米国の2大たばこメーカーであるアルトリア・グループとフィリップモリス・インターナショナル(PMI)といえば、高配当銘柄の代表格です。規制産業の下で安定した収益を上げ、手厚い株主還元を行っていることで知られています。
ところが、ロシアによるウクライナ侵攻により、2022年2月24日以降は株価の騰落率でアルトリアの優位が鮮明になりました。なぜでしょうか。今回は、ロシアのウクライナ侵攻による株式市場へのリスクを把握する事例として、たばこ大手2社の現状と株価の見通しなどについて説明します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※2022年3月31日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
目次
1.同じ会社から分かれた2社
アルトリアとPMIは2008年まで、創業者の名前を冠した「フィリップ・モリス・カンパニーズ」という名称の同じ会社でした。分離(=アルトリアがPMIをスピンオフした形)に至った背景には、各種の規制や訴訟リスクに加えて、喫煙人口の減少で米国内のたばこ販売が頭打ちになる一方、ロシアや旧東欧などの途上国を中心とする海外のたばこ需要が旺盛だったことがあります。
フィリップ・モリス・カンパニーズはまた、2007年にスピンオフするまで食品会社クラフトフーズも傘下に収めていたことから、コングロマリット・ディスカウント(複合企業の企業価値が、事業ごとの企業価値の合計よりも小さい状態にあること)にも苦しんでいました。
こうした状態を解消するために、米国内だけを市場とするアルトリアと米国以外の海外を担当するPMIの2社に分かれたのです。
2.PMIのロシア売上高は全体の6%
PMIの発表によると、2021年通年の売上高に占めるロシアの比率は約6%、ウクライナは2%でした。これら2国を含む東欧が約11%だったことから、決して小さくないことが分かります(参照:businesswire “Philip Morris International Inc. (PMI) Announces Concrete Steps to Scale Down Operations in the Russian Federation and Its Intention to Exit the Market“)。ロシアやウクライナでは加熱式たばこ「IQOS(アイコス)」が人気を呼んでいて、PMIにとっては重点市場の一つと言えました。
3.有力証券会社がPMIへの影響を予想
このため、ロシアによるウクライナ侵攻が始まる2月24日以前の時点で、米国の有力金融機関は2国間で紛争が起きた場合、PMIの業績に影響が及ぶことを把握していました。
モルガン・スタンレー証券は同22日に顧客向けのレポートで、「PMIは(ロシアに対する)経済制裁や(紛争の波及による)運営上の混乱といった困難に直面するだろう」と指摘していたのです。また、JPモルガン証券は航空会社やマクドナルドなどと並び、株価が「アンダーパフォーム」する米国企業としてPMIを挙げていました(参照:Seeking Alpha “Philip Morris International is seen at risk from some Russia-Ukraine headwinds“)。
一方、市場が米国に限られていることがアルトリアには追い風になりました。現時点では「リスクフリー」のアメリカで独占的な地位にあることに加え、利益率と配当利回りが高く(3月31日時点で利回りは約6.9%)、バランスシートも健全という相場が不安定な時期の格好の投資先となったわけです。
4.PMIはロシアからの撤退を検討
ロシアによるウクライナ侵攻が長期化するなか、PMIは3月24日にロシア市場からの撤退を検討していることを含め、具体的な措置を発表しました。PMIは2022年にロシアで予定していた新製品すべての発売を停止したほか、新型IQOS「ILUMA」専用スティック生産のためのロシアへの設備投資(累計で1億5000万ドル)を中止することなどを決めました(参照:businesswire “Philip Morris International Inc. (PMI) Announces Concrete Steps to Scale Down Operations in the Russian Federation and Its Intention to Exit the Market“)。
まとめ
PMIは4月21日、今年第1四半期の決算発表を予定しています。これに合わせて、ロシア市場からの撤退に伴って通期の予想業績を下方修正する見通しです。このガイダンスが証券会社のアナリストの予想を大きく下回った場合、PMI株は失望売りを誘うことになるでしょう(会社側が先回りして、予定よりも早く暫定業績と新しいガイダンスを発表する可能性もあります)。
一方のアルトリアですが、最近の株価が52.25ドル(3月31日時点)と年初から約9%のプラスを維持しています。ただし、株価の上昇に伴い株価収益率(PER)がすでに30倍台後半と、バリュー株としては高水準に達して値ごろ感は薄れてきました。
2社のうちどちらかへの投資を考えている方は、チャートや日々の出来高、米大手証券会社などの投資判断などを総合的に勘案した上で決める必要があります。また、同様にロシアに拠点を置いている企業や、売上や仕入れをロシアに依存している企業もリスクに晒されているため、注意が必要です。
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HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム
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