2021年3月は、2月から引き続き世界的に金利が上昇しました。株も、2月同様に不安定になる局面もありましたが、基本的には高値圏で底堅く推移しました。しかし、リスクオンのUSD売りにはならず、金利動向がメインドライバーとなり特に米金利の上昇につられる形でUSD買いが継続しました。
ただし、2月と違い3月に入ると、実質金利の上昇は止まりました。この原因は、頭打ちとなっていた期待インフレが再度上昇をスタートしたからなのですが、3月に開催された、沢山の中央銀行の政策決定会合にて、世界中で2021年は一時的に高インフレになるというコンセンサスが作られた月となりました。これにより、インフレ指標が上振れても金利が上昇しても、株へのダメージは減少していきました。
今回は、この中央銀行の動向を時系列に並べて解説しながら金利を中心に3月の為替相場を振り返ってみたいと思います。
目次
1.月初のパウエル議長講演
2月末に金利が急騰してすぐに行われた、月初のパウエル議長の講演は、金利上昇に対して不快感を示したりなど、2週間後に開かれるFOMCに向けて、何か手がかりを残していくのではないかと、非常に注目されていました。
しかし、パウエル議長からは長期金利上昇に対して懸念は示されませんでした。むしろ、一時的にはインフレとなることを容認しながら、雇用が不安定なうちは緩和スタンスを維持するとしました。更に、その講演の翌日に雇用統計が大幅に予想を上回り、米長期金利の上昇が加速しました。
ただ、同じように世界の金利は上昇していたため、USD独歩高とはなりませんでした。ここで狙い撃ちされたのが、緩和から抜け出せそうもないECB・日銀・SNB(スイス中銀)のマイナス金利国通貨です。EURUSDは下落、USDJPYとUSDCHFは上昇というように、マイナス金利国通貨に対してUSD買いが進行しました。
2.各国の動向は?
2-1.ECBの動向は?
3月は第1週目にRBA(オーストラリア中銀)の会合からスタートし、続いて2週目にBOC(カナダ中銀)があり、3番目がECBでした。RBAもBOCも景気見通しは引き上げつつ、はっきり金融緩和政策の維持を表明しました。
どちらも予想通りだったのですが、ECBの場合は会合前の高官発言がタカ派・ハト派どちらにもブレていたことから、注目が集まっていました。それでも、ECBには追加緩和手段はほぼないと思われており、強烈なハト派姿勢を示すだけのアナウンスメント効果以上のものは打ち出せないと予想されていました。
ところが、ECBはパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)による来四半期の資産買入れを年初来の規模を大幅に上回るペースに引き上げる方針を発表しました。若干のサプライズとなり、瞬間的にはEUR売りで反応しました。しかし、既に月初からUSD買いの受け皿としてEURは売れていたこともあり、EUR売りは限定的となりました。
ただ、ハト派のECBですら2021年のインフレ率予測を+1%から+1.5%に大幅に引き上げるなど、世界中で2021年はインフレ率が上昇するということがコンセンサスになり始めました。
2-2.FRBの動向は?
ECBに続いて3月第3週はFOMCが開催されました。世界中でインフレ率上昇がコンセンサスとなりつつある中、3月初旬にパウエル議長から緩和維持の発言があった時よりも更に名目金利も期待インフレもどちらも上昇を続けていましたので、もしかしたらFRBのスタンスにも変化があるのではという警戒感とともに、FOMCメンバーの利上げ見通しについて注目が集まりました。
結果、多くのメンバーが2023年末まで利上げはなしと予想していることがわかり、パウエル議長も、月初のスタンスから何も変わっていないことが確認できたことから、一部引き締めを期待していた参加者の失望を誘い、金利は一時的に低下しUSD売りとなりました。
しかし、これまでの中銀と同様パウエル議長も緩和スタンスは維持しましたが、長期金利の上昇に関しては、特に懸念を示すことなく容認しました。
2-3.日銀の動向は?
FOMCの翌日に日銀の金融政策決定会合が開催されました。こちらについては、マーケットの反応を探るべく会合前にメディアを通じて、様々なリーク報道がありましたが、最終的に会合前日になって日経新聞よりほぼ完璧なリーク報道が発信された後だけに無風となりました。
ただ、日銀だけは、表向き緩和スタンスを維持することは他の中銀と同じでしたが、ETF買い入れ額の目標を外し、10年金利の変動幅を実質的に0.20%から0.25%に拡大させるなど、事実上出口戦略をスタートしたことになりました。
通常であれば、円買いになってもおかしくはないのですが、米金利の上昇幅と比較して円金利の変動幅はごく僅かであり、結局米金利上昇につられる形でUSDJPYは底堅く推移しました。
トルコ中銀総裁解任
日銀などが金融政策を発表しているときに、トルコ中銀は大胆に2%の利上げを決定し(予想は1%の利上げ)、通貨高に誘導することで、国内のインフレと戦う姿勢を見せていました。
しかしその週末、エルドアン大統領が、トルコ中銀総裁を突然解任し、2021年3月第4週の月曜日から、TRY(トルコリラ)は大暴落となりました。解任されたトルコ中銀総裁は、11月の着任以降、利下げを求める大統領から決別し利上げを断行していたことから、市場参加者からの信認が厚く、投機筋はかなりTRYロング戦略を取っていただけに、大ダメージとなりました。
TRYロングの解消と同時に、これまで利益が出ていた他のクロス円ロングポジションを損失補填の為に売って利益を確定せざるを得なくなり、クロス円全般が下落しました。
更にここから、欧米と中国の対立、ドイツロックダウン延長(のちに撤回)、スエズ運河で大型タンカーが座礁、アルケゴスというヘッジファンドが銀行に差し入れる証拠金を払えなくなり資産を大量に売却、与信を張っていた銀行にも損失、と立て続けにネガティブな材料が出てきたことから、米金利上昇によるUSD買いから、リスクオフのUSD買いが強まる形となりました。
4.まとめ
2021年3月も相場変動要因の主役は金利でした。ただし、前月と違い、多くの中銀政策決定会合を経て、2021年はインフレ率は上昇するということがコンセンサスとなりました。したがって、名目金利だけでなく期待インフレ率も同時に上昇したことから、実質金利は横ばいとなりました。
しかも、インフレ率の上昇も、従来のような景気刺激策により無理やりインフレ率が上げられているという認識から、景気の回復に伴った健全な上昇であるという認識に変化していきました。したがって、インフレ率が上がり、名目金利が上昇しても、株は下がらなくなりました。このような環境下では、欧州で地味に感染拡大のニュースが出たり、ワクチンを巡っての揉め事も、大きな材料とはならなくなりました。
しかし、気になるニュースが月末に飛び込んできました。それはヘッジファンドデフォルトのニュースです。現時点で損失額が分かっているところは、野村證券・クレディスイス・三菱UFJ証券となっていますが、その他ドイツ銀行やBNPパリバもあるとのことです。
発端となったヘッジファンドはファミリーオフィスの形態をとっており、情報を開示する義務がなかったことから、どの程度のリスク量を保有していたのか、どのような種類のリスクを保有していたのかがわかっていません。
2020年のコロナショックでは、金融機関が無傷であったことから、リーマンショックのような騒ぎにはなりませんでしたが、ここにきてこのようなニュースが出てくると、金融機関の損失額によっては大事になりかねません。コロナ感染拡大よりも余程注意をする必要があります。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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