1つの証券会社で複数の証券口座を開設することはできませんが、異なる証券会社で口座を開設すれば複数所有は可能です。証券口座は複数持つことによって様々なメリットを得られる一方、仕組みをよく理解しておかないと思わぬ落とし穴が潜んでいることもあります。
この記事では証券口座を複数持つメリットや注意点について詳しく解説していきます。証券会社の選び方や使い分けの方法などもご紹介しますので、証券会社選びのご参考にしてみてください。
※この記事は2021年6月7日時点の情報に基づき執筆しています。最新情報はご自身にてご確認頂きますようお願い致します。
目次
- 証券口座を複数持つメリット
1-1.様々な金融商品に投資できる
1-2.証券各社の強みを活かした使い分けが可能
1-3.IPO株の当選率が上がる - 証券口座を複数持つ際の注意点
2-1.資金管理や口座管理が煩雑
2-2.確定申告が必要になる場合もある
2-3.譲渡損失の繰越も確定申告が必要
2-4.NISA口座の開設は1つのみ - 証券会社の選び方・使い分ける方法
3-1.手数料重視型
3-2.商品重視型
3-3.IPO重視型 - まとめ
1 証券口座を複数持つメリット
最近は金融商品のラインアップを充実させている証券会社も多く、国内株や外国株、投資信託、債券、ETF、先物取引、CFD取引など様々な金融商品の取引が可能です。しかし、取り扱っている商品や銘柄は証券会社によって異なるため、一社だけで取引する場合、必ずしも希望する商品や銘柄を取引できるとは限りません。
1-1 様々な金融商品に投資できる
一方、複数の証券会社に口座を持っている場合、各証券会社の商品ラインアップから取引したい金融商品を選択することが可能です。単純に証券会社の数だけ取引できる金融商品の幅も広がるので、これまで関心のなかった種類の投資に興味が湧くなど、投資機会の拡大に繋がります。
1-2 証券各社の強みを活かした使い分けが可能
証券口座を複数持つことによって証券各社の強みを生かした使い分けも可能です。証券各社は顧客確保のために多様なサービスを提供しているため、取引手数料が安かったり、商品ラインアップが豊富だったり、取引ツールが充実しているといった独自の強みがあります。
例えば、現在取引している証券会社の取引手数料が安くても、取引ツールが使いにくい場合、取引ツールで評判の良い証券会社の口座を新たに開設し、それを利用しつつ従来の口座で取引を行うこともできます。
証券口座は原則として維持手数料などが発生しないため、このような使い分けも可能です。各社の強みを的確に把握することが前提になるものの、証券会社によって使い分けができる点は複数口座を持つメリットです。
1-3 IPO株の当選率が上がる
複数の証券口座を持つことはIPO株の当選率アップに繋がります。IPOとは新規に証券取引所などに上場する「新規株式公開」です。
新規上場する際は主幹事や幹事を務める証券会社を通して投資家に株式(IPO株)が配分されるものの、IPO株は上場後の初値売却によって高い確率で利益が出るため、どこの証券会社もIPO株は抽選倍率が高くなっており、当選しにくいのが課題にもなっています。
そこで複数の証券口座を活用することでIPO抽選に参加する機会を増やし、当選率を上げることができます。特に、主幹事や幹事を数多く務める証券会社はIPO抽選に参加できるチャンスも多いため、なるべく多くのIPO抽選に参加することが当選機会を増やすポイントです。
2 証券口座を複数持つ際の注意点
証券口座を複数持つことによって様々なメリットを得られますが、注意したいポイントもあります。詳しく見ていきましょう。
2-1 資金管理や口座管理が煩雑
証券口座を複数持つと資金管理や口座管理が煩雑になります。例えば、2社以上の口座で取引している場合、状況に応じて口座間での資金移動なども必要です。証券口座の入出金は手数料がかかることもあるため、手間や資金移動のコストなども含めた運用を検討する必要があります。
また、口座管理においては、それぞれの証券会社で設定したIDやパスワードなどの管理も必要です。セキュリティ上は証券会社ごとにIDやパスワードを変えたほうが好ましいですが、口座の数が多くなるほど管理の手間が増えます。
さらに、複数の証券口座で運用成果を確認するのも手間となります。全ての口座の損益を合算する作業が必要になり、これをしなければ全体的として「いくら儲かっているか」「いくら損しているか」という判断も難しくなります。
2-2 確定申告が必要になる場合もある
