「人や事業の価値を上げるための資金を供給する」「海外の成長を日本の投資家に還元できる金融機関を目指す」バンカーズ澁谷氏インタビュー

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物価高が進む中で資産運用の重要性が一段と高まっています。2022年11月4日に金融庁が公表した「NISA口座の利用状況調査」によれば、つみたてNISAの口座数は2022年6月末時点で638万超、直近1年でつみたてNISAを始めた人は220万人超増加するなど、将来に向けて新たに長期の資産運用を始める方の数も増えています。

そういった中で、オンラインで少額から始められるクラウドファンディング投資も、個人投資家の資産運用の選択肢の一つとして広がりを見せています。今回は、開業2周年で6万7千人超の投資家を有する融資型クラウドファンディングプラットフォーム「バンカーズ」を運営する株式会社バンカーズの代表である澁谷 剛さんに、バンカーズの理念や事業状況、ファンドの商品設計で大切にしているポイント、今後の事業展開や実現したい世界観などについて詳しくお話を伺いました。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定企業・事業への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

話し手:バンカーズ・ホールディング 代表取締役社長 執行役員 / バンカーズ 代表取締役 社長執行役員 澁谷 剛さん

    2019年12月、当社代表取締役社長就任。
    大和証券株式会社企業公開部で複数のIPO企業を担当。東証マザーズをはじめ日本のIPO市場が適正に機能し、国内外の投資家から指示されるための環境・条件整備に従事。楽天インベストメント株式会社代表取締役社長、株式会社プレンティー投資事業責任者、マルタスインベストメント株式会社代表取締役社長を通じて、ハンズオン支援による投資先育成にあたる。

記事目次

  1. 融資型クラウドファンディングの事業としての面白さについて
  2. 融資型クラウドファンディングの融資先について
  3. 旧SBIソーシャルレンディングの株式取得と統合について
  4. 商品供給力と企業としての信頼性を高める取り組み
  5. ファンドの商品設計をする際に大切にしているポイントは?
  6. バンカーズの今後の事業展開について
  7. 事業を通じて実現したいことや目指す世界観
  8. 編集後記

1 融資型クラウドファンディングを事業として手がけられている理由について教えてください

僕は元々証券マンで、大和証券ではIPO実務にも携わっていました。IPOの仕事は、株式発行という手段でベンチャー企業の成長に伴う資金需要を満たすことなのですが、企業サイドからすると資金を調達する手段は株だけではなくて融資や社債でも良いわけです。

ただ、社債を出して資金を集めるには、企業規模がかなり大きくないと難しいという事情もあって、証券会社のときはエクイティの部分でしかお手伝いはできませんでした。

そういった経験から、融資型クラウドファンディングという調達手段を見た時に、社債が出せない企業でもオンラインで調達ができる素晴らしい手段に感じたんです。

企業の資金調達や財務戦略を考えた時に、デット(借り入れ)を適切に使えばレバレッジをかけて企業価値を高めることが可能です。融資型クラウドファンディングを活用すれば、成長期の企業に対して、そのデットの機会を供給できるんじゃないかという点が非常に面白いと思っています。

2 融資型クラウドファンディングでは、どのような企業に融資をしていきたいと考えていらっしゃいますか?

金融で新たなチャレンジをすると考えた時に、銀行などの既存の金融機関が資金提供できてない分野にどうやってチャレンジしていくかということになります。

銀行がお金を貸さないけれど、借りたお金を返せるという企業のは二つしかないと考えています。一つは、裏付けになる担保資産を持っていて、その資産を売却すれば返せるという企業。もう一つは、今すぐには返せないけれど将来成長して返せるようになるという将来性のある企業です。

銀行は過去の実績を見てお金を貸すため、将来性を見てお金を貸すことは難しいというところがあります。我々のメンバーの中にはIPO分野にいた者も多く、企業の成長性を見て融資をするといったことにチャレンジしていきたいと考えています。

3 2022年5月に旧SBIソーシャルレンディング株式会社の株式を取得し、バンカーズと統合されています。その背景や効果などについて教えてください。

SBIソーシャルレンディングの投資家だった方々は、古くから融資型クラウドファンディングに投資をされていて非常に金融リテラシーが高い方が多かったので、そういった方々にサービスを継続して提供できるチャンスがあると良いなと考えて、サービス統合を行いました。

当初の目的は達成されましたが、統合効果はまだまだ十分ではないと感じています。SBIソーシャルレンディングの過去の運用残高は430億円程度あったかと思いますが、現在のバンカーズは統合後の残高でようやく100億円程度ですので、規模としてはまだ程遠い状況です。

その理由としては、バンカーズの商品供給能力がまだまだ不足していて、投資家の方にご納得をいただける商品が作れておらず、金利も物足りないと感じていらっしゃる方も多いのではないかという点と、信用力の面でSBIグループだから安心して取引されていたという方からの信頼を得ることができていない点があるんじゃないかと考えています。

4 商品供給能力と企業の信用力という課題に関してどのように取り組んでいく予定でしょうか?

