株式投資初心者の中には、空売り取引で利益を得たいと考えている方もいるかと思います。しかし、空売りは通常の取引とは異なる仕組みのため、やみくもに始めても損失を被る可能性があります。また、空売りを始める場合は、仕組みやリスクを理解した上で慎重に検討するのが大切です。
そこで今回は、株式投資初心者に向けて空売りの仕組みや特徴、メリット・デメリットを解説します。
目次
- 株式の空売りとは
1-1.空売りは売りから始める取引
1-2.空売りは信用取引でのみ利用可能
1-3.制度信用取引と一般信用取引 - 株式の空売りを行うメリット
2-1.下落相場でも取引を続けられる
2-2.現物株の損失を抑えられる可能性
2-3.短期間の取引に向いている - 株式の空売りに伴うデメリット
3-1.急騰相場での損失リスク
3-2.初心者には難しい
3-3.金利コストなどがかかる - 空売り注文の流れ
- 空売りを行う際の注意点
5-1.少額取引で始める
5-2.価格変動に注意 - まとめ
1 株式の空売りとは
株式の空売りとは、証券会社から株を借りて売却するところから取引を始め、その後株式を購入することで返済する仕組みのことを言います。まずはこの空売りの仕組みから解説していきます。
1-1 空売りは売りから始める取引
空売りでは、通常の買いから入る取引とは逆に、対象の銘柄が値下がりすることで利益を得ることができます。1株100円の銘柄を例に、空売りで利益を得る流れを下記します(手数料は加味していません)。
- 1株100円の時に100株分の売り注文を入れる
- 1株50円になった時に買い埋め注文を入れる
- 1万円-5,000円=5,000円が売却益となる
このように、空売りは下落相場にある時や、これから株価が下がると見込まれる銘柄を見つけた時に有効な注文手段となります。
1-2 空売りは信用取引でのみ利用可能
空売りは通常の現物取引ではなく「信用取引」に該当します。信用取引とは手持ちの資金や現物株式を担保に、資金や株式などを証券会社から借りて取引を行う制度を指します。
空売りでは、たとえば1株100円の株を借りて、借りた株を売ったとします。1株50円まで下落すると、借りた株を買い戻すことで50円の差額が生じ利益が発生することとなります。買い戻した株式は、証券会社へ返済しなければいけません。一般的な取引では、この「株を借りて売る・株を買って返済する」という行為はセットで自動的に行われます。
借りた株式には返済期限が定められており、信用取引の種類によって上限が変わります。一般信用取引であれば原則無期限である一方、制度信用取引の場合は6ヶ月を期限としています。
1-3 制度信用取引と一般信用取引
空売りを始める場合は、制度信用取引と一般信用取引の違いおよび基本についても覚えておきましょう。
一般信用取引とは、証券会社との間で資金や株式を借りたり返済したりする取引の総称です。返済期限なしで取引できますが、証券会社によって取引できる銘柄数に違いがあり、特に空売りができる銘柄は少ない傾向にあります。
制度信用取引は、証券取引所の一定の基準を満たした銘柄のことで、返済期限は6ヶ月までと制限がありますが、一般信用取引に比べ多くの銘柄を取引できる傾向にあります。
2 株式の空売りを行うメリット
続いては、株式の空売りを行うメリットについて紹介します。
2-1 下落相場でも取引を続けられる
空売りは株式の価格が下落することで利益を得られる取引ですので、下落相場が続く状況でも株式投資を続けやすくなります。
株式投資では必ず下落相場が訪れるので、下落の最中は現物取引のみでは「投資しない」という選択肢しかないこともほとんどです。現物取引では、買い注文からしか取引できないためです。
空売りができる信用取引を利用している場合は、投資をしない・空売りを行う、どちらの選択肢も活用できるのが強みといえるでしょう。
2-2 現物株の損失を抑えられる可能性
たとえば現物取引で現物株を購入し、含み損が発生しているとします。現物取引のみで運用している場合は、再び価格が上昇するのを待つか、価格の底を予想してさらに買い増すか、損切り(損失が拡大する前に保有銘柄を処分すること)するか、といった選択になります。
一方空売りの場合は下落相場で利益を得られるため、そうした状況下で新たに空売りを行うことで、空売り銘柄の含み益により現物株による含み損の拡大を軽減することが可能になります。
ただし、一般的に株式投資で利益を得るためには、早めに損切りすることが大切です。含み損を抱え続ける「塩漬け」は、大きな損失に繋がるリスクがあります。また、最悪の場合は株価が下落し続けたあげく倒産する可能性もあります。そのため、空売りがあるからと言って下落相場で現物株式を保有し続けるのは危険だと言えます。
2-3 短期間の取引に向いている
空売りは性質上、短期間での取引を行っている方に向いています。一般的に株価の下落は、期待や楽観よりも不安や恐怖に過敏に反応する人間の心理ゆえに上昇時よりも早期に動くケースが多いため、スキャルピング(数分で取引を完結)やデイトレード(1日で取引を完結)で利益を得やすい傾向があります。
株式投資初心者の中でも、特にデイトレードを始めたい方は、空売りの仕組みや注文方法についてもよく理解しておくといいでしょう。ただしトレードでは短い期間で利益を狙えるぶん、同じだけ損失を抱える可能性もあるため、くれぐれも注意が必要です。
3 株式の空売りに伴うデメリット
ここからは株式の空売りに伴うデメリットや、リスクについて解説します。一般的に空売りは、どちらかと言えば中級者以上向けの注文方法ですので気を付けましょう。
