2021年5月31日~6月6日の為替動向、6月中旬に向けての見通しは?ファンドマネージャーが解説

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2021年5月31日~6月6日の週は、ISM製造業景況指数や米雇用統計などの指数による影響が複数見られました。

この記事では、2021年5月31日~6月6日の為替動向の振り返りと、6月中旬にかけての見通しを解説します。

目次

  1. 2021年5月31日~6月6日の振り返り
    1-1.中国当局の発表の影響は?
    1-2.オーストラリア中銀の動きは?
    1-3.OPECプラス
    1-4.ISM製造業景況指数
    1-5.ロシア政府の動向は?
    1-6.米雇用統計の数値は?
  2. 6月中旬にかけての注目材料は?2つ解説
    2-1.ECB理事会
    2-2.米CPI(消費者物価指数)

1.2021年5月31日~6月6日の振り返り

5/31の週は、金曜日の米雇用統計前まではドル買い優勢、米雇用統計が予想を下回ったことで月曜日の発射台のレベルまでドルが売られました。4月以降続いてきたドル安の流れに対する調整圧力が先週後半あたりから散見されていましたが、そのなかで米ADP雇用統計と米ISM非製造業景況感指数が予想外の大幅増となったことから一気にドル買いとなりました。

ドル/円は110円台乗せ、ユーロ/ドルは1.21台、ポンド/ドルは1.40台、豪ドル/ドルは0.76台へとドル高が進行しました。また、OECD世界経済見通しが引き上げられるなかで、日本だけはワクチン接種の遅れや長引く緊急事態宣言で見通しが引き下げられており、クロス円が全般的に上昇傾向となり、ドル円の上昇をサポートしました。

ただ、注目の米雇用統計は雇用者数の伸びが予想を下回り、ドル買いの勢いは削がれてしまいました。

1-1.中国当局の発表の影響は?

5月31日に中国当局から、預金準備率を5%から7%に引き上げることが発表されました。足元当局から、何度も人民元高を懸念する発言が相次いでいましたがとうとう行動に移し、為替の変動が激しくなれば更なる追加措置を実施するなど、元高に対する嫌悪感を明確に示しました。預金準備率は2007年以来調整してこなかったことから、本気度が伺えます。

相場の反応としては、イギリスとアメリカが祝日となり参加者が少ない中では、USDCNHも前日の下落分を取り戻す程度までしか反応できず、その後月末のロンドンフィキシングでのUSD売りのフローに押され、CNH売りは継続できませんでした。しかし、その後投機筋のCNH売りが継続したことで緩やかに人民元安が進行しています。

ただ、そもそも人民元高は好調な貿易黒字とMSCI指数における中国のウェイトが高まったことなど、海外からの直接投資が原因となっており、これらの構造要因はそう簡単に変わるものではなく、元高牽制発言によりスピードは緩やかになったとしても、基本的には人民元高方向での推移が続くと見られます。この流れが止まるのは、米利上げ観測台頭によるUSD買いの要因などが考えられますが、他に材料は出にくい状況です。

※MSCI…多くの機関投資家や投資信託のベンチマークとして採用されているモルガンスタンレーが算出・公表する世界株価指数

1-2.オーストラリア中銀の動きは?

6月1日のRBA(オーストラリア中銀)は、7月会合で3年YCC(イールドカーブコントロール)と資産買取を9月以降も継続するかどうか協議するとしているため、今回の会合で目立った動きはありませんでした。ただ、景気回復は従来の予想よりも堅調とし、「最大雇用と物価の目標に向けた進展を支援するため、追加的な債券買い入れを行う用意がある」という文言を削除しました。

したがって、7月の会合で緩和解除期待が高まりましたが、個人的には他国と違ってオーストラリアはCPIの上昇に苦慮しているわけではなく、慌てて政策変更をする必要がある状況ではない中、万が一政策変更をしたことによるAUD高の方が経済にマイナスに作用すると思われ、現状維持の可能性の方が高いと考えています。

1-3.OPECプラス

OPECプラスは5月・6月の段階的引き上げに続き7月も計画通り産油量を引き上げることで合意しました。発表後は、多少原油価格が低下しましたが、今回の会合後の声明では強気な口調で世界の需要回復について語っており、この程度の引き上げでは引き続き需給環境はタイトなままであることが予想され、すぐに反転上昇しました。

1-4.ISM製造業景況指数

ISM製造業景況指数は61.2と良好な数字となりました。新規受注が17年ぶりの高水準、入荷遅延数は1974年以来の高水準、一方で雇用指数は50.9と低調で5月の55.1からも低下し、50%以上の企業が人材確保に苦しんでいるとしました。

これはまさに、製造業者が原材料不足や労働者不足により出荷が遅れているという問題を抱えていることをはっきりと示唆する形となりました。やはりインフレをマイルドなものに戻すには供給サイドの雇用の回復が必要だと考えられます。

1-5.ロシア政府の動向は?

