2021年8月のマーケット振り返りと今後の動向は?テーパリングについてもファンドマネージャーが解説

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2021年8月は、米ISM製造業景況感指数が下落したことによる影響で米金利が大きく低下したことや、デルタ変異株に関してのニュースが目立ちました。

この記事では、2021年8月の為替動向を振り返り、下旬へ向けての動向を解説します。

(※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。)

目次

  1. 2021年8月の為替動向振り返り
  2. 各国の動向は?
    2-1.アメリカ
    2-2.中国
    2-3.イギリス
    2-4.オーストラリア
    2-5.ニュージーランド
  3. 2021年8月下旬の注目材料は?
    3-1.ジャクソンホール
    3-2.米議会

1.2021年8月の為替動向振り返り

2021年8月は、全体的にUSD買いが優勢となりました。米国債利回りが他の先進国よりも上昇している金利面でのサポートに加え、ドルインデックスが年初来高値を一時更新した際には、中国当局による自国産業への規制強化やデルタ株感染拡大によるリスクオフの動きも材料視されました。

パウエル議長らFOMC主流派のハト派発言で米長期金利は低下傾向ではありますが、FOMC議事録に見られたように徐々にタカ派が多数派に転じてきているなか、テーパリング開始は年内ということで合意が得られている模様で、他の先進国対比では米金利は高めに位置しています。

EUR/USDやGBP/USDは素直に下落しましたが、USD/JPYは若干複雑な動きを見せています。米金利面にスポットライトが当たってのUSD買いの展開では上昇し、株が下落しリスクオフによるUSD買いの際には、クロス円の下落につられてUSD/JPYも下落しました。ただ、いずれにしても値幅は非常に狭く、109円半ばから110円半ばを中心としたレンジでの推移となっています。

2.各国の動向は?

この項目では、各国の動向を解説します。

2-1.アメリカ

米ISM製造業景況感指数が市場予想を下回り、半年ぶりの60アンダーとなる59.5を記録したことから、米金利が大幅に低下しました。10年金利は一時1.14%台まで下落しました。中身を見てみると、生産指数が低下し在庫が取り崩されていることから、引き続き供給サイドは需要に応えるのに苦慮していることがわかります。一方で、雇用は回復するなか、入荷遅延と支払価格が共に低下しており、物価上昇の圧力は徐々に緩和してきているのも見て取れます。

年後半11月か12月にアナウンスして来年1月からテーパリングを開始するという可能性が高まってきている中、最初の試金石である米雇用統計は94.3万人と市場予想の87万人を大きく上回りました。労働参加率も61.7%に上昇し、失業率は5.9%から5.4%に大きく改善しました。平均時給と週平均労働時間も良好で、文句なしの結果となりました。米金利は中期主導で上昇と利上げの可能性を高めました。

しかし、CPI(消費者物価指数)は予想を下回って徐々に落ち着きを見せ始め、更に、ミシガン大学消費者信頼感指数が、事前予想をはるかに下回り、パンデミック直後の直近最低値よりも低い約10年ぶりの低水準を示したことで、消費者マインドの落ち込みが一気に警戒される状況となりました。

その後、デルタ株蔓延によるセンチメントの悪化が影響し、NY連銀・小売りも崩れてしまいました。小売りは堅調な成長を見せたのはガソリンスタンド・レストランなどコロナでから回復を目指すサービス業中心で、減速しているのが自動車、家具、建設物材料などこれまで牽引してきた業種です。徐々に経済は通常モードに近づき、インフレもマイルドになってくることが予想されます。

FOMC議事録

また、7月のFOMC議事録が公表されました。これまでの強い雇用統計と崩れたセンチメント系の指標が公表される前の会合ということは考えなければなりませんが、インフレについては一時的としながらも物価の安定目標は達成されたという認識で、残るは雇用のみという認識となっています。その雇用も順調に回復して言うことが予想されテーパリングを2021年内に開始と判断しています。市場予想の年明け開始より数か月早まった印象で、市場はしっかりとドル買いで反応しました。

ただ、テーパリングのスピードについてはメンバー内でまだ意見に食い違いが見られている模様です。そのスピードに関しては今後のデータを見ながら、開始のタイミングまでには決められるのだと考えられます。また、テーパリングと利上げに関しては材料が違うという認識を示し、テーパリング終了後即利上げとはならないというイメージを植え付けようとしています。

2-2.中国

中国の国営紙がゲームを「電子薬物」などと批判したことで、ゲーム関連株が軒並み下落しました。先日のIT企業や教育関連企業への規制強化ニュースも世界の株式市場に影響がありました。その他、国内では不動産規制の強化も実施されています。

