2021年の米ドル円はどう動く?2020年の振り返りと今後の予測、投資の注意点も

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2020年末のドル円相場は昨年末の108.54円と比較し、円高に終わりそうです。円高の背景には、新型コロナウイルス感染が再拡大するなか、経済の失速を抑えるために米国政府がとった緊急対策やFRBによる金融政策などがあります。

2020年を振り返り、そのうえで2021年も円高傾向がこのまま続くのか、それともドルが買い戻されるのかを予想しました。

目次

  1. 2020年のドル円を振り返って
    1-1.日米金利差とドル円の関係
    1-2.米国の経常収支とドル円の関係
    1-3.米国:マネタリーベースの拡大とドル円の関係
    1-4.購買力平価(PPP)とドル円の関係
  2. 2021年のドル円はどうなる
    2-1.ファンダメンタルズに大きな変化が見られない場合
    2-2.ワクチンの安全性が担保され、コロナ終息の見通しが立った場合
    2-3.ワクチンが無効に終わった場合
    2-4.米国:失業率が3%台に低下し、かつ消費者物価が2%台を回復した場合
  3. 投資の注意点
  4. まとめ

1.2020年のドル円を振り返って

2020年を振り返ると、ドル安の要素が多い1年でした。円の高値は3月中旬に付けた101.18円ですが、足元では、もっと円高に振れても不思議ではない環境と言えます。2020年末のドル円相場が円高となれば、2016年以降5年連続となります。

1-1.日米金利差とドル円の関係

新型コロナの影響で世界各国ではロックダウンが実施されました。このため、経済が停滞し、株式市場が急落する場面がありました。経済を安定させるため米国ではFRB(連邦準備銀行)が2度に渡り政策金利を引き下げました。政策金利の誘導目標は史上最低の0.00~0.25%です。

この利下げにより、日本と米国の金利差が縮小しました。金利差とドル円の間には、金利差が縮小すると円が買われやすいという正の相関関係(過去2年のデータ)が確認されています。政策金利低下局面においては、期間の短い国債ほど金利差が大きく縮小する傾向にあります。2年国債の金利差をみると、年初1.69%でしたが12月上旬には0.27%に縮小しました。ドル円相場は下図に示したように、金利差縮小とともに円高が進みました。

項目 米日国債の金利差(%) ドル円 政策金利(FF)
日付 2年 5年 10年 30年
2020年1月6日 1.69 1.73 1.83 1.87 108.36 1.5~1.75%
2020年3月3日 0.94 0.97 1.11 1.29 107.12 1.0~1.25%
2020年3月16日 0.53 0.59 0.70 0.92 105.85 0.00~0.25%
2020年12月4日 0.27 0.52 0.94 1.08 104.14 0.00~0.25%

1-2.米国の経常収支とドル円の関係

経常収支とは、外国とのモノの輸出入や、海外からの利息・配当金などの金額の合計を示します。米国の経常収支は、2020年第1四半期のマイナス1,043億ドルから第3四半期にはマイナス1,705億ドルに赤字が拡大しました。

本来、経常赤字が拡大すれば赤字を埋めるため、米国の金利が上昇します。しかし、現在の国債金利はFRBの金融政策の効果もあり低位で推移しているためドルが買われにくくなっています。そのため、円高に振れやすい環境です。

1-3.米国:マネタリーベースの拡大とドル円の関係

ドルのマネタリーベースとはFRBが市中に直接的に供給するお金のことです。マネタリーベースは今年の3月以降急増し、現在約5兆ドルと過去最大規模に膨れあがっています。この背景には、FRBによる大規模な資産買入があります。資産買入によりドル資金の供給が増えたことがドル安の要因の一つになっていると言えます。

1-4.購買力平価(PPP)とドル円の関係

購買力平価(PPP)とは、同じ製品ならどこの国でも同じ価格(一物一価)であることをベースに、外国為替レートの決定要因を説明する考えのことです。OECD(経済協力開発機構)によると、2019年12月末時点のドル円のPPPは101.47円です。ドル円のPPPは長期にわたって円高傾向にあります。ドル円相場は乱高下しているものの、PPP同様に円高傾向にあります。

