IPO投資は勝率の高い取引なので、初心者からベテランまで多くの投資家が毎回参加しています。2022年4月4日に東京証券取引所の市場区分が再編された後も、個人投資家のIPO投資に対する関心は引き続き高い傾向にあります。
しかし市場再編の効果により、2022年上期のIPO実績と勝率に対する影響を詳しく知りたい方もいるのではないでしょうか。そこでこの記事では、IPO投資の分析に役立つ2022年上期のIPO実績・勝率をご紹介します。2022年上期に値上がりしたIPO銘柄の傾向なども併せて解説するので、勝率の高いIPO投資にご興味のある方は参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定の銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2022年7月10日時点の情報に基づき執筆しているため、最新情報はご自身にてご確認頂きますようお願い致します。
目次
1 IPO投資の特徴
IPO投資とは、証券取引所に新規上場する企業の株式を上場前の公開価格で購入する取引です。購入したIPO株は、上場後の初値で売却すると高い確率で利益を得られることから、勝率の高い株式投資として参加希望の殺到する取引となっています。
IPO株は、新たに株主を募集する公募増資や既存株主が保有する株式の売り出しによって市場に流通し、幹事や主幹事と呼ばれる証券会社を通じて購入可能です。
IPO銘柄を取り扱う証券会社では、店頭配分や抽選配分といった方法で投資家へIPO株を配分します。店頭配分は、すでに取引のある顧客に証券会社の裁量で配分する方法のため、高額の取引を行う優良顧客が優先されるなど、個人投資家にとっては手に入りにくい配分方法となります。
一方、抽選配分は、個人投資家にもチャンスのある平等な配分方法です。抽選で投資家に配分する割合や抽選方法は証券会社によって異なりますが、抽選配分を行う証券会社に口座を開設していれば、ブックビルディングに参加することでIPO株の抽選申込ができます。
しかし、IPO株を購入したいと考えている投資家はとても多いため、どの証券会社でも抽選倍率が高くなり、当選しにくいのが特徴です。そのため、抽選による配分が多いネット証券から何回も申込むなど、IPO株を購入するまでの工夫や労力なども必要になります。
2 2022年上期のIPO動向
2022年4月4日、東京証券取引所が市場区分を再編したことで、ベンチャー企業やスタートアップ企業への投資が活発化することが期待されています。しかし、民間調査会社大手の東京商工リサーチが市場再編前の2022年3月12日に発表した「全国IPO意向企業動向調査」によると、IPO意向企業の厳しい実態も記されています。
調査は、全国の企業経営者などへの信用調査を通じてIPOの予定や将来的な意向などをヒアリングしたもので、全国1,857社が「IPOの意向がある」と回答しているものの、そのうち集計可能な1,174社の当期利益を合算したところ、前期に引き続き赤字で、その合計額は1,602億円と悪化しています。
最新期は、赤字企業の構成比も41.5%と高い水準になっており、長引く新型コロナウィルスの影響などで、業績の伸びが鈍化している企業の増加傾向が顕著です。
また、最近はロシアのウクライナ侵攻による影響を受けている企業や物価高騰による収益圧迫、アメリカの利上げなどに伴う急激な円安なども要因となり、上場を目指す企業にとって厳しい情勢が続いています。
なお、事業規模の拡大を目指す中小企業だけに留まらず、大企業にも悪影響を及ぼしています。2022年3月24日に時価総額3千億円規模のIPOで上場を予定していた住信SBIネット銀行は、上場を目前に市場動向を勘案して上場延期を発表するなど、今後もIPO意欲が低下する可能性の高いムードとなっています。
一方、コロナ禍の巣ごもり需要やITテクノロジーの活用によって順調に業績を拡大している企業もあり、これらの企業のIPO意欲は旺盛です。そのため、今後は2021年の半ばから下落基調にある市場動向なども勘案しながら、新規上場のタイミングを伺う企業が増えることも予想されます。
3 2022年上期のIPO実績・勝率
2022年上期のIPO実績や勝率から具体的な状況も確認してみましょう。以下は、2019年〜2022年6月までの東証や札証、名証、福証などの主要市場に上場した銘柄について上場件数や初値の状況などをまとめた表です。
