2021年6月7日~6月13日の週は、長期金利の変動や各国中銀の政策決定会合に注目が集まりました。
この記事では、2021年6月7日~6月13日の為替動向の振り返りと、6月下旬にかけての見通しを解説します。
目次
- 2021年6月7日~6月13日の振り返り
1-1.メキシコ議会選挙
1-2.JOLTS(求人労働異動調査)によるデータ
1-3.カナダ中銀の動きは?
1-4.米中関係は?
1-5.EUと英の関係は?
1-6.ECB理事会の動向は?
1-7.米CPI(消費者物価指数)の影響は? - 今週の注目材料は?
2-1.FOMC
2-2.日米金利差とドル円
1.2021年6月7日~6月13日の振り返り
6/7の週は、米金利は低下したもののUSD買いが優勢となりました。米CPIは予想を上回ったものの、金利が上昇したのは一瞬で低下し1.5%を明確に下回りました。その他、注目されたECB理事会やBOC(カナダ中銀)政策決定会合は、現状維持となり為替への影響は限定的でした。また、EUと英国の北アイルランド関連のBREXIT合意履行をめぐる摩擦が再燃しており、GBPの上値が若干重くなりました。
ドル円は週を通して109円台での振幅が続きましたが、ユーロドルは1.22台から週末にかけて1.2100を割り込むなど、USD買いが進行しました。
1-1.メキシコ議会選挙
前週末行われたメキシコ議会選挙は、与党(MORENA)を中心とする連立与党は500議席中265~292議席を獲得する見込みです。連立与党として過半数は確保できそうですが、憲法改正等に必要な絶対安定多数である3分の2の確保には失敗する模様です。
これまでの与党は、大企業を国有化して外資を締め出そうとしたり、市場フレンドリーではない偏った政策が多かったですが、この結果を受けて、今後そのような政策は通りづらくなるということが好感されました。USD/MXN(メキシコペソ)は直近半年のサポートラインであった19.8000を明確に割り込み、MXN買いが強まっています。
1-2.JOLTS(求人労働異動調査)によるデータ
アメリカでのJOLTS(求人労働異動調査)によるとm求人件数は前月比+99.8万件の928.6万件(予想:820万件)と2000年の統計開始以降最高水準を再び更新しました。また、自発的離職者数も最高水準となったように、離職しても別の働き口が見つかるとの確信が労働者の間で強まっているようです。
この様な状況では、安い賃金で働く人は少ないことが予想され、実際に雇用主は人材を獲得するために賃上げや健康保険などの福利厚生の拡充に動いているとのことです。
1-3.カナダ中銀の動きは?
BOC(カナダ中銀)政策決定会合は、週30億CAドルの国債購入は据え置き、金利のフォワードガイダンスも据え置きの現状維持となりましたが、為替市場の反応はCAD(カナダドル)売りとなりました。引き続き2022年後半の利上げ開始を示唆していますが、声明文の中にCADの現状の為替水準について言及された部分があったことが、CAD売りを誘ったと思われます。
しかし、そこまでサプライズというわけではなく、単純にCADロングが貯まり過ぎていたため、一時的な調整が入っただけだと思われます。
1-4.米中関係は?
米中関係には注意が必要です。バイデン大統領は中国企業が運営するTikTokとウィーチャットアプリに対するトランプ前大統領の禁止令を取り消す方向だと、関係者の発言として伝えられました。また、米商務長官と中国商務相が両国の貿易と投資関係推進で一致し、相違を適切に処理することで合意したと、中国サイドから発表がありました。これらの、ニュースで一時的に人民元が買われました。
一方で、米とEUが中国に対抗しWTO改革に取り組む姿勢を表明し、現行ルールを巧みに利用しようとする国々による不公平な行動を排除するとし、名指しこそしませんでしたが、中国を念頭に置いた動きといえます。更に、週末のG7でも中国に対して警戒を強めており、今後の動向に注意しなければなりません。
1-5.EUと英の関係は?
EUと英国の関係に注意が必要です。発端は3月に北アイルランドへの食品輸入検査を巡る猶予期間を英国が一方的に延長したことです。EUは英国の離脱合意違反だとして法的措置を取ると表明しながら、協議を続けてきましたが、全く解決が見いだせないことから双方が歩み寄りを求めて非難を始めました。これまでBREXIT関連のネガティブニュースを無視してきたGBP(イギリスポンド)ですが、ワクチン普及ネタにもようやく飽きたのか、徐々に反応してきました。
更に、ロックダウン部分解除後から変異株の影響もあり、日に日に感染者数が増加中であり、6/21の完全解除に向けて暗雲が立ち込めています。これまで、相当GBPロングポジションは溜まっていると思われ、何かをきっかけに大きなGBP売り調整が入る可能性が高まってきました。現時点での下値目途は1.3900近辺だと予想します。
1-6.ECB理事会の動向は?
