2022年5月30日からの相場は、JPY売りの動きが優勢でした。リスクオンのJPY売りというよりは、緩和継続を明言している日銀と引き締め姿勢を強めるその他主要国中銀の金融政策スタンスの差がJPY売りを誘発しました。
この記事では、2022年6月上旬の振り返りと、6月下旬に向けての動向を解説します。
※本記事は6月13日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 2022年6月上旬のマーケット振り返り
1-1.日本
1-2.米国
1-3.中国
1-4.欧州
1-5.英国
1-6.オーストラリア
1-7.カナダ
1-8.その他 - 注目材料
2-1.6月FOMC
2-2.6月BOE決定会合
1.2022年6月上旬のマーケット振り返り
米国ではウォラー理事やブレイナード副議長から9月の利上げ休止観測に否定的なタカ派の意見が表明されました。
参考:ブルームバーグ「ウォラーFRB理事、今後数回の会合での0.5ポイント利上げ支持」
参考:ブルームバーグ「FRBブレイナード氏、米利上げ9月休止の可能性「非常に低い」」
欧州でもECB高官の一部からは0.5%の利上げを提唱する声が上がりました。
参考:ブルームバーグ「ホルツマン氏、9月の0.5ポイント利上げ支持-インフレ改善なければ」
最新のユーロ圏など主要国のインフレデータは記録的な伸びを示したものの、米国CPIも3月の水準を上回りピークを更新した為、USDが独歩高となりました。
USD/JPYは134円台まで上昇したものの、世界各国の引き締めを受けて株が下落したため、上値は抑えられました。EUR/USDは、1.07台後半まで上昇したのち1.05台前半まで下落しました。また、6月13日には135円台に突入しました。
1-1.日本
BOJ黒田総裁は拙速な緩和縮小は2%の物価目標から遠ざかるとして、現在の金融緩和を粘り強く継続するという姿勢を改めて示し、これがきっかけで一段とJPY売りが進行しました。
参考:ブルームバーグ「拙速な緩和縮小を黒田総裁否定、「2%から遠ざかる」-円安進む」
その後134円台までUSD/JPYが上昇したところで、政府と日本銀行が国際金融資本市場に関する情報交換会合(3者会合)後に声明文を発表しました。「最近の為替市場では急速な円安進行が見られ憂慮している」と表明し、「必要な場合には適切な対応を取る」と強い言葉で牽制したため、一時的にUSD/JPYは下落しました。
参考:ブルームバーグ「急速な円安進行を憂慮、必要な場合は適切な対応-政府・日銀会合」
1-2.米国
ウォラーFRB理事が、数回の会合で更に0.5%の利上げを支持し、必要な限り0.5%幅の利上げが好ましいとのタカ派なコメントを出しました。
参考:ブルームバーグ「ウォラーFRB理事、今後数回の会合での0.5ポイント利上げ支持」
5月のCB消費者信頼感指数は106.4と予想の103.6は上回ったものの、2月以来の低水準となりました。1年先の期待インフレは7.4%と高水準にとどまり、消費者マインドへの重石となっている様子です。
こうした状況下、貯蓄の取り崩しやクレジットカードの利用拡大を余儀なくされるケースが増えてきています。ただ、雇用に関しては十分にあるという回答は51.8%に低下したものの、今後6カ月の労働市場見通しは総じて楽観的な水準になっています。
5月のISM製造業指数は前月比+0.7の56.1と悪化予想に反して上昇しました。企業の楽観的なコメントと悲観的なコメントの比率が5対1となっており、需要の見通しは引き続き強そうです。一方で、雇用指数は49.6と2020年以来初めて50を下回りました。
4月のJOLTS統計では、解雇件数は過去最低を記録し、求人件数は1140万人と高水準を維持したものの、前月比▲45.5万人となりました。内訳を見るとサービス業全般で求人が減少しています。
5月の雇用統計で、非農業部門の就業者数は市場予想を上回る前月比+39万人、失業率は3.6%となりました。いずれもコロナショック前の水準に戻りました。
労働参加率は62.3%に増加しましたが、非労働力人口は9930万人と高止まりしています。移民の減少やコロナ禍で退職した人たちがそのまま労働市場から離脱してしまった可能性があり、労働者減少による潜在成長率の低下が懸念されます。
