大林組は、国内大手のスーパーゼネコンです。国内外の建設事業などを通じ、「地球・社会・人のサステナビリティの実現」を目指しており、環境問題など社会課題の解決に使途を限定したESG債の発行を行うなど、ESGやサステナビリティの取り組みを積極的に行っているのが特徴です。
そこで、この記事では大林組のESGやサステナビリティの取り組み内容と将来性についてご紹介します。大林組の特徴や株価推移、配当情報なども併せて解説するので、ESG投資にご興味のある方は参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年7月時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- 大林組の特徴
1-1 事業内容 - 大林組のESG・サステナビリティの取り組み内容と将来性
2-1 環境の取り組み例
2-2 社会の取り組み例
2-3 ガバナンスの取り組み例 - 大林組の業績・株価推移
- 大林組の配当情報
- まとめ
1 大林組の特徴
株式会社大林組(1802)は、東証プライム市場と福岡証券取引所に上場している国内大手の総合建設業者(スーパーゼネコン)の一角です。創業は1892年と古く、大林芳五郎氏が大阪市で始めた土木建築請負業「大林店」が発祥です。
創業から131年が経過した現在は東京都港区に本社を構えており、北は札幌から南は福岡まで日本全国に事業所を展開するだけでなく、アジアや北米など海外でも事業を展開しています。
1-1 事業内容
大林組の事業は、以下6つの事業セグメントに分類されています。
事業セグメント | 主な事業内容 |
---|---|
国内建設事業(建築) | 国内のオフィスやマンション、商業施設、工場、病院、学校などの建築を請け負う事業です。最近は、熊本地震の復興シンボルとなった熊本城天守閣や神戸の再開発の中心となっている神戸三宮阪急ビルなどのプロジェクトも手掛けます。 |
国内建設事業(土木) | 国内のトンネルや橋梁、ダム、河川、鉄道、高速道路などインフラ施設の建設を行う事業です。 |
海外建設事業 | 東南アジアや北米、オセアニアで様々な建造物や社会インフラの建設など建築・土木事業を展開しています。 |
開発事業 | 都市部を中心とした優良賃貸不動産の開発や保有、私募ファンドの活用などで収益を目指す事業です。 |
グリーンエネルギー事業 | 2050年のカーボンニュートラルに向けた太陽光や風力、バイオマス、地熱など再生可能エネルギー発電の推進によって収益を目指す事業です。 |
新領域ビジネス | 大林組の技術を活用して、カーボンニュートラルやデジタル化といった社会課題の解決など今後成長の見込まれる市場で新たにビジネスを展開する事業です。 |
国内建設事業(建築)の売上割合は約53%を占めており、海外建設事業約23%、国内建設事業(土木)約17%を合わせると、建築・土木で売上高の9割超を占める主力事業となっています(※参照:大林組「2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」)。
開発事業の売上高は過去5年で伸びている一方、その割合は4%程度なので、大林組のさらなる成長は、グリーンエネルギー事業や新領域ビジネスなど今後成長の期待できる市場での事業拡大がポイントになります。
2 大林組のESG・サステナビリティの取り組み内容と将来性
大林組は、2011年から中長期環境ビジョンを策定し、再生可能エネルギー事業の推進など環境に配慮した取り組みを進めてきました。その後は社会動向や大林組を取り巻く事業環境の変化に合わせてESGやSDGs達成の貢献を組み入れ、2019年6月に長期ビジョンの「Obayashi Sustainability Vision2050(OSV2050)」を策定し、取り組みを進めています。
目標 | スローガン |
---|---|
脱炭素 | 大林グループ全体でCO2排出ゼロを実現する |
価値ある空間・サービスの提供 | 全ての人が幸福な社会を実現する |
サステナブル・サプライチェーンの共創 | 事業に関わる人々と実現する |
以前の建設事業を中心とした環境ビジョンでは、低炭素社会などの実現を目指していましたが、新しい長期ビジョンでは、それを全ての人を幸福にする価値ある空間・サービスを提供する事業へ深化や拡大することとしており、サプライチェーン全体での共創によって環境や社会、経済の統合的な向上も目指しています。
また、大林組は、ESG債と呼ばれるESG課題の解決などに用途を限定された社債発行で資金調達をしながらサステナビリティの達成に向けた取り組みも進めています。
例えば、2018年には環境面での課題解決などに資する事業に用途を限定されたグリーンボンド、2019年には環境配慮や建設業の担い手確保と、再生可能エネルギー事業などに用途を限定されたサステナビリティボンドを発行するなど、目的達成のための資本投下を組み合わせて行っているのが特徴です。
2-1 環境の取り組み例
