ADR投資のメリット・デメリットは?主な取扱証券会社や対象投資国も

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「たまごを一つのカゴに盛るな」という格言があるように、国際分散投資は運用の効率化とリスク低減効果を見込めます。中でもADR(米国預託証券)は、成長性の高い新興国企業や先進国の銘柄などの様々な個別銘柄を取引できる金融商品なので、国際分散投資を行いやすく、注目している方もいるのではないでしょうか。

この記事では、ADR投資のメリット・デメリット、投資可能な国、取扱証券会社について詳しく解説します。分散投資や新興国投資に興味のある方は参考にしてみてください。

※本記事では、2021年10月27日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。

目次

  1. ADR投資とは
  2. ADR投資のメリット
    2-1.有力企業が多い
    2-2.直接投資を行えない国にも投資できる
    2-3.米国株と同じ感覚で取引ができる
    2-4.国際分散投資が可能になる
    2-5.配当を受けられる
  3. ADR投資のデメリット
    3-1.米国市場の影響を受ける
    3-2.ADRが上場廃止になることがある
    3-3.配当課税が二重に掛かる場合もある
    3-4.管理手数料が発生する
  4. ADR投資ができる証券会社
    4-1.SBI証券
    4-2.楽天証券
    4-3.マネックス証券
  5. ADR投資の始め方
  6. まとめ

1 ADR投資とは

ADR(American Depositary Receipt)とは米国預託証券を意味する金融商品です。ADRはアメリカの取引所に上場されており、アメリカ以外の海外株式を米国市場を通して売買することができます。そのため、規制等により海外からの直接投資が難しい外国株も米国株と同様に取引可能です。

また、ADRを上場する際、審査ハードルの高い米国証券取引委員会(SEC)から承認される必要があるため、これを通過した企業は経営状況が良い企業が多いのも特徴です。外国企業がADRを発行する理由は、米国市場で有利に資金調達を行えるほか、米国市場で取引されれば国際的な信用力を高められるからです。

以下は、米国市場に上場されているADR銘柄の一部です。

国名 銘柄名 ティッカーコード セクター
中国 アリババ・グループ BABA IT
イタリア フェラーリ RACE 自動車
インド タタ・モーターズ TTM 自動車
台湾 TSMC TSM 半導体製造
英国 アストラゼネカ AZN 医薬品

中国IT最大手のアリババをはじめ、高級スポーツ車を製造・販売するフェラーリや医薬品大手のアストラゼネカなど、米国市場を通じて様々な海外の大型株に投資することができます。また、海外からの直接投資に一定の規制があるインド株にも投資できるため、拡大を続けるインド経済の恩恵を享受することも可能です。

2 ADR投資のメリット

ADR(米国預託証券)は、アメリカ証券市場を通して海外企業に間接投資できるほか、分散効果も見込めるので、多くの機関投資家や個人投資家が活用しています。ADR投資のメリットを詳しく確認してみましょう。

2-1 有力企業が多い

ADRは米国証券取引委員会(SEC)の上場審査を通過する必要があります。SECの上場審査は、世界的な上場基準と比べてもハードルが高く、通過する企業は財務面や業績などで優れた企業に厳選されています。

また、ADRに上場している企業は投資情報が充実しているのも特徴です。SECルールでは投資家保護の観点から情報公開の基準を厳しく規制しているため、海外投資で不安とされる透明性や株主の権利などもしっかりと守られています。

2-2 直接投資を行えない国にも投資できる

株式に直接投資ができない外国の代表としてインドを挙げることができます。インドは新興国の中でも成長率が高く、最近はGDPベースで中国を凌ぐ勢いで成長しています。そのようなこともあり、インド株投資の需要は拡大傾向にあります。

しかし、インドでは、現地に居住していない個人投資家がインド株に直接投資することは制限されおり、インド投資するにはETF(上場投資信託)もしくはADRを通して、インド株に投資する方法のみとなっています。