10日のECB理事会では、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の購入を高いペースで続けると表明し、ラガルド総裁はその理由を、「市場金利の持続的な上昇が経済全体の調達環境のタイト化を招く可能性があり、そのようなタイト化は時期尚早であり回復へのリスクになるから」と説明しました。
また全体としては、成長とインフレの予測を上方修正し楽観的なリスク認識を示したものの、総裁自身は「物価上昇圧力は依然として弱い。ユーロ圏の経済生産は目先、パンデミックの行方と再開後の経済がどう反応するかに左右されるため不確実性は引き続き高く、新型コロナウイルス流行に伴う経済危機からの回復を支える取り組みは続ける」と述べました。
このように、見通し改善と慎重なアプローチの対照的な組み合わせは、当局者間の妥協を示唆している可能性があります。実際に総裁は、債券購入のペースを巡り「幾つかの異なる意見があった」と認めています。ただ、緩和継続を決定した大きな要因は、やはりインフレが持続的ではないという予測に基づいてのものだったと思います。
たしかに2021年は1.9%に予想を上昇修正しましたがそれでも2%には届かず、更に2022年は1.5%、2023年は1.4%と落ち着く見通しとなっている中では、EUR高の影響が気になる中で敢えて緩和を解除する必要はなかったということでしょう。
1-7.米CPI(消費者物価指数)の影響は?
米CPI総合CPIは、前月比+0.6%・前年比+5%、コアCPIは前月比+0.7%・前年比+3.8%と予想を上回りました。ベース効果が含まれるため前年比は参考になりにくいですが、前月比でもかなり高い伸び率を維持しています。今年に入って前月比平均+0.5%のペースで上昇していますが、仮にこのままのペースが続くと2022年前半にベース効果がなくなった後でも前年比5%程度のCPI上昇ということになり、インフレは一時的というFRBの判断は当てはまらなくなります。
また、仮に前月比+0.2%で今後推移した場合だと来年には前年比+2%強になる計算となり、FRBが導入したAIT(アベレージ・インフレーション・ターゲット)2%の概ね範囲内ということになりますのでこの前月比の数字が今後重要になってくると思います。
今回の市場の反応は一瞬金利が上昇しただけでそこから怒涛の債券買いが入り、1.43%まで急低下しました。市場は度重なるFOMCメンバーのハト派発言を尊重し、織り込み過ぎた利上げポジションを吐き出したということでしょう。
しかし、為替市場では、リスクオンのUSD売りポジションが多かったことから、金利の値動きにつられたUSD売りは限定的となりました。
2.今週の注目材料は?
今週の注目材料を2点解説します。
2-1. FOMC
ポイントは「インフレは一時的」という解釈が変わっているのかどうかということと、ドットチャート(政策金利見通し)で利上げ開始時期がどのようになっているかです。インフレに関しては、データが出そろっていないことから解釈が変わる可能性は非常に低いと考えます。その場合、変更なしの可能性の方が高いと考えられますが、現時点の数字から判断するのであれば、若干の前倒しリスクはあります。
前回3月は、18名中4名が2022年中、18名中7名が2023年末までの利上げを見込んでいましたが、2023年まで金利据え置きを見込む11名メンバーから、数名が利上げ見通しに転じるだけであり、利上げ派が大勢になる状況です。
マーケットは先週のCPIの後、米債ショートの解消を迫られて金利低下しましたが、為替市場ではそこまでUSDショートが溜まっているというような値動きには見えませんでした。むしろ、FOMCに向けて若干USD買い圧力が強まり、FOMCでハト派維持が確認できれば再びUSD売り再開という展開を予想します。
2-2. 日米金利差とドル円
今年年始から3月末まで米金利が1%から1.75%まで急上昇する局面では、ドル円も米金利に連動し103円から110円ミドルまで上昇しました。しかし、4月から徐々に米金利が低下を始め、先週米金利が急低下したことで日米金利差は1.42%程度になっています。ドル円が金利に連動するのであれば少なくとも107円台前半まで下がっていてもおかしくありません。実際にIMM(シカゴの通貨先物)のポジションを見ていても、6月に入ってから円ショートが一気に減ってきており、USD/JPYの売り圧力は強まっていると思われます。
たしかに、110円近辺から上に上がらないという印象は強いですが、109円近辺での底堅さも異常です。IMMには表れない投機筋が将来的な日米金利差拡大を予想してドル円を買っているか、もしくは日本の機関投資家が円安を見越して米債をオープンで買いに来ているといったことから、ドル円は底堅くなっていると思われます。
また、米金利が低下する時には株が底堅く推移することからドル円は下がりにくく、今後米金利が発射台の1.6%台に戻るとしても、株の下押し圧力はないことから、もし108円近辺まで下がることがあれば、押し目買いのチャンスと考えます。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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