2022年6月の利上げ動向は?リスクオフの兆しが見えるなか、米雇用統計やインフレについても

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2022年5月16日からの相場は、ドル高の流れに調整が入りました。

高インフレやそれに対応する各国中銀の金融引き締め姿勢があるなか、米小売企業の決算が崩れたことがきっかけでリスク回避ムードが広がり、米国債をはじめとした主要国の債券利回りの低下しました。

USD/JPY相場にとっては、利上げ一巡後の景気後退の回避が焦点となりつつあります。現時点では景気減速は不可避とのことから、米長期債利回りの低下に伴い、ドル売りが中心となり一時126円台まで下落したのち、127円近辺で推移しています。

一方で、米国以外の材料としては、7月ECBの利上げ幅をめぐって0.25%だけでなく、一部に0.5%の見方が浮上したことから、EUR買いが強まりEUR/USDは1.07台まで上昇しています。

この記事では、2022年5月下旬の振り返りと、6月に向けての動向を解説します。

※本記事は5月30日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 2022年5月下旬のマーケット振り返り
    1-1.日本
    1-2.米国
    1-3.中国
    1-4.欧州
    1-5.英国
    1-6.オーストラリア
    1-7.ニュージーランド
    1-8.カナダ
  2. 注目材料
    2-1.BOC6月政策決定会合
    2-2.米5月雇用統計

1.2022年5月下旬のマーケット振り返り

BOEが政策金利を0.25%引き上げて1.00%としたものの、2023年のマイナス成長を予測するなど利上げ路線が景気の減速に繋がることが嫌気されました。更に北アイルランド議定書をめぐるEUとの軋轢が再燃したことでGBP/USDは上値が重く、一時1.21台半ばまで下落しました。

参考:ブルームバーグ「英中銀、政策金利1%に上げ-10%インフレとマイナス成長予想

しかし、国内の貧困層を中心に150億ポンドの財政出動が決定したことから1.26台まで反発しています。

1-1.日本

黒田総裁が国会答弁で市場の安定を確保しながら出口戦略の遂行は可能と発言しました。可能性の話をしただけであるものの、市場は即座に円買いで反応しました。海外勢中心にBOJの動向には注目が集まっている様子です。

参考:ブルームバーグ「米利上げ「どんどん円安になるということではない」-日銀総裁

1-2.米国

5月NY連銀景況感指数が市場予想+15に対し▲11.6とコロナショック時の2020年3月に次ぐ下落幅となりました。

4月の小売りは前年比+0.9%となり、前月分も+0.5%から+1.4%と大幅に上方修正されました。主な項目では自動車・オンライン小売・フードサービス・電化製品です。引き続き堅調な消費意欲が確認できます。

4月の鉱工業生産も前月比+1.1%と予想の+0.5%を大きく上回りました。自動車生産が過去2か月上昇しており、供給問題が解決しつつある可能性があります。設備稼働率も79%と前回より上昇しています。

パウエル議長は明確にインフレが後退していることが分かるまで利上げを継続すると改めて表明しました。現在は6月と7月に0.5%ずつ利上げをすることがほぼ織り込まれているものの、その後も状況次第では0.5%幅での利上げの可能性に言及した形です。また多少の痛みも伴うことも認めながらも現在であれば、その痛みに耐えられる良好な環境にあるという認識を示しました。

参考:ブルームバーグ「パウエル議長、「明確で納得できる」インフレ後退まで利上げ継続

一方で、タカ派とみられるブラード総裁からは目先のタカ派スタンスは変わっていないものの、インフレ抑制の条件付きながら2023年の利下げの可能性に言及がありました。

参考:ブルームバーグ「セントルイス連銀総裁、利上げ前倒しなら23年には利下げ可能にも

またもう一人タカ派のボスティック総裁からも、9月に一時利上げを停止する可能性が示されましたが、どちらもこれまでの過度な利上げ織り込みが剥落する材料となりそうです。

参考:ブルームバーグ「アトランタ連銀総裁、9月の米利上げ一時停止「理にかなう」可能性

5月FOMC議事録では、直近のパウエル議長の発言とほぼ一致する内容でした。政策緩和の解除を早めれば、年内において引き締めの効果などを確認し、状況次第ではその後引き締めを抑制する可能性にも言及していることが明らかになりました。

