2022年は、ロシアがウクライナに侵攻したことで、エネルギーと食料品価格が高騰し、各国中銀は前例のないペースで利上げを実施しました。中銀にとっては供給サイド起因の物価上昇に対して、景気と物価のどちらを重視するのか非常に難しい判断を迫られた年だったでしょう。
英国での債券市場のクラッシュや、日本政府による、1998年以来の円安対策として介入など、歴史的に見ても珍しいイベントも発生しました。
今回は、2022年のFX市場の振り返りと重要だったポイントについて、ファンドマネージャーである筆者が解説していきます。
※本記事は12月12日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 2022年1月~3月の展開まとめ
- 2022年4月~6月の展開まとめ
- 2022年7月~9月の展開まとめ
- 2022年10月~12月の展開まとめ
- 2022年の相場で重要だったポイント
5-1.利上げに伴う市場の反応
5-2.リスクオン・オフに対する市場の反応 - 2023年にFXで儲けるためのポイント
6-1.欧米はどこまで利上げができるのか
6-2.BOJの金融政策の方針は変わるのか - 2023年はFXで長期投資を
2.2022年1月~3月の展開まとめ
FRBが3月に0.25%の利上げを実施するまでの間の利上げ期待による金利面からのUSD買いと、ロシアのウクライナ侵攻を材料に、リスクオフの観点からのUSD買いが進行しました。
1月~3月は、まだ引き締めによる景気悪化という段階ではなく、利上げ初期の相場展開でした。他国と比較して米国の経済状態が相対的に良くFRBの利上げに十分耐えられるというポジティブな意味での、米金利上昇とUSD買いでした。
ここに、ロシアのウクライナ侵攻という地政学リスクが乗りました。以降、リスクオフによるUSD買いと、エネルギー価格高騰による資源国買いという二つのストーリーが走りました。
ロシアの蛮行に西側諸国が即座に反応し、結果的にお互いに制裁を掛け合ってしまったことで、西側諸国の中でも特にロシアからのエネルギー依存が高い欧州経済が大ダメージを受けてしまいました。エネルギー不足による経済活動の停滞だけでなく、エネルギー価格の高騰によるインフレの問題、更にはロシアとウクライナという2大小麦輸出国からの小麦の供給が止まったことによる食料品価格の高騰が重なってしまいました。
これに対し米国は、エネルギーも小麦もある程度自国で賄えることができました。また地理的にも遠いため、相対的に米国の優位性が高まる形となりました。
米国以外でも同じくエネルギーが生産できる地理的に遠い国のオーストラリアやメキシコの上昇も目立ちました。戦争の発生により永世中立国のスイスも買われました。
1月~3月の時点では、地政学リスクは局地的なものに留まるという予想が大半で、世界的なリスクオフという展開にはなりませんでした。USD買い一辺倒にはならず、地政学リスクの好影響を受ける国と悪影響を受ける国がしっかりと選別されて取引されていました。
2.2022年4月~6月の展開まとめ
ロシアのウクライナ侵攻の問題が長期化するとの思惑から材料視されなくなりました。引き続きFRBの利上げ方針を受けたUSDの上下が中心だったものの、これまでの0.25%刻みでの利上げから、0.50%・0.75%利上げと前例がないスピードでの利上げ方針に舵を切りました。
新たな材料として中国の景気動向が加わりました。主要国の中では米国以外にオーストラリアやスイスでも利上げが開始されました。
FOMCメンバーの発言はパウエル議長だけでなく、ブレイナード理事(5月に副議長に昇格)の発言がFOMCの総意として捉えられ相場が反応するようになりました。ブレイナード理事は元々ハト派の代名詞だったものの、副議長になりパウエル議長と同じく主流派に属するようになったのか、速いペースでのバランスシート縮小に言及するなど、これまでのスタンスを180度変えました。市場は驚き、USD買いが進行しました。
世界がコロナショックから立ち直ろうとしている時に、中国では引き続きゼロコロナ政策が維持されました。上海のロックダウン延長など規制が強化される事態に、市場は急速に中国景気悪化を織り込み始めました。
