半導体業界、2023年の展望と日米の注目銘柄は?

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半導体は多くのシステム制御、自動車、電化製品などに欠かせないもので、いまや必需品と言っても過言でありません。一方で、国家保安上の問題から、米国は中国への半導体関連製品の輸出規制を強化しました。日本政府は、米国、オランダとともに同様の輸出規制を実施する姿勢を示しています。

中国は日本の貿易相手国として最大で、半導体製造装置と半導等電子部品の輸出額が中国向け輸出額全体の約17.2%を占めています。そのため半導体規制は半導体業界の懸念材料となっています。一方、自動車業界では、電動化が進む中、パワー半導体の需要が高まり市場規模は拡大傾向にあります。

今回は2023年の半導体業界の展望と日米の注目銘柄を解説します。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※2023年2月24日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。

目次

  1. 半導体業界の2023年の展望
  2. 半導体製造工程と関連企業
    2-1.設計
    2-2.前工程
    2-3.後工程
  3. 半導体業界の日米注目銘柄
    3-1.米国:オン・セミコンダクター<ON>
    3-2.日本:三菱電機<6503>
    3-3.米国:エヌビディア<NVDA>
    3-4.日本:ソニー<6758>
  4. まとめ

1 半導体業界の2023年の展望

2023年の半導体業界は、二極化が進みそうです。半導体メモリ市場は低迷する一方、パワー半導体市場は好調が続くことが予想されます。

半導体メモリは世界経済の減速を背景に需要が減退しており、関連企業は業績の下方修正を強いられる可能性が高まっている一方、自動車業界では世界中で電気自動車の普及が進んでいるため、パワー半導体の需要が高まっています。

中国経済の失速、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化、インフレ抑制のため各国中央銀行による金融引締めなどによる景気減速の影響を受け、半導体業界は勢いを失いそうです。すでに、メモリ半導体は需要が減退減速しており、関連企業は業績の下方修正を強いられる可能性が高まっています。

一方、自動車業界では世界中で電気自動車の普及が進んでいるため、パワー半導体の需要が高まっています。パワー半導体とは、高い電圧、大きな電流に対しても壊れないように通常の半導体とは異なった構造で作られた半導体です。

マーケット調査会社の富士経済グループによると、パワー半導体の市場規模は、2022年見込みの約2.3兆円に対し、2030年には約2.3倍の5.35兆円規模に拡大すると予想しています(参照:富士経済グループ「パワー半導体の世界市場を調査」)。

2 半導体製造工程と関連企業

半導体の製造工程は、「設計」、「前工程」、「後工程」の3工程に分かれます。ここでは、それぞれの工程と関連企業について説明します。

2-1 設計

半導体の設計は、半導体チップ上に配置する回路を設計することです。また、半導体を組み込む製品により仕様が異なり、回路設計とレイアウト設計の工程があります。

設計会社の代表的な企業は、米クアルコム、米ブロードコム、米エヌビディア、米AMD、日ソニーが挙げられます。

2-2 前工程

前工程とは、半導体ウェハ処理工程とも呼ばれ、シリコンウェハに回路を形成するまでの工程です。前工程はシリコンウェハにトランジスタ層を形成するまでのフロントエンドと、多層配線層を形成するまでのバックエンドに分かれます。

前工程の関連企業には、オランダのASML、米ラムリサーチ、米アプライド・マテリアルズ、日本企業としては東京エレクトロン、SCREENホールディングス、東京精密などが挙げられます。

2-3 後工程

後工程は、加工したウェハから半導体を切り出し、所定の位置に固定・封入し組み立てられます。組立後に検査を経て、半導体が完成します。

後工程の関連企業としては、米テラダイン、日本企業ではアドバンテストが挙げられます。

3 半導体業界の日米注目銘柄

ここでは、日米の半導体業界の注目銘柄をみていきましょう。

3-1 米国:オン・セミコンダクター<ON>

オン・セミコンダクターは、パワー半導体企業で世界第2位の売上高を誇っています。2022年度の売上高は83.2億ドル(前年比23.5%増)、純利益は前年比88.4%増の19.0億ドルでした。

同社では、世界の電気自動車市場が2025年に17%成長(2021年比)するのに伴い、パワー半導体の売上高も15%成長するとの予想を立てています。

米国のバイデン政権は、2030年に新車販売の半分をEVなどの電動車にするという目標を掲げており、電気自動車関連企業に28億ドルの補助金を投じています。また、米国では電気自動車購入時に税控除が受けられるため、電気自動車の販売台数は今後も増加傾向にありそうです。パワー半導体メーカーの同社には、追い風が吹いています。