まず一点目の商品供給に関しては、より多くの投資家の方に魅力を感じてもらえる水準に金利をあげていく必要があると考えていますが、金利を上げればそれだけリスクも大きくなります。それで問題を起こしては意味がありませんので、担保でしっかりと保全をとりつつ、借り手の事業をサポートできるような信頼関係を築いて、金利がちょっと高いとしても、借り手企業の方に「自分たちの成長のためにすごい協力をしてくれて、あそこまでやってくれるなら結果的にあの金利を払っても安い」と思えるような関係を構築していけるかが重要だと考えています。

借り手の事業利益を上げていくということに対して貢献できる金融機関となり、結果として高いリターンの商品を投資家の方々に返せる、そういう商品設計をしていきたいですし、そのほうが我々としても安心して融資ができるようになります。

もう一点の企業としての信頼性に関しては、まずはしっかりと償還実績や募集実績をつくっていくということが大事だと考えています。その一方で、信頼性を高めるという意味ではIPOも一つの手段として考えています。IPOを目指す上で事業の黒字化を実現することが重要なので、そのために預かり資産としては300億円から400億円ぐらいを目指していく予定です。

現在、毎月20億円ずつぐらいを集められるような実力になってきていますので、1年満期で1年間集め続けると240億円、2年満期で2年間預け集め続ければ480億円という数字が見えてくる状況です。

5 ファンドの商品設計をする際に大切にしているポイントを教えてください。

仮に借り手企業に何かがあっても投資家の方々にはできる限り元本を返せるよう、担保保証の保全をしっかり取るというのが商品設計で大切にしているポイントです。

借り手企業の倒産についてはできる限り起こらないように審査に取り組んではいるのですが、そもそも倒産は予測外のことが発生したことによって起きるものなので、倒産するかしないかよりも、倒産したときに回収できるかどうかを見ようというのが基本スタンスです。仮に倒産したときに担保の換金性や保全性といったものがしっかりしているかどうかが商品設計のときの一番のポイントですね。

実際に、過去にイセ食品という会社で会社更生の手続きに入った案件がありました。会社更生手続きの半年前くらいに10億円の募集を行っていて、たまたま借り手さんの都合で貸し付けを実行する前に終わったんですが、仮に貸していた場合でも、我々の担保は登記もして権利が確定しているものでしたので、裁判所の許可がおりれば換金して返せるという状況でした。(※)

※【参考】バンカーズ「イセ食品株式会社の会社更生手続開始に係る当社見解について

6 今後の事業展開について教えてください

日本全体の経済成長率は低い状況なのですが、経済成長率の低い国で高い金利を望むことはマクロ経済的に不可能です。高い金利収入を得るためには、高い成長率の国で資金を運用することが重要なので、バンカーズとしては高い成長率を実現している国で運用できる体制を作りたいと考えています。

具体的な投資先の国としては、インドネシアとアメリカに注目しています。インドネシアは10年後には日本のGDPを抜くと考えられていて、経済成長率が高く人口の規模も大きい国です。また、日本とのリレーションも良く政治的なリスクが低い点や、法整備もしっかりしている点が特徴的です。

アメリカは人口が増え続けていて高い経済成長率を維持している先進国なので、投資先としての魅力も高いと考えています。

7 最後に、事業を通じて実現したいことや目指す世界観を教えてください

融資の面では、本質的に人や企業の価値を上げるために使われる資金を供給したいと考えています。そして、金融機関としては、海外の成長を日本の投資家に還元できるような投資機会を創出していきたいですね。

日本は資源のない国なので、今後も食料とエネルギーを買い続けて豊かさを持続していくには、金融で外貨を稼ぐことが大事だと考えています。家族のなかでお金のやり取りをしていても家庭全体のお金は増えないのと同じように、国内だけで金融のビジネスをしていても日本という国の総所得は増えません。海外から外貨を稼がないと、日本全体の所得は上がらないんです。

だから、日本の金融業が本当の意味で日本社会のために貢献しなければいけないのは、金融を通じて海外の成長を取り込んで外貨を稼ぐということであり、それがバンカーズが目指す金融機関としての姿でもあります。

8 編集後記

「結局、金融のできることっていうのは、その資金を使ってその事業なり人なりの価値を上げられるというところに、お金を回せるどうかにかかっているんです」

インタビューのなかで澁谷さんがお話されていたことの一つです。私たちが資産運用をするとき、「この投資をすると、どれくらいのリターンが得られるのか」とすぐに考えてしまいますが、投資のリターンは本来、お金を必要としている誰かに供給することにより、新たな価値を生み出すことの結果として得られるものです。

自分の投資するお金が、誰の価値・どんな事業の価値を上げることにつながるのか。そのストーリーを思い浮かべながら、一人ひとりが新たな価値を生み出す投資をしていくことができれば、私たちを取り巻く社会や世界はより良いものとなり、その結果として私たちもその恩恵を受けて豊かな生活を持続していけるのではないでしょうか。

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