仮想通貨の「投げ銭」によるエコシステムが、Webの在り方を変える

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仮想通貨に関する情報収集をしている際、「投げ銭」という言葉を何度か見かけた方もいるのではないでしょうか。中には実際に投げ銭を行ってみた方もいることと思います。

一見なんて事はない印象を受けるこの投げ銭ですが、実はこの仕組みこそ、仮想通貨やブロックチェーンを語る際に非常に面白く重要な要素なのです。特にWeb上における様々な人々の気持ちや行動を変容させ、新たなWebサイト・Webサービスのあり方さえ考えさせるものとなっています。

今回は、その「仮想通貨による投げ銭」について、その意義やもたらされるメリットを解説し、合わせて自身のWebサービス等に導入する方法と注意点についてもご紹介したいと思います。

目次

  1. 仮想通貨の投げ銭とは何か
  2. 投げ銭の導入によって、Webや人々に何が起きるのか
    2-1.人に感謝や応援を伝えやすくなる
    2-2.ユーザー(お客様)との距離が近くなる
    2-3.ユーザー同士のコミュニケーションが活発になる
    2-4.コンテンツの品質やユーザーの人望が可視化される
  3. 投げ銭を実際に導入するには
    3-1.仮想通貨ウォレットを作成する
    3-2.「投げ銭ウィジェット作成ツール」を利用する
  4. 投げ銭機能の活用における課題
    4-1.多くの投げ銭機能がサービス終了。その理由と対策
    4-2.送金に伴う手数料率は安いとは言えない
    4-3.仮想通貨の税金計算は面倒ではないのか
  5. 投げ銭はWebサービス運営における新たな武器である

1.仮想通貨の投げ銭とは何か

「投げ銭」と聞くと、ミュージシャンや芸人などに渡す現金のおひねりを想像する方が多いのではないでしょうか。名前の通り、舞台などに硬貨を投げ渡すことからその名前が付いたとされています。

一方、仮想通貨における投げ銭は「Web上で誰かに対して気軽に仮想通貨を送金する行為」を指します。具体的には、SNSやコミュニティサイト等において、面白いコンテンツを投稿したユーザーに対し、評価や感謝の意を込めてビットコイン等をそのユーザーのアドレス宛に送る、というものです。

仮想通貨であれば、世界中のユーザーに対していつでもどこでも、数円といった少額からでも送金することが可能です。さらに送金のための手続きもそう難しくはないため、この「気軽に少額を誰かに渡す」という行為が投げ銭とほぼ等しいことからそう呼ばれています。

2.投げ銭の導入によって、Webや人々に何が起きるのか

さて、今回の主題は「仮想通貨の投げ銭によって、Webでのコミュニケーションにどういった変化が生じるのか」ということです。

投げ銭は非常に簡単な仕組みではあるものの、実はこれが仮想通貨界隈でよく言われる「エコシステム(トークンエコノミー)」の根幹をなす概念であると私は考えています。以下でどのような影響が生じるのかを説明したいと思います。

2-1.人に感謝や応援を伝えやすくなる

上述のように、投げ銭は「誰かに感謝や評価の気持ちを込めて渡す」ものとなります。面白いコンテンツや価値ある情報を提供してくれたユーザーに対して、お金(仮想通貨)という形で気持ちを伝えることになります(メッセージを添付することも可能ですが)。

従来もコメント機能やレビュー機能、あるいは「いいね!」やリアクションなどでそうした気持ちの伝達は可能でしたが、投げ銭はそこにお金が介在する点で異なります。

投げ銭を除く上記の行為は、基本的に投稿するユーザー側に負担は生じません。また受け手のユーザー側も、それにより直接的な利益を受け取れるわけではありません。その点、投げ銭は直接お金の受け渡しが発生するため、ここに重みの違いが生まれるのです。

投げ銭では、基本的に好きな金額を相手に送ることが可能です。そのため、相手に渡したい感謝の気持ちが大きければ自然と金額も大きくなります。頼んでもいないのにわざわざお金を払ってくれるとなると、受け手としては非常に嬉しいですし、また次なる活動の原資も貯まります。

これによって、従来の仕組みに比べて、より効果的でフレキシブルな「感謝・評価を伝える行為、応援する行為」が可能になるというわけです。

2-2.ユーザー(お客様)との距離が近くなる

先述の理由によって、投げ銭を行ったユーザーと受け取ったユーザーは、それぞれの心理的距離が近くなります。SNSのタイムライン上にコメントを書き込んで応援するか、実際に会って直接応援するか、の違いにも似ているのではないでしょうか。

一度のコメントやリアクションより、お金の受け渡しが生じる投げ銭のほうが、送り手・受け手ともに一つひとつのインパクトは大きいはずです。また、受け手側は送り手側にきちんと感謝の気持ちを伝えたい、という心理にもなるでしょう。