不動産や教育への規制は国内では評価されていますが、グローバル企業への規制となると、海外投資家にとっては非常に高いリスクとなります。

これらの政策の根本にあるものは今後100年に渡る共通の繁栄であり、民間企業が共産党の支持を得ずに成長し力を持つことが許されなくなったということです。その手段として格差是正は一つのキーポイントですが、国の行く末を考慮した結果選ばれる業種、抑え込まれる業種がはっきりとしそうです。こういった中国当局の行動は、資本市場の理論とは相いれない部分なので、今後の中国の動向には注意が必要です。

2-3.イギリス

BOE(英中銀)政策決定会合では、政策金利据え置きは全員一致で決まりましたが、国債購入枠は7-1で据え置きが決まりました。

インフレが一時的との見方は変えていませんが、2022年通年平均で3.4%を予想しており、“一時”という感じはしません。市場は、2022年後半からの利上げスタートを織り込んでいます。

その後発表された雇用統計は概ね好調な状態を維持していることが確認できました。一時帰休スキームが段階的に廃止されている7月以降のデータは非常に重要になってきます。

一方で、7月のCPI(消費者物価指数)は前年比+2%と予想以上に鈍化しています。デルタ株の悪影響を懸念し、いくつかの中銀がタカ派スタンスをニュートラルに変えてきていることから、BOEのスタンス変更にも注意が必要です。

2-4.オーストラリア

RBA政策決定会合では、前回発表した9月から11月半ばまで週50億豪ドルのQEを40億豪ドルに縮小するプランを変更しませんでした。ただ、債券購入プログラムに関しては柔軟に見直すという文言は残り、引き続きデータ次第で引き締め・緩和、どちらにも動けるように準備されています。

シドニーのロックダウンが1か月延長されるなど感染拡大が広がっていることから、一部の参加者の間で、テーパリングプランを撤回するのではないかといった思惑が出て、据え置きとなったことで少し豪ドルは買い戻されました。しかし、その後感染拡大は止まらず、中国の景気減速も重石となりAUDは下落基調で推移しています。

2-4.ニュージーランド

NZで感染者が一人見つかっただけで全土で3日間のロックダウンが決定されました。RBNZ(NZ中銀)会合の前日にロックダウンが決定された為、RBNZも利上げ予定でしたが、今回は据え置いて次回以降の利上げに含みを持たせた感じとなりました。

ただ、たった一人でもロックダウンを実施する方針である以上、利上げ開始についてはかなり不透明です。その前にワクチン接種が普及し政府の方針が変わるかどうかにも注目です。

3.2021年8月下旬の注目材料は?

ここでは、2021年8月下旬の注目材料を2つ解説します。

3-1.ジャクソンホール

対面形式で開催される予定でしたがコロナ感染リスクが高まっていることからオンライン形式に変更されました。パウエル議長は27日金曜日の午後11時から講演が予定されています。パウエル議長以外にも多数の連銀総裁が講演します。

7月FOMCの議事録では、年内テーパリング開始で合意が得られている様子でした。その後雇用統計は満点の良い数字となりましたが、デルタ株蔓延に伴いミシガン大学消費者信頼感指数、NY連銀などセンチメント系の指標が崩れ、小売りもかなり弱く、本当に2021年内にテーパリングを考えているのか、直近情勢を受けたFOMCの考えを確認する重要な会合になります。

現在の市場はテーパリング年内開始をほぼ織り込んでおり、利上げ開始も2022年後半から2023年前半ということで、ほぼFOMCのDOTS通りの織り込み度合いとなっています。従って、もしテーパリングが来年にずれ込むとか、テーパリングのスピードが相当緩やかで2023年にならないと利上げは開始できないということが連想されるのであれば、ハト的となり、米金利低下と共にUSDは売られるでしょう。

もしくは、ある程度タカ的な発言が予想されていますので、インフレは一時的だと強調した上でテーパリングに関して全く発言しなかった場合でも、失望のUSD売りになると思われます。

一方、テーパリングは予定通り年内開始し、そのスピードも半年程度で終了するということが想起されるのであれば、タカ的となり米金利上昇でUSDは買われるでしょう。

3-2.米議会

米上院は5500億ドルのインフラ投資案を可決し、3兆5000億ドルの予算決議を民主党のみで通過させました。これらの法案の前に債務上限問題を解消させなければ話は先に進めないのですが、ただでさえ揉めている両党が、アフガニスタンからの撤退問題で更に溝を深めてしまっています。

下院は現在夏休み中で休会中ですが、時間はあまり残されておらず、両党の最後の揉み合いがリスクオフの雰囲気を醸成する可能性には注意しておかなければなりません。

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HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム

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