仮想通貨の投げ銭、トークンエコノミーの普及で世の中はどう変わるか

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2019年4月、HEDGE GUIDEを運営するハーチ株式会社は、ブロックチェーンを用いたピアボーナス制度(社内通貨による360度評価制度)”GIFT”の運用を開始したことを発表しました(参照;ギフトエコノミーを体現する。ブロックチェーンを使ったピアボーナス制度「GIFT」を導入しました。)。

現在、テストローンチして運用を行っている最中ですが、社内でも「楽しい」という声が出てきたり、実際に様々な感謝の言葉がブロックチェーン上に刻まれていくのを見たりして、早速一定の成果を得られているのではないかと感じています。

さて、今回の記事では、上記の取り組みのようないわゆる「仮想通貨での投げ銭」、または仮想通貨が流通することで形成されていく「トークンエコノミー」が、社会にどのような影響を与えどのように変化させていくのかについて、弊社のトークン設計・開発を担う筆者が考察を述べていきます。

仮想通貨やブロックチェーンの可能性に惹かれて投資をしている方や、ブロックチェーン・仮想通貨ビジネスに携わっていく方などのご参考となれば幸いです。

目次

  1. 仮想通貨の投げ銭とは?
    1-1.投げ銭が普及すると、社会にはどう影響するか
  2. 投げ銭以外の「トークンエコノミー」の形
    2-1.様々な権利をトークン化して取引できる社会
    2-2.無価値だったものに価値が付いてゆく
  3. まとめ

1.仮想通貨の投げ銭とは?

「仮想通貨の投げ銭」と言われてもピンと来ない方もいるかと思いますので、まずはそこから説明を行います。

例えばオンラインバンキングと同じように、仮想通貨はWeb上で誰にでも気軽に送ることができます。相手のウォレットアドレスさえ分かれば、PCからでもスマホからでもすぐに送金を行うことができます。

仮想通貨の送金は24時間365日行うことができ、また送付に最低必要金額はありません(なんと1円以下相当の送金も可能)。送付1回あたりの手数料は通貨やトランザクション(取引)処理の混雑度によって変化しますが、銀行の送金手数料より大幅に安いことがほとんどです。

これにより、仮想通貨はとても気軽に世界中の誰かへ送金を行うことができるため、銀行送金では手数料などの関係で非現実的だった「Web上での投げ銭」が可能になったのです。

この投げ銭はユーザー同士のコミュニケーションが図れるサイトやSNS、チャットツールなどで主に採用されており、例えば「良い記事を書いた人へのプレゼント」「お礼として、感謝の言葉を添えて投げ銭」といったように用いられています。

1-1.投げ銭が普及すると、社会にはどう影響するか

一見なんてことはないシステムのように思えるWeb上での投げ銭ですが、私としては、この投げ銭という行為は仮想通貨が世の中に浸透していくためにとても大事な概念の一つであり、かつ社会のあり方すら変えうる要素であるとも考えています。

では「実際にどんな影響が出てくるのか」ということについて、特定の仮想通貨がコミュニティの中でぐるぐると循環し、独自の経済圏を作り出すことを表す「トークンエコノミー」という文脈も交えて見解を述べたいと思います。

人々に「褒め合う文化」が生まれる

先程触れたように、仮想通貨を用いた投げ銭は、SNSやWebサービス上において他のユーザーに評価や感謝の気持ちを込めて送付するという活用がなされています。良い記事を投稿したり、質問に対して丁寧に回答してあげたり、イベントを主催したりといった行為に対して、他のユーザーが価値を認めて投げ銭を行うわけです。

受け取った投げ銭はもちろん当人の利益になりますし、また感謝の言葉を添えて贈られるため嬉しくもなります。そうすると、自然と「もっと良いものを作りたい」「もっと人のために何かしたい」と考えるユーザーが増えていきます。