こうしたことがきっかけになり、例えばコンテンツ提供者などが直接ユーザー一人ひとりと向き合い、親密になる機会が得られるようになります。これによって、継続的にフォローし合うファンの関係性が築きやすくなるメリットが生じます。

2-3.ユーザー同士のコミュニケーションが活発になる

また、提供者側とファン側というだけでなく、ユーザー相互にも投げ銭を行うことが可能です。例えば「ALIS」や「nemlog」といった記事投稿サイトでは、ユーザーが投稿した記事に対して投げ銭を送れるシステムが搭載されており、ユーザー間で活発に利用されています。

こうすることで、各ユーザーは積極的に自身のコンテンツを作成・発信するモチベーションが生まれるほか、他のユーザーに対しても投げ銭を行って評価したい、という気持ちにもなります。心理学で言う「返報性の原理」ですね。

つまり、ユーザー同士での投げ銭が可能な仕組みを作ることで、コンテンツの投稿やコメントといった様々な行動が活発になり、継続的な利用や滞在時間の向上、ユーザー満足度の向上といった効果が生まれてくるのです。

2-4.コンテンツの品質やユーザーの人望が可視化される

投げ銭はリアクション等の行為と同様に、ユーザーのコンテンツの品質や、そのユーザー自体の知名度・人望などに結果が大きく左右されます。基本的に投げ銭に使える金額は上限が無いことから、より振れ幅は大きくなるでしょう。

「そのコンテンツやユーザーが、今までいくら投げ銭を受け取っているか」を可視化すれば、それはレビュー機能の役割も果たすことになります。投げ銭がたくさん集まっていれば、それは本当にユーザーに評価されているコンテンツであったり、ファンの多いコンテンツ提供者であると言えます。

数字だけの評価付けや、ねつ造もしやすいリアクションやコメントといった指標よりも、さらに良いコンテンツかどうかを判断しやすくなる手段としても投げ銭は有効と言えるため、サービスのユーザー利便性向上にも繋がるでしょう。

3.投げ銭を実際に導入するには

では、上記のような数々のメリットがある投げ銭システムを、あなたのサイトやサービスに導入する方法・プロセスについて解説していきます。

3-1.仮想通貨ウォレットを作成する

まずは、あなた自身が仮想通貨で投げ銭を受け取るためのウォレット作成が必要となります(自分・自社自身は受け取らず、ユーザー間の投げ銭機能のみ使う場合は省略して構いません)。

仮想通貨ウォレットを作成するには、以下のような方法があります。

  1. 仮想通貨取引所で口座開設をする
    CoincheckDMM Bitcoinといった仮想通貨取引所で口座開設をすることで、あなた専用の複数種類の仮想通貨ウォレットを入手できます。
  2. Webサービス上で発行する
    ビットコインウォレットを作成できる「Blockchain.com」や、イーサリアムウォレットを作成できる「MyEtherWallet」等を利用しウォレットを発行します。これらはブラウザのほか、PCやスマホにインストールして使うタイプのものも用意されています。
  3. ハードウェアウォレットを購入する
    「Ledger nano S」や「TREZOR」といった、USBメモリ型の実物ウォレットを購入する方法もあります。

作成したウォレットのアドレス(ビットコインなら「1」や「3」、イーサリアムなら「0x」から始まる英数字の文字列)は控えておきましょう。このアドレスに送金をしてもらうことで、投げ銭を受け取ることができます。

3-2.「投げ銭ウィジェット作成ツール」を利用する

Webサービス内に投げ銭システムを導入するには、各ブロックチェーンのAPI(簡単にツールの機能の一部を外部から利用可能にする、エンジニア向けの仕様書のこと)を活用して、機能を開発し実装する必要があります。

あるいは、プログラミング不要で投げ銭ができるウィジェットを作成できるツールもあるため、それを利用すれば簡単に投げ銭システムが導入可能です(有料・無料いずれも存在)。

ちなみに、私の会社でもイーサリアムトークンの投げ銭ウィジェットが超簡単かつ無料で作成できるWebツール「KanadeTip」を提供しています(β版ですが)。

KanadeTipでは、上記のリンク先ページから投げ銭を受け取るイーサリアムアドレスと、受け取る通貨(イーサリアムトークン限定)・数量などを入力するだけで、簡単にサイト埋め込み用のタグを発行することが可能です。

以下のようなウィジェットが発行されます。現段階では、通常はアドレスが表示されるのみですが、ブラウザウォレット「Metamask」をインストールしたPCブラウザで閲覧している場合はワンクリックのみで簡単に投げ銭が可能となります。




