米国上場企業の決算の読み方や注目の指標は?企業の決算事例も

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米国の上場企業は年に4回、四半期ごとに決算内容の公表が義務付けられています。毎年1、4、7、10月の中旬から決算シーズンを迎えます。米国企業の株を保有している投資家にとっては、見逃せない大きなイベントです。

報告書はもちろん英語で書かれていますが、いくつかのキーワードを理解していれば業績の良し悪しは把握できます。この記事では米国株初心者の方々向けに決算書(主に損益計算書)の読み方や、決算報告書を理解するうえで必須の単語などをお伝えします。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※2022年7月21日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。

目次

  1. 決算書の入手方法
    1-1.2種類ある四半期決算報告書
    1-2.重要なのは「8-K」
  2. 米国企業決算で知っておくべき単語は4つ
    2-1.最も重要なのは調整後EPS
  3. 決算発表の翌日に39%下落したスナップの事例
    3-1.スナップ株が売り込まれた理由
  4. 決算の「物差し」はコンセンサス
  5. 株価はカンファレンスコールで動く
  6. まとめ

1 決算書の入手方法

決算報告書を入手する手段は2つあります。まず、対象企業のウェブサイトの中から、投資家向け企業情報を掲載しているInvestor Relations(=IR)のページを探します。

例えばアップルのIRサイトを見てみましょう。Investor Relations – Apple「Quarterly Earnings Reports」が四半期ごとの決算報告書です。アップルは9月が決算期ですので、10~12月がQ1=第1四半期となります。

もう一つの方法は、米証券取引委員会(SEC)が運営しているオンラインデータシステムからの入手です。このシステムはEDGAR(エドガー=Electronic Data Gathering, Analysis and Retrieval)と呼ばれています。SEARCHのボックスに上場企業のティッカーを入力すると、かなり以前の分まで、その企業が開示した資料にアクセスすることができます。

1-1 2種類ある四半期決算報告書

SECが定める四半期決算報告書には2種類あります。「Form8-K」と「Form 10-Q」です。前者は速報ベースの決算短信、後者が正式な報告書となります。

まず決算発表日に「8-K」が、後日に「10-Q」が開示されます。2つともGAAP(ガープ/ギャープ)に従って作成されています。GAAPとはGenerally Accepted Accounting Principlesの略語で、一般的な会計原則といった意味です。

決算報告書にはもう一つ重要なものがあります。「Form 10-K」です。Annual Report=年次報告書に相当する資料で、年に1回公表されています。企業によっては数百ページに及ぶものを作成しています。年次報告書も各企業のIRページを通じて取得可能です。

米国基準のUSGAAPに対し、欧州大陸の大手企業やソニー、ファーストリテイリングなど日本のグローバル企業が採用している基準がIFRS(アイエフアールエス/イファース=国際財務報告基準)です。これはInternational Financial Reporting Standardsの略語です。国際会計基準審議会( IASB)によって設定された会計基準を指します。

今回は米国の上場が採用している会計基準を紹介するのが主眼ですので、USGAAPとIFRSの相違点の説明は省きます。

1-2 重要なのは「8-K」

四半期決算報告書のうち、機関投資家が重視しているのは「8-K」です。「8-K」には非GAPP(Non-GAAP)ベースの業績や経営幹部の背景説明、次の四半期や通期の業績見通しなどが記載されているからです。

「Form8-K」は決算以外の企業情報の開示にあたっても使われているため、「Financial Statements and Exhibits」と書かれているものを探して下さい。

2 米国企業決算で知っておくべき単語は4つ

それでは、顧客情報管理大手セールスフォース(ティッカーはCRM)の2022年2~4月期の決算報告書「Financial reports」(今年5月31日の通常取引終了後に発表)の中から、連結ベースの損益計算書(Consolidated Statements of Operations)を見てみましょう。

ここでは、以下の4つの単語と、その隣に記載されている数字に注目してください。

  • 「Revenue/Net sales」(売上高)
  • 「Income from operations」(営業利益)
  • 「Net income」(最終損益)
  • 「Net income per share/Earnings per Share」(EPS=1株当たり利益)

同四半期のセールスフォースの業績は、売上高が前年同期比24%増の74億1100万ドル、最終利益が94%減の2,800万ドルと増収ながら大幅な減益でした。その結果、1株当たりの稼ぐ力を表すEPSはBasic(基本)が0.03ドル、Diluted(希薄化後)が0.03ドルとなりました。

注意してほしいのがEPSです。2種類ありますが、市場関係者の間で重視されているのは「Diluted」の方です。社員や経営幹部向けのストックオプションや転換社債など、市場に流通していない潜在的な株式も含めた上で算出されるため、その会社の1株利益をより正確に反映していると考えられているからです。

2-1 最も重要なのは調整後EPS

2種類のEPSについて説明した上で、米国企業の決算の良し悪しを判断するうえで最も重要な指標を紹介します。もう一つのEPSであるAdjusted EPSです。日本語では「調整後EPS」または「特別項目を除いたEPS」と呼ばれています。

