バイデン新政権、日米株価への影響は?米208兆円景気対策成立後の推移も

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昨年11月の米大統領選挙で勝利した民主党のジョー・バイデン候補が1月20日に正式に第46代大統領に就任しました。目玉となる1兆9000億円(約208兆円)の景気対策が3月11日に成立。新型コロナウイルス向けワクチンも想定以上のスピードで普及が進んでおり、順調な船出となっています。

政権発足後の動きや、これまでに発表されている政策などを踏まえて、バイデン政権の誕生による日米株価への影響を見てみましょう。

※この記事は2021年3月30日時点の情報に基づいて執筆しています。最新情報はご自身にてご確認頂きますようお願い致します。

目次

  1. 米国株への影響
    1-1.上院決戦投票で民主党が勝利、「ブルーウェーブ」完成
    1-2.208兆円の景気刺激策が成立
    1-3.追加対策で株価は最高値更新
    1-4.金利上昇に警戒感、ハイテク株に打撃も
    1-5.コロナで消費減も所得増が株高後押し 財政支援が寄与
    1-6.ワクチンは想定以上のスピードで普及
    1-7.米中は冷たい関係を継続
    1-8.クリーンエネルギー、気候変動関連銘柄に注目
  2. 日本株への影響
    2-1.インフレ差による円高を警戒
    2-2.原油価格はコロナ前水準を突破
  3. まとめ

1 米国株への影響

バイデン政権の誕生による米株式市場への影響を見てみましょう。

1-1 上院決戦投票で民主党が勝利、「ブルーウェーブ」完成

米ジョージア州で1月5日、議会上院の多数党を決める上院2議席の決戦投票が実施され、2議席とも民主党の候補が共和党の現職候補から議席を奪いました。この結果、上院では定数100のうち共和党と民主党系がいずれも50議席を確保して同数となりましたが、上院では副大統領が上院議長を兼務し、法案の採決で可否同数の場合に1票を投じることができるため、民主党が事実上の多数派となり、主導権を握ることになりました。

民主党が上院の実質支配を確保したことで、ホワイトハウスと上下両院を民主党が支配する「ブルーウェーブ」が完成し、バイデン政権の推進する環境保護や医療保険などの主要政策で法案が成立する可能性が高まりました。議会には政府予算を決定する権限があるほか、上院は大統領が指名した政府高官や連邦裁判事の人事承認、条約批准などの権限を持っています。民主党がホワイトハウスと上下両院をすべて掌握するのは、2009年以来12年ぶりのことです。

1-2 208兆円の景気刺激策が成立

バイデン氏は3月11日、1兆9000億ドル(約208兆円)規模の追加経済対策法案に署名、成立しました。法案はバイデン氏が1月14日に提案していた内容をおおむね踏襲しています。2月27日に下院でいったん可決されましたが、3月6日に内容に修正を加えた法案を上院が可決したために、10日に改めて下院で可決されました。

柱となる家計支援に約1兆ドルが振り向けられており、1人当たり最大で現金1,400ドルの追加給付や失業給付金に週300ドルを上乗せする特別措置が盛り込まれています。失業保険への加算は3月14日に期限切れが迫っていました。

米国では昨年3月に2兆ドル規模の大型景気対策が成立し、12月にも9,000億ドル規模の追加刺激策が成立しています。現金給付は昨年3月の1,200ドル、12月の600ドルに続き今回が3回目で、累計では3,200ドルとなりました。

1-3 追加対策で株価は最高値更新

米商務省によると、2020年4-6月期の米実質国内総生産(GDP)は新型コロナ流行の影響で前期比年率31.4%減と戦後最大の落ち込みを記録しましたが、大型景気対策の実施を受けて7-9月期は33.4%増とV字回復を遂げました。

とはいえ、米国では11月以降に新型コロナ感染者数が再び急増し、主要都市で行動制限が再導入されました。この影響で、年末にかけて景気減速懸念が強まり、12月末の追加景気対策成立につながりました。

