ウクライナ問題が混沌としてきており、ヘッドラインが出るたびに相場が振らされる展開が続いています。両国とも停戦に向けた協議は継続しているものの、折り合う様子は見られません。
戦争の長期化を前提として、エネルギー価格の上昇によるインフレと生活への影響を見極める必要があります。そのうえで中銀の金融政策が目先のインフレと、先々のインフレによる景況感の悪化のどちらに比重を置いてくるのかを予想しなければなりません。
今回は、米CPIとECB政策決定会合について詳しく解説していきます。
目次
- 米CPI
1-1.前回(2022年1月)のCPI
1-2.今回の予想
1-3.指標後の反応予想 - ECB政策決定会合
2-1.前回の決定内容
2-2.その後の経済状態
2-3.今回の予想
2-4.指標後の市場反応を予想
1.米CPI
1-1.前回(2022年1月)のCPI
前回1月分は市場予想を上回る前年比+7.5%、変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアでも前年比+6.0%となりました。どちらも1982年以来の高水準となりました。
12月に引き続きエネルギー高となりました。特にガソリン価格は前年比+40.0%となっています。食料品も住宅価格も引き続き上昇しています。
その他目立っているのは、中古車が前年比+40.5%の大幅高です。半導体不足で車の供給が不足し新車価格も+12.2%となりました。納車までの期間の長期化により、すぐに手に入る中古車需要も拡大という流れとなっています。
1-2.今回の予想
市場予想は前年比+7.9%、コア前年比は+6.4%と、もう一段の大幅な上昇が見込まれています。ウクライナ戦争による価格高騰により、全米のガソリン価格が前月比+5.8%となっています。
食品価格も同様に上昇するでしょう。サプライチェーン問題の解消も進まず、自動車生産には依然影響が出ているため、中古車価格・新車価格の上昇傾向も継続していると見られます。
1-3.指標後の反応予想
前回の発表後、堅調な雇用情勢と歴史的な物価高を受けて、3月の米FOMCで0.50%の大幅利上げを行うとの見方が主流となりました。しかしロシア軍がウクライナに侵攻し、先行き不透明感が強まる形で大幅利上げ期待自体は後退しました。
パウエル議長は議会証言で3月は0.25%の利上げを指示する方針としました。その先はウクライナ問題を踏まえて慎重に進めるとしています。インフレが高止まりする場合、0.5%の大幅利上げの可能性もあるでしょう。
参照:ブルームバーグ「パウエル議長「3月の25bp利上げ支持」-大幅利上げも否定せず」
今回の数字が強ければ、2022年中の利上げ回数が現在の織り込みの6回弱から増え、USD買いを誘う可能性があります。
2.ECB政策決定会合
2-1.前回の決定内容
物価指標が強いことから、スタンスがタカ派に転向するかもしれないと注目されました。実際の声明文は従来の見通しを踏襲するものでした。政策スタンスについて結論を急ぐことはないと強調するなど従来通りのハト派スタンスとなりました。
参照:ブルームバーグ「ECB、金融緩和を徐々に縮小へ-利上げは資産購入の完全な終了後」
しかしその後のラガルド総裁は記者会見で、インフレリスクは上方に偏っていると言及し、予想外のタカ派スタンスを示しました。2022年の利上げの可能性は低いという従来のコメントは使われず、経済を含む情勢は大きく変わったという認識を示しました。
今後の理事会における金融政策の再調整の必要性などについて示しており、3月会合で政策の見直しをする可能性が高まりEURは大きく買われました。
参照:ブルームバーグ「ラガルド総裁、ECB政策で方針転換-ガイダンス変更も間近か」
2-2.その後の経済状態
ラガルド総裁は純資産購入が終了する前の利上げについては何度も否定しています。従って3月のPEPP終了後、数か月前までは増額予定となっていたAPPがいつ終了するのかにより利上げのタイミングの思惑が強まりそうです。
フランス中銀のビルロワドガロー総裁は、APPについて第3Qで終了できると指摘しています。
参照:ブルームバーグ「ECBビルロワドガロー氏、債券購入は7-9月期に終了できる可能性」
しかし、ウクライナ紛争後資源価格が高騰しており、インフレは当面収まりそうもありません。小麦の輸出世界1位のロシアと、トウモロコシの輸出4位のウクライナからの配給が止まることで、食料品価格も上昇しています。実際、ユーロ圏CPIも前年比+5.8%と過去最高を更新しています。
また、原油や天然ガスとEUR/USDは強い負の相関があります。原油や天然ガスが上昇すればEUR安になり、EUR安になれば輸入物価が上昇して更にインフレが加速することになります。
2-3.今回の予想
3月のECB理事会にて出口に関する概要が示される見込みだったものの、ウクライナ紛争が緊迫化している中でECBはタカ派スタンスを示せないという見方が広がっています。2月に強めたタカ派姿勢を調整する可能性があります。
PEPPの終了は決定されるでしょう。一方で元々織り込まれていたAPPを年後半に終了させることと、利上げ期待はかなり後退した印象です。ロシアやウクライナからのエネルギーや穀物の供給のストップによる、欧州経済への影響が懸念されています。
パンデミックによる供給制約がまだ解消されていない中で、世界的にインフレが問題になってしまいました。今回の危機で原油や天然ガス、穀物といったコモディティ価格が急騰しており、原油相場は一時116ドル台半ばまで急騰しています。
ECBにとっては賃金上昇スパイラル以外に、不況下での物価高であるスタグフレーションを警戒する声が上がり始めています。成長についての見方は分かれるものの、高インフレに関しては想定以上に長引くという懸念は共有されそうです。
ポイントはECBの責務がインフレのコントロールのみということです。今回のウクライナ問題を受けたエネルギー高がインフレ上昇に繋がるという見方と、物価高騰を受けた需要の下落リスクのどちらに比重を置くかということです。
現時点では結局判断できずに、APPの終了時期については地政学リスクの情勢を見極めながら判断するという形で先延ばしするのではないかと予想します。
ただし、ドイツの国防費の増加や景気悪化となれば各国で財政出動が必要となります。ECBの買取額が足りなければ、需給的に欧州金利は意図しない上昇となる可能性が出てきます。ロシア銀行に対する制裁の影響で資金繰り不安も懸念されます。
従って、需給面をカバーするために、PEPPのスキームを用いて金利を抑える案や流動性を供給する案を出すなどのサポート材料を出してくる可能性はあります。
2-4.指標後の市場反応を予想
ECBはインフレよりも成長への懸念や、資金調達条件の早期引き締めに伴うリスクの方に意思決定の重点を置き、より慎重なスタンスに移行する可能性が高いという見方があります。加えてウクライナ紛争の結果景気に大ダメージを受けるという思惑から、EURは既に大きく売られています。
先日ラガルド総裁がロシアのウクライナ侵攻による経済全体の影響を判断するのは時期尚早だとしつつ、物価安定とユーロ圏の金融システムを守るためには権限にある全ての措置をとるといった主旨の発言をすると、EURは買われました。
参照:ブルームバーグ「ECB、安定確保に必要ならいかなる措置でもとる-ラガルド総裁」
かつてドラギ総裁がギリシャショック発の欧州債務危機の時に、「ECBは ユーロを守るためにやれることは何でもする」と言って緩和策を発表したにもかかわらずEURが買われた状況と似ています。
参照:東洋経済オンライン「欧州債務危機と闘ったドラギECB総裁が退任」
今回、決定される政策が仮に緩和方向であったとしてもEURにとってはポジティブに働くかもしれません。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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