資源下落に伴いAUDやNOKなどの資源国通貨が売られました。実際に出てくる中国の経済指標はどんどん悪化し、リスクオフ地合いが強まりUSD買いが進行していきました。
このUSD買いの流れを止めたのもFOMCメンバーと中国でした。ブレイナード理事と真逆でタカ派の代名詞だったセントルイス連銀のブラード総裁がインフレの状況次第では早期利下げの可能性に言及したことと、中国が大規模な刺激策を打ち出したことです。
参考:ブルームバーグ「セントルイス連銀総裁、利上げ前倒しなら23年には利下げ可能にも」
しかし、再びUSD買いの流れに引き戻されます。ブレイナード副議長が、ブラード総裁発言後に台頭していた9月利上げ休止観測を否定したのです。更に良好な米雇用統計、落ち着くと思われたCPIがまさかの上昇加速という事態により、一気にUSD買いとなりました。
参考:ブルームバーグ「FRBブレイナード氏、米利上げ9月休止の可能性「非常に低い」」
6月FOMCの直前のブラックアウト期間に、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)のニック・ティミラオス記者から「6月会合で0.75%の利上げを検討する可能性がある」というリーク記事が発表されました。この時からWSJを使って市場の利上げ織り込みを誘導していくというFRBの新たな市場との対話手法が確立されたと言えるでしょう。
参考:ブルームバーグ「FRB、今週0.75ポイント利上げ検討の公算大-CPI加速などで」」
しかしUSD買いの流れは、スイス中銀(SNB)のサプライズ利上げで一旦止まりました。そして、市場は次のテーマを探し始めます。スイスがマイナス金利解除に向けて明確に走り始めたため、残るマイナス金利組のECBとBOJの金融政策の次の一手に注目が集まりました。
3.2022年7月~9月の展開まとめ
中国の景気悪化が完全に織り込まれたため材料視されなくなり、FRBの引き締めの方針が市場の中心材料となりました。FOMCメンバーからの様々な発言により市場の利上げ織り込みが変化していました。
7月~9月はエネルギー価格の上昇が問題視され、特に欧州でその傾向が強まりました。
SNBに続きECBが突如として利上げ方針に転換しました。明らかに経済状態が悪いにもかかわらず、インフレ抑制に舵を切ったECBやBOEを受けて、各国とも利上げに耐えることが出来る経済状態なのかどうかという点が着目されるようになりました。
また、24年ぶりに日本政府がUSD売り円買い介入を実施や、英トラス新政権の財政出動案をきっかけに債券市場のクラッシュが発生するなど、大荒れの時期となりました。
7月~9月は、本格的にインフレ警戒感が高まりました。今回のインフレは、当初はコロナ禍以降の人と物不足から始まりました。その後ロシアのウクライナ侵攻を受けた経済制裁によってエネルギー・食料品が高騰しました。全て供給サイドが原因です。
金融引き締めが非常に効きづらいということで、利上げでインフレが抑制できるのかということがポイントでした。特に欧州は、ガス価格高騰が酷くスタグフレーション懸念からEURやGBPが売られていきました。
相対的に良好な経済状態の米国でも、利上げが効きにくい中の政策決定を迫られました。1回の会合で1.00%の利上げ期待まで浮上し、USD買いとなりました。
実際にBOCは9月に1.00%の利上げを実施しています。しかし、米第2QのGDPが2期連続でマイナス領域に落ち込み利上げが出来なくなることが懸念されてUSD売りに転換しました。
その他、ポーランドでは利上げペースを緩めるなど、一足先に引き締めをスタートしていた新興国からは引き締めスタンスの後退が見られるようになりました。徐々に利上げそのものではなく、実体経済に焦点が移りはじめました。
FOMCメンバーからも行き過ぎた市場織り込みを剥がすべく牽制発言が相次ぐようになりました。8月に発表された米CPIが予想以上に低下した為、USD売りとなりました。
しかし、恐らく物価があまり抑制できていないことに気付いたFOMCメンバーから0.75%幅の利上げなどのタカ派発言が相次ぎました。ジャクソンホール会議(JH)でもパウエル議長が早期利下げを明確に否定して再びUSD買いに戻っていきます。