損益通算をするには確定申告が必要になるケースもあります。証券会社で開設できる証券口座には一般口座、特定口座(源泉徴収なし)、特定口座(源泉徴収あり)という3種類の口座が存在し、一般口座と特定口座(源泉徴収なし)を利用する場合、確定申告や納税などの手続きが原則必要です。
一方、特定口座(源泉徴収あり)は国内現物株の取引などで利益が発生しても、納税額を証券会社が源泉徴収してくれるため、確定申告等の手続きは原則不要です。
これは、上場株式などの取引で発生した所得(=譲渡所得)が申告分離課税となるため、他の給与所得や事業所得などと合算する必要がなく、証券会社で税金計算を完結できるためこのような取り扱いとなっています。
しかし、証券口座を複数持っている場合、特定口座(源泉徴収あり)を利用していても確定申告が必要になるケースもあります。
例えば、A証券の上場株式の売買で100万円の利益が出た場合、特定口座には利益の20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)が源泉徴収された100万円-203,150円=796,850円が売買益として入金されます。ところが、同時にB証券の上場株式売買で50万円の損失が出ていてもA証券の源泉徴収額は変わりません。
本来、上場株式などの譲渡損益は通算できるため、100万円の利益から50万円の損失を引いた100万円-50万円=50万円に対して税金が課され、本来の納税額は50万円×20.315%=101,575円です。
しかし、確定申告をする前の状態ではA証券で源泉徴収された203,150円が税金の支払い額となっているため、差額の203,150円-101,575円=101,575円を還付してもらうための確定申告が必要になります。
このように、上場株式などの取引に関わる譲渡所得同士は損益通算が可能です。そのため、複数の特定口座のうち一つでも損失の出ている口座がある場合、別々の特定口座で発生した利益と損失を損益通算しないと損をすることもあるため留意しておきましょう。
2-3 譲渡損失の繰越も確定申告が必要
国内株式などの取引で譲渡損失が発生した場合、上記の通り損益通算が可能です。しかし、損益通算しても控除しきれない損失が発生した場合、その損失を繰り越して翌年以降に発生した利益と相殺することができます。これを譲渡損失の繰越控除と言いますが、この手続きにも確定申告が必要になります。
譲渡損失の繰越控除は最大3年間損失を繰り越すことができます。例えば、1年目の取引で30万円の繰越控除が発生した場合、2年目に20万円の利益が発生しても1年目の30万円の損失から20万円を繰り越して控除できるため、20万円(利益)-20万円(繰越控除額)=0円となり納税は不要です。
また、3年目に利益が出た場合も繰越控除額が10万円残っているため、最大10万円まで控除できます。損失は最大3年間繰り越すことができるため、3年目に取引がなかった場合、4年目まで繰り越すことも可能です。
なお、譲渡損失の繰越控除は繰越控除額が残っている限り確定申告が必要です。上記の例では、2年目も20万円しか控除できず10万円の繰越控除が残っているため、2年目も確定申告することによって残った10万円の控除額を3年目に繰り越すことができます。
2-4 NISA口座の開設は1つのみ
NISA口座の所有は1人につき1つのみです。証券総合口座とは異なり、NISA口座は少額投資非課税制度によって税制優遇を受けられる口座となっているため、証券会社も含めた全ての金融機関で開設できるNISA口座は1つだけとなります。
NISA口座は年単位で取り扱いの金融機関を変更することもできますが、変更には金融機関での手続きなども必要になるため手間がかかります。そのため、NISA口座を利用した取引を検討している場合、事前に商品ラインナップや手数料などを確認し、最も納得できる条件の金融機関を選択する必要があります。
3 証券会社の選び方・使い分ける方法
複数の証券口座を持つメリットを最大限に活かすためには証券会社の選び方や使い分け方を正しく理解することが重要です。こちらでは、目的に応じた証券会社の選び方や使い分け方法をご紹介します。
3-1 手数料重視型
手数料を安くするために複数の証券口座を持つ場合、各証券会社の手数料体系を理解しておくことが重要です。
例えば、国内現物株をメインで取引する場合、定額制の証券会社を利用することで手数料負担を少なくすることができます。定額制とは、1日の約定金額の合計額に対して手数料がかかる料金体系で、SBI証券や楽天証券では国内現物株の1日の約定金額合計が100万円までの取引は手数料無料です。
