「不動産登記をブロックチェーンに変える」といった話をあなたは聞いたことがあるでしょうか?
第三者によるデータの改ざんが困難で、かつ誰でも簡単に情報を見ることが可能な特性を持つブロックチェーンは、不動産登記や公的書類の発行といったサービスを大きく効率化できることが期待されています。他にも様々な権利の証明や証明書の作成などへの応用が研究されています。
こうした分野に向けたブロックチェーン活用の先駆者とも言えるプロジェクトが「Factom」です。今回は、Factomがどういったものなのか、現状の開発状況や利用状況も含めて紹介していきます。
目次
- Factomとは何か
1-1.Factomの仕組み
1-2.独自通貨FactoidとEntry Creditの関係性 - Factomのプロジェクト進捗、導入事例
2-1.住宅ローン情報を管理する”Factom Harmony”
2-2.カルテや書類の証明タグ発行”dLoc”
2-3.その他の提携状況 - Factomが抱える課題
3-1.競合プロジェクトが多い
3-2.ブロックチェーンによる正当性証明の問題 - まとめ
1.Factomとは何か
Factomはブロックチェーンの高い改ざん防止性能と公共性を活用した、書類やデータの記録・管理を行うプラットフォームです。ブロックチェーン上にデータの情報を書き込むことで安全なデジタル情報の管理が可能になります。
プロジェクトは2014年に誕生し、アメリカ・テキサス州にあるFactom,Incによって運営されています。2017年には800万ドル以上の資金調達も行っており、その中には米国最大のアウトレット品ECサイト”Overstock”を運営するOverstock,Incグループの資本などが含まれています。
Factomは主に公的書類の保管・管理を目的に開発されており、不動産などの登記や住民票、印鑑証明書といった書類にはじまり、住宅ローンの管理や電子カルテといった様々な分野での活用が見込まれています。
なお、仮想通貨取引所で売買ができる「Factom」とは、正式には「Factoid(ファクトイド)」という仮想通貨を指します。FactoidはFactomを利用する際の手数料である「Entry Credit(エントリークレジット)」というポイントと交換することが可能です。
1-1.Factomの仕組み
Factomはブロックチェーンを活用したソリューションではありますが、書類などのデータを直接ブロックチェーン上に書き込む形は取っていません。代わりに、Factomデータサーバー上に保管されたデータの情報を暗号化し、一つのトランザクションにまとめてビットコインのブロックチェーン上に書き込むという形を取っています。
ビットコインブロックチェーンを用いて機能拡張を行う「レイヤー(層)」に構築されているファクトムは、分散化されたビットコインのセキュリティの恩恵を受けることができるという特徴を持っています。
また、ユーザーはFactomサーバーを経由してからビットコインブロックチェーンに保管・記録したいデータファイルをアップロードするため、10分に1度・1MBのブロックしか生成されないビットコインのブロックチェーンを直接利用するよりも効率的に情報を記録・管理することができます。
1-2.独自通貨FactoidとEntry Creditの関係性
先述のように、Factom上には「Factoid」と言う仮想通貨取引所で売買が可能な仮想通貨と、Factomプラットフォームの利用手数料として必要になる「Entry Credit」の二種類の通貨が存在しています。
Entry CreditはFactom上においてFactoidと交換することが可能で、Factomの手数料支払いにのみ利用できます。Factoidと異なり、Entry Creditは他の仮想通貨との売買や送金を行うことはもちろん、Factoidに戻すこともできません。また、Entry Creditは価格が固定されており、相場によって変動することがありません。ユーザーは任意のタイミングでFactoidをEntry Creditに変換することができるため、Factoidの価格変動による手数料の変動リスクを抑えることができ、Factomを活用しやすくなるのです。
Factoidは仮想通貨取引所で購入可能なように換金性があるため、ウォレット等のハッキングによる盗難の可能性があります。しかし、Entry Creditには換金性が無いためハッキングのインセンティブが働きにくく、企業や公的機関などFactomを利用したいユーザーを保護することにも繋がっています。
2.Factomのプロジェクト進捗、導入事例
現在、Factomを活用した2つの大きなプロジェクトが進行しています。
2-1.住宅ローン情報を管理する”Factom Harmony”
一つ目が”Factom Harmony”という、米国の住宅ローン市場向けに設計された住宅ローンデータ記録用の製品です。住宅ローンの管理ソリューションツールを提供するルクセンブルクのEquator社は、自社ソフトウェアとFactomを統合し、住宅ローン情報の管理を行うことを2018年11月に発表しました。
米国のローン市場は約160兆円の規模と言われており、その中でも住宅ローンの書類管理だけで年間5兆円ものコストが発生していると言われています。この煩雑な書類管理にブロックチェーン技術を用いることで、大幅なコスト削減と管理の効率化を図ることがFactom Harmonyの目的です。