大林組は、環境法令の遵守や全社員への環境教育実施など事業を通じて脱炭素・循環・自然共生の側面から活動を進めています。
中でも、2015年に完成した大林組技術研究所のスマートエネルギーシステムは、太陽光発電設備など大型電源を分散させ、エネルギーマネジメントシステム(EMS)の制御で再生可能エネルギーの最大限の活用と需給バランスの調整などを行う脱炭素に向けた先進的な技術です。(※参照:大林組「大林組技術研究所にスマートエネルギーシステムが完成」)
スマートエネルギーシステムの構築と運用は、平成30年度の地球温暖化防止活動環境大臣表彰を受賞するなど外部からの評価も高いほか、最近は水素エネルギーの活用も始まるなど、蓄積したノウハウを活かして将来性の期待される技術となっています。
また、大林組は建設物やインフラの長寿命化の実現のサポート、資源リサイクルや安全な土地・水の確保を考慮した循環社会に向けた取り組みのほか、生物多様性の保全や緑化・ヒートアイランド対策など自然共生社会の実現に向けた取り組みも進めています。
2-2 社会の取り組み例
大林組は、ESGの社会課題に対して企業が優先的に取り組むべき重要課題(マテリアリティ)として、「労働安全衛生の確保」「労働災害の防止に向けた取り組み」「人材の確保と育成」などを掲げて様々な取り組みを進めています。(※参照:大林組「ESGへの取り組み」)
中でも、労働安全衛生の確保や労働災害の防止に向けた取り組みは「危険・キツイ」などを理由に人材確保が難しくなる建設業者にとって重要な課題として捉えられているため、死亡・重大災害を絶対に起こさないことを目標として、全員参加による労働災害の防止や墜落災害の防止等の施策が行われています。
その結果、2018年度~2022年度までの労働災害の状況(建設現場の技能者を含む)は、以下の通り改善しています。
2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | |
---|---|---|---|---|---|
度数率※ | 0.58 | 0.44 | 0.33 | 0.35 | 0.41 |
休業4日以上の災害件数 | 59件 | 45件 | 30件 | 34件 | 38件 |
※参照:大林組「人を大切にする企業の実現(安全衛生)」
(※度数率とは労働災害の頻度を表す指標の一つであり、100万延べ労働時間当たりの労働災害による死傷者数を示します。労働災害の頻度や深刻さを評価するために使用されており、度数率が低いほど、労働災害の発生が少なく、より安全な作業環境であることを意味します)
また、人材の確保と育成の観点からは女性活躍やグローバル人材の育成、障がい者の雇用などダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを進めています。特に、建設業では女性の活躍が他の業種と比べても遅れていることから、短期的な目標として2024年までの具体的な数値として女性役職者と技術系女性社員の比率を12%程度に引き上げることを目標に、研修の実施や職場環境の整備などの取り組みが進行中です。
さらに、職場環境の整備では、女性だけでなく男性も働きやすい職場となるようテレワークや時差出勤、短時間勤務等の整備や拡充も進められており、2024年度までに男性従業員の育児休職・育児目的休暇年間取得率100%達成を推進するなど、将来の人材確保につながる動きも始まっています。
2-3 ガバナンスの取り組み例
大林組は、社会から信頼される企業となるため強力なコーポレートガバナンス体制を構築し、経営の透明性や健全性を高めることを目的に取り組みを進めています。
取締役会は全12名中、社外取締役が5名となっているほか、取締役の任期を1年とすることで経営環境の変化への対応や各事業年度における経営責任を明確にできる体制を構築しています。
取締役を選出する推薦委員会や役員報酬を決める報酬委員会は、いずれも社外取締役を委員長として取締役2名、社外取締役5名の計7名で構成されており、役員人事や報酬等の明確化を図るとともに透明性・客観性の確保が可能となっています。
また、大林組ではコンプライアンスの徹底や企業倫理の徹底を図るための取り組みも進められています。職場での不正やハラスメント、法令違反に対しては社内の通報窓口と弁護士事務所が務める社外の通報窓口が設置されており、汚職・贈賄などの腐敗防止を目的とした通報も受け付けるなどガバナンスの強化に向けた取り組みが進められています。
3 大林組の業績・株価推移
以下は最新の2023年3月期を含めた過去5期分の連結ベースで売上高と営業利益、当期利益をまとめた表です。
(単位:百万円)
決算期 | 2019年3月 | 2020年3月 | 2021年3月 | 2022年3月 | 2023年3月 |
---|---|---|---|---|---|
売上高 | 2,039,685 | 2,073,043 | 1,766,893 | 1,922,884 | 1,983,888 |
営業利益 | 155,480 | 152,871 | 123,161 | 41,051 | 93,800 |