参考:ジェトロ「パウエル米FRB議長がジャクソンホールで講演、急速な金融引き締め継続を示唆」」
更に9月に発表された米CPIが予想を上回りました。FOMCでのパウエル議長が「痛みを伴ってでも引き締める」発言が出たところでUSD高が加速しました。
参考:ブルームバーグ「パウエル議長、さらなる「痛み」への覚悟促す-積極利上げ継続へ」」
ECBが引き締めに転換していたこともあり、唯一マイナス金利のまま取り残されたBOJの金融政策スタンスを材料に投機筋は円売りを継続していました。しかし、9/22についに日本政府は1998年6月以来、約24年ぶりとなるUSD売り円買いの為替介入に踏み切りました。
この日はいつも通り昼過ぎにBOJが金融緩和政策の維持を発表し、15:30から黒田総裁の記者会見が行われました。緩和政策維持の強い姿勢が確認されたことで、ドル円は16:00頃に145.90円近くまで上昇してしまいました。為替介入はこの動きの後に実施されましたが、あっという間に140円前半まで5円程度下落しました。
今回の介入は、黒田総裁が緩和継続を力強く宣言し、投機筋も安心して円売りを仕掛けているなかで、突然実施されました。投機筋としては、BOJのスタンスと真逆の介入が、ましてやBOJ会合直後に入るとは全く想定外だったでしょう。また時間帯も東京時間ではなく海外勢が主役の非常に流動性が厚い時間帯に実施するなど、従来と違い相場の流れを見ながら臨機応変に行ってきた印象です。
予想外の介入方法は非常に効果的で、結果的に9/22の介入だけでは円売りは抑えられなかったものの、投機筋は介入に怯えるようになりました。再びUSDJPYが高値を更新するまでの時間は稼げたと言えるでしょう。
そして最後にUSD高のピークを付ける局面の材料になったのは、英国発のリスクオフでした。9月に発足したトラス政権は、首相選を戦っている最中から物価高騰に苦しむ英国民を救うために大規模な財政出動を予告していました。政権発足直後、BOEや英財務省、及び市場との対話を無視して、一方的に大規模財政出動計画を発表してしまいました。
一方、BOEの方針は利上げとバランスシート圧縮であった為、保有債券を市場に放出する方針を決めていました。英債券市場では、元々BOEの債券売りが強い状態のなか、トラス政権も資金調達の為、債券を発行して売りを投入することになります。
BOEも売り、英財務省も売りとなると、英債券市場の需給は完全に壊れてしまいます。これを察知した英債券を保有している投資家が一斉に債券を売り始めたため、市場には売り手しか存在せず債券価格が暴落し金利が急騰しました。外国人は英資産を売りに走ったため、株も通貨GBPも全て売りという、クラッシュ相場になりました。
GBP/USDが2日間1.1250から1.0350まで8%下落する中、リスクオフのUSD買いとなり、ドルインデックス(DXY)も高値を付けました。最終的には、BOEが開始予定だったバランスシート圧縮を1か月延期し、流動性を供給しながら、危機状態に陥っていたと思われる英債券を保有している英年金ファンドなどに必要分売却の機会を提供して救済してあげることで、漸く英全資産売りの流れは止まり、GBP/USDの反発主導でUSD売りとなり、USD高が止まりました。
4.2022年10月~12月の展開まとめ
10月になってもFRB引き締め期待が強くUSD買いが進行しました。しかし9月のドルインデックス(DXY)の高値を超えられないと、力尽き徐々にUSD売りに転じました。一旦USD売り地合いに転換すると、市場はUSD売りサイドの材料にしか反応しなくなり、最後は予想を大幅に下回った米CPIをきっかけに今年初めてのUSDロングの調整がしっかりと入りました。
10月~12月には、米国だけでなく殆どの中銀の利上げペースは減速していきました。まだ政策金利の最終到達点(ターミナルレート)まで距離があり、利上げを継続すると中銀からメッセージが出ているにもかかわらず、株が底堅く推移しリスクオンのUSD売りが優勢となりました。このUSDの流れの中で日本政府は今年2回目の介入を実施し、中国のゼロコロナ政策を巡る思惑も相場の材料に戻ってきました。
