5/17の週は、変動の大きい一週間でした。日替わりもしくは時間帯ごとにリスク動向が目まぐるしく変化し、株式市場に高値から調整圧力が加わりました。
この記事では、2021年5月17日~23日の為替動向の振り返りと、5月末・6月初めにかけての見通しを解説します。
目次
- 2021年5月17日~5月23日の振り返り
1-1.FOMC議事録でのサプライズ
1-2.テスラ社イーロンマスクCEOの発言
1-3.中国人民銀行の発言
1-4.オーストラリア準備銀行の動向
1-5.FOMCの動向 - 6月上旬にかけての注目材料は?2つ解説
2-1.28日の米予算教書
2-2.米金融政策
1.2021年5月17日~5月23日の振り返り
1-1.FOMC議事録でのサプライズ
FOMC議事録では、一部メンバーから出口戦略開始時期についての言及があり、市場はサプライズのUSD買いの反応がありました。また、原油相場はイラン核合意への進展期待が高まり高値から反落しました。そして、ビットコインなど仮想通貨の急落が市場にショックを与える場面もありました。
しかし、市場ではFRBは緩和政策を維持するとの見方に回帰してきており、株の下落も緩やかなものにとどまり、USDは全体的に低下傾向を堅持するなか、特にEURやGBPの底堅さが目立ちました。これまで景気回復期待が先行していた米に続く形で、ユーロ圏やイギリスでのワクチン普及とともに、欧州債利回りが上昇しており、今後もその動向が注目されそうです。
1-2.テスラ社イーロンマスクCEOの発言
15・16日の週末、テスラのイーロンマスクCEOが同社が保有するビットコインを売却する可能性があるか、あるいは既に売却したともとれるようなやりとりをツイッター上で示唆しました。12日のツイッターではビットコインを売却はしないとしていましたが、方針転換したのでしょうか。このツイートを受けて仮想通貨全般的に大きく売られました。
1-3.中国人民銀行の発言
更に、19日に中国人民銀行から決済に仮想通貨を利用するのを認めないという発言があり、大暴落しました。元々、インフレヘッジとして仮想通貨が選好される流れの中で、仮想通貨が売られるとその分の資金は同じくインフレヘッジである金やその他資源に流れていました。しかし、前週は株が弱く、原油・銅・木材などの資源が軒並み下落したため、金に流れました。この状況を並べると、金以外の資産が概ね下落ということになり、リスクオフの状態です。したがって、為替でもこれまでリスクオンで買われてきたクロス円のロングに調整が入った形になっています。
その後一旦落ち着きを取り戻しつつあった仮想通貨とその他の市場ですが、21日夜中に中国が仮想通貨の取引だけでなく採掘も取り締まる意向だと改めて表明したことから、仮想通貨は再度暴落し、FXでもリスクオフ気味のUSD買いが強まりました。中国は現在、デジタル人民元の開発を強く押し進めており、仮想通貨の決済は邪魔になる存在であることから、今後も仮想通貨への取り締まりは強化されると考えます。したがって、仮想通貨ホルダーの中国人の仮想通貨から人民元への転換需要も今後高まることが予想されます。
1-4.オーストラリア準備銀行の動向
17日のRBA(オーストラリア準備銀行)の5月会合分の議事録は、YCC(イールドカーブコントロール)目標の対象年限の変更や、量的緩和(QE)の今後の方針について、経済データと金融市場の情勢に細心の注意を払いながら7月に決定するとの方針を示しました。その上で、現時点では3年国債の利回り目標0.1%からの変更は正当化されないとか、利上げの条件は少なくとも2024年までは満たされない公算と、これまで通りのハト派スタンスを維持しています。
それを裏付けるように、20日の豪雇用統計は、マイナスとなりました。要因は恐らく3月末で打ち切りとなったJob Keeping制度による賃金補助がなくなったことで、解雇された人が増えたためと考えられます。一方で、失業率は順調に低下中であり、ポジティブな面も見えています。ただ、RBAが予想している、賃金インフレが発生する失業率である4%まではまだ遠く、2024年まで利上げの材料は揃わないというRBAの見方が今のところ正しいことが示される結果となりました。
1-5.FOMCの動向