当期利益 | 113,155 | 113,093 | 98,780 | 39,127 | 77,671 |
※参照:大林組「決算資料」
2023年3月期は増収増益となったものの、売上高が2兆円を超えていた2020年3月期の水準までは回復していない状態です。売上高は、新型コロナウイルスの影響で工事延期や商業施設の受注減などの影響を受けた2021年3月期から回復傾向にあるものの、過当競争による建築粗利率の低下や資材価格・労務費の上昇が影響して利益水準は当時の状況まで戻っていません。
2024年3月期は売上高2兆2,800億円、営業利益740億円、当期利益550億円の予想となっており、主に国内建築事業で受注済みの大型工事が最盛期を迎えることから大幅な増収となる一方、資材価格や労務費上昇などの影響は続き減益となる見通しです。
次に、大林組の株価推移についても確認しておきましょう。以下は2019年~2023年3月末までの大林組の四半期末日における終値をまとめた表です。
期末(3月末) | 6月末 | 9月末 | 12月末 | |
---|---|---|---|---|
2019年 | 1,114円 | 1,061円 | 1,076円 | 1,217円 |
2020年 | 926円 | 1,008円 | 955円 | 890円 |
2021年 | 1,015円 | 883円 | 929円 | 890円 |
2022年 | 900円 | 985円 | 928円 | 998円 |
2023年 | 1,013円 | 1,244円 | - | - |
※2023年7月時点
大林組の株価は、新型コロナウイルスが日本に影響を及ぼし始めた2020年前半から大きな下落局面を迎え、業績への影響や市況の悪化などが原因となり、2020年2月10日の1,277円から3月23日には772円と大きく下落しました。
しかしその後、株価は下げ止まり、2023年5月24日の終値で1,160円を付けるなど、上昇傾向は続いています。これは大林組の業績が回復しているだけでなく、東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)の低い企業に資本コストや株価に対する意識改革を求めたことで、大手ゼネコンなどPBRが1倍を切っているような企業に対して自社株買いや収益改善を期待する買いが入ったほか、日銀が発表した大規模な金融緩和の維持によって株式市場が全面高になったことなどが一因として見られます。
今後、大林組の株価は業績などを睨んだ展開が続くとの見方もあり、特に建築粗利率の推移や資材価格・労務費の変動、東京証券取引所の改善要求への対応策は株価にも大きな影響を与える可能性があります。
4 大林組の配当情報
以下は、大林組の過去5期の配当をまとめた表です。
年間配当額 | 中間 | 期末 | 配当性向 | |
---|---|---|---|---|
2019年3月期 | 32円 | 14円 | 18円 | 0.203 |
2020年3月期 | 32円 | 16円 | 16円 | 0.203 |
2021年3月期 | 32円 | 16円 | 16円 | 0.232 |
2022年3月期 | 32円 | 16円 | 16円 | 0.587 |
2023年3月期 | 42円 | 21円 | 21円 | 0.388 |
増収増益となった2023年3月期の配当は、年間配当42円で2022年3月期から増配となる予定です(2023年6月下旬に開催される株主総会の決議をもって正式に決定されます)。
大林組は、利益の蓄積による自己資本の充実を中長期的に株主へ還元することを目的に、自己資本配当率(DOE)3%程度を配当額の目安とする方針を表明しています。また、利益の備蓄である自己資本に応じた配当をDOEに基づいて行うことも表明しており、減益となった2021年3月期と2022年3月期も前の期と同じ配当額を維持しています。
2024年3月期は増収減益の見込みですが、中間21円、期末21円の年間42円予想で前年配当額を維持する予定です。今後も大林組の配当方針に大きな変化がない限り、利益に応じた継続的な配当が続くと予想されます。
まとめ
大林組は、将来を見据えた先進技術の開発やESG課題の解決に資金使途を限定されたESG債を発行して資金調達を行うなど、ESGやサステナビリティへの取り組みを積極的に行っている企業です。持続可能性への関心が高まる中、ESG指標に基づく投資戦略やファンドの需要も増加しているため、大林組は将来的な成長や持続可能性の観点から有望な企業の一つに挙げることができます。
業績面については新型コロナウイルスの影響からも回復傾向にあり、暴落していた株価も2023年に入って持ち直しの気配を見せています。大林組のESG取り組み内容や投資に関心のある方は、この記事を参考にご自身でもお調べになった上で検討してみてください。
HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム
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