なお、ETFはインドの株価指数に投資することはできても、個別株に限定した投資はできません。一方、ADRは、米国市場に上場されているインドの個別株に投資できる点が大きく異なります。

2-3 米国株と同じ感覚で取引ができる

インドのように直接投資できない国に投資をする場合、現地の証券会社で口座を開く必要があるため、取引を始めるまでに手間と時間が掛かります。また、慣れない取引環境で投資を行うことはリスクにもなり得ます。

一方、ADRは米国市場に上場されているため、取引手順は米国株と変わりません。そのため、米国株取引の経験がある人は、普段と変わらない環境で売買に集中することができます。

2-4 国際分散投資が可能になる

国際分散投資は、長期運用やリスク低減の観点から重要な戦略の1つです。例えば、複数の業種・業界に分けて投資したとしても、それが1ヵ国のみなら株価指数など市場全体の値動きに対する影響は避けられません。

また、投資した国の経済や政情によって、運用成績が大きく左右される可能性もあるため、1国1点集中の投資はリスクを伴います。そのようなこともあり、ポートフォリオ全体のリスクを低減させるためにも、国際分散投資が大切な意味を持ちます。

そこで、国際分散投資を可能とするADRが役立ちます。上述の通り、ADRはアメリカ株式市場を通して様々な外国企業に投資できるため、ポートフォリオ全体のリスクを調整しやすく、分散効果を得ることができます。

2-5 配当を受けられる

ADRはアメリカ以外の外国株式を裏付けに米預託銀行で発行された有価証券を上場させた商品なので、ADRを保有することは実質的に現地企業の株主になるのと同じです。そのため、裏付けとなる企業が配当を出していれば、通常の株式同様に配当を受ける権利も得られます。

さらに、配当に対する課税が無い国のADRの場合、配当に掛かる税金は、日本の20.315%のみとなるので、二重課税を回避することができます(※ADR銘柄によっては、現地と日本で二重課税となる可能性もあるので、事前の確認が大切です)。

また、一般NISA口座を活用して非課税枠で買付した場合、日本で掛かる20.315%の税金が免除されます。そのため、非課税期間となる5年間は、配当金を無税で受け取ることが可能です。

3 ADR投資のデメリット

ADR投資では以下のポイントに注意することも大切です。

3-1 米国市場の影響を受ける

ADRとその裏付となる現地株式は連動するように設計されているものの、ADR自体は米国市場に上場されているため、米国株式全体の値動きにも影響されやすくなります。そのため、例えば裏付企業の株が好調でも、米国市場全体が下落傾向にあれば、ADR銘柄も連れ安となる可能性もあります。

ただし、株式市場には、現地株とADRの価格乖離を利用して価格差を狙うサヤ取り業者も存在するので、あくまで価格の乖離は短期的なもので、中長期では基本的に裏付商品と連動するように動きます。

3-2 ADRが上場廃止になることがある

現地企業の株式が上場されていても、ADRのみが上場廃止になることがあります。例えば、NTTドコモのADRは、2018年3月19日にニューヨーク証券取引所で上場廃止となりました。NTTドコモのケースは経営陣の判断によって行われましたが、現地当局の意向によって上場廃止になる可能性もあります。

最近では、中国当局が海外上場規制を強化しており、中国ADRが現地当局によって上場廃止にされるケースもあります。保有しているADRが上場廃止になれば、換金できなくなる可能性もありますが、その時の対応は証券会社によって異なるため、事前に確認しておきましょう。

3-3 配当課税が二重に掛かる場合もある

イギリス、オーストラリア、インドなど配当に対する課税が無い国のADRの場合、配当に掛かる税金は日本の20.315%のみとなります。また、配当に対する課税がある国でも、日本と「租税条約」を結んでいる国であれば、現地国の税金は掛かりません。