このように、簡単な投げ銭機能であれば開発不要で導入することも可能です。

4.投げ銭機能の活用における課題

仮想通貨の投げ銭システムを活用するにあたって、注意しておきたいポイントについても触れておきます。

4-1.多くの投げ銭機能がサービス終了。その理由と対策

今年5月31日に成立した改正資金決済法の影響を受け、3月~5月頃にかけて多くの投げ銭サービス(SNS上で稼働する「TipBot」と呼ばれるもの)が提供を終了したことで、仮想通貨コミュニティは一時騒然としました。

これはTipBotが秘密鍵(ウォレットの暗証番号のこと)を運営側で預かり管理する仕組みになっていたことで、同法により暗号資産交換業者としてみなされ非常に厳しい諸要件が課されるようになったことが原因でした。

そのため、現行法において仮想通貨による投げ銭を行うには、投げ銭システム提供者側ではなく、個々のユーザーが秘密鍵を保管し、また送金が提供者を介さずユーザー同士でのやり取りで完結する仕組みであることが求められます。

なお、上述した「ALIS」「nemlog」「KanadeTip」といったサービスについては、この条件をクリアしているため、暗号資産交換業者としての各種規制の適用対象にはなっていません(2019年8月時点、筆者見解)。

4-2.送金に伴う手数料率は安いとは言えない

投げ銭は概して、一度の送金が数円~数百円程度に納まる「少額決済(マイクロペイメント)」の範囲となります。この少額決済において無視できないのが、手数料率の高さです。

ブロックチェーンの利用に際しては、仮想通貨の送金ごとに少量の手数料が発生します。その手数料額は送付する仮想通貨の種類や量、その時点の価格、ブロックチェーン処理の混雑状況などによってつど変動しますが、例えばビットコインであれば一度の送金で数円~数十円相当となる場合が多い傾向にあります。

これを考えると、一度の送金に対する手数料の割合が非常に高くなる(10~100%程度)場合があると言えるため、この点については導入や利用にあたって念頭に置いておく必要があります(ただしビットコインは最も手数料が高い仮想通貨の一つであるため、イーサリアムやXRP、NEMなど他のブロックチェーンでは手数料割合がこれより下がると想定されます)。

4-3.仮想通貨の税金計算は面倒ではないのか

実際に仮想通貨を売買していたり、買物や事業用途で使用していたりする経験のある方は、仮想通貨特有の税金計算(確定申告)の複雑さに頭を悩ませることもあるでしょう。

確かに現行の税制において、仮想通貨による損益計算は手間がかかります。ですが、その計算を自動or半自動で行ってくれる「Guardian」や「Cryptact」といったサービスを用いることで、投げ銭受け取りによる利益や送付による損失、また仮想通貨売買による損益計算を大幅に楽にすることが可能です。

なお、投げ銭による損益と仮想通貨取引による損益は分けて計算した方が分かりやすいため、それぞれ専用のウォレットを作成し利用するのが望ましいでしょう。

投げ銭はWebサービス運営における新たな武器である

以上のように、投げ銭には「気軽かつ明確に、相手へ感謝や評価を伝えられる」「ユーザー同士のコミュニケーションが活発になる」「良質なコンテンツを生産・発表するモチベーションの源泉になる」といったメリットがあります。

そのため、投げ銭を自身のWebサイトやサービスなどに導入することで、ユーザーの満足度や滞在率、リピート訪問率が向上したり、ユーザーとの直接交流がスムーズになったりする効果が期待できます。

従来はWeb上でお金を送ろうとしたら、ネットバンキングやクレジットカード、Paypal等を用いることが一般的でしたが、利用のための初回手続きに苦労したり、リアルタイムに送金できなかったり、為替手数料や送金手数料が発生したりする欠点がありました。

しかしブロックチェーン・仮想通貨の登場によって、より簡単かつスピーディに、世界中のユーザーに即送金が行えるようになりました。このことによってWeb上での投げ銭行為が活発になり、投げ銭を主軸に置くWebサービスの興隆にも繋がっています。

仮想通貨は単に決済手段や投資対象として用いられるだけでなく、「感謝を伝える媒体」としても機能します。今後、投げ銭システムがさらにWeb上へ広がった際には、人々のインターネットに対する捉え方すら変わっていくのかもしれません。

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すずき 教平

ブロックチェーンや仮想通貨を活用したシステムの開発、導入支援やコンサルティングを行う「合同会社むすびて」代表。ブロックチェーンの可能性に惹かれ、様々な仮想通貨を入手してみたり、プロダクトを開発してみたりしつつ日々を過ごしています。 HEDGE GUIDEでは、ビジネスの観点から見た仮想通貨コラムを読みやすさにこだわって執筆していきます。