日・米・欧の物価上昇の違いは?今後の利上げの予想に役立つポイントを解説

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2022年8月現在、世界中の中銀が概ね引き締め方向に舵を切っています。一方で各国の物価状況が違っているため、利上げスピードには差があります。

FRBは早いスピードで利上げを実施し、ECBは日銀と同じ緩和維持グループだったのにもかかわらず、急に方針転換して利上げを実施しました。日銀に至っては、いまだに強力な緩和を推進すると、世界とは真逆の方針を維持しています。

今回は、日本・アメリカ・欧州3拠点の物価上昇の違いと、なぜ中銀の金融政策に違いが生まれるのかについて解説します。

※本記事は8月1日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 金融政策と物価抑制の関係
  2. 米国の物価と金融政策
  3. 欧州の物価と金融政策
  4. 日本の物価と金融政策

1.金融政策と物価抑制の関係

金融政策を引き締めたからと言って、エネルギー価格や食料品価格が低下するわけではありません。一般的には、中銀はコアCPIを見て金融政策を決定していると言われます。

変動の大きいエネルギーと食料品は、多くの場合海外の事情や天候など、金融政策以外の外部要因で決まります。これらを除いたコアCPIの部分が、金融政策の影響が及ぶ範囲だからです。

以下に金融政策がどのように実体経済へ波及するのかについて説明します。

金利が下がると、金融機関は低い金利で資金を調達できるので、企業や個人への貸出においても、金利を引き下げることができるようになります。また、金融市場は互いに連動しており、金融機関の貸出金利だけでなく、企業が社債発行などの形で市場から直接資金調達をする際の金利も低下します。

すると、企業は、運転資金(従業員への給料の支払いや仕入れなどに必要なお金)や設備資金(工場や店舗建設など設備投資に必要なお金)を調達し易くなります。また、個人も、例えば住宅の購入のための資金を借り易くなります。

こうして、経済活動がより活発となり、それが景気を上向かせる方向に作用します。これに伴って、物価に押し上げ圧力が働きます。

また、リーマンショック以降は、政策金利の様な伝統的手法以外に、中銀による資産購入(QE)などの非伝統的な手法によって、投資マネーが株式や新興国債券など伝統的な資産に加えて、暗号資産や非代替性トークン(NFT)、プライベートエクイティ(未公開株式)など幅広い領域に流入していきました。

一方、金利が上昇すると金融機関は、以前より高い金利で資金調達しなければならず、企業や個人への貸出においても、金利を引き上げるようになります。そうすると、企業や個人の「資本コスト」(利払いなど資金調達に伴うコスト)の上昇を通じて、設備投資や住宅投資に下押し圧力をかけるようになり、経済活動が抑制されて、景気の過熱が抑えられ、これに伴って物価に押し下げ圧力が働くことになります。

また、今回の引き締めは利上げだけでなくQEで拡大したバランスシートの縮小も同時に行われています。これまでの緩和マネーが逆流し、株価や住宅などの資産価格の低下を通じた逆資産効果によって、個人消費に下押し圧力をかけるようになります。

特に金利に敏感な住宅市場では、ローン金利の上昇などを受けて、過熱する住宅需要が落ち着く可能性があり、金融緩和を背景に流入していたマネーが住宅市場から逆流するため、住宅価格の上昇も一服するでしょう。その結果、住宅資産の価値低下に加え、すでに住宅ローンを借り入れた人の金利負担感の高まりなどのリスクが増えると、個人消費意欲の減退に繋がります。

2.米国の物価と金融政策

6月のCPIの結果では、総合は前年比+9.1%、エネルギー・食品を除いたコアCPIは前年比+5.9%と1981年以来40年超ぶりの大幅な伸びとなりました。前月比ベースでは総合は+1.3%でコアは+0.7%となりました。

6月はエネルギー価格が前月比+7.5%、CPI全体の上昇の約半分に寄与し、前年比では+41.6%となりました。ガソリン価格は前月比+11.2%と、前月+4.1%から加速しました。天然ガスは+8.2%で、上昇率は2005年以来最大となりました。電力は+1.7%となりました。

食品は+1.0%となりました。家庭で消費される食品も+1.0%上昇で、6カ月連続で少なくとも1.0%上昇しました。

家賃は+0.8%で、1986年以来の大幅な上昇となり、寄与度が高いためコアCPI指数の押し上げ要因になりました。

新車と中古車は共に引き続き上昇し、自動車の整備・修理コストは+2.0%と、1974年以来の大幅上昇となりました。

ヘルスケアは+0.7%上昇。歯科医療費が過去最大の伸びを示したことで押し上げられました。

衣料品は+0.8%で、小売業者が過剰在庫一掃のために値引きせざるを得ないとしているにもかかわらず、上昇しました。

特に住宅と自動車は、ローンを組んで購入することが多いため、金融政策の効果が表れやすい項目です。総合CPIの上昇率寄与度1位はエネルギー、2位が食料品となっており、その他の項目も全般的に上昇しています。

FRBとしては金融引き締め効果が見込まれると判断して利上げを急いだことが分かります。

3.欧州の物価と金融政策

7月のEU基準のHCPIの結果では、前年比+8.9%となり前月の+8.6%から更に加速し、過去最高を更新しました。エネルギー価格の高騰が引き続き主因であるものの、加工食品とサービス価格も上昇しています。

変動の激しいエネルギーと飲食料を除いたコアCPIは前年比+4.0%となりました。コア部分のウェイトが大きいサービスは3.7%でした。

エネルギーが前年同月比で+39.7%となりました。

飲食料(アルコール含む)は、前年同月比で+9.8%となりました。低所得者層はこれらの品目への支出割合が大きいため、政府にとって特に懸念すべき要因となります。

EUの場合、基本的にはエネルギーと食料品の上昇が相当なウェイトを占めながらHCPIを牽引してきたため、ECBの金融政策の効果は殆ど見込めない状態でした。しかし、最近になって、例えばドイツでは政府が燃料税の引き下げなどの一時的な軽減措置を導入するなど多くの国で実質賃金確保の為の財政政策を導入してきたため、金融政策の影響が及ぶコアCPIの部分が拡大しました。

また、失業率は5月に過去最低の6.6%まで低下する中、一部のサービス業は労働力不足に直面している模様で、雇用の増加が続き、賃金と物価に上昇圧力がかかっていきているため、一気に方針を引き締めに転換することになりました。

4.日本の物価と金融政策

6月のCPIの結果では、総合CPIが前年比+2.4%、生鮮食品を除くコアCPIが+2.2%、海外のコアCPIに当たる生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPIが+1.0%となっています。また、生鮮食品だけでなく食品全般も除いたCPIは僅か+0.2%となっており、4月から何も変わっていません。

つまり、物価上昇の殆どがエネルギーと食料品であり、金融政策を引き締めた場合効果を発揮するのは、CPIの0.2%上昇分に対してだけということです。

日銀は、コアコアCPIは2023年で+1.4%、2024年で+1.5%と着実に上昇していくと予想しています。現時点ではもう一段の賃金上昇が必要であり、物価が安定的・持続的に2%に達するような状況ではないという判断です。

アベノミクス以降のこれまでの大規模な金融緩和は経済・物価の押し上げ効果をしっかり発揮しており、引き続き緩和を実施することで賃金上昇を伴う形での物価目標実現は可能であるとしています。議事録でも、多くの委員が物価高は一時的で賃金上昇を後押しするために緩和を継続するべきだと主張しています。

BOJが引き締めに動くためには、EUのようにまず政府が減税などの財政政策を打って、実質賃金を引き上げて個人消費を伸ばす必要があるということです。

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HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム

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