そうなると、コンテンツの質が上がるのはもちろん、「投げ銭を貰ったユーザーが他のユーザーに投げ銭したくなる」という心理も生じるため、さらに投げ銭が活発になり正のスパイラルが形成されます。これによって、ユーザー同士が褒め合い、評価し合う文化が自然と形成され、和気あいあいとした前向きな雰囲気になっていきます。

先述のピアボーナス制度はまさにこれを狙ったもので、一定の効果がすでに社内へ表れています。

ユーザー同士のやり取りが活発になる

「褒め合う文化」が生む正のスパイラルにより、ユーザー同士のやり取りは活発になります。SNSやゲームなどユーザー相互にコミュニケーションができるサービスであれば、投げ銭によってユーザー満足度が向上するだけでなく、事業者側にとってもサービス利用の継続率アップが期待できます。継続率が上がれば収益も向上するので、より持続的にサービスが提供できるようになり、ひいては仮想通貨の需要増にも貢献する、という仕組みができです。

魅力的なサービスやコミュニティが存在し、そこに投げ銭でユーザー同士が前向きにコミュニケーションができる仕組みが出来上がることで、事業者やユーザー、トークンホルダーといった様々なステークホルダーに対しプラスの効果が生まれます。

「お金を稼ぐ経験」が簡単に身に付く

HEDGE GUIDE読者の方には、投資や副業などで給与収入以外の収入を得ている方も多いのではないでしょうか。個人的な意見ですが、こうした収入を得ることは、これからの時代においてとても大切になってくることだと思います。

終身雇用も崩壊し、一生同じ会社で勤め上げるのが一般的でなくなったことで、今までよりも自分で考えて行動する力や、何かに依存せず収入を得られる力が求められるようになっています。そのため、自ら投資や副業を行ってお金を稼ぐ経験をすることで、経済的基盤の構築と生きたビジネスの学びを得ることは非常に重要です。

このことを鑑みると、誰かに感謝されたり評価されたりすることで簡単にお金を得られる投げ銭の仕組みは、「誰もが簡単にお金を稼ぐ経験を得られる手段」としても注目できます。

サービスを利用するにあたって、投げ銭を1円でも多く獲得するために、知恵をしぼって工夫したり、頑張って良いアウトプットを出すインセンティブが生じます。これがユーザー一人ひとりのビジネス力を成長させること、またサービス内コンテンツの品質を向上させることに繋がるのです。

2.投げ銭以外の「トークンエコノミー」の形

投げ銭以外にも、ユーザー間での活発な仮想通貨の流通が社会に与えていくであろう新たな影響がいくつかあります。以下では、仮想通貨が生み出す独自の小さな経済圏、「トークンエコノミー」の活発化により、どのような社会的インパクトが生まれるのかについてお話していきます。

2-1.様々な権利をトークン化して取引できる社会

仮想通貨は「特定のサービスを利用できる権利」として利用することができます。具体的に言うと「その仮想通貨でサービス利用料や手数料の支払いができる」「その仮想通貨とサービス提供を引き換えできる」という形で、仮想通貨に利用目的を付加できるということです。

例えばETH(Ether:イーサ)という仮想通貨は、スマートコントラクトを搭載した独自の仮想通貨を作成できる機能を有するブロックチェーン「イーサリアム」のトランザクション手数料に必要なものとなります。BTC(ビットコイン)など他の仮想通貨でも同様ですが、ETHはブロックチェーンを利用するための手数料として用いられている、と言い換えることができます。

この他にも、ビットコインブロックチェーン上に改ざんされない状態で情報を記録できる「Factom」にはサービスの利用に必要なポイントと交換できるFCTという仮想通貨や、上場していない無価値の仮想通貨をスマートキーやeチケットとして用いているシステムなど、さまざまな仮想通貨が存在しています。

このように、サービスの利用権を仮想通貨にする(トークン化する)と、ユーザーはスマホ一台で気軽に様々なサービスを利用できるようになります。もう使わない余ったサービス受益権を売買したり、他のサービス受益権と交換することができるようになるのです。

