2021年3月も、2月に引き続き米金利上昇とUSD買いの展開となり、106円半ばで始まったドル円は、バイデン政権の1.9兆ドルの追加経済対策による景気回復期待とそれを受けた米長期金利の上昇によって日米金利差拡大とともに上昇し、110円を突破しました。米長期金利の上昇スピードが速かったため、FRBがけん制するかどうか市場は注目していましたが、パウエル議長は容認姿勢を取りました。
一方で、FOMCメンバーによる利上げパスを確認してみると、まだ大多数が2023年まで金利据え置きを予想しており、短期金利は引き続き低水準となりました。FRBの緩和姿勢を確認できたことから、長期金利が上昇したにも関わらず、株は底堅く推移しました。
2021年4月も米金利上昇、米株高、ドル高の流れは続くのでしょうか。これらの流れを作り出した材料について、4月の為替相場の傾向とともに解説します。
目次
- 米国追加財政案(2.25兆ドルのインフラ投資)
- ワクチン普及スピード
- 2021年4月以降のリスク材料は?
3-1.アルケゴス・キャピタル・マネジメントの投資損失の影響は? - 4月の為替相場のアノマリー
4-1.アノマリーとは
4-2.アノマリーの利用方法 - まとめ
1.米国追加財政案(2.25兆ドルのインフラ投資)
1.9兆ドルの追加経済対策への期待と景気回復期待による米長期金利上昇が1月からのドル高・円安をもたらしましたが、経済対策第2弾としてAmerican Jobs Plan(2.25兆ドルのインフラ投資案)が発表されました。
そして4月中頃には、American Families Planによる、更に家庭の教育支援などについての第3弾の追加財政も計画されています。既に第2弾追加財政期待は織り込まれつつあり、金利と株は上昇しUSDも買われています。
しかし、今回は一筋縄ではいかない可能性があります。インフラ投資は法人税の引き上げとセットとなっているため、共和党の反対が予想されます。
1.9兆ドルの財政案を財政調整措置を使って強引に民主党の賛成だけで通過させたように、第2弾財政案を財政調整措置の範囲内とすることが可能なのかどうかも、はっきりしません。
万が一、第2弾追加財政規模が、大幅に縮小されたりすると、織り込みが剥落し、株ロングの調整が入る可能性があります。
※財政調整措置…法案が上院で審議される際、議事妨害を受けることなく単純過半数での可決が可能となる措置。現在の上院の勢力図は民主:共和は50:50。
2.ワクチン普及スピード
バイデン大統領は5月1日までに全米の成人全員を接種対象にする目標を掲げ、さらに普及スピードを加速すると明言しました。現在の動向としては、欧州で感染拡大している変異株の動向が気になります。
これまでの傾向では、欧州から1か月弱遅れて米国で感染拡大がみられています。ワクチン接種ペースが速まっても、変異株による感染が拡大すれば、再度ロックダウンに繋がるような動きとなり、経済の回復に水を差すことになります。ワクチン接種ペースと同時に感染拡大の動向にも注目する必要があります。
FOMCを見る限り、FRBは2023年まで利上げをしないということになっていますが、市場は日に日に利上げの織り込みを強めており、現在は2022年後半に1回の利上げを織り込んだ状態です。
これは、ワクチン普及に加えて巨額の財政出動による経済活動の正常化、それに伴う資源価格の上昇、が前提となっていますが、変異株の感染拡大が現実のものとなれば、FOMCの見通しを追認する形となり、金利は低下する可能性があります。
3.2021年4月以降のリスク材料は?
2021年4月は、1月、2月、3月と同じように景気回復楽観論の流れが続きそうですが、ある程度ポジティブな材料を織り込んだ状態であり、何かちょっとしたきっかけでポジティブな材料が欠けてしまうと、楽観シナリオが崩れてしまう可能性があります。
- 上述した第2弾追加財政案が通過しない場合
- コロナ変異株感染拡大を受けた再ロックダウンにより経済活動が復活しない場合
上記以外のリスクについて取り上げてみます。
3-1.アルケゴス・キャピタル・マネジメントの投資損失の影響は?