ストックオプションの形で従業員に与えた報酬や無形資産(Intangible Assets)に絡む費用など、会社側が一時的と認識する損益をGAAPベースの利益に足したり、除いたりした後、希薄化後の株式数で割って算出されます(Adjusted Diluted EPS=調整後希薄化後EPSまたはNon-GAAP EPS)。

セールスフォースの2~4月期決算では、調整後希薄化後EPSは0.98ドルでした。GAAPベースの希薄化後EPSと比べると大きく増えています。

ただし、調整後EPSを通常発表していない企業も少なくありません(例えばアマゾンやアップル、メタなど)。そうした会社の場合、GAAPベースの希薄化後EPSが重要になります。

3 決算発表の翌日に39%下落したスナップの事例

年4回の四半期決算の発表は、投資家にとって見逃せない大きなイベントです。それは、四半期業績の良し悪しや、後述するガイダンスの内容が株価を大きく上下させることがあるからです。

最近、決算発表で大きくつまずいたのが、画像・動画投稿アプリを提供するスナップ(SNAP)です。7月21日の引け後に発表された2022年4~6月期業績の内容が悪かったため、翌22日に39%安の9.96ドルと暴落しました。

売上高は前年同期比13%増の11億1090万ドルに伸びましたが、純損失が4億2206万ドルに拡大しています。ここまで売り込まれた原因は、複数あります。

3-1 スナップ株が売り込まれた理由

まず増収率の低さです。「11%ぐらいでは不十分なのか」と思われるかもしれませんが、それ以前の数四半期の増収率は2022年1~3月期は38%、2021年10~12月期は42%です。機関投資家の間で「収入の伸びが頭打ちになったのではないか」との懸念が生まれたのだと思われます。

次いで、通常は公表している次の四半期(この場合は7~9月)の業績見通し(Guidance=ガイダンス、またはOutkook=アウトルック)を提供しなかったことです。最高財務責任者(CFO)らが市場関係者に対し、将来の業績に関して弱気な姿勢を見せれば、それだけで十分な売り材料と言えます。

そして、最も重要なのが自社で事前に示したガイダンスにまったく届かなかったことです。スナップ自身が2022年4月に発表した4~6月期の予想増収率は「20~25%」でしたが、結果は目標の半分程度しか達成できなかったのです。

米国では現在、リセッション(景気後退)入りするとの不安がくすぶっています。スナップのように収益を100%広告に依存している企業は「不況への耐性が弱い」との見方が強まったことが、株価暴落の主因だと思われます。

4 決算の「物差し」はコンセンサス

ネガティブ材料の多かったスナップはやや例外として、通常の企業決算の良し悪しを判断する「物差し」となるのは、専門家向けに金融データを提供するファクトセット(Factset)、リフィニティブ(Refinitiv)、ブルームバーグ(Bloomberg)などがまとめているコンセンサス(Consensus)です。

これは、上場企業の動向をウォッチしている大手金融機関などに所属する複数のアナリストが出す予想数値の中間値を指します。コンセンサスについては、米国版のYahoo financeなどで見ることができます。

ある企業の業績を詳しく見る際、売上高や調整後EPSなどの結果がコンセンサスを上回っていれば、その決算は好決算になります。逆に、下回れば悪い決算になります。コンセンサスというハードルを越えていない限り、たとえ数十パーセントの増収や増益を達成しても「物足りない決算」と受け止められてしまうのです。

5 株価はカンファレンスコールで動く

コンセンサスと並んで重視されているのが、各企業が決算発表に合わせて公表する通期や次の四半期のガイダンスです。ここで前回発表した内容を上方修正すれば株価の上昇要因に、業績悪化で下方修正すれば下落要因になります(ガイダンスを公表しない企業・業種もあります)。

通常、決算でコンセンサスを上回る(Beat)とともに、ガイダンスを上方修正(Raise)した企業は好感され、株価が上昇する傾向にあります。

決算とガイダンスの発表にあたって、大手金融機関のアナリストには経営陣に直接質問する機会が与えられています。そうした場はカンファレンスコール(Conference Call)と呼ばれています。

仮に、四半期業績がコンセンサスを下回る悪い結果で株価が一時的に下落しても、カンファレンスコールで経営陣が先行きに強気な見通しを示したり、自社株買い・増配を発表したりすることなどで株価が持ち直すこともあります。そうしたことから、株価はカンファレンスコールの最中に大きく動きやすくなるのです。

まとめ

損益計算書の内容を中心に、米国上場企業の決算報告書の読み方と、機関投資家が決算の何を重視しているのかについて解説しました。

売上高やEPS以外の指標としては、既存店売上高(Comparable Sales) やARPU(ユーザー1人当たり平均売上高)など特定の業界で重視されているものもあります。こうした指標や決算内容の良し悪しを理解した上で、自身が関心を持つ企業が投資に値するかどうか、またすでに投資している企業であれば継続して保有しても構わないかを判断する材料にして下さい。

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HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム

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