投資信託の保有バランスで気を付けることは?IFAポートフォリオマネージャーが解説

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日本証券業協会の調査(※1)によると、投資信託保有経験は2020年までの10年で64.6%から73.4%(「現在持っている」と「以前持っていたが、現在は持っていない」の両回答の合計)まで上昇してきています。

また、2014年からスタートしたNISA(少額投資非課税)制度により、投資信託のニーズが益々高まってきています。しかし買うにしても、日本には約6,000本の公募投資信託が存在しており(2021年8月時点)、選択肢が多すぎて、何を買ったらよいか判断が難しいところです。

また、相場を見通すのは非常に難しいものです。市場の専門家の相場見通しもバラバラであることが多く、ましてや私たちが相場の上げ下げのタイミングを見極めるのは相当な困難を伴います。

そこで今回は、数多くある投資信託を複数組み合わせることで、相場の動向に一喜一憂しないで、ある程度「ほったらかし」できるようにするための方法について解説します。

※1 日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する 意識調査報告書 2020年12月(PDF)」「個人投資家の証券投資に関する 意識調査報告書 2010年9月(PDF)
※2 本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 先ずは運用目標の設定をしよう!
  2. ライフ・ステージ・アプローチ
  3. 基本は資産と時間の分散
    3-1.資産の分散
    3-2.時間の分散
  4. 投資資産の定期的なメンテナンスは必要
  5. オルタナティブ・ファンドってどうなの?
  6. 流行りのテーマ型ファンドは分散に向く?
  7. まとめ

1.先ずは運用目標の設定をしよう!

投資信託(投信)を購入する際に、ただ漠然と「儲かりそうだから」と思って買っていませんか?よくあるパターンとして、AI(人工知能)や自動運転など、その時々に話題になったテーマに注力したファンドがもてはやされ、何となく聞いたこともあるし儲かりそうだなぁ、という軽い気持ちで投資してしまっていませんか?

しかしこんな場合、株式相場が何らかの理由で崩れてしまったり、その投資したテーマが人気過ぎてすでにファンドとしてピークを過ぎてしまっていたりしたら大きな損失を出してしまうことになります。

投信で着実な利益を狙うには、目標の設定が大事です。ただ、急に「目標」と言われても困ってしまいますよね。ライフステージ別の考え方にヒントがあります。

2.ライフ・ステージ・アプローチ

目標を設定するためには自分の支出入の把握をしなければなりません。毎月の収入から支出の額を差し引けば、毎月いくら余裕資金ができるのか把握できます。またその上で、結婚や子育て、老後資金など、自分の将来の重要なイベントを考慮すると、いつ頃にいくら位のお金が必要になるのか見えてくるはずです。

一方、現役世代とシルバー世代ではこの収支のバランスが異なります。

  • 現役世代:貯蓄 小~中、定期収入 大、支出 大
  • シルバー世代:貯蓄 大、定期収入 小、支出 小

現役世代は諸々の支出が多い一方、定期的な収入も大きいので、少しずつでも時間をかけて投信を積み上げていくことができます。逆にシルバー世代は手持ちの資産を取り崩しながら快適に生活していくための資産運用の仕方が必要です。

ただし、いずれの世代にしても、大体の場合、毎年一桁のリターンがあれば十分快適な生活ができるのではないでしょうか。例えば、100万円を年4%で18年間運用したとすると、203万円(※税金などは考慮していません)とほぼ2倍にすることができます。

このようにできるだけリスクを抑えながら毎年一桁のリターンを達成するキーワードは「分散」です。

3.基本は資産と時間の分散

「分散」の仕方には2つあります。「資産」の分散と「時間」の分散です。

3-1.資産の分散

「資産の分散」は、リスク水準が異なる資産を複数保有することです。例えば株式投信と公社債投信では、それぞれ異なる市場に投資することになるので、片方が下落したからと言ってもう一方も下落するとは限りません。つまり株式と債券などはそれぞれ異なる動きをすることから、同時に保有することで資産の分散が図れます。

私たちの厚生年金や国民年金の積立金の管理・運用を行っているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の基本運用方針もこの「資産の分散」の考え方に則っています。現在は、国内債券、国内株式、外国債券、外国株式をほぼ25%ずつ保有するのが基本ポートフォリオとされています。

GPIFの4つの資産やそれぞれの比率が正解というわけではありません。個人ごとに目標とするリターンが異なるからです。一般的に債券よりは株式、国内資産よりは外国資産の方がリターンが高い一方、リスクも高いと言われています。

GPIFは先ほどの比率で年間1.7%のリターン(※GPIF「基本ポートフォリオの考え方」)を目標としていますが、もっと高い水準を目指すのであれば、株式や外国資産の比率を上げるなど、それぞれ工夫する必要があります。この資産の分散は、一括で投資した場合にリスクを抑制する方法としては有効であり、シルバー世代など老後に向けたまとまった資金を運用する場合には向いている方法です。

厳密には、この資産どうしの値動きの連動性を示す「相関係数」という指標があり、これを計測することでより精緻な組み合わせが可能となります。統計学などに慣れている方であれば、手間は多少かかりますがエクセルなどで計算することもできます。

証券会社や投資信託委託会社のホームページなどでそれぞれに合った投信の組み合わせを選んでくれるサービスなどを利用する方法もありますが、その会社の取り扱い商品のみに偏ってしまうというデメリットもあります。広範に結果を求める場合には、ファイナンシャル・プランナーやIFAなどのアドバイザーなどに相談するのも一つの方法です。