項目 | 2022年上期 | 2021年 | 2020年 | 2019年 |
---|---|---|---|---|
上場件数 | 37社 | 122社 | 93社 | 86社 |
値上がり銘柄数 | 26社 | 101社 | 69社 | 76社 |
値下がり銘柄数 (変わらず含む) |
11社 | 21社 | 24社 | 10社 |
勝率 | 70.3% | 82.8% | 74.2% | 88.4% |
騰落率 | −13~222% | −23~374% | −25~806% | −8~372% |
(注1)上記の上場件数はTOKYO PRO Marketを除いた主要市場の新規上場件数です。
2022年1~6月の上期は37社が新規上場しており、上場後の初値は37社中26社が値上がりしています。公開価格で購入した株を初値で売却した場合の勝率は70.3%となっており、騰落率は−13%〜222%の水準で推移しています。
新規上場の件数ベースでは、2021年の上期52社と比べるとやや鈍化の兆しも見えており、このペースが続けば通年の新規上場件数についても2021年の122社を下回る見込みです。
直近は2019年86社、2020年93社、2021年には14年ぶりとなる100社越えの122社と、上場件数が順調に増えていただけに、件数ベースでの鈍化はやや厳しい情勢を表しています。
また、2022年の勝率70.3%は2021年(82.8%)と比べて低くなっており、IPO市場が活況だった2019年(88.4%)と比べても落ち込んでいます。
しかし、米国の長期金利利上げやロシア・ウクライナ戦争の状況にあっても、公開価格で購入した株を初値売却するだけで70%超の確率で利益が出るため、依然として勝率の高い投資方法となっています。騰落率も、+50%超の上昇となった企業は14社で、そのうち6社は公開価格の2倍以上の初値を付ける+100%超の大幅上昇です。
このように、2022年上期のIPO実績が前年よりも悪化しているのは、市場全体の新規上場企業への投資意欲の低下が主な理由ではなく、企業を取り巻く外部環境や市況の悪化が大きな要因となっているため、状況の改善次第ではIPO件数の回復も見込まれます。
4 2022年上期に値上がりしたIPO銘柄の傾向
2022年上期に値上がりしたIPO銘柄について上場市場ごとの傾向と事業内容による傾向をご紹介します。
4-1 上場市場別
再編前の東京証券取引所は、市場第一部、市場第二部、JASDAQスタンダード、マザーズ、JASDAQグロースという5つの市場区分が存在しましたが、これまでの市場区分はコンセプトがあいまいで、上場企業の持続的な企業価値向上の動機付けなどができていなかったため見直しが行われることとなりました。
再編後はプライム、スタンダード、グロースという3つに市場が区分され、旧市場区分との対応は以下の通りです。
新市場区分 | 旧市場区分 |
---|---|
プライム市場 | ・市場第一部 |
スタンダード市場 | ・市場第二部 ・JASDAQスタンダード |
グロース市場 | ・マザーズ ・JASDAQグロース |
プライム市場は、旧区分の市場第一部に相当しますが、持続的な成長や企業価値の向上を約束できるような優良企業のみが対象となっており、将来的に新市場の上場維持基準を満たせない旧市場第一部の企業は、プライム市場で上場が維持できない可能性などもあります。
スタンダード市場は、旧市場第二部とJASDAQスタンダードに相当する市場で、一定の時価総額がある企業が対象です。一方、高い成長可能性を有する企業が上場できるグロース市場は、上場時点での時価総額などの基準が無く、他の2市場と比べてかなり緩和された上場基準となっています。
上場市場別のIPO銘柄の値上がり傾向を確認してみましょう。以下は、2019年〜2022年4月3日の市場再編前までに上場した企業数と、そのうち値上がりした企業数を上場市場ごとにまとめた表です。
項目 | 2022年上期 | 2021年 | 2020年 | 2019年 |
---|---|---|---|---|
上場件数 | 15社 (10社) |
122社 (101社) |
93社 (69社) |
86社 (76社) |
市場一部、二部 | 4社 (1社 25%) |
14社 (9社 64%) |