9月末にBOEの緊急債券市場救済策でGBPが反発したのをきっかけに、市場のリスクセンチメントが改善し、USD買いの勢いは止まりました。BOEの時限的な政策が終われば、再び需給面の悪化から債券市場がクラッシュする懸念はありました。
トラス政権は打ち出した減税策を次々に撤回したため、徐々に市場は落ち着きを取り戻しました。しかしトラス政権の支持率は回復せず、閣僚が次々に辞任するなど、政権が維持できなくなり、トラス首相は僅か1か月で辞任に追い込まれ、緊縮財政派のスナク新首相が引き継ぎました。
スナク新首相は、同じく緊縮派のハント財務大臣と共に、トラス政権の政策の多くを方向転換しました。本来、景気対策としてトラス政権が発表した減税策を取りやめるということは、英国経済にとっては悪影響があるはずです。しかしスナク政権の財政規律方針はBOEと同じ方向を向いているため市場に好感され、GBP買い主導でUSD売りが他通貨ペアにも伝搬していきました。
BOEは英政府の財政出動がなくなったため、慌てて利上げをする必要がなくなりました。急ピッチの利上げ方針を減速させましたが、インフレが上昇傾向にあり資源高の影響で景気もそれなりに底堅いRBAまでもが突如として利上げペースを落としてきました。
その他新興国も含めて、これまで景気よりもインフレ抑制に主眼を置いた急速な利上げによる引き締めから、引き締め効果が実体経済に影響を及ぼすまでじっくり状況を見極めつつ一旦景気に配慮するようなステージに移行していきました。
ただ、10月までは米指標は相変わらずCPIやミシガン大消費者信頼感指数など良好でした。市場はまだFRBの急速な利上げへの期待感を維持し続けており、根強いUSDの買い需要は残っていました。そんな中、USD/JPYは1998年の高値を更新し150円を超えました。そして10/21の金曜日の真夜中に今年2回目の介入が入ります(※日本政府は正式には介入のアナウンスをしていない)。
WSJでは、12月以降利上げのペースを緩めるといった記事が発表されました。上昇していたUSD/JPYが切り返して1円程度下落したタイミングで、追い打ちをかけるようにUSD売り円買い介入を実施しました。
更に追加で週明けの10/24の早朝にも介入が入りました。こちらも流動性が全くない時間帯であり、数分で5円程度動くなど、完全に投機筋の想定外となる大胆な手法でした。前例がないタイミングで効果的に介入する日本政府の姿勢や、また即座に5円以上の値幅が出てしまう状況を見て、投機筋は徐々に円売りで攻めることは難しくなってきました。
更にWSJの記事をきっかけに米金利が低下し、リスクオンの展開が強まります。株の上昇と共にこれまでのUSD高の調整がトレンドになりました。
市場はUSD売りの材料だけに反応するようになりました。中国にゼロコロナ政策の緩和期待が少しでも感じ取れる材料が出ると人民元が買われUSDが売られました。
米CPIが予想を大幅に下回ったことから、のちにCPIショックと名付けられるほどの強烈なUSD売りとなりました。時期的にも11月末にサンクスギビングを控え、欧米の決算年度を前に、今年一年調子良くUSDロングで勝ってきた投資家の利益確定によるUSD売りが一気に入る展開となりました。ドルインデックス(DXY)は年初からの上昇分の50%弱戻しました。
しかし、ここで再び予期せぬ中国の材料が発生します。中国国民のゼロコロナ政策に対する不満がついに爆発し、各地で抗議行動が発生すると、市場は再びリスクオフのUSD買いとなりました。ただし、クリスマスや欧米の会社の年度末が近いこともあり、新たにリスクを取るのは短期勢だけということで、それほどUSD買いのトレンドは進行しませんでした。
面子を重んじるはずの中国当局が、習近平主席のゼロコロナ政策をあっさり転換しました。コロナ規制緩和に転換する姿勢を見せたことで、暴動は治まりリスクオフのUSD買いの流れも止まりました。
5.2022年の相場で重要だったポイント
5-1.利上げに伴う市場の反応
2022年は利上げに伴う市場の反応がコロコロ変わったことで非常に難しい対応を迫られました。