2.2021年のドル円はどうなる

2021年のドル円を占う上で重要なポイントは、新型コロナの終息、米インフレ率の上昇、米経済の回復、日米金利差などが挙げられます。FRBはインフレ率の目標を「期間平均で2%」とし、労働市場が十分に回復するまでは現在の金融政策を維持するとしています。以上の点を考慮し、2021年のドル円相場の動きを予想していきましょう。

2-1.ファンダメンタルズに大きな変化が見られない場合

2020年同様にインフレ率が金融政策変更水準の平均2%に上昇せず、消費者物価がコロナ以前の3%台に回復に戻らない状況の場合、今年と同じくドルが買われる要素が少ないため、ドル円は円高傾向に進むと考えられます。

2-2.ワクチンの安全性が担保され、コロナ終息の見通しが立った場合

新型コロナワクチンの安全性が担保され普及し、コロナ終息の見通しがたった場合、ドル円はドル高に反応しない可能性が考えられます。コロナ終息後は、実体経済の正常化、金融政策の正常化が必要となりますが、経済がコロナ以前の水準に戻るには時間がかかると予想されるためです。

FRBが金融政策を変更するためには、インフレ率が長期的に2%を超え、失業率がコロナ禍以前の水準に低下する必要があります。2020年11月の米失業率は6.7%と、コロナ以前の2019年の平均失業率は3.66%と比べ高水準で推移しています。

一方で、新型コロナワクチンが普及することで経済が活性化されれば、政策金利の上昇期待が高まるため長期金利が上昇に転じ、日米金利差の拡大からドルが買い戻される可能性があります。

2-3.ワクチンが無効に終わった場合

ワクチンが無効に終わってしまった場合、FRBはもう一段の緩和措置を取らざるを得なくなります。FRBは更なる金融緩和政策に動くと思われます。

米国の国債金利はプラスで推移していますが、ドイツや日本同様マイナス金利政策を取る可能性があります。この場合日米金利差は縮小し、ドルが売られる可能性が高いと言えます。ドル円相場は、1ドル=100円を下回る円高水準となる可能性が高いと考えられます。

2-4.米国:失業率が3%台に低下し、かつ消費者物価が2%台を回復した場合

失業率がコロナ以前の3%台に低下し、消費者物価が安定的に2%を維持するようになると利上げが実施されます。FF金利はインフレ率を上回る水準に設定されるので政策金利のターゲットレンジは2%以上に引き上げられます。これに伴い、日米金利差が拡大するため日本の機関投資家の資金が米国債に向かう可能性が高いと考えられます。

日本銀行の政策目標もインフレ率2%ですが、日本は超高齢化社会に入っているため目標を達成しづらい環境にあります。また、菅内閣が携帯料金の引き下げを求めるなど物価が上がりにくい環境にあります。このケースでは、日米金利差が拡大するため、ドルが買われ円安方向に動く可能性が高いと思われます。

3.投資の注意点

投資の注意点は過度なレバレッジを掛けないこと、ロスカットルールを定め、そのルールに従うことです。未来のシナリオがどうなるのかは誰にも分からず、相場についても同様です。そのため、複数のシナリオにも対応できるようにリスクを限定・分散し、市場から退場しないように運用を続けることが大切です。

コロナ禍に揺れる現在においては、世界の様々な動向により大きく相場が変動する可能性があります。大損に繋がる可能性も十分に考えられるため、複数のシナリオを想定した上で、期待するシナリオだけに目をとらわれないようにしましょう。

まとめ

今回、2020年を振り返り、2021年のドル円相場はどう動くのかを予想しました。

足元のドル円は円高方向に動く要素が多く、2021年は円高の年となり、1ドル=100円割れを想定する必要もありそうです。ドル円に投資する上では、失業率や消費者物価指数のトレンドを読み取ることが重要です。失業率が改善に向かい、消費者物価指数が上昇に転じたらドルが反転するサインです。経済統計に注視するように心がけましょう。

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藤井 理

大学3年から株式投資を始め、投資歴は35年以上。スタンスは割安銘柄の長期投資。目先の利益は追わず企業成長ともに株価の上昇を楽しむ投資スタイル。保有株には30倍に成長した銘柄も。
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。