15社 (4社 27%) |
12社 (11社 92%) |
JASDAQスタンダード | 1社 (0社 0%) |
16社 (13社 81%) |
14社 (12社 86%) |
6社 (6社 100%) |
マザーズ | 10社 (9社 90%) |
90社 (77社 86%) |
63社 (53社 84%) |
64社 (56社 88%) |
JASDAQグロース | 0社 | 0社 | 0社 | 0社 |
( )内の件数は上場銘柄のうち値上がり銘柄の件数で、横の数値はその年の市場ごとに初値売却した場合の勝率です。
旧区分の一部と二部に上場した企業は、他市場と比べて相対的に値上がりしにくい傾向となっています。これは、一部や二部への上場で時価総額や事業継続年数という上場承認の基準が設けられていることなどが要因と考えられ、目新しい事業を行う企業も相対的に少ないため、新興企業に比べて注目されにくいことも理由として挙げられます。
上場後の初値の上昇傾向が顕著な市場は、マザーズです。将来の成長可能性に対する期待の高まりなどから、2022年上期も勝率は90%と高い水準です。また、JASDAQスタンダード市場も同じように高い水準となっており、2022年上期は新規上場が1社のみのため、値上がり銘柄はゼロとなっていますが、2019年から2021年まで80%を超える高い勝率をキープしています。
なお、市場再編後の新しい市場区分がスタートした2022年4月4日以降の実績は、以下の通りです。
項目 | 2022年上期(4月4日~6月30日) |
---|---|
上場件数 | 22社 (16社) |
東証プライム | 0社 |
東証スタンダード | 4社 (3社 75%) |
東証グロース | 17社 (13社 76%) |
市場再編後も市場別の値上がり傾向に大きな変化はなく、旧マザーズに対応する東証グロースの勝率がある程度の上場件数を伴って76%の水準をマークしています。
今後は、市場再編後の上場市場ごとの値上がり傾向などを継続的に確認する必要があるものの、2022年上期の段階では、東証グロース市場などに上場する新興企業のほうが、値上がりの可能性を秘めています。
4-2 事業内容別の傾向
2022年上期に値上がりしたIPO銘柄は、独自性のある事業を営む企業などが中心となっています。例えば、2022年6月8日に上場したANYCOLOR(5032)は「にじさんじ」というバーチャルライバーグループの運営を行っており、他社にはない独創性などへの期待から大きく値を上げた企業です。
「にじさんじ」は、モーションキャプチャー技術を利用した3D(2D)のアバターを使ってライブ配信するライバーのグループです。公募価格1,530円に対して初値は3倍超となる4,810円に、6月16日には年初来高値となる9,200円まで値上がりし、時価総額がフジテレビの持ち株会社であるフジ・メディア・ホールディングス(4676)を上回ったことも話題になりました。
このほか、2022年4月12日に上場したサークレイス(5029)は、720円の公開価格に対して初値で2,320円を付ける上期トップの騰落率をマークした企業です。DX(デジタルトランスフォーメーション)に関するコンサルティングや、ICT(情報通信技術)を活用した業務改善に関するコンサルティングなどが時代の要請に合った事業として関心を集めました。
このように、独創性のある事業を営む企業は、他に投資できる類似企業も少ないため、必然的に投資が集まりやすく、株価も高くなる傾向があります。また、DXに関するコンサルティングなどの業務は時代の要請に応じた事業内容となっており、2022年上期の実績では時代のニーズに合った事業を営む企業も値上がりしやすい傾向となっています。
まとめ
2022年上期は外部環境や市況の悪化などが影響し、2021年よりもIPO件数および勝率は鈍化する中、好調とは言えない環境下でも初値売却で70%超の勝率を維持しています。
IPO投資に関心のある方は、2022年上期に値上がりした上場市場や事業内容などの傾向も参考にしながら、今後の成長性に期待できる銘柄に狙いを付けることが大切です。
HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム
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