第1Qは、コロナショック後の財政出動の余韻が残っていたため、純粋に景気回復による需要増が主導した物価上昇を抑えるための利上げという認識でした。勿論、供給制約が物価上昇の主因の一つではあったものの、どちらかというと世界的に景気は回復するのだという雰囲気が強く、特にFRBの利上げによってUSDが買われていたものの、基本的には景気が良く利上げが出来る国が買われるという展開でした。
ところが、ロシアのウクライナ侵攻後、暫く経った第2Q以降、エネルギーと食料品価格の上昇が厳しく、物価上昇の要因として供給サイドにスポットライトが当たるようになりました。
本来供給サイドが起因する物価上昇には金融政策の効果は大きくありません。中銀はそれでも利上げを実施して、株などの資産価格の抑制や、住宅市場の高騰を抑えることで少しでも物価の上昇を止めようと、景気回復よりもインフレ抑制を重要視するようになりました。
特に、景気悪化が意識され利上げよりむしろ緩和が必要だと思われていたECBの金融政策が180度転換した影響は大きく、またFRBも同調し利上げのペースを一回0.5%、更に0.75%と、これまでの歴史からすると考えられないほどの急ピッチで世界各国の中銀が利上げを実施しました。市場としては、景気の良し悪しは関係なく、とにかくターミナルレートが高く利上げのペースが早い国が選好されました。
その後10月辺りからは、市場が利上げを織り込み過ぎ、利上げに対する反応が徐々に鈍り、別の材料が出てきます。各国のCPIが落ち着き始めたのです。世界の物価は、水準的にはまだまだ高く、利上げは止めないものの、FRBを含め市場が織り込んだほどのペースで利上げをすることはないという主旨の発言が増えてきました。
先行して利上げを実施していた一部の新興国では利上げを休止する国が増えました。織り込まれ過ぎた利上げ及びそれに伴う景気減速を意識した株売りが、急激に巻き戻されました。この頃になると、利上げのペースを抑えるという主旨の発言が出るたびに、リスクオンのUSD売りが強まりました。
2022年12月現在、FRBパウエル議長は、ペースではなくターミナルレートを気にするようにと市場に刷り込んでいます。今後は、利上げに対する市場への反応に注目が集まるでしょう。
5-2.リスクオン・オフに対する市場の反応
2022年は、リスクオン・オフに関しても非常に材料が豊富でした。一方でコロナショック辺りまでは、リスクオン・オフの主役であった円は、全く材料にはなりませんでした。
第1Qはウクライナのロシア侵攻がリスクオフの材料となりました。市場の反応は、全面USD買いではなく、一部資源価格上昇を見越した資源国が買われました。特に、戦地から遠いAUDやMXNなどが選好されました。
第2Qからは、今度は物価上昇によるリスクオフという展開になりました。株は下落トレンドになりましたが、通貨は全面リスクオフのUSD買いというよりは、利上げを推し進める国が選好されました。
10月辺りからは、利上げペース減速によりリスクオンになったものの、各国ともいくら利上げをしようともリスクオンによる株買い・USD売りトレンドが変わることはありませんでした。更に中国がゼロコロナ政策を緩和するという期待が強まり、特にアジア通貨を中心にUSD売りが進行しました。
5-1.英債券市場クラッシュに見る市場との対話の重要性
2022年最も相場が動いたのは、日本政府の介入と英債券市場のクラッシュでしょう。特に英債券市場の崩壊は、参加者だけでなく政府・中銀にとっても非常に興味深い材料になりました。
今回の一番のポイントは、英政府とBOE間で連携がなく全く違う方向を向いた政策を打ち出していたことです。トラス政権は、物価抑制よりも景気浮上に重点を置いて減税政策や財政出動を計画し、国民を救済しようとしました。
一方で、中銀は景気よりも物価抑制に比重を置き、利上げとバランスシート縮小(=量的引き締めQT)の両方を加速させる計画でした。これまでコロナショックでもリーマンショックでも、政府が財政出動をする際には中銀の金融緩和は必ずセットとなってきていました。しかし今回は、目的は国民家計の救済で同じだったものの、その手段が真逆でした。
政府はどんどん債券を発行しようとするなか、中銀もQTで保有債券を市場に売却しようとし、債券買い手に対して、売り手が増えすぎてしまい、需給バランスが崩れてしまいました。
