2021年5月の為替相場の傾向と今後の展開は?米雇用統計や米CPIの影響解説も

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2021年5月相場は、予想を大幅に下回った米雇用統計と予想を大幅に上回った米CPIと、両極端な米経済指標が相場の話題の中心となりました。

今回は、各国中央銀行のインフレに対する評価と、金融政策の動向を解説しながら5月の為替相場を振り返ってみたいと思います。

目次

  1. 5月相場の総括は?
  2. 各国中銀の動向は?
    2-1.FRBの動向
    2-2.ECBの動向
    2-3.BOE(イギリス)の動向
    2-4.RBA(オーストラリア)の動向
    2-5.RBNZ(ニュージーランド)の動向
    2-6.BOC(カナダ)の動向
  3. まとめ

1.5月相場の総括は?

2021年5月相場は、総じてUSD売りが優勢となりました。大きな材料としては、予想を大幅に下回った米雇用統計と予想を大幅に上回った米CPIと、両極端な米経済指標が相場の話題の中心でした。

これらを受けて、同じような状況に陥っている他国の経済指標も合わせて、インフレの上昇は一時的なのかそうでないのか、世界中の中銀関係者の発言を元に相場が振らされる展開となりました。

発言をまとめると、インフレは一時的であるという評価が大多数を占めていますが、それにともなう中銀のスタンスとしては、緩和継続、資産購入額の減額の可能性、利上げの時期の前倒し、とバラバラになっています。

ただし、円に関しては、ワクチン接種が始まったばかり、緊急事態宣言を延長したこと、更に、世界で唯一いまだにデフレから抜け出せないでいるなかで日銀の緩和解除は全く見通せないことから、USDよりも売られ、結果としてクロス円が最も上昇しました。

2.各国中銀の動向は?

ここでは、各国中銀の動向を解説します。

2-1.FRBの動向

4月に発表された良好な雇用統計を元に議論されたFOMC議事録では、米国の景気回復について慎重ながら楽観的な見方を示し、複数のメンバーが資産買入のペースを調整する計画についていずれかの時点で議論することが適切であるとしていることが判明しました。これまでのFOMCでは、資産買入ペース変更議論は時期尚早とのガイダンスでほぼ統一されていたので、若干前進したと言えます。

ただ、条件としては雇用の最大化と物価安定というFOMCの目標に向けて急激な進展を続ければとし、一段と進展するにはしばらく時間がかかる可能性が高いと様々な参加者が指摘していることから、FOMCの主流派の考えが変わったというわけではないと見られます。

実際5月に発表された雇用統計は衝撃の悪さとなっていますので、FOMCの見立てが正しいことの証明に繋がり、織り込み過ぎの緩和解除期待の剥落から、金利も低下していきました。

CPIの上昇

しかし、その後CPIが急上昇しました。総合指数は前年比+4.2%で2008年9月以来の大幅な伸びを示し、コア指数は前年比+3.0%(予想+2.3%)・前月比+0.9%(予想+0.3%)となりました。前年比ではベース効果の影響が含まれることから、前月比を注目していましたが、前月比も大幅な伸びを示しました。

インフレ上昇を牽引したのは、中古車価格(10%)・航空運賃(10.2%)・ホテル(7.7%)と、サプライチェーンの停滞や経済再開による移動を伴う活動に敏感な項目となり、ある程度事前予想通りではありましたが、その増加幅は予想以上となりました。そして、インフレに関する議論も、若干タカ的に変化が見られるようになりました。

これら最新の雇用統計とCPIの数字を受けて、FOMCメンバーから多くの発言がありましたが、幾人かのメンバーはインフレ見通しに懸念を強め始めていることがわかりました。基本的にはFOMC全体としては最近のインフレの上昇を一時的なものと強調することには変わりはありませんが、テーパリングの可能性は残るように言及するようになってきています。

市場としては、テーパリングはかなり織り込んでいるものの、その先の利上げは慎重にみていることから、雇用と物価のデータが出そろうまでは、米金利はコアレンジ1.5-1.7%を中心に推移すると思われます。テーパリングが決定してもその先に利上げが見通せないのであれば、レンジをブレイクしても2%までは到達できないと予想します。

ただ、クラリダ副議長の、強いCPIは驚いたという発言にもあるように、今後強いCPIが続くことで、FOMCメンバーの考えにも変化が出てくることには注意が必要です。

2-2.ECBの動向

6月のECB会合の前に、突如として多数のECB高官から緩和継続が示唆されました。直近、ワクチン普及に伴い経済指標が改善していることから、市場はECBへのテーパリング期待を強めEURも買われてきましたが、EUR実効レートが122台半ばとECBの警戒水準(過去からすると122-124レンジに入ると牽制発言が増える)に上昇してきており、EUR高についての言及も増えてきています。