3-2.時間の分散

もう一つは「時間の分散」です。毎月定額を投信に積み立てることで買い付けるタイミングを分散します。これにより、買い付け価格を平均化させることができ、一括投資をした際に起きうる損失の低減を図ることができます。現役世代のように資産を積み上げる時間がある世代に適しています。

4.投資資産の定期的なメンテナンスは必要

投資対象資産の異なる投信を複数保有すると、1ヶ月程度の短期間でもそれぞれの投信の収益率に大きな差が生じることが良くあります。例えば、全投信資産を、国内株式、外国株式、国内債券、外国債券をそれぞれ投資対象とする投信に25%ずつ均等に振り分けて買い付けたとしても、数か月後にはそれぞれ27%、30%、20%、23%などになってしまっていることがあります。

これをそのままに放置していると、株式のもつ高い変動リスクが当初想定していた投信資産全体のリスク量を押し上げてしまい、株式相場の下落時に顕在化してしまう可能性があります。したがって、適度なタイミングで投信を売買し、再び25%ずつの保有比率に直す必要が出てきます。このことを「リバランスする」と言います。

では、リバランスは常にした方が良いのでしょうか?リバランスにはデメリットもあります。先ず第一に手間がかかります。割合が増えた投信を売って、その売却代金の入金を確認してから割合の減った投信を買い付けるなど、それなりに面倒な作業です。割合が増えた投信を売却すると、売却益に税金もかかります。

また、投信の売買には手数料がかかることもあります。したがって、リバランスし過ぎるのも手間やコストの面から良くありません。保有比率が±10%を超過したらリバランスをする、など自分なりのルールを検討してみると良いでしょう。

5.オルタナティブ・ファンドってどうなの?

「オルタナティブ」とは英語で「代替の」という意味ですので、「オルタナティブ投資」とは「代替の投資」になります。では、何に対しての「代替」なのか?これには2種類あります。「株式」や「債券」といった伝統的な資産で運用するのではなく、オルタナティブ(代替の)資産、例えば不動産や金、未公開株(プライベート・エクイティ)などに投資することによって運用する、「資産の代替投資」が一つ目です。

もう一つはAという株を買う一方でBという株を売るといった、ロング・ショート戦略など、いわゆるヘッジファンドなど従来の投資手法とは異なる戦略を採る、いわば「戦略の代替投資」もオルタナティブ投資の一部です。

5-1.資産の代替投資

資産の代替投資に関しては、投資対象となる資産が株や債券ではなく、不動産や金などのコモディティになっただけですので、それほど大きな違いはありません。しかしリスク分散の観点からは大きな違いをもたらします。

株式や債券といった伝統的な資産とは異なる価格変動をしますので、保有する投信のラインアップの中に組み入れることで全体のリスク水準を低下させることができる有効な手段の一つであると言えます。

5-2.戦略の代替投資

投資戦略は数多くありますので、リスク・リターンの水準もファンドによって千差万別です。有効な戦略を持つヘッジファンドを保有すると、全体のリターンの水準が引き上がりますが、大概こういったファンドの戦略は複雑で、一般には理解が難しいものが大多数です。

また、ヘッジファンドが投資信託の形態をとって、一般の個人投資家が買い付けられるケースは比較的少ないため、個人の投信ポートフォリオに組み込むのは難しいと考えられます。

6.流行りのテーマ型ファンドは分散に向く?

AI(人工知能)やEV(電気自動車)など、主にハイテク関連で次世代感の強いテーマに則した投資を行う投信は分散に向くのでしょうか?

大抵の場合、こういった投信はリスク・リターンの高い、ハイリスク・ハイリターン型のものが多くなります。保有する銘柄が特定の分野に固まることによって、ポートフォリオの分散効果が効きづらいことや、流行りのテーマは耳触りが良く、投信の販売がやり易いことから、各社から同じような投信が設定され、関連する株式が一挙に買われてしまい、打ち上げ花火のようにドーンと上がって尻すぼみ、なんてこともないとも言えません。

したがって長期保有には適していないものもあることから投信ポートフォリオに組み入れるのは避けた方が無難ともいえます。

テーマ株投信を複数持つのも考え物です。まったく別のテーマであればいいのですが、AIとEV、サイバーセキュリティなど、一見異なるテーマのように見えて、実は関連する銘柄が重複していることも少なくありません。特定の銘柄に大きく投資することになりかねないので、テーマ選びにも気を配りたいところです。

まとめ

投信で資産運用を図るときには、何となく儲かりそうなものを漠然と買うのではなく、まず自分のライフスタイルを見直して、目標とするリターンを算出することから始めましょう。

次に、目標とするリターンを実現できる投信の組み合わせを考えて、過度なリスクを取らないように心がけましょう。必要であれば、専門家の手を借りるという選択肢も視野に入れてみると良いでしょう。

また、保有している投信のポートフォリオも適度なタイミングで見直しましょう。特に相場が大きく動いたときはリバランスのチャンスです。それほどの頻度は必要ありません。

このように相場を長い目で見て、一喜一憂せずに、適度なリスクで適度なリターンを適度な手間で実現していきましょう。

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ファイナンシャルスタンダード株式会社 ポートフォリオマネージャー 村山 信明

慶應義塾大学経済学部卒。国内外の運用会社でファンドマネージャーを長く務めたのち、現在はファイナンシャルスタンダード株式会社においてポートフォリオマネー―ジャーとして独自のファンドラップ、F-STYLEの運用助言に携わる。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)。

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