どう計算しても、売り手超であることが明らかになると、英国債を保有している投資家も値が崩れる前に保有債券を売ろうとしてしまい、債券クラッシュを引き起こしました。結局、本件はBOEが一時的に債券買い取り(QE)策を発表し、投資家が売らなければならない債券を中銀が買い取ったところで反転しました。債券市場を崩壊させてしまった責任を取ってトラス政権がスナク政権に変わり、減税などの財政出動策をことごとく廃止したことで落ち着きました。
政府と中銀の緊密な連携が非常に重要であることを再認識させられた事案でした。
6.2023年にFXで儲けるためのポイント
6-1.欧米はどこまで利上げができるのか
英国はほぼ確実にスタグフレーションに陥り、欧州も景気後退する可能性が高いと見られています。今後トラス前首相のエネルギー補助政策も廃止したことから、エネルギー価格が上昇するのは確実でしょう。BOEも同様の見方を示していることから、ターミナルレートは相対的に低くなるでしょう。
ECBはまだ景気後退までは予想していません。しかし、最近欧州各地でストライキが発生し続々と賃金が上がってしまっている状況では、ECBの想定以上に物価は高止まりすると思われます。従って、ECBが利上げをすればするほど景気は落ち込むため、やはり最終的には、ECBのターミナルレートも相対的に低くなるでしょう。
一方で、米国はかなり見方が分かれています。最近ではパウエル議長も景気後退させずに物価を抑えるソフトランディングの可能性が高まっていることに言及しており、まだ景気後退までは見込んでいません。
ここに絡んでくる材料が中国のセロコロナ完全解除です。現在の米国は、物価高に苦しんでいることは明らかです。しかし雇用市場が持ち堪えて賃金が上昇している中、ガソリン価格の下落により何とかなっている状況です。
中国の経済活動が活発化すると需要増によるエネルギー価格と物価の上昇の影響と、工場が稼働することによる供給制約の解消を受けた物価低下圧力のどちらが強いかを考えていかなければなりません。この中国の影響が最も注視するポイントになる可能性が高いと考えます。
6-2.BOJの金融政策の方針は変わるのか
BOJの金融政策の方針は、2023年第1Qの注目材料です。海外勢からすると、日本のコアコアCPIがBOJの目標の2%を超えてきている中、BOJが緩和政策を維持する意味が理解できないでしょう。特に2023年4月の黒田総裁退任のタイミングで新総裁と共に緩和解除というシナリオを立てて、円金利上昇とJPY買いで攻めています。
たしかに黒田総裁であれば、海外勢の勝手な相場の雰囲気の醸成に対してきっぱりとNOをつきつけるのでしょう。しかし新総裁がどう対応するのかは分かりません。
BOJの主張は非常に論理的です。2022年12月現在の物価上昇は、エネルギーと食料品価格が原因です。金融政策が効かない分野が主因となっているなか、賃金の上昇がみられず、むしろ家計の実質所得は減少しています。金融政策は緩和的である必要があるということです。
また、来年になれば米国含め諸外国が徐々に引き締めを緩めていくことは明らかです。BOJが動かなくても円安圧力は減退します。円安圧力減退によって、輸入物価価格は下がるため、物価上昇も抑えられます。つまり、何もしなくても日本経済は上手く回っていく可能性があるのです。
逆にBOJが動くと、海外の投機筋がJPY買いポジションから利益を得て、相場を蹂躙する可能性があります。円金利が上がると、変動金利で借りている大量の住宅ローン契約世帯の購買力が落ち込み日本経済が更に沈む可能性があります。
7.2023年はFXで長期投資を
今回の記事では、2022年のFX相場と、2023年の注目ポイントを解説しました。
FXに関心がある方は、景気後退やインフレ、金利動向などに注意しながらご自身でも情報収集を行い、まずは少額からの投資を検討してみてください。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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