先月末、野村ホールディングスやクレディ・スイス・グループが取引先のヘッジファンド(アルケゴス・キャピタル・マネジメント)の投資損失によって巨額損失計上の可能性があると発表しました。更に、三菱UFJ証券、みずほ証券と損失を公表しました。ドイツ銀行やBNPパリバ銀行も、損失があるとのことです。
このヘッジファンドはファミリーオフィスの形態をとっており、情報開示義務はなく、何を取引していたのか、どの程度のリスク量を保持していたのか、まだわかっていない部分が多いですが、これまでの報道を見る限りではこのヘッジファンド単体では大きなインパクトはないと思われます。
ただ、このような動きは、金融緩和によって生じたバブルの氷山の一角であり、このヘッジファンドだけ特殊要因なのかどうか、他のヘッジファンドでは同様のことが発生していないのか、という点について注視していく必要があります。
また、既に米SEC(証券取引委員会)が本件について調査に乗り出していますが、これをきっかけにレバレッジ規制などの新たなルールが出来たり、先日のゲームストップ株の乱高下があったように、何かしら株式市場の参加者に対する規制が出来ることで、株の売りを誘発すると、リスクオフに繋がりこれまでの調子が良かったクロス円ロングの巻き戻しに繋がる可能性があります。
4.4月の為替相場のアノマリー
4-1.アノマリーとは
アノマリーとは、理論的な説明は難しいのですが、頻繁に繰り返されるパターンのことです。
たしかに理論的に説明はつきませんが、相場の世界のアノマリーには、長年の経験によって培われたものや、後になって根拠がみつかった法則など、完全に根拠がないと言い切れないものが多く存在しています。以下に4月のアノマリーを挙げます。
4月は日本企業が新年度へと切り替わる月になります。年金や投資信託などの機関投資家が新年度予算を背景に新規投資計画を元にリスク資産買いに動き出すため、リスクオンの円売りの地合いになる傾向があります。
例年は4月末には、ゴールデンウィークに海外旅行を予定している日本人が増えるので、旅行のための両替が集中することから、円安になると予想されることが多くなります。ただし、2021年は海外旅行が難しい状況ですので、例年とは異なる動きになると予想されます。
一方で外国人投資家にとってみても、4月は四半期末が終わった翌月に該当し、米国では4月中旬の確定申告の終了後例年30兆円前後の税の還付があることから、個人の投資行動が活発になり、株などのリスク資産が買われやすくなります。
米株市場の月別パフォーマンスを確認すると4月は1年で3番目にリターンが良い月です。
4-2.アノマリーの利用方法
アノマリーに乗るべきか、無視すべきか、悩ましい問題です。しかし、相場は参加者の心理がそのまま値動きに反映されるので、根拠があろうがなかろうが、皆が同じ事を考えたときにはその通りの値動きが起こってしまいます。最近はコンピューターで解析することが容易で、このような相場の傾向はすぐに算出されますので、それを元に確率のよい取引に乗る参加者が多く、一旦は同じ傾向になりがちです。
なにより相場の世界のアノマリーには、長年の経験によって培われた確かにそうなるらしい格言や、後になって根拠が見つかった法則など、完全に根拠がないと言い切れないものが多く存在しています。有名なアノマリーはそれだけでも相場に影響を与えてしまうので、覚えておいて損はありません。
ただそればかりに固執していると、足元をすくわれてしまいます。たしかに一時的に、同じ方向に相場が動いたとしても、結局多くの人が同じポジションを持ってしまっていることから、思ったほどの値幅が出ずに、逆向きの材料が出てしまって一斉にロスカットというシーンはよく見かけます。
したがって、アノマリーを積極的に活用するというよりかは、結果としてアノマリーに「乗れていた」というのが正しい表現なのではないでしょうか。まずはアノマリーと関係なくトレンドを見極めて行動し、それがたまたまアノマリーと重なっていたという考え方です。逆に、乗ったトレンドと反対方向のアノマリーがある場合には少し気を付ける程度に意識するぐらいがちょうどいいでしょう。
5.まとめ
2021年4月はこれまでのUSD高を牽引してきた米金利の上昇に一服感が見られます。年後半のFRBの緩和解除を期待したUSDロングを仕込むのであれば、慎重に押し目を待つ方が賢明だと思います。
金利が低下する材料としては、第3弾追加財政が上手くまとまらないといったニュースなどが考えられます。しかし、年始から3か月間、一方通行に走ってきた相場で、ポジションも溜まっており、ある程度の調整が入る時期だと予想されます。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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