そうなれば、今まで「サービス利用にかかる費用が高すぎる」「使いきれない」という理由でサービスの導入をためらっていたユーザーも、自分が入手した権利の余りは誰かに売却してしまえば良いので、より簡単にサービスが利用できるようになります。新品で購入した製品を将来的にフリマアプリで売却するのと同様の感覚が従来のサービスでも起こるようになるのです。

2-2.無価値だったものに価値が付いてゆく

仮想通貨の誕生は新しいビジネスモデルを生み出し、「今まで価値が無かったものに価値が付く」という現象が起こるようになりました。

今まで同僚や上司に仕事ぶりを評価されたり、仕事を手伝って感謝された結果、どれだけボーナスや基本給のアップに繋がったか答える事ができる人は少ないのではないでしょうか。評価や感謝が直接的に金銭的対価へ繋がった経験のある方はほとんどいないでしょうし、ましてや一件あたりの評価や感謝が昇給に及ぼした影響など図りようもありません。冒頭で述べたピアボーナスは、この状況に新たな一手を打つ仕組みです。

最近では、「個人にBTCで投資してリターンを期待するサービス」や「歩数に応じて仮想通貨が貰えて様々な商品と交換できる歩数計アプリ」など、今まででは考えつかなかったようなビジネスが登場してきています。

これらはブロックチェーンを用いずとも再現すること自体は可能ですが、仮想通貨を用いることで簡単かつ低コストにサービスを設計することができます。仮想通貨の誕生によって、「今まで誰も金銭的価値を認めなかったこと」に対して、ユーザーが対価を得られるサービスが徐々に登場してきているのです。

きれいごとを抜きで言えば、金銭的なインセンティブは人に行動してもらうためには最も強い動機付けの一つです。街の清掃やパトロールなどのボランティア活動に対してもインセンティブを用意できれば、より多くの人がボランティア活動で社会貢献したいと思うようになるかもしれません(対価を貰える可能性のあるものがボランティアなのかはともかく…)。

今後「仮想通貨で稼ぐ」という言葉は、投資・投機といった意味合いだけではなく、良いコンテンツを作って投げ銭を多く受け取ったり、行動の対価としてトークンを受け取れる何らかのサービスに参加することにまで裾野を広げていくことでしょう。

まとめ

仮想通貨は銀行送金よりも送金コストが少なく、手間もかからず、また1円以下の超少額でも送金を行うことが可能というメリットがあります。この誰もが気軽に仮想通貨を送金することができる強みにより、「投げ銭」という独特の文化が少しずつ芽生えてきています。

投げ銭の仕組みは人々にプラスの影響を与えます。感謝を伝えるのが恥ずかしくても、まったく見知らぬ人であっても、投げ銭ならより気軽に感謝を伝えられます。また、人に価値を提供したぶんだけ自然と多く投げ銭が集まるため、多くの人は「より良いものを作ろう」「人のためになろう」と考えて行動するようになります。

仮想通貨はあらゆる権利の取引をスムーズにしたり、今まで金銭的価値がなかった行動に対してインセンティブを設計することも可能です。仮想通貨を軸にした経済圏「トークンエコノミー」の発展によって、人々のお金に対する体験が大きく変わっていくことでしょう。

仮想通貨やブロックチェーンはフィンテックの分野でも特に注目されている領域の一つで、世の中の常識を塗り替えていくポテンシャルは有しています。法規制や税制、仮想通貨に対する偏見などまだ世界中で課題は山積していますが、私は引き続き今後の動向に注目していきたいと思います。

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すずき 教平

ブロックチェーンや仮想通貨を活用したシステムの開発、導入支援やコンサルティングを行う「合同会社むすびて」代表。ブロックチェーンの可能性に惹かれ、様々な仮想通貨を入手してみたり、プロダクトを開発してみたりしつつ日々を過ごしています。 HEDGE GUIDEでは、ビジネスの観点から見た仮想通貨コラムを読みやすさにこだわって執筆していきます。