実際、コロナ再拡大と景気対策第1弾の息切れが重なって10-12月期GDPは4.0%増と回復の勢いが急減速しており、結局2020年通年では前年比3.5%減と、1946年以来の大幅な落ち込みとなりました。また、米労働省によると、昨年12月の非農業部門就業者数は22万7000人の減少(速報値)と、4月以来8カ月ぶりの減少を記録しています。

米上院議会は2月5日、共和党の支持なしに1兆9000億ドル規模の新型コロナウイルス対策案の承認が可能になる予算決議案を可決しました。これにより上院で60票の賛成ではなく過半数の支持で承認が可能となり、50人の共和党議員が全て反対にまわったとしても可決できるようになったことが3月の追加景気対策法案成立につながりました。

上院では議事妨害を避けるために通常は100議席中60の賛成が必要ですが、予算関連法案に限った特例を使えば51票の単純過半数でも可決できるのです。結果的にみれば、1月のジョージア州での上院選挙で民主党が2議席獲得したことが効いています。

大型景気対策の成立を受けて、年後半には景気回復が勢いを増すとの見方が強まり、米株式市場ではダウ平均株価指数やS&P500種指数が過去最高値を更新しています。

1-4 金利上昇に警戒感、ハイテク株に打撃も

その一方で、巨額の財政刺激策が成立したことで、米連邦準備制度理事会(FRB)が予想よりも早い時期に金融緩和の縮小に動くのではないかとの警戒感が強まり、米長期金利が上昇しています。

米10年債利回りは、昨年8月に0.5%台まで低下しましたが、ここをボトムとしてじりじりと上昇し、3月中旬は1.7%台に達しています。水準は新型コロナウイルス流行前を越えています。

期待インフレ率の目安となる5年先5年物インフレスワップレート(5年後から5年間の平均予想インフレ率)は昨年3月に一時1%を割り込んだ後はおおむね右肩上がりとなり、今年に入って2%近辺へと上昇し、こちらもコロナ前の水準を上回っています。

金利の上昇は株式市場にとってマイナス要因ですが、特に長期的な視点に立って実用化が期待されているテクノロジー銘柄への逆風が強まっています。最近では、景気回復への期待感を背景として、景気に敏感な一般消費財株が好調な一方で、コロナ禍でも相場をけん引してきたテクノロジー株が精彩を欠いています。

拡張的な財政政策による財政悪化懸念やインフレ懸念の台頭で、今後とも長期金利が持続的的に上昇した場合には、テクノロジー株を中心に打撃を受ける恐れがあります。

1-5 コロナで消費減も所得増が株高後押し 財政支援が寄与

2020年の米GDP成長率はマイナス3.5%と1946年以来、74年ぶりの大幅な落ち込みとなりました。それにもかかわらず、米主要株価指数であるS&P500種指数の年間での騰落率は16%余りの上昇となり、株式市場は大幅高で1年を終えています。

景気後退にもかかわらず株価が上昇した背景として、財政支援、金融緩和による金利の低下、ワクチン普及による景気回復見通しなどが挙げられます。

新型コロナウイルス流行は飲食業や航空業、観光業などのサービス業を中心に大きな打撃を与えました。こうした業界では失業者が大幅に増加し、その影響で消費が抑制されたことが景気の後退へとつながりました。

通常、景気の後退期には所得と消費が共に減少しますが、今回は所得が増加した一方で、消費が減少した点に特徴があり、これが株高にも大きく影響しました。

まず、消費サイドをみると、今回の特徴として需要そのものが減少していないにもかかわらず、消費が落ち込んだ点が挙げられます。新型コロナ対策での行動制限により、旅行やレストランでの消費が物理的に制限されたことが影響し、2020年の個人消費は前年比で2.7%の減少となりました。

一方、個人所得を見ると、2020年は前年比6.3%増と2019年の3.9%増から伸び率が大きく上昇しています。所得が増えたにもかかわらず、消費を減らしたことで、2020年の貯蓄率は16.2%と2019年の7.5%から急上昇となりました。