しかし、全てのADRで現地国の課税がされないわけではなく、現地国の課税と合わせて二重課税となる場合もあるので、確定申告の際に外国税額控除制度の利用なども検討しましょう。

3-4 管理手数料が発生する

ADRを保有していると保有残高に応じて管理手数料が発生する場合もあります。管理手数料は、ADRを発行する預託銀行に支払われるコストであり、米ドルの預かり金から引き落とされます。通常、四半期もしくは1年区切りで管理手数料が発生します。

管理手数料の費用は固定されておらず、一株あたり0.25~5セント程度です。そこまで大きい金額ではありませんが、自動引き落としとなるので留意しておきましょう。

4 ADR投資ができる証券会社

ADRは日本の証券会社から購入可能です。最近のネット証券では、ADR銘柄の取り扱いも増加傾向にあるため、幅広い選択肢の中から選ぶことができます。ADR投資可能な主要ネット証券は以下の通りです。

4-1 SBI証券

預かり資産残高や口座開設数で国内最大手クラスのネット証券です。SBI証券では、業界最安レベルの取引手数料や豊富な銘柄数、高性能取引ツールを活用することができます。

SBI証券の取引手数料は、約定金額の0.495%(最低0米ドル~最高22米ドル)となっており、取扱いADRは、中国、台湾、インド、南アフリカなど、10か国以上の外国企業に投資することができます。

また、「HYPER SBI」という高性能取引ツールで40種類以上のテクニカル指標を駆使することができるため、プロの投資家と同じ環境で分析や取引を行える環境が整えられています。

4-2 楽天証券

楽天グループ傘下の証券会社で新規口座開設数No.1を獲得した経験も持つなど、SBI証券と並ぶ大手ネット証券です。楽天証券では、業界最安クラスの手数料や楽天経済圏で活用できるポイント制度など様々な独自サービスを展開しています。

楽天証券の取引手数料は、約定金額の0.495%(最低0米ドル~最高22米ドル)となっており、取扱いADRは、先進国から成長性の高い新興国などラインナップが豊富に用意されています。

また、高性能取引ツールである「マーケットスピードⅡ」では、57種類のテクニカル指標のほか、平均所得単価や指値を表示できるなど、総合的評価の高い証券会社です。

4-3 マネックス証券

ネット証券の中では米国株の取扱いが最も多い証券会社です(執筆時点)。米国株に関する豊富な情報や分析等を行える様々なツールを利用可能な点も強みとなっています。

マネックス証券の取引手数料は、約定金額の0.495%(最低0米ドル~最高22米ドル)となっており、世界中の株式を取り揃えています。また、米国株分析ツールの「銘柄スカウター」や高性能取引ツールの「トレードステーション」、定期配信される「アナリストレポート」を活用することもできます。

5 ADR投資の始め方

ADR投資を始めるには、総合証券口座を開設した上で、「外国株式取引口座」の開設が必要です。外国株式取引口座を開設するには、総合ページから外国株式ページに進み、外国株式取引口座のページから手続きを行えます。申し込み後、口座開設通知が届けば、外国株式取引口座の開設完了となります。

次は、口座への入金です。ADRは米ドルで取引されますが、買い付けする際、「円貨決済」「外貨決済」のいずれかを選択することができます。円貨決済は取引ごとに外貨と円の両替を自動で行う方法で、外貨決済は口座に預けた外貨で取引する方法です。

入金後は、実際にADRを注文します。取引したいADR銘柄やティッカーシンボルなどは、各証券会社の総合ページから一覧を検索できます。

まとめ

ADRを活用すると国際分散投資を行いやすいほか、経済成長の期待できる新興国企業にも投資可能です。また、厳格な上場審査により財務状況や業績の悪い企業は省かれ、一定の経営体力がある企業に厳選されている点は、ADR投資初心者にとっても大きなメリットです。

ADR投資に関心のある方は、このようなメリット・デメリットをしっかりと把握した上で、慎重に検討してみてください。

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