6月3日には、ロシアが政府系ファンド「国民福祉基金」のドル保有をゼロにして、ユーロと人民元・金に振り向ける計画だと発表がありました。ロシアはアメリカからの制裁を受ける中、米国関連資産を減らそうとしておりその一環です。

これを受けて一度米ドルは売られましたが、その直後に米ADP雇用統計(97.8万人←65.4万人、1年ぶりの大幅な伸び)とISM非製造業景況指数(64←62.7、1997年の統計開始以降で最高)が強い数字となったことから、一気にドル買いに反転しました。ただ、ISMの雇用指数は製造業に続いて非製造業でも芳しくなく、ADPのデータと若干の乖離が見られます。

※その後、金曜日の夜中にプーチン大統領から、石油・ガス取引決済にドル以外の他通貨を使う可能性と発言がありました。中国も人民元の国際化を進める中、ドルへの依存度を下げようとしていますし、このまま基軸通貨のドルが維持されるのかどうか、今後数年間に渡る重要なテーマになると考えられます。

1-6.米雇用統計の数値は?

6月4日の雇用統計ですが、非農業部門雇用者数(NFP)は55.9万人増(予想:65万人増)と前回の驚きの低い数字からは回復を見せたものの予想は下回りました。失業率は5.8%に改善するなど、そこまで悪い数字ではありませんでしたがドル売りが進行しました。

労働参加率は低下していましたし、15歳以上の生産年齢人口に占める雇用者の割合である就業比率は、今回は58%と低い水準に抑えられ、ここ数カ月の伸びが60%手前で鈍化傾向を示しています。(パンデミック前は62%程度で推移)

ISMでもヘッドラインの数字は良好でしたが、雇用部門だけを切り取ってみると回復傾向は期待されたほどではなく、今回の雇用統計の結果を受けて、再来週のFOMCでは緩やかな景気回復に言及する可能性は高いものの、少なくとも雇用については出口戦略着手に必要な大幅な進展にはほど遠くあります。

現状の緩和スタンスが維持されるという見方が優勢となり、若干高まった緩和解除期待が後退し、ドルが売られました。

2.今週の注目材料は?

2-1.ECB理事会

今週の材料は、一度速めたPEPP購入ペースをどうするのかという点です。ワクチン普及による経済活動の再開及び、復興基金による景気サポートを先取りする形で景況感系の指数が上昇し、金利も緩和解除期待で上昇を続けています。また、5月のCPIは前年同月比でECBの目標値である2%を上回っています。

しかし、ECBの中期的インフレ見通しは依然としてターゲットである2%を大きく下回った状態であることから、敢えて今回テーパリングを実施して更なる金利の上昇と通貨高を招くことで景気を押さえつける必要はないと考えます。

ただし、5月末の多数のECB高官からの金融緩和継続発言で、ある程度織り込まれていると思いますし、ECBの場合、これ以上の緩和手段はないことから欧州サイドでEUR売り材料は限定的だと思います。ドルサイドに余程強い買い材料がない限りは1.2000が底堅くなると予想します。

2-2.米CPI(消費者物価指数)

前回4月分の米CPIは前年比+4.2%と予想の3.6%を大きく超える驚きの高水準となりました。パンデミックの影響で比較対象元である2020年4月の物価が低下したことによるベース効果もありますが、それにしても高い水準だったといえます。そして、今回発表される5月分CPIも2020年5月からのベース効果の影響があり、高い数字が発表されそうです。

前回のCPI発表後から、米FOMCメンバーは直近の物価上昇について一時的なものという認識を崩していないので、今回高い水準が示されたとしても、大きな影響はないと思われますが、少なくとも実際に出てきている数字を考えると、米金利が低下するという可能性は低く、どちらかというとドル買い方向のイベントだと思います。

しかし、もしサプライズがあるとするならば、予想以上に数字が低かった場合です。現時点では、雇用の数字が著しい回復を見せていない中で、物価が安定化する兆しが見えるのであれば、一段と1.5%をしっかり割れる水準まで米金利は低下することになりそうです。その場合、もう暫くドル売り地合いが継続するでしょう。

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HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム

HEDGE GUIDE 編集部 FXチームは、FXに関する知識が豊富なメンバーがFXの基礎知識から取引のポイント、他の投資手法との客観的な比較などを初心者向けにわかりやすく解説しています。/未来がもっと楽しみになる金融・投資メディア「HEDGE GUIDE」