2020年4月の失業率は14.8%と戦後最悪を記録しており、その後大幅に改善したとはいえ、2021年2月でも6.2%とコロナ前の2020年2月の3.5%を大きく上回っています。大量の失業者が発生したにもかかわらず、所得が増加した背景には巨額の財政支援があります。現金での給付金のほかに、失業者に対する特別給付金や給付期間の延長により、失業者の経済的な打撃が大幅に軽減されました。

失業保険の対象も、従来は対象外だった自営業者、フリーランス、独立請負業者(ギグワーカー)なども給付の対象となりました。昨年3月に成立した景気対策では、失業給付金が週600ドル加算されましたが、米議会予算局(CBO)によると、失業保険給付金の上乗せの影響で失業保険受給者のうち6人に5人が失業前の所得を上回る給付金を受け取ったとのことです。

失業給付金の上乗せは7月末で一旦終了となりましたが、12月の追加対策で週300ドル加算(3月14日まで)という形で復活し、3月の追加対策で9月にまで延長されています。

このように、株高の背景として、レジャー旅行や競技場でのスポーツ観戦といった大半の娯楽への出費が事実上できなくなった一方で、財政支援による所得の増加で生まれた余裕資金が投資に向かったことが挙げられます。したがって、現在の株高はコロナ危機にもかかわらず堅調に推移しているというよりは、コロナ危機による行動制限と未曾有の財政支援に支えられている面もあります。

コロナ収束に伴う行動制限の解除で消費が活発化し、財政支援が終了して所得の伸びが経済成長に見合う水準に減速した場合には、貯蓄率も元の水準へと回帰することが予想されます。コロナ禍で膨張した余裕資金が縮小することで、コロナ禍特有の支援材料がはく落する可能性があります。

1-6 ワクチンは想定以上のスピードで普及

米国では2020年12月11日に米国の製薬大手ファイザーとドイツのバイオ医薬品企業ビオンテックが共同開発した新型コロナウイルスワクチンに対し、米食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可が下り、14日からワクチンの接種が始まりました。続いて、FDAは米バイオ医薬品企業モデルナが開発したワクチンの緊急使用許可を12月18日に承認し、21日から接種が開始されました。

バイデン氏は新型コロナ対策を最優先課題に位置付けており、当初は1月20日の就任から100日以内に1億回分のワクチン接種を目指していました。計画通りであれば4月末までに達成される計算でしたが、米疾病対策センター(CDC)によると、3月28日時点の米国でのワクチン接種は1億4300万回余りとなり、当初の見通しを大幅に上回るスピードで接種が進みました。

こうした状況を受けて、バイデン氏は4月末までの接種目標を当初の2倍となる2億回分に引き上げています。3月下旬時点で、米国では1日当たり200万~250万回ペースで接種が進んでいますので、現在のペースを維持すれば新たな目標もクリアされる見通しです。

ニューヨークでは、2月5日からヤンキースタジアムを会場としたワクチン接種が始まったほか、ドラッグストアチェーンのCVSやスーパーのウォルマート、コストコなどでのワクチン接種も順次開始され、接種を受けやすい体制を整えています。3月30日時点では、医療従事者や食料店などのエッセンシャルワーカーに加え、30歳以上が接種の対象者となっています。4月6日からは16歳以上に拡大される予定です。

米国では、5月1日までには対象が全成人に拡張される見通しで、バイデン氏は米国の独立記念日に当たる7月4日までにはコロナから「独立」できるとの見方を示しています。

感染症の流行による打撃は地震や台風といった自然災害に近く、供給網の寸断による生産の停止や遅れといった主に供給側の問題であり、潜在的な需要がなくなってしまったわけではありません。コロナ流行で経済活動にさまざまな制限がかけられてきましたが、こうした制限が解除された場合には、景気は自律的に元の水準に戻ることが期待できます。

コロナ対策がいつまで続くのかがわからない状況では、消費を抑制し、将来に備えて貯蓄を増やす行動も合理的となりますが、ワクチンの普及により不透明感が払しょくされた場合には、消費は急速に拡大する可能性があります。