同社の執筆時点の株価は87.55ドル、予想PERは17.23倍です。半導体指数(SOX指数)の予想PERが21倍なので、株価の水準には割安感があります。

3-2 日本:三菱電機<6503>

三菱電機は、大手総合電機メーカーです。パワー半導体製造では、国内メーカーとしてシェア1位です。

2022年第3四半期の売上高は1兆2256億円と前年同期比17.5%増加しました。半導体・電子部品や自動車機器事業を扱うインダストリー・モビリティ部門の売上高は、4,172億円(前年同期比12.4%増)。情報システム・電子デバイスを扱うビジネスプラットフォーム部門の売上高は、1,021億円で、うちパワー半導体を含む電子デバイスは、民生・産業向けパワー半導体の需要が堅調に推移し、前年同期比20.5%増の705億円でした。

日本での電気自動車シェア(EVとプラグインハイブリッド車)は2.8%(2022年度)です。日本政府は2035年までに100%電動化を進め、ガソリン車販売を禁止するとしており、今後も電動化の流れが加速する可能性が高いため、同社にはフォローの風が吹いていると言えそうです。

同社の株価は1,532.5円、予想PERが15.17倍、配当利回りが2.61%です。日経平均株価の予想PERが15.8倍なので株価に割高感はない水準だと言えそうです。

3-3 米国:エヌビディア<NVDA>

米半導体大手エヌビディアは、画像処理半導体(GPU)のリーディングカンパニーです。GPUとは、画像処理に特化した半導体で、PC上で画像をスムーズにみせるためのものです。用途としては、PCゲーム、自動車、ロボット、自動応答ソフトウエアなどAIシステムなどに活用されています。

2023年は、自動応答ソフトウエアのChatGPTなどAIシステムの世界的な利用拡大が予想されています。AIシステムの進化は、人口知能演算に使う半導体の伸びが期待でき、同社の半導体需要が高まることが予想されます。また、電気自動車需要の高まりから自動車向け売上の増加も期待できそうです。

2022年11月~2023年1月期の決算は売上高が60.5億ドル(前年同期比20.8%減)と不調でした。売上構成をみると、ゲーム部門が前年同期の34.2億ドルから18.31億ドル(同46.4%減)の大幅減益となった一方、自動車向けとAI向け半導体部門を含むデータセンター向けの売上高は大幅に上昇しました。

自動車向け売上高が2.9億ドル(同135.2%増)、データセンター向けが36.16億ドル(同10.8%増)。これらの部門は今後、売上の伸びが期待できそうです。

株価は232.86ドル、企業の成長期待が高いため、予想PERが52.4倍と割高な水準で推移しています。

3-4 日本:ソニーグループ<6758>

ソニーグループは、家電製品、ゲーム、映画、音楽、金融などを手掛けているコングロマリット企業です。半導体分野では、イメージセンサで世界シェアトップの企業です。イメージセンサとは、レンズから入った光を電気信号に変換する半導体のことで、デジタル一眼レフカメラやスマートフォンに使われています。

2022年第3四半期決算の売上高(連結業績)は8.47兆円(前年同期比10.6%増)と好調でした。イメージセンサを含むイメージング&センシング・ソリューション部門は1兆534億円(同28.29%増)と大きく売上を伸ばしました。

同社はホンダとEV領域で提携し、2023年1月には試作EVを発表。2025年には共同開発のEVが販売される予定で、EVに使用されるイメージセンサについては、ソニー製が採用されることが決まっています。電気自動車市場は成長が期待できるため、同社にメリットがありそうです。

株価は11,355円、予想PERは16.11倍です。日経平均株価の予想PERが15.8倍なので株価に割高感はない水準だと言えそうです。

まとめ

2023年の半導体業界は、二極化が顕著になることが予想されます。米中対立が強まるなか、中国への半導体製品の輸出規制が強化されています。この輸出規制において日本は、オランダとともに米国と連携し規制に乗り出すとしており、中国への売上依存度が高い日米半導体関連企業の業績悪化が予想されます。

一方、脱炭素化が進むなか、自動車業界では電動化が一段と進みそうです。日本市場では電動化が遅れているため、電気自動車市場の拡大が期待されています。特に、電気自動車に必要なパワー半導体の関連企業は、業績の拡大が期待できそうです。

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藤井 理

大学3年から株式投資を始め、投資歴は35年以上。スタンスは割安銘柄の長期投資。目先の利益は追わず企業成長ともに株価の上昇を楽しむ投資スタイル。保有株には30倍に成長した銘柄も。
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。