2021年12月の相場振り返りと2022年に向けての注目材料・見通しは?ファンドマネージャーが解説

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目次

  1. 2021年12月の相場振り返り
  2. 各国の動向は?
    2-1.米国
    2-2.中国
    2-3.欧州
    2-4.イギリス
    2-5.オーストラリア
    2-6.カナダ
    2-7.その他
  3. 年末年始に向けての注目材料
    3-1.中銀の引き締めスタンスに株が持ちこたえられるのか
    3-2.米中関係

1.2021年12月の相場振り返り

12月6日からの相場は、多くの国の中銀政策決定会合が開催されました。サプライズもかなりありましたが、事前の織り込みが進んでいたことやクリスマス休暇前で新たにリスクを取る参加者が減少していたこともあり、一時的に揉み合うことはあっても大きなトレンドにはなりませんでした。世界各国中銀がインフレ対応を優先させる方向に方針転換するなか、オミクロン株の感染拡大及び、米中関係の悪化も重なり株が上値重く推移し、長期金利は低位安定しました。

USD/JPYは、タカ派なFOMCを受けて114円台に上昇する場面もありましたが、米中関係悪化によるリスクオフからすぐに113円台半ばで揉み合いとなっています。EUR/USDはECBの事実上のテーパリング決定を受けて1.13台後半まで上昇しましたが、他国と比較して相対的なハト派スタンスが維持されていることからすぐに1.12台に戻りました。GBPは、BOEのサプライズ利上げがあり1.33台後半まで上昇しましたが、コロナ感染拡大が最悪の状態に陥っていることから、1.32台に戻りました。

各国の動向は?

2-1.米国

米新規失業保険申請件数が1969年以来の低水準に減少しました。10月分のJOLTS求人件数も再び最高値に迫るなど、堅調な雇用市場が維持されています。CPIは市場予想通りの前年同月比+6.8%となり、1982年以来の大きな伸びとなりました。

ただ、発表前にバイデン大統領から、今回の数字には直近のオイル価格の低下分が含まれていないといった発言があったため、多少注目度は下がっており、市場予想の範囲内に収まったことを受けてUSDが売られました。

FOMCですが、テーパリングは予想通りスピードを2倍にして2022年3月に終了させることを発表しました。
【参照記事】ブルームバーグ「FOMC、テーパリングを2倍に加速-22年の3回利上げを示唆

注目された金利予想分布図(ドットプロット)の中央値は2022年が3回、2023年が3回、2024年が2回となりました。2022年は市場織り込みより0.5回分タカでしたが、2024年が1回分少なく、長期均衡金利の2.5%に到達する前に利上げペースは落としていくことが示され、事前の強いタカ派期待よりかはハト的な結果となりました。

2-2.中国

李首相が中小企業を支援するために適切な時期に預金準備率の引き下げを示唆していましたが、直後にPBOCは製造業の投資と国内消費を支え、不動産市況の減速に対応するために預金準備率を7月以来再び0.5%引き下げました。これを受けて、約1.2兆元の流動性が供給されることになります。

【参照記事】ブルームバーグ「中国、預金準備率を0.5ポイント引き下げ-景気減速に対応

2021年11月の貿易収支が発表となりました。グローバル需要に支えられ輸出が前年比22%増加しました。一方輸入は商品価格高や電力需要により+31.7%となっています。外需により何とか支えられていますが、国内のコスト高は厳しく景気を立て直すためには緩和策が必要な状況となっています。

【参照記事】ロイター「中国輸出、11月は前年比+22%に減速 輸入は伸び加速

PBOCが外貨準備比率をこれまでの7%から9%に引き上げました。PBOCは人民元が2018年以来の高値に上昇したことを受けて、元高への不快感を表明していたのですが、その日の夕方になって迅速に対応してきました。この結果、中国の商業銀行は外貨準備要求を満たすために人民元を売って外貨を買わなければなりませんので、需給的にUSD買いが発生することになります。

【参照記事】ロイター「中国人民銀、銀行の外貨準備率引き上げ 今年2回目

2-3.欧州

ECBはパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)を予定通り2022年3月で終了させた後、従来の資産購入の枠組みAPPを一時的に拡大させる方針を明らかにしました。

【参照記事】ロイター「ECB、16日にAPPの一時的・限定的な拡大を検討=関係筋

2021年12月現在は、APPの200億EURとPEPPが約700億EURで買い取りを行っているため、APPを第2Qに200億EUR、第3Qに100億EUR増額したところで、全体の買い取り規模は半分以下にとどまることになります。しかし、ラガルド総裁が2022年中の利上げの可能性は非常に低いという見方を示したことで、他国と比較して相対的にハト派スタンスが維持されていることが確認できたため、EURは売られました。

【参照記事】ブルームバーグ「ECBが2022年に利上げする可能性は極めて低い-ラガルド総裁

2-4.英国

ジョンソン首相はオミクロン変異株への対策として、感染防止策強化のため、屋内施設でのマスク着用の義務化と大規模イベントへのワクチンパスポートの導入と在宅勤務切り替えを推奨する「Plan B」を発表しました。

