2022年4月26日現在、円は大きく売られています。売られる要因は主に二つあります。BOJが世界でも緩和政策を維持する数少ない中銀となったことと、資源を輸入に頼っている日本の交易条件が資源価格高騰によって悪化しているということです。
今回は原因の一つであるBOJの政策決定会合について、詳しく解説していきます。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 市場の思惑
- 展望レポート予想
- 日銀政策決定会合予想
3-1.BOJ(日銀)の使命
3-2.20年ぶりの円安について
3-3.2002年と2022年の比較
3-4.2022年4月の予想
3-5.2022年4月以降の日銀政策予想
3-6.2022年4月以降のドル円値動き予想
1.市場の思惑
海外投資家の多くが、近い将来のBOJの政策調整の可能性を予想しています。しかし、今回のBOJ会合に対しては、政策変更の期待はありませんでした。
2022年4月現在、急激な円安を受けて政府高官から不快感を表す発言が相次いでいます。原材料価格の上昇を受けたコストプッシュ型のインフレが貿易赤字拡大に繋がり、更に円安を促すといったような、「悪い円安」を阻止するために、BOJが行動を起こさざるを得ないのではないかという思惑が浮上しています。
BOJは2022年4月20日に指値オペを通告しました。4月21日から4月26日までの連続指値オペも通告するなど、イールドカーブコントロール(YCC)を維持する姿勢を見せています。指値オペの期限が4月26日というBOJ会合前日だったことから、4月会合で何かがあるから4月26日にしたのではないかと、深読みする参加者も増えています。
2.展望レポート予想
政策変更のベースとなる展望レポートも公表されるため内容には警戒が必要です。特に今年のコアCPIの見通しが1月時点の+1.0~1.2%からどこまで引き上げられるのかに注目です。
ロシア・ウクライナ情勢の悪化を受けたエネルギー価格と食料品価格の上昇や供給制約の継続、円安の進展を織り込む形で、恐らく2%弱まで引き上げられると予想します。ただ、こうした物価上昇は基本的にコストプッシュ要因によるもので企業による賃金上昇を伴わなければ持続性に乏しく、2024年までの見通しの中でも2%の安定的な達成は困難であるとの判断が強調され、緩和政策が引き続き必要ということに繋げるでしょう。
また、経済見通しについては、インフレの悪影響により、今年の成長は1月時点の+3.8%から3%弱に下方修正される可能性があります。
3.日銀政策決定会合予想
3-1.BOJ(日銀)の使命
今後の動きを予想するにあたり、BOJの使命は物価安定であり、為替の安定は財務省の管轄であることを確認しましょう。従って、特定の為替水準に対してBOJが財務省のように自発的に牽制発言を出すことはありません。
円安に対して急速といった発言を黒田総裁がしたかのように報道されています。しかし、あくまでもメディアの質問に対して答えたものであり自発的なものではありません。
BOJの仕事は、為替を通じた実体経済や物価に対する影響を勘案して何かしらの政策対応を取るということです。最近の例で考えると円安の影響で輸入物価が上昇し、日銀の目指す持続的2%という物価目標を超えるとBOJが考えた場合のみ、行動に移すと考えられます。
ただし、BOJが金融引き締めを実施したとして、資源価格や食料品価格が下がるわけではありません。仮に一時的に円高になったとしてそれが継続する可能性は低く、どの程度物価上昇を抑えることになるのか疑問が残ります。
3-2.20年ぶりの円安について
2022年4月現在、円安が急速に進行しています。しかし、BOJに政策変更を促しているのは、円安の進行というよりは、円安の一つの原因を作っているBOJの政策に対する世論と政治のプレッシャーでしょう。
従って万が一政策変更をするのであれば、その目的は円安傾向の修正を意図するものだということになります。スケジュール的に今回の会合の後にGWの長期休暇とその期間中にFOMCが控えており、その結果次第では再び円安に動いてしまう可能性がある中では、タイミングとしては適切ではないでしょう。
野口審議員はエネルギー高は日本経済を下押しするものの、為替と切り離して考える必要があると説明しています。円安が輸入物価の上昇に与えている影響は僅かなものに過ぎないとの見方です。
また、仮に円安が継続するなら、長い目で見れば日本企業の国内回帰による投資が増えるほか、海外からの直接投資も増えます。そのため、円安を放っておいても最終的には円高方向の資本フローにより元に戻る可能性があります。
関連:ブルームバーグ「デフレ脱却に円安はプラス、2%達成に賃上げ必要-野口日銀委員」