Factom Harmonyの利用に際しては、公式ウェブサイト上でAPIやSDKといった、エンジニアがアプリケーション等に簡単にFactomの機能を導入するためのツールも提供しています。そのため、ブロックチェーン開発者を必要とせずに機密文書をFactomで取り扱うことができる他、住宅ローン管理だけではない様々なデータ記録・管理にFactomを活用できるようになっています。
2-2.カルテや書類の証明タグ発行”dLoc”
二つ目に”dLoc“というサービスがあります。IT企業のSMARTRAC社と提携して開発されたもので、様々な書類やデータを記録・管理し、QRコードを読み取ることでモバイル上で簡単に情報を確認することができる機能を持っています。
このdLocのソリューションを電子カルテや卒業証書などの各種証明書、公的書類などに適用することで、それらの偽造を防止して正当な権利を証明でき、詐欺被害の減少にも繋がります。
2-3.その他の提携状況
その他にもFactomは様々な団体との提携を発表しています。Microsoftをはじめ、ホンジュラス政府と土地登記をブロックチェーン化する取り組みを検証したり、米国株式市場のデータをブロックチェーン上で管理する取り組みや、オンラインビデオのデータ管理といった様々な事業にFactomの導入が行われています。
また、日本でもカウラ社とアトリス社が、共同でFactomを使ったマイナンバーの利用記録管理システムの開発に着手しています。
3.Factomが抱える課題
上記のように順調に世界中で採用が進みつつあるFactomですが、今後の普及にあたってはいくつか課題も見られます。
3-1.競合プロジェクトが多い
Factomの書類やデータをブロックチェーン上で記録・管理し、改ざんできない正当な権利を証明するという仕組みは決して珍しいものではなく、むしろブロックチェーンを活用したサービスとしてはかなり競合が激しい分野であると言えます。
代表的なもので言えば、NEMには「アポスティーユ」という公証サービス機能が付いており、NEM専用の「Nanowallet」というウォレット上でファイルをアップロードするだけで、誰でも簡単にブロックチェーン上にデータを記録・管理することが可能です。
その他にもエストニア政府の推進するデジタル公共サービスプラットフォーム「e-Residency」における公証機能に導入されている「Stampery」や、企業向けバックアップツールを提供しているAcronis社のクラウドツール、DELL等が導入をしている「Tierion」など様々な競合サービスが存在します。
いずれのサービスもまだ発展途上の段階にあり、Factomも含めて将来的に各プロジェクトがどれだけ活用されるようになるのか、あるいは生き残れるのか、注視するポイントであると言えます。
3-2.ブロックチェーンによる正当性証明の問題
また、そもそもブロックチェーンによるデータの記録や公証といった機能が、法的にどれだけ正当性を認められるのか、実用的に機能するのかは根本的な課題であるとも言えます。
日本で例を挙げると、例えば不動産などの登記には専用のプロセスが存在し、法務局において指定の方法によって手続きを行わない限り、登記内容の変更を行うことができないなど、独自の厳重な管理方法や手続きが用意されています。
また、書類の公証についても公証役場に赴いて公証人に書類を確認してもらい、確定日付を押印してもらうことではじめて公証がなされたと主張をすることが可能な仕組みとなっています。
確かにこれらの管理や手続きはブロックチェーン技術を用いることで大幅に効率化することが可能です。しかし、まだ未知な部分が多いブロックチェーンという技術を、万が一のミスを極限まで潰さなければならない政府が採用するまでには、かなり長い時間が必要になるのではないでしょうか。
現時点でも、エストニアなど既に政府がブロックチェーン技術を用いた公共サービスを提供している国家は存在していますが、その拡大スピードは決して早くはないでしょう。さらに、裁判などで法的権利を争う際に、ブロックチェーンによる権利証明が認められるのか?という疑問も湧いてきます(こればかりは実際の判決が出ないと分かりませんが)。
例えば、自身のイラストや音楽などの著作物を盗用された際には「この作品は私のものです」という存在証明を行う必要性があり、その手段として制作した段階でタイムスタンプ(確定日付)を押すということが挙げられます。
そのタイムスタンプ処理をブロックチェーンに記録することで行った場合に、果たして裁判官がその権利を認めるでしょうか?ブロックチェーンは新しい技術だけに、裁判官が十分な知識が持っていないということも予想されますので、正当な権利としてみなされない可能性も現状では否定できないでしょう。
まとめ
Factomはブロックチェーンサービスとしては歴史の長い技術であり、既に住宅ローンの管理ツールや権利証明タグの発行サービスといった製品に導入がなされています。
ブロックチェーンの特性を活かしたデータ管理や記録、権利証明の効率化は、今後さらに社会に浸透していくと考えられます。Factomはその先駆者として精力的に活動を続けていることが伺えます。
しかし、競合サービスが多いのも事実で、どれだけのシェアを獲得できるか、これから先も生存できるのかが課題であると言えます。また各国の法整備やブロックチェーン技術への深い理解も、市場拡大のためには必要です。そうした俯瞰的な目線も含め、Factomの今後の動向は注視したいところです。
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