ただし、食料品や日用品などの生活必需品がこれまで以上に増えるとは考えづらく、コロナ流行で抑制されていた比較的価格帯の高い商品、ぜいたく品などに対する需要が回復する可能性が高いでしょう。また、ワクチンの普及に伴って、これまで下落していた旅行、娯楽、観光関連株が急速に値を戻すことが予想されます。

1-7 米中は冷たい関係を継続

バイデン氏はオバマ政権で副大統領を務めていたこともあって、バイデン政権の高官にはオバマ政権からのベテランの起用が目立っています。国務長官にはクリントン、オバマ両政権で外交の要職を歴任したアントニー・ブリンケン氏が就任したほか、大統領補佐官(国家安全保障担当)にはオバマ政権でバイデン氏の国家安保担当補佐官を務めたジェイク・サリバン氏、米通商代表部(USTR)代表にはオバマ政権のUSTRで中国担当を務めたキャサリン・タイ氏、米中央情報局(CIA)長官にはオバマ政権で国務副長官を務めたウィリアム・バーンズ氏、大統領経済諮問委員会(CEA)委員長にはオバマ政権時に大統領経済諮問委員会のメンバーを務めたセシリア・ラウズ氏を任命しています。

バイデン氏の外交政策は、米国第一主義を掲げたトランプ氏の姿勢とは対照的に、国際協調を重視する方針を掲げていますが、対中政策では前政権並みの強硬姿勢を見せています。

ブリンケン氏は1月に実施された上院での指名公聴会で、米国にとって最も重大な外交的懸案は「中国だ」と明言。トランプ政権が中国に対して展開した厳しい政策について「方法には同意しかねるが、正しい取り組みだった」との認識を示し、新政権でも中国に「強い立場で臨んでいく」と表明しています。

トランプ氏は大統領選中に「バイデン氏は中国の言いなりだ」などと主張してきましたが、ブリンケン氏は2月5日、中国の外交担当トップと電話会談で、米国は新疆ウイグル自治区やチベット、香港における人権や民主的価値を支持するとの立場を表明し、中国に厳しい姿勢で臨む方針を示しました。

対中貿易政策、トランプ前政権を引き継ぐ

USTRは3月1日、2021年の貿易政策の指針となる年次報告書を発表し、その中で米国の労働者に損害を与え続けている中国の不公正な貿易慣行に対処するため、「あらゆる手段を使う」と強調しています。オバマ政権時代の自由貿易推進策で中国などへの生産移転が進んだ結果、労働者層で不満が高まり、トランプ氏への支持につながったことも意識し、「国内の労働者の保護を貿易政策の中心に据える」姿勢をアピールしています。

ニューヨーク証券取引所は2月26日、中国石油大手の中国海洋石油(CNOOC)の上場廃止手続きに入ることを決めたと発表しました。トランプ前大統領が中国軍を支援していると見なした中国企業への投資を禁止した大統領令に基づく措置で、1月には中国の通信大手3社の取引が停止されていました。

中国によるテクノロジー関連の脅威に対抗することを狙ったトランプ前政権は、昨年11月に、国家安全保障の脅威になると判断したテクノロジー関連のビジネス取引について、商務省に禁止する権限を付与する内容の規則を公表しました。商務省は2月26日、バイデン政権がこの規則の発効を認める方針であることを明らかにしています。

中国との貿易摩擦を巡っては、トランプ政権が発動した最大25%の制裁関税を当面続けることや、知的財産権の侵害などの是正を迫る考えを示しており、バイデン政権も基本的には強い姿勢で中国に臨むことが予想されます。

中国GDPの米国超えで危機感

バイデン氏は2月11日、10日夜に中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席との初の電話会談を明らかにした上で、中国がインフラ分野に多額の投資をしていると警戒感を示し、「私たちが動かなければ、彼らに打ち負かされてしまう」との危機感を表明しました。

また、中国が台湾などに対し独断的な行為を強めていることへの懸念も示し、「中国の経済面での威圧的で不公正な行いや、香港への統制強化、新疆ウイグル自治区での人権侵害、それに台湾への対応など地域で独断的な行為を強めていることに懸念を表明した」と述べています。