また、1日の約定金額に対して手数料が決まるボックスレートを採用している松井証券も1日合計50万円までの取引は手数料無料となっています。これらの3社を併用することで1日250万円まで手数料無料で取引が可能です。
国内現物株以外の取引手数料にも証券各社で様々な特徴があります。例えば、DMM株では米国株の取引手数料が無料で、auカブコム証券では信用取引の取引手数料が無料です。
これらを組み合わせると、国内現物株はSBI証券・楽天証券・松井証券、米国株はDMM株などの使い分けも可能で、これにより手数料を抑えて取引することができます。このように、証券各社の金融商品ごとの手数料体系を把握しておくと、投資する商品などに合わせた証券会社選びが可能になります。
3-2 商品重視型
取引できる金融商品の豊富さを重視する場合、SBI証券と楽天証券などの主要ネット証券が向いています。この2社では国内株式をはじめ、外国株式、投資信託、債券、FX、先物・オプション、CFDなどの様々な金融商品を取り扱っているため、どちらかの証券会社に口座を開設しているだけで幅広い金融商品の取引が可能です。
特に、SBI証券などはネット証券業界最多となる9か国の外国株式を取引できる上、債券や投資信託などの取扱量も豊富なので、幅広い投資家のニーズに対応することができます。一方、米国株取引が多い場合は、ネット証券業界最多水準の4,000超の銘柄を扱うマネックス証券なども向いています。
3-3 IPO重視型
IPO当選率アップを目的とするIPO重視型では、IPO実績が豊富なネット証券を中心に選択することも重要です。
項目 | SBI証券 | マネックス証券 | 岡三オンライン |
---|---|---|---|
2020年 | 85社 | 50社 | 39社 |
2019年 | 84社 | 45社 | 37社 |
2018年 | 86社 | 50社 | 48社 |
上表は過去3年間のIPO実績が豊富なネット証券を案件数でまとめたものです。SBI証券、マネックス証券、岡三オンライン証券の3社は過去の実績が豊富なので、IPO重視型の証券会社選びでは検討候補に挙がりやすいでしょう。
中でも、マネックス証券は配分予定のIPO株を100%完全抽選で配分してくれるのが大きな特徴です。また、岡三オンラインは案件数こそSBI証券やマネックス証券に及ばないものの、IPO株の抽選申込の際に事前入金が不要なため、資金の負担なくIPO抽選に参加できる点が強みです。
上記の3社以外では、松井証券が抽選の際の事前入金不要、配分予定数量の70%以上を完全平等抽選で配分しています。これらの証券会社を中心に証券口座を複数持っておくことでIPO株の当選を狙いやすくなります。
まとめ
証券口座を複数持っていると金融商品を選択する幅が広がったり、各社の強みを活かした使い分けが可能になったりするなど、多くのメリットがある一方、口座の種類や取引結果によっては確定申告が必要になるといった注意点もあります。
証券会社を選ぶ際は、手数料重視やIPO重視などご自身の投資スタイルに合わせて、証券口座の複数開設を検討することが大切です。
- 外国株(米国株など)が買えるネット証券会社
- IPO投資に強い証券会社、少額からIPOに参加できるサービス
- 25歳以下の現物株式の取引手数料が実質0円の証券会社
- 大手証券会社が提供している株式投資サービス
- 少額で株式投資ができるサービス
HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム
最新記事 by HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム (全て見る)
- 見守り市場に変革を。介護テックベンチャーがFUNDINNOで9/25募集開始 - 2024年9月20日
- 高速硬化性樹脂で日本の強靭化に貢献。日本総代理店がFUNDINNOで資金調達 - 2024年9月13日
- 子どもが安心安全に利用できるSNSアプリで事業拡大。運営ベンチャーがFUNDINNNOで8/31CF開始 - 2024年8月30日
- DMM株の評判は?メリット・デメリットやアカウント登録手順も - 2024年8月30日
- 採用のミスマッチ・入社後ギャップを解消するテックベンチャーがFUNDINNOで3度目のCF - 2024年8月29日