参考:ブルームバーグ「FOMC、積極的利上げ実施すれば年内の政策に柔軟性-議事要旨

バイデン大統領が来日し、岸田首相との会談のなかで米中関税の削減を検討中というコメントが発表されました。

参考:ブルームバーグ「バイデン大統領、輸入関税率引き下げを検討中-高インフレ抑制に向け

1-3.中国

4月小売売上高が前年比▲11.1%と市場予想の▲6.6%を大幅に下回りコロナショック以来最も軟調となりました。4月鉱工業生産も▲2.9%と長引くロックダウンが影響しているのは明らかです。失業率が6.1%に急上昇し、コロナショック後の状態に近づいています。

住宅ローン金利の基準になる5年物ローンプライムレート(LPR)が4.6%から4.45%へと予想以上の0.15%引き下げられました。1年物LPRが据え置かれていただけにサプライズとなりました。6月に予定されているロックダウン解除の前に個人消費の喚起を促すべく状況を整えたということでしょう。

その後、李克強首相が議長を務める国務院から合計33の具体的な景気刺激策が発表されました。1400億元(約2.7兆円)規模の追加減税策や3000億元の鉄道建設債発行が含まれています。しかし、年初打ち出した5.5%成長目標については達成できない可能性があることを認めました。また、地方政府の財政状況も予想よりはるかに悪いと現状を分析しました。

1-4.欧州

タカ派のクノットオランダ中銀総裁が7月の0.5%の利上げの可能性に言及したことから、ECBの利上げ織り込みがまた一段と進みEURも買い戻されました。既に年末までに4回の利上げを織り込んだ状態であり、そろそろ織り込みも限界である可能性があります。

ECB理事会の4月議事録でも、一部のメンバーが早期行動を主張したことが明らかになっています。

参考:ブルームバーグ「ECBクノット氏、7月利上げ支持-0.5ポイントも選択肢

ラガルド総裁は、資産購入プログラム(APP)での純購入は第3Q(7-9月)の早い段階で終わり、フォワードガイダンスに沿って7月の理事会で金利を引き上げ、第3Q末までにマイナス金利を脱却できる可能性が高いと自身のブログでの発表しました。

事実上7月と9月の理事会で0.5%ではなく0.25%ずつ金利を引き上げ、現在▲0.5%の中銀預金金利をゼロまで戻す計画になります。ブログでの内容ではあるものの、ECBメンバー内である程度合意は取れた上での発信でしょう。

参考:ブルームバーグ「ECB、9月末までにマイナス金利脱却の公算大-ラガルド総裁

1-5.英国

雇用統計が発表となり、第1Qの失業率が3.7%と48年ぶりの低水準を記録しました。この期間の失業者数が約126万人でしたが、同期間の3か月間の求人者数は128.8万人と求人数が失業者数を上回っています。

これは、統計開始以来初のことです。異例の人手不足状態ということで、実際、5月週平均賃金も前年比+7.0%と前回の+5.6%から大幅に上昇しました。

4月CPIは前年比+9.0%と40年ぶりの水準を記録しました。予想通り電気・ガス料金の引き上げが大きく影響した他、モノやサービスの幅広い項目で物価上昇が進行しています。労働需給の引き締まりも勘案すると、BOEの第4QのCPI予想の10%も前倒しで達成しそうな勢いです。

4月小売は前月比+1.4%と予想の▲0.3%に対してポジティブサプライズとなりました。主に生活必需品の食料品と衣類が牽引しているため、個人の購買意欲が強いという判断をするには微妙でしょう。

5月サービス業PMIは約7ポイント下落しヘッドラインは直近15カ月で最低の水準であり、景況感はあまり良くないでしょう。

エネルギー価格高騰による生活費高騰を緩和するため最貧困層中心に150億GBPの消費者支援パッケージを打ち出しました。これまで、景気悪化で利上げ継続には疑問符がついていましたが、財政のサポートがあるなら利上げを継続できるかもしれません。

1-6.オーストラリア

RBA5月会合の議事録が発表となりました。0.15%でなく0.25%の利上げに踏み切った理由として、歴史的に”at least”0.25%の利上げをしてきたためと説明しています。英語の表現の問題ですが、usuallyはなくat leastとしました。

