米国株式相場が10月下旬から力強く上昇しています。主要企業の2021年7~9月期決算が予想以上に好調だったことや、10月分の雇用統計で非農業部門の労働者数が大きく増加したことなどが主因です。主要3指数(ダウ・ナスダック・S&P500)は、11月に入って連日のように過去最高値を更新しています。
こうしたなか、米大手経済メディアは上場企業による自社株買いに注目しています。今回のコラムでは、その理由を説明します。米国株を保有する日本の投資家にも大いに関係があるからです。
※この記事は2021年11月10日時点の情報に基づき執筆しています。最新情報はご自身にてご確認頂きますようお願い致します。
目次
1.アップルは3カ月で200億ドル分の自社株買い
自社株買いに関心が寄せられている理由を説明する前に、S&P500指数を構成する企業による最近の自社株購入の規模を紹介します。
S&P500構成企業による自社株買いの総額
期間 | 金額 |
---|---|
2020年第1四半期 | 1,990億ドル |
2020年第2四半期 | 890億ドル |
2020年第3四半期 | 1,020億ドル |
2020年第4四半期 | 1,210億ドル |
2021年第1四半期 | 1,780億ドル |
2021年第2四半期 | 1,990億ドル |
新型コロナウイルスの感染拡大による業績低迷を受け、2020年は多くの企業が配当の支給や自社株買いを停止せざるを得なくなりました。ところが、次に紹介するハイテク大手を中心に21年になると活発な動きが再開されました。
今年の7~9月期に最大の自社株買いを行ったのはアップルです。金額は200億ドル相当に上ります。次いでフェイスブック(10月末に社名をメタ・プラットフォームズに変更)の150億ドル(10月末に新たに最大500億ドル相当の自社株買いを発表)、グーグルの親会社アルファベットの126億ドルとなります。
主要企業による7~9月期の自社株買いの一例
社名 | 所属セクター | 金額 |
---|---|---|
アップル | 情報技術 | 200億ドル |
フェイスブック | 通信 | 143.7億ドル |
アルファベット | 通信 | 126億ドル |
バンク・オブ・アメリカ | 金融 | 99億ドル |
プロクター・アンド・ギャンブル | 生活必需品 | 30億ドル |
※各社の四半期決算報告書をもとにヘッジガイド編集部作成
ちなみにアップルは最新の年次報告書で、21年9月までの1年間に前年度より18.8%多い8億5971万ドル相当の自社株買いを行ったことを公表しています。
このほか、ネットフリックスが4月に50億ドル分、マイクロソフトが9月に最大600億ドル分の自社株を買う計画があることをそれぞれ明らかにしました。これら5社のうち、アップルとマイクロソフトを除く3社は配当を出していません。潤沢なフリーキャッシュフローを生かした株主還元策としては、自社株の買い取りが唯一の手段となります。
2.自社株買いにはEPSを押し上げる効果
なぜ、米国の上場企業は自社株買いに積極的なのかといえば、 大口の機関投資家や有力証券会社のアナリストが最も重視しているEPS(1株当たり利益)を押し上げる効果があるからです。
EPSは純利益を市場に流通している株式数で割って算出します。分母に当たる流通株式数が減れば、利益が増えていなくてもEPSは人工的に上昇します。これによって企業は好決算を演出することが可能になるのです。また、自己資本が下がるのでROE(自己資本利益率=当期純利益×自己資本×100)の改善ももたらします。
ダウ・ジョーンズグループ傘下の金融情報サイト「マーケットウオッチ」によりますと、業績の改善を反映して米上場企業の自社株買いの総額は今年、1兆ドルに達すると予想されています。
3.バイデン政権が1%の課税を明言
このように巨額の資金が動く自社株買いを巡り、米国では実施した総額に1%の課税をすることが検討されています。バイデン政権は10月28日、大型の経済支援策の一環で導入を正式に発表しました。その理由として「大手企業の幹部は従業員に投資をしたり、事業を成長させるよりも自社株買いを通じて自身を豊かにしているから」と説明しています。
関連法案を連邦議会に共同提案したシェロッド・ブラウン上院議員(民主党)も、「数十億ドル規模の自社株買いを行い、最高経営責任者(CEO)にボーナスを支払うよりも、利益を生むことに貢献している従業員に多くの賃金を払い、地元地域に再投資するべきだ」と主張しています(ブラウン議員のウェブサイトより)。
バイデン政権では1%の課税を実施した場合、歳入が10年間で1,250億ドルほど増えると試算しています。バイデン政権は同時に、年間利益が10億ドルを超える企業に対して、最低15%の法人税の納税を義務付ける方針です。
これらの施策で増える税収については、社会保障や気候変動向け経済対策の費用(1兆8500億ドル)の財源に充てることにしています。広がる一方の経済的格差を是正することが主眼です。
4.米国株投資家への影響は
自社株買いへの課税が導入された後の影響については、「1%にとどまるのであれば影響は小さい」との見方が支配的です。ただし、いったん導入されてしまえばときの政権の意向で引き上げが可能なことから、注意しておいた方がいいでしょう。
米国での報道によると、現時点では大手企業が自社株買いを見直す可能性は低い一方、規模の小さい企業は配当を強化することになるのではないかと伝えられています。その場合、増配はもちろん、現在は配当を出していない企業などによる特別配当も期待できそうです。実際、新型コロナが業績の追い風になった会員制倉庫型スーパーのコストコは昨年12月、1株当たり10ドルの特別配当を支給しました。
米国では現在、製薬大手のファイザーとメルクが新型コロナ治療の飲み薬の開発を進めています。米食品医薬品局(FDA)は年内にも、緊急使用許可を出すと見られています(メルクはすでに英国で使用許可を取得)。ワクチンとともに経口薬が普及する見通しが立てば、米国株は一段の上昇が期待できそうです。
まとめ
自社株買いは株主還元を目的とした施策の一環であり、投資家にとっては歓迎されるものです。一方、米国では格差是正を目的として自社株買いへの課税が検討されており、導入されれば今後の動向次第で株価や配当などに影響が及ぶでしょう。米国株への投資にあたっては最新情報を注視したいところです。
HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム
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