中国国家統計局によると2020年の中国の国内総生産(GDP)は2.3%増となり主要国では唯一のプラス成長を確保しました。公式為替レートをもとに計算したドル建てのGDPは、前年比3.0%増の14兆7300億ドルでした。

対照的に、米国は新型コロナ対応の初動でつまずき、経済の足を引っ張ったことが影響し、米商務省によると米国の名目GDPは前年比2.3%減の20兆9400億ドルとなりました。この結果、2020年の中国の名目GDPは米国の7割を超えました。

日本経済研究センターは昨年12月の最新予測で、中国は28年にも名目GDPで米国を超えると予想しています。19年時点の予測では「35年までに追い抜くことはない」と予想していましたので、新型コロナ対応で明暗を分けたことが米中GDPの接近を早めた可能性があります。

1-8 クリーンエネルギー、気候変動関連銘柄に注目

米政権交代で大きな転換が予想されているのが環境政策です。バイデン氏は1月20日の大統領就任直後に温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」に復帰する大統領令に署名し、同協定の規定により、通知から30日経過後の2月19日に正式に復帰が認められました。トランプ前政権は米国の負担が不公正だとして2020年11月4日に脱退していました。

2015年に採択されたパリ協定は産業革命からの気温上昇を2度未満にとどめるなどの目標を実現するため、参加国がそれぞれ温暖化ガスの排出量を減らす枠組みです。

バイデン氏は昨年の大統領選挙で「クリーンエネルギー革命」を掲げ、クリーンエネルギー経済を実現するために2兆ドル(約218兆円)の投資計画を打ち出しています。風力タービンや持続可能な住宅、電気自動車の製造などが対象で、2035年までに発電部門の排ガス実質ゼロの実現を目指しています。

バイデン氏は1月27日にも温暖化ガスの排出削減を目指す新たな大統領令に署名し、化石燃料から再生エネルギーへの移行を後押ししています。大統領令では連邦政府の管理地における新たな石油・ガス開発を規制したほか、再生エネルギーを拡大するために洋上風力の生産量を2030年までに2倍に増やす政策を検討するよう指示しています。また、化石燃料向けの補助金を削減して、再生エネルギーの技術開発支援に回すことも表明しています。

政権の動きとは別に、カリフォルニア州は昨年9月、2035年までにガソリン車新車販売禁止を発表しています。再生エネルギー推進を柱とするエネルギー政策実現への期待から、バイデン銘柄として太陽光や電気自動車(EV)関連株の人気が高まっています。

2 日本株への影響

 
世界最大の経済大国である米国は世界経済のバロメーターでもありますので、日本株はおおむね米国株の動きに連動しますが、独自材料では為替レートと原油価格の動きに注目です。

2-1 インフレ差による円高を警戒

為替レートの変動要因はさまざまですが、物価と金利の動きは注目度も高く、基調的には名目金利に物価変動を加味した実質金利の相対的な動きに歩調を合わせることが少なくありません。

物価が上昇すると、通貨1単位で購入できるモノが減り購買力が低下することになります。これは、通貨価値が減価することを意味します。例えば、1個100円のリンゴが200円になると、100円で購入できるのは0.5個となりますのでお金の価値が低下したと考えるわけです。

ただし、金利が物価の上昇率と同じだった場合、例えばインフレ率が10%で金利も10%だった場合には、100円のモノが110円に上昇したとしても、100円の金利として10円を受け取ることで元利合計では110円となり、購買力は同じ水準に維持されることになります。この例では円の実質金利はゼロとなります。

円の対ドルレートは円とドルの実質金利の差(ドルの実質金利マイナス円の実質金利)が拡大すると円安に、縮小すると円高となる傾向があります。短期的には物価の変動は比較的緩やかなので、ドル金利と円金利の差がドル円の動きに反映されることになりますが、円金利の動きが比較的落ち着いていることから、円の動きはおおむねドル金利の変動に連動しています。