3-1 急騰相場での損失リスク
空売りでは、売り注文を入れた時点の価格よりも値上がりした場合に損失が膨らみます。また、短期間で値上がりを記録する急騰相場では、損切りのタイミングも難しく、リスクの高い状況になります。
【例】
- 1株100円で売り注文
- 150円まで値上がり
- 100円-150円=50円(一株あたり)の損失
空売りは、例えば株式市場全体が下落している状況や、業績予測に対して赤字決算となっている銘柄がある場合などに投資を検討しましょう。
3-2 初心者には難しい
空売りは、株式投資初心者には少々難しい注文方法です。理由の1つは、買いから始める取引とは利益率に違いがあるためです。
現物株での取引や信用取引の買いでは、値上がりによって利益を得られる仕組みとなっています。そして株価の上昇は、理論上制限はありません。たとえば1株100円の銘柄が、1,000円・1万円・10万円と値上がりする可能性があります。
一方、空売りは下落相場で利益を得られる取引です。理論上では、株価は0円より下回ることはないので、利益率100%が限界です。つまり、利益の上限が限られている一方、損失は無限大に膨らむ可能性があるということです。
さらに後述の通り信用取引には日割りで金利が発生するため、むやみにポジションを長期保有することで利益幅が減ったり、損失が拡大しやすくなったりするリスクもあるのです。
投資機会が増える一方、空売り特有の損失リスクがある点も理解しておきましょう。
3-3 金利コストなどがかかる
空売りは信用取引ですので、金利コストがかかります。また買い注文と違い、逆日歩(ぎゃくひぶ)分のコストも支払わなければいけない可能性もあり、注意が必要です。
空売りの金利コストは証券会社から借りている株から発生し、貸株料と呼びます。利率は証券会社によって異なるのが特徴です。一方、証券会社が貸し出ししている株式が不足した場合、証券会社は機関投資家などから株式を借りなければいけません。そして、証券会社が借りた株を投資家へ貸し出す際、空売りを行っている投資家から貸し出し料として徴収しているものが逆日歩です。
証券会社が貸し出す株が不足している限り、逆日歩の負担が続き投資家にとって負担が大きくなる状況となってしまうことがあります。
4 空売り注文の流れ
空売り注文を行うためには、利用している証券会社にて信用取引口座を開設し、その信用取引口座へ証拠金を入金する必要があります。証拠金とは、証券会社に対して担保として預ける自己資金のことです。
証拠金の最低金額は、取引を行う金額と証券会社が定める証拠金率で決まります。空売りを始める前に、取引を行う証券会社の規約を確認してみてください。
次は空売りの対象銘柄を探し、発注手続きを行います。また、新規売り注文を入れる場合は、現物買いと同じく注文方式や価格、数量を入力します。入力内容に誤りがなければ発注ボタンをクリックし、約定まで待ちましょう。
約定後は、返済買いで株の買い戻し取引を行います。返済買いの注文は、新規売りと同じく数量や価格、注文方式を選択する仕組みです。
現物取引の経験がある方は、共通点の多い内容と感じることでしょう。
5 空売りを行う際の注意点
最後に、空売りを行うにあたっての注意点を紹介します。
5-1 少額取引で始める
空売りは現物買いとは異なり、値上がりによる損失に上限はなく、配当もありません。また売買のタイミングや戦略を間違えると、追証(おいしょう)が発生する可能性もあります。
追証とは追加証拠金の略称です。
自己資金が一定額まで減少すると、指定された営業日までに不足分の証拠金を入金しなければいけなくなります。仮に不足分を期日までに入金しなかった場合は、強制決済や取引停止などの措置が行われます。
空売りに伴う追証の負担を抑えるためには、少額で取引を始めるのが大切です。少額取引であれば、損失も少額で済み、追証が発生する可能性も下がります。
特に初心者は損切りをためらったり、判断を間違えやすかったりするので、信用取引に限らず普段から取引量は抑えましょう。
5-2 価格変動に注意
低位株(株価が低く出来高も少ない銘柄)や、大型株より価格変動しやすい中小型株は、短期間に急騰・急落する可能性もあります。空売りで短期的に利益を得るためには、大きな価格変動も必要です。しかし、価格変動しやすい銘柄は短期間の急騰も発生しやすいのが特徴です。
そのため空売りを行う時は急騰リスクを常に意識し、逆指値注文や少額取引、テクニカル分析などあらゆる対策を立てて検討しましょう。
まとめ
株式の空売りとは証券会社から株式を借り、売り注文から取引を始める注文方法のことです。また、売り注文が約定したあとは、株式の買い戻しの注文を行い取引完了となります。
空売りで利益を得るには、売り注文時の価格よりも下がっていなければいけません。上昇相場では損失が発生しやすいことから、下落局面での取引に向いていると言えます。一方で状況によっては逆日歩などのコストが発生することには注意が必要です。
空売りは下落相場でも利益を得る可能性を作れたり、急な値動きで短期的に利益を取るのに向いていたりするメリットがある一方、現物取引や信用買いよりもリスクが高いため、まずは現物買いや信用買いの取引を軸にしつつ、少額取引での空売りを検討してみるのがいいでしょう。
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菊地 祥
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