【参照記事】BBC NEWS「英イングランドで感染対策を強化へ 在宅勤務やマスク着用

しかし、感染拡大は止まらず一日当たり最多の新規感染者数の記録を更新しています。経済活動が低迷することで、BOEに対する利上げ期待も減少していましたが、BOEは予想外の0.15%の利上げを賛成8:反対1で決定しました。オミクロン変異株などのコロナ感染拡大の脅威よりもインフレ抑制を重視した格好です。

【参照記事】ロイター「英中銀が0.25%に利上げ、主要中銀でコロナ後初 インフレリスク指摘

2-5.オーストラリア

RBA政策決定会合が行われ、全ての政策が維持されました。しかし、オミクロン株にも拘わらず景気回復は続くという見通しを示し、徐々に引き締めに転じるシグナルが表れてきたと言えます。YCC導入中は2024年になるまで利上げの材料は揃わないとしていましたが、前回YCCの撤廃と共に、2023年中の利上げも可能と示唆するなど、利上げの時期が若干前倒しになっていました。そして今回は、期限を表す表現が全て取り除かれました。これによりRBAの自由度が増すことになり、今後の指標次第では利上げの時期が早まる可能性が出てきました。

11月の雇用統計は雇用者数・失業率とも予想を大幅に上回る改善を見せました。ロウ総裁は、2022年中に利上げの準備は整う可能性は低いとしながらも、一方で予想以上の進展があった場合には、2022年2月に債券買い取りプログラムを終了させる可能性についても言及していますので、労働参加率も着々と上昇する中、まずはQEの早期終了期待が高まりそうです。

【参照記事】ロイター「豪中銀、政策金利据え置き 忍耐強く政策運営へ

2-6.カナダ

BOC政策決定会合では、政策金利は予想通り据え置かれました。市場は、利上げの時期を2022年の中頃から前倒しするのではないかという期待をしていましたが、予想時期は維持されました。ただし声明文にはタカ派的な変更がされています。一つ目は、最近の堅調な雇用データを受けて雇用市場の需給の緩みに関する言及を削除しました。二つ目は、物価を押し上げている要因について「temporary」の文言を外しました。これは一時的と見ていた物価上昇要因がそうではなかったということで、先日のパウエル議長の議会証言と同じ様な見解を持っているということです。声明文の変更を見ていると、データ次第では利上げの前倒しの可能性は高まったと言えます。

【参照記事】日経新聞「カナダ中銀、政策金利据え置き

しかし、BOCとカナダ政府は金融政策の枠組みを更新し、中期的なインフレ期待を2%に抑制するのは従来通りですが、金融政策は最大の持続可能な雇用をサポートする必要があるとしつつ、インフレを1-3%の範囲で柔軟に活用すると変更しました。つまり、雇用次第では2%以上のインフレを許容するということになり、従来よりも利上げ時期の後ずれの可能性が出てきたことからCADは売られました。

【参照記事】ロイター「カナダ中銀、2%インフレ目標を維持 労働市場の動向考慮

2-7.その他

トルコ中銀は4カ月連続となる利下げを発表しました。利下げの度に通貨安となり、インフレ高騰に拍車をかけてきていますが、今回もエルドアン大統領の意向に沿う形で利下げを実施、当然通貨は最安値を更新する所まで売られています。これまでは利下げを実施するたびに株は上昇してきましたが、いよいよ通貨安による悪影響が強まり、株も下落を始めました。このままだとトルコ資産の全売却という流れに繋がりそうです。

【参照記事】ブルームバーグ「トルコ中銀が連続利下げ、緩和終了-大統領は最低賃金5割引上げ

3.来年に向けての注目材料

2-1.中銀の引き締めスタンスに株が持ちこたえられるのか

通常利上げの初期段階では経済状態が良いため、株は底堅く推移するはずなのですが、今回は上値が重くなっています。コロナによる供給制約と巨額の財政出動による需要の増加が合わさったことで物価が急騰し、各国中銀が異例のスピードで緩和から引き締めに方針転換したことから、株の調整の下落に繋がっています。

しかし、物価は高いですが、賃金も上昇していますし、雇用の求人も潤沢にあるなかでは、まだ本格的な株の下落トレンドには繋がらないと予想します。過去を振り返っても実質金利がマイナスの状態で、景気後退にはなりにくく、現在の期待インフレ率が2.4%であることを勘案すると、名目金利が上昇を続けたと仮定して2023年後半辺りから景気減速の兆候が表れる可能性があります。

それまでは一方的なリスクオフの展開によるUSD買いというよりかは、USDのロングを軸にしながらも、各国中銀の引き締めのスピードが予想より早まりそうな通貨を買っていく方針が良さそうです。また株が下がりにくいとはいえ、米金利が上昇していくことは間違いないため、USD建て債務が多い新興国通貨はショートを基本として考えておきたいです。

3-1.米中関係

このところ支持率を落としているバイデン大統領ですが、支持率回復の為、仮想敵国を作るべく中国への圧力を強めています。米上下院はウイグル強制労働法案を可決、ウイグル自治区からの輸入については強制労働で生産されたものではないという証明が必要となるなか、中国の34の機関を新たに制裁対象に追加しました。

中国の反発は必至で、両国の関税引き下げによる景気回復というシナリオは遠のいた印象です。
市場はリスクオフの雰囲気が強まっていますが、実際には米中の貿易量は増えており、お互い実態経済まで切り込むようなことがない限りは、短期的なリスクオフのUSD買いで終わると考えます。

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HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム

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