平均時給は前月比+0.3%、前年比+5.2%となりました。4月の+5.5%からペースが落ち着きました。
5月CPIは予想に反して幅広い項目で上昇が加速しました。前年同月比の伸び率が+8.6%と40年ぶりの上昇幅となったことで、3月が+8.5%、4月が+8.3%とインフレがピークに達して落ち着き始めているとの希望的観測は打ち砕かれました。
ガソリン価格は過去最高になり、食品価格は1.2%上昇しました。サービス分野で最大の構成要素でCPI全体の約3分の1を占める住居費の上昇にも衰えが見えません。
物価高騰の大きな要因である自動車価格は4月からはやや鈍化したものの、引き続き高水準的であり、消費者の生活は強く圧迫されています。
6月のミシガン大消費者マインド指数速報値は50.2と前月の58.4から大幅に悪化し過去最低水準に落ち込みました。1年先インフレ期待は5.4%(前月5.3%)、5-10年先のインフレ期待は3.3%(前月3%)と、いずれも上昇しています。インフレ高が引き続き家計への打撃となっていえるでしょう。
1-3.中国
国家統計局が発表する5月製造業PMIは49.6(予想49.0)、非製造業は47.8(予想45.5)といずれも予想を上回りました。
一方で財新5月製造業PMIは48.1(予想49.0)と景気の改善度合いが国家統計局の数字ほどではなく、沿岸部や中小企業の回復が遅れていることを反映している可能性があります。財新5月サービス業PMIは前月から改善したものの、41.4と予想を大幅に下回る低水準となりました。
国務院は経済成長を支援するための追加措置としてインフレ投資を支援するために政策銀行に8000億人民元の融資枠を追加提供すると発表しました。
1-4.欧州
ドイツ5月CPIは、前年比+7.9%と前回の+7.4%から伸びが一段と加速しました。スペインも+8.7%と上昇し、5月のユーロ圏CPIも前年比+8.1%と1997年の統計開始以来最高を更新しました。
ロシアのウクライナ侵攻に伴う供給不安からエネルギーや食料品だけでなく、広い項目で値上がりが確認できました。市場のECBへの利上げ期待を正当化する内容であるものの、引き締めによる景気後退リスクも勘案しなければならず、難しい舵取りが迫られています。
3か月に一度のスタッフ経済予測では、物価見通しは大幅に上方修正され2022年+6.8%、2023年+3.5%、2024年+2.1%となりました。
ECB理事会は政策金利を据え置いたうえで、7月0.25%利上げをすると表明しました。9月に0.50%利上げの可能性も示唆しました。
資産買入プログラム(APP)については7/1に終了することを決定しました。再投資についてはコロナショックの緊急買取分のPEPPも含めて継続することが決定されました。
ラガルド総裁は会見の中で、9月の会合時に2024年の物価見通しが現行の+2.1%以上であれば0.5%幅の利上げが必要となるとしています。事実上9月の0.5%の利上げの可能性が高まっています。
9月以降の政策については、緩やかな利上げが適切と大幅利上げについては否定的な見解を示しました。成長率を2022年+2.8%、2023年+2.1%と大幅に引き下げたため、果たして本当にECBが継続して利上げできるのか懐疑的な部分も浮上し、EURは下落しました。
参考:ブルームバーグ「ECB、7月利上げを確認-9月に0.5ポイントの可能性も示唆」
中立金利水準に関しては議論から外されたため、1~2%の間から変更はないでしょう。
1-5.英国
ジョンソン首相に与党から不信任案が提出され、投票の結果、359票中211票の信認を勝ち取りました。理屈の上では今後一年間は不信任投票を免れるものの、僅差の勝利であったため先行きの政局運営は困難が待ち構えていそうです。
1-6.オーストラリア
第1QのGDPは前期比+0.8%、前年比+3.3%となりました。オミクロン変異株感染拡大と洪水被害があった割には、堅調なデータとなりました。
第Q2は労働の制約がなくなっていることから、更に成長が加速する可能性があるものの、以降は金利上昇及び実質可処分所得の減少により、徐々に減速していくでしょう。
RBA政策決定会合では、予想を上回る0.50%幅の利上げを決定し政策金利を0.85%に引き上げました。市場は0.25%の利上げと、通常の0.25%刻みに戻すために0.40%の利上げを実施するという予想が半々だったため、0.50%はタカ派サプライズとなりました。