また、0.4%の利上げも検討されたということが明らかになりました。全体としてタカ派的なニュアンスとなっております。

参考:ブルームバーグ「豪中銀は利上げ幅巡り3つの選択肢を検討、5月会合で-議事要旨

第1Qの賃金指数は前期比+0.7%、前年比+2.4%と市場予想よりは若干弱かったですが、緩やかに改善しています。しかし、RBAの目標が+3~4%であり、今後急激にタカ派になる可能性は下がりました。

4月雇用統計は前月比+0.4万人と市場予想を若干下回りました。内訳を見ると、フルタイムが+9.24万人、パートタイムがが▲8.84万人ということで、フルタイム雇用者数が増加しています。

失業率も前月と変わらず3.9%と1974年以来の最低水準を維持しています。雇用市場は引き続き堅調であることが示されました。

2022年5月21日に総選挙が行われました。今回は、下院151議席のうち最大野党の労働党が75議席を獲得し9年ぶりの政権交代となり、労働党の現党首を務めるアンソニー氏が首相となりました。

懸念された対中姿勢については国民レベルで反感が強まっています。アンソニー氏も対中強硬姿勢を貫かなければならず、さっそくクアッド会議に出席して連携を確認しております。現在のオーストラリア経済は資源輸出で潤っており、そこまで躍起になって何かを変える必要もないため、特段の変化なしと見ています。

1-7.ニュージーランド

RBNZ政策決定会合では、予想通り4月同様0.5%引き上げて政策金利を2.0%としました。金利の最終到達点を3.4%から3.9%に引き上げ、達成時期も2025年3月から2023年6月に1年以上大幅に前倒し、タカ派サプライズとなりました。

2022年年末までに3.4%とハイペースでの利上げを実施したのち、3.9%に到達後しばらくして2024年後半からは利下げの見通しを示しました。

参考:ブルームバーグ「NZ中銀、初の2会合連続0.5ポイント利上げ-政策金利年内3.25%想定

1-8.カナダ

4月CPIは前年比+6.8%と前月の+6.7%から一段と加速しました。4月のCPIの伸びは正規労働者の賃金上昇率である+3.4%の2倍となり、高インフレは実質所得の伸びも圧迫しています。

BOCは当面インフレ抑制を重視して利上げを実施すると予想します。

2.今後の注目材料

2-1.BOC6月政策決定会合

BOCは中立金利を2~3%と設定しており、利上げの継続を想定しています。従って、6月と7月に0.5%ずつ、残りの9月・10月で0.25%ずつ引き上げて2.5%に到達し、12月は様子見というプランを予想します。

参考:ジェトロ「カナダ中銀、政策金利を0.5ポイント引き上げ1.0%へ

市場では2022年末時点で2.75%に到達すると織り込まれています。また、一部では今回0.75%の利上げの可能性もあるとしているものの、FOMCでも0.75%利上げは否定されていました。

BOCが今回0.5%の利上げとなったとしても、失望とはならないでしょう。ただ、0.25%となった場合は、ネガティブサプライズなので、CADは大きく売られる可能性は低いと考えます。

市場が注目しているポイントは、年内にどこまでの利上げをBOCが想定しているかです。楽観的な景況感の見通しを示し、中立金利の上限の3%を越えるような利上げパスを想定している様であれば、CADは買われ、USD/CADなら1.25台へ下落することもあると予想します。

2-2.米5月雇用統計

前回より若干少ない+31万人予想となっています。平均時給も+5.2%と前月の+5.5%から若干減速する予想となっています。失業率はほぼ完全雇用といってもよい水準3.5%が見込まれています。

雇用者数は、予想の範囲が25万~45万と狭く、恐らく大きなブレはないと予想されるため、注目度は低いでしょう。前回から伸びは鈍化しているものの、水準的にはかなりの高水準の平均時給に注目です。

FRBの今後の引き締め方針は、6月・7月と連続で0.5%の利上げを実施した後の9月のFOMCに注目が集まっている状況です。その時の鍵となるのが利上げに耐えられる経済状態かどうかということであり、材料の一つとしては雇用統計での雇用環境が重要になってきます。

今回は恐らく雇用環境は堅調であることが予想されるため、平均時給の推移が注目されるでしょう。もし前月以上の伸びを示すのであれば、直近剥落していた利上げ織り込みが復活すると共に、USD買いが再開するでしょう。一方、予想を下回った場合は、最近織り込まれつつある為、反応は限定的になると予想します。

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