19日のFOMC議事録では、米国の景気回復について慎重ながら楽観的な見方を示し、複数のメンバーが資産買入のペースを調整する計画についていずれかの時点で議論することが適切であるとしていることが判明しました。これまでのFOMCでは、資産買入ペース変更議論は時期尚早とのガイダンスでほぼ統一されていたので、前進したことが伺えます。
ただ、条件としては雇用の最大化と物価安定というFOMCの目標に向けて急激な進展を続ければとし、一段と進展するにはしばらく時間がかかる可能性が高いと様々な参加者が指摘していることから、FOMCの主流派の考えが変わったというわけではなさそうです。また、4月の会合時点で最新の経済指標である3月の雇用統計は、非常に力強い伸びを示しており、そのデータを元に議論した結果であることを考えておかなければなりません。その後4月の雇用統計は衝撃の悪さとなっていますので、回復の見通しは定まっていないと考えられます。
そして、インフレに関する議論は、タカ的に変化が見られます。基本的に、FOMC全体としては最近のインフレの上昇を一時的なものと強調しています。しかし、一部のメンバーは、インフレ見通しに懸念を強め始めていることがわかりました。先日のクラリダ副議長の、強いCPI(Consumer Price Index:消費者物価指数)は驚いたという発言にもあるように、今後強いCPIが出続けることで、FOMCメンバーの考えにも変化が出てくることには注意が必要です。ただ、少なくとも著しい進展を示すデータがしっかりと確認できるまでは当面FOMCのスタンスが変わるような印象は受けません。
5月末、6月上旬へ向けての注目材料は?
2-1.28日の米予算教書
28日に発表される2022年会計年度(2021年10月から2022年9月)の予算教書があります。バイデン大統領にとって初の予算教書ですが、22・23日の週末に両党での合意を目指すべくインフラ投資計画の規模を1/4だけ縮小し、合計1.7兆ドル規模の案で再提案しています。ただ、これでも共和党の支持できるとされている案を大きく上回っています。この程度の妥協案で月末に向けてスムーズに話が進むのであれば、株式市場にとってはポジティブですが、既に一部の共和党議員から反対意見が出ているように揉めるようなことがあると、株の上値が抑えられ、先週以上にリスクオフの雰囲気が強まる恐れがあります。
また、今回は全体像の公表となり、トランプ政権下で悪化した外交の回復を目指す中で注目される海外援助や移民対策、さらには警察活動などの項目についての要求が示される予定となっています。バイデン政権の姿勢を占う意味でも注目を集めています。
2-2.米金融政策
FOMC議事録や、今月の弱い雇用統計、強いCPIを受けた後のFOMCメンバーの発言などを元に、今後の金融政策の行方を考えてみました。結論から言うと、余程雇用が崩れない限りは、9月頃のFOMCで資産買入額減額について言及し、2022年1月から開始するのではないかという見解です。少なくとも5月の悪かった雇用、強かったCPIをそれぞれ一時的と認識している以上、7月までデータの確認は必要と考えられます。
ただし、現在世界の中銀が、市場に対して最も強く発信していることは、資産買入額減額(以後テーパリング)は金融引き締めである利上げとは違うということです。直近では2013年12月にサプライズ的にテーパリングを決定しました。その際には、テーパリング後の利上げの織り込みを牽制するかのように、失業率やインフレ率の目標値を挙げて、利上げ時期は相当先になるということを市場に認識させることで、サプライズ的なテーパリング決定だったにもかかわらず、米債利回りは急騰せず、株価も底堅く推移させることに成功しました。
今回は、既にインフレについてはAIT(平均インフレターゲット)2%を導入済みなので、CPIが仮に2%を超えていたとしても、即座に利上げをする必要はないように布石は打ってあります。しかし、それでもCPIを原因にテーパリングを決定すると、どうしてもその先にインフレ=利上げが想起されてしまうため、あくまでも雇用が回復したからという理由で決定し、尚且つ利上げは相当先というメッセージを強調して金利が急騰しないように慎重にテーパリングを実施するのではないかと考えられます。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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