今回は声明文でインフレがターゲットに戻るまで必要な措置をとり、今後数か月に金融環境の一段の正常化に向けたステップを踏んでいくと明言しており、以前の雇用からインフレ抑制に比重を移した形となっています。
参考:ブルームバーグ「豪中銀、インフレ抑制で予想外の大幅利上げ-政策金利0.85%に」
1-7.カナダ
政策金利を1.0%から1.5%に0.5%引き上げました。0.5%利上げは2回連続で予想通りでした。声明文のなかでmore forcefullyという文言が追加されました。
2%のインフレ目標達成のためにより強力に行動する決意を表明したこと、インフレの定着についての表現が強化されたこと、経済が需要過多の状態にあることを明言したこと、これらの点が市場ではタカ派と捉えられました。
参考:ブルームバーグ「カナダ中銀、2会合連続で0.5ポイント利上げ-さらなる行動を警告」
5月雇用統計は失業率が4月の5.2%から5.1%へと低下、雇用者数の伸びは4月の1.53万人から3.98万人に加速しました。労働参加率は65.3%と横ばいでしたので、雇用市場は良好です。
1-8.その他
OEPCプラスが供給量を拡大することで合意しました。WTI原油価格は、増産への期待から一時1バレル=111ドル台まで下落しました。
しかしロシア産原油が禁輸された分を補填する程度に留まり実質的な供給量は増加しなかったこと、また実際そこまでの増産は難しいのではないかという観測が強まり、原油価格は下がりませんでした。
2.今後の注目材料
2-1.6月FOMC
先日、バイデン大統領がパウエル議長とインフレについて協議しました。バイデン大統領はFRBの独立性を尊重すると同時にインフレの責務については主にFRBの管轄だと主張しました。
しかし、エネルギーや食料品は、政治問題でありFRBの利上げによって抑えられるものではありません。抑えられるのは住宅などの需要くらいでしょう。
参考:ブルームバーグ「バイデン氏、物価対策はFRBに主要な責任-パウエル議長と会談」
またパウエル議長は利上げには痛みを伴うとも発言しています。
参考:ブルームバーグ「パウエル議長、「明確で納得できる」インフレ後退まで利上げ継続」
現在の堅調な雇用情勢であれば、利上げに耐えられる可能性も十分にあります。恐らく9月も0.5%利上げへの道筋は示してくると予想します。
景況感は悪化しているものの、雇用は堅調であることから、早期に利上げを中断するという選択肢は取らず、現時点の予想ということであれば、淡々と利上げ継続というDOTSチャートになるのではないかと予想します。
既に市場は織り込んでいるものの、2023年にかけて最終到達金利が市場織り込みの3.2%程度を越えてくるようであれば、もう一段のUSD買いとなりそうです。
2-2.6月BOE政策決定会合
今回は、据え置きと0.25%と0.50%の利上げに分かれると予想するものの、前回と比較し0.50%利上げする可能性が高くなるでしょう。
5月の会合以降、利上げの効果か物価上昇の悪影響か分からないものの、景況感は確実に悪化しています。しかし、雇用はまだ堅調に推移し賃金も上昇傾向となっています。
いまだピークを付けていない物価上昇の中では、雇用市場が堅調な内に利上げをしておきたいと思うメンバーもいる可能性があります。特に最近は、他国の主要中銀は0.5%の利上げに躊躇しておらず、むしろ早期に上げて、将来的に利下げも視野に入れていることが伺えます。
財務省が150億GBPの財政支援策を決定したため、BOEとしては景気を財務省に支えてもらえるうちに、インフレ抑制のための利上げがしやすい環境が整っている状態だと言えます。
BOEとしては、GBP通貨安が一方的に進行してしまうと輸入物価がインフレを更に引き上げてしまうという点も考慮すると、ハト的な姿勢は示せないでしょう。0.50%の利上げを実施して、タカ派姿勢を示すのであれば、一気に1.3000を回復する展開も予想できます。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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