3-3.2002年と2022年の比較
今回の円安は20年ぶりということで、2002年と2022年の経済状況を比較してみましょう。
2002年から2022年まで米国のCPIは60%上昇する一方で日本は6%しか上昇していません。USD/JPYの水準が同じということは、円の購買力は大幅に落ちています。20年前に128円で購入できた米国の物は、今は204.8円(1ドル×60%×128円)になっています。
OECDのデータによると2002年時点の米国の平均賃金は4.1万ドル≒525万円で、日本は437万円でした。最新の2020年のデータでは、米国は6.9万ドル≒883万円で、日本は440万円とほぼ半分です。本来は1ドル=64円程度の円高になっていないと釣り合わないはずです。
2002年の日本の貿易収支はGDP対比2.3%の黒字である一方、2021年度は1.2%の赤字です。日本の貿易収支は2010年頃から当時長らく続く円高への対応策として、輸出企業が生産拠点を海外に移しました。結果、赤字が常態化しています。円安の方が日本経済にとって良いとは一概には言えなくなってきています。
2002年のWTI原油価格は18ドル~34ドルで26ドルを中心に推移していたものの、現在の4分の1~5分の1の水準です。
これらの状況を勘案すると、USD/JPYの水準と日本の賃金が変わっていないため、単純にエネルギーコスト負担は相当重くなっているということです。今回の円安は、20年前と比較すると深刻なダメージを日本経済に与えていることは事実です。
3-4.2022年4月日銀政策決定会合の予想
YCC・資産買入方針・フォワードガイダンスといった全ての政策変更はない見通しです。しかし、一部の海外勢は「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」との文言を変更してくるのではとの期待があるようです。
また、黒田総裁のスタンス自体には変化がなかったとしても、残り8名の政策委員の中から、これまでの姿勢を変更しようという動きが出てくる可能性もあります。
しかし、黒田総裁は直近の発言で強力な緩和を続けると述べています。コストプッシュ型のインフレでは持続的にBOJの物価目標を達成することは難しく、賃金上昇も見られていないため、4月会合での変更はなさそうです。
関連:ブルームバーグ「黒田総裁:日銀は強力な緩和継続する必要-講演では円に言及せず」
余程政治的な圧力があれば別であるものの、岸田政権は4月末までに緊急経済対策を取りまとめようとしています。それらの効果を見極める前に、BOJに引き締めのカードを切らせる可能性は低いでしょう。
BOJとしては、本来緩和を解除するべき材料は揃っていません。しかし、仮に解除するのであれば結果的に円高になる必要があり、現在の様にFRBが利上げを急いでいる局面ではその可能性は低いため、なるべく市場とのコミュニケーションで時間稼ぎをしながら、FRBの利上げサイクルなどを市場が全て織り込んだ状態まで待ちたいと思っているのではないでしょうか。
3-5.2022年4月以降の日銀政策予想
米インフレがピークを打ち、FRBの利上げ織り込みも全て織り込んだ状態が年後半にくる可能性があります。そのタイミングで岸田政権の緊急経済対策の効果が出ていれば、BOJが9月頃に引き締めをスタートして、再び円高に戻るというシナリオがBOJが考えるベストシナリオでしょう。
この際の引き締め策は、YCCの年限を10年から短期化、YCCの許容変動幅の拡大の2つが予想されています。隠れた目的は円高誘導であり、FRBの利上げ休止とBOJの引き締め開始というように政策方向が逆方向に向いているというタイミングが最も重要になります。
3-6.2022年4月以降のドル円値動き予想
一部BOJの政策変更への警戒感と溜まり過ぎたUSDロングの解消によって、2022年4月現在USD/JPYは高値から若干下落しています。しかし今回緩和維持ということになれば、GW中のFOMCに向けて再びUSD買いがスタートし、130円を超える展開を予想します。
ただし、FOMCのタカ派転もある程度織り込まれているため、一気に135円を目指す展開にはならないでしょう。130円近辺でのもみ合いになると予想します。
また、万が一引き締め方向への変更が一部でもあるなら、もう一段のドル円ロングポジションの解消が入り、125円程度までの下落の可能性があります。しかし、125円は押し目買いの絶好の水準でしょう。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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