを、投資家の自己判断のうえでリスク回避を行える投資対象にしていきたいという意思が見て取れます。
2-3.LENDEXは積極的に情報公開に取り組んでいくとの方針
また、ソーシャルレンディング会社のLENDEXでは、新社長の就任にともない、見解を発表しています。
他の会社と違って、残念ながら、具体的な情報公開の内容は明らかにしていません。それでも、積極的に情報公開に取り組んでいくとの方針を発表していますから、具体的にどのような動きが見えてくるのか、今後に注目していきたいところです。
3.発表を行っていないソーシャルレンディング会社の動向にも注目
2019年4月2日時点では、情報公開に対しての姿勢を明らかにしているのはまだ4社にすぎません。
特に、自社でシステムを構築し、グループ間で利用しているmaneoファミリーの動向はしっかりと注視しておきたいところです。2018年に自社の募集案件で貸倒れを多数発生させたmaneoが、情報公開に関する方針を今後どのように改めていくのかが注目されます。
ソーシャルレンディング各社がどのような姿勢で投資家に向き合うのが、投資家は各社の情報公開の方針を一度確認してから、投資するべきかどうかを冷静に判断する必要が生じてくることと思われます。
まとめ
金融庁の情報公開に関する方針の転換は、ソーシャルレンディング業界にとって大きな分岐点になるかもしれません。2018年には複数の会社に対する行政処分が下り、ソーシャルレンディングという投資手法の安全性が大きく疑われるような事態に陥りました。
情報公開の方針について、今回はいち早く打ち出した会社もありました。まずはそれらの会社の具体的な情報公開の内容を見ながら、安全に投資できそうな対象を慎重に選んでいくと良いでしょう。
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