このなかでもフランス中銀総裁の「パンデミック緊急購入プログラム(以後PEPP)の購入ペース調整を全く急いでいない」という発言は念頭に置いておきたいものです。前回3月にPEPP拡大を決定する直前にそれをほのめかす発言をした経緯があり、6/10のECB理事会では市場予想のPEPP減額に反してハイペースでの買取額を継続する可能性が高まってきました。

2-3.BOEの動向

BOEではベイリー総裁とカンリフ副総裁からFRBやECB同様、「インフレは一時的であり、いずれは中銀目標の2%に戻ると予想」というような発言がありましたが、これらの発言には全く反応せず、ハト派のプレハ委員のタカ派発言だけに反応し、GBPが大きく買われました。

たしかにハト派のプレハ委員から、利上げの話が出てきたことは驚きでしたが、プレハ委員はあくまでも一時帰休労働者向け支援策が終了した後に、雇用の回復が順調であればという条件付きの話をしており、更に仮にコロナ変異株により回復が遅れるようならばマイナス金利が必要になる可能性もあると発言していることから、完全にデータ次第という話となっています。したがって、マーケットのGBP買いの反応はやや過剰だと考えられます。

2-4.RBAの動向

RBA(オーストラリア準備銀行)の5月会合分の議事録は、YCC(イールドカーブコントロール)目標の対象年限の変更や、量的緩和(QE)の今後の方針について、経済データと金融市場の情勢に細心の注意を払いながら7月に決定するとの方針を示しました。その上で、現時点では3年国債の利回り目標0.1%からの変更は正当化されないなど、利上げの条件は少なくとも2024年までは満たされない公算と、これまで通りのハト派スタンスを維持しています。

それを裏付けるように、5月に発表された豪雇用統計はマイナスとなりました。要因は恐らく3月末で打ち切りとなったJob Keeping制度による賃金補助がなくなったことで、解雇された人が増えたためと考えられます。

一方で、失業率は順調に低下中であり、ポジティブな面も見えています。ただ、RBAが予想している、賃金インフレが発生する失業率である4%まではまだ遠く、2024年まで利上げの材料は揃わないというRBAの見方が今のところ正しいことが示される結果となりました。

2-5.RBNZの動向

RBNZ(ニュージーランド準備銀行)は、政策金利と資産購入プログラムの規模をともに据え置きましたが、声明文では「必要とあれば利下げ」との文言を取り除き、2022年9月の利上げシグナルを発信したことでサプライズとなりました。これでG10通貨の中では、ノルウェー中銀・カナダ中銀に続いて3番目のタカ派転した中銀となりました。

ニュージーランドは住宅価格インフレに悩まされていますが、今回の議論で政策金利と住宅価格の関係性を議論するセッションが設けられたということは、住宅価格高騰がこのまま収まらなければ政策金利を引き上げる可能性が高まってくるでしょう。

2-6.BOCの動向

4月の時点でテーパリングを決定し、利上げ時期も2022年後半と予想しているBOCですが、マクレムBOC(カナダ中銀)総裁が、コロナショック後からほぼ1年続いてきたCAD高についてとうとう言及しました。

「カナダ経済がパンデミック前の水準まで完全な回復が実現し、企業が再投資を再開することができるようになるまでは経済支援を継続するし、利上げは急がない」とし、「CAD高は輸出の回復に悪影響を与えており、景気見通し全体へも影響を与える可能性がある」とCAD高を牽制しました。

しかし、反応は一時的にとどまり、ワクチン普及に加え、資源価格の高騰に支えられた良好な経済指標を好感し根強いCAD買いが継続しています。

3.まとめ

今後の中心テーマは、雇用というよりもインフレに移ると考えられます。経済活動の再開により雇用の回復はある程度予想できますが、多くの中銀の共通認識であるインフレは一時的ということについては、データを確認する必要があります。

通常、雇用が回復すれば購買意欲が高まり、需要サイドからインフレが起こるはずですが、今回のような手厚い失業給付金を出してしまった後だけに、雇用された後の方が収入は下がる可能性があります。

また、雇用されることで滞っていた供給サイドが動き出せば、タイトな需給バランスが解消するかもしれません。前例のない事態の為、実際にデータを確認するまで中銀も動けないと思われ、それまでは金利は方向感なく、為替もレンジで推移すると予想します。

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HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム

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