新型コロナ流行後、米長期金利が大きく低下したことを手がかりに、2020年を通じて円はドルに対して上昇(円高)していました。その後、ワクチンの普及や追加景気対策による米景気回復への期待の高まりを背景に米金利が上昇したことから、2021年は円安基調となっています。

米国で大型の追加景気対策が成立したことで、米景気が早期に回復するとの見通しが広まっており、回復に伴って金利も一段と上昇する可能性があります。実際に米金利が上昇した場合には、円安が進む可能性が高く、日本の株式市場にはプラス要因となるでしょう。

ただし、米国ではインフレ圧力が、日本ではデフレ圧力が強まっており、名目金利が一定と仮定した場合にはインフレ圧力の上昇は実質金利の低下、デフレ圧力の上昇は実質金利の上昇を意味します。したがって、金利の動きが限定的となった場合には、中長期的にはインフレ差を反映して円高基調となることも想定されます。

2-2 原油価格はコロナ前水準を突破

原油価格の上昇は、原油の生産国である米国にはプラス、輸入国である日本にはマイナス要因となる可能性が高く、株価への影響も逆方向となる公算大です。

バイデン氏は就任直後に15の大統領令に署名しましたが、その中にはカナダから米中西部まで原油を運ぶ「キーストーンXLパイプライン」の建設認可取り消しや、トランプ政権が許可したアラスカ州北東部の北極圏国立野生生物保護区での石油・ガス開発に向けたリース活動の停止措置などがあります。

バイデン政権の掲げる脱炭素、化石燃料からクリーンエネルギーへの転換は、原油生産に一定の歯止めをかけ、供給抑制要因となります。

また、バイデン政権はトランプ前政権が離脱したイランとの核合意への復帰を模索する一方で、シリア東部で親イラン武装勢力施設の空爆を実施しており、硬軟織り交ぜた駆け引きを続けています。オバマ政権での対イラン融和政策がイスラム過激主義を招いたとの批判を受けて、バイデン政権はイランに対してオバマ政権よりは厳しい姿勢で望むことが予想されます。

イランからの原油輸出は米国がイランに対して融和的なほど増えると予想されるので、イランへの歩み寄りは原油価格には弱材料となる可能性が高いでしょう。一方、強硬路線となれば、原油価格には追い風となります。

米国は原油生産国であることから、原油価格の上昇は米エネルギー企業にとって追い風となります。一方、日本は原油のほとんどを輸入に頼っていますので、原油価格の上昇により景気が打撃を受ける可能性があります。

原油価格の代表的な指標となる WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油価格先物は、3月上旬に一時1バレル当たり66ドル台へと上昇し、コロナ前の水準(50ドル近辺)を大きく上回っています。

まとめ

コロナ禍で景気後退に見舞われたにもかかわらず株価は大きく上昇しており、経済ファンダメンタルズ(基礎的諸条件)と株価の動きは必ずしも一致するわけではありません。とはいえ、株価は景気のバロメーターとも言われており、影響があることは確かです。

年初からの株高は、ワクチンの普及と景気対策に支えられており、バイデン政権の成果が反映されています。予定通りに接種が進んだ場合には、年後半にはコロナ前に近い状況への回復も現実味を帯びてきます。

とはいえ、景気回復の株価への影響は業種によって異なります。コロナによる在宅勤務や遠隔授業で恩恵を受けてきたテクノロジー株に対し、ワクチンの普及で行動制限が緩和されるにつれて、旅行やレジャー関連株などがより大きな恩恵を受けることになります。ただし、景気回復に伴う金利の上昇は株価の抑制要因となる可能性があり、注意が必要です。

バイデン政権は、地球温暖化対策を政策の柱の一つに掲げており、クリーンエネルギー関連企業には政府支援による追い風が吹いています。

バイデン政権は、トランプ前政権での米国第一主義から国際協調主義への転換を掲げていますが、対中政策や対イラン政策では引き続き強硬路線が維持されており、地政学的リスクには警戒が必要です。

日本株への影響としては、円高や原油高に注意が必要となりそうです。

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HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム

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