暗号資産と SDGs 〜暗号資産は環境破壊を引き起こす?〜

脱炭素や気候危機などが叫ばれる昨今、ビットコインをはじめとする暗号資産もその存在が持続可能であるかが問われ始めています。今回は膨大な電力消費が取り沙汰される暗号資産について、デジタルアセット担保ローンなど新しい資金調達プラットフォームの創出に取り組むFintertechの新藤秀人 氏にお話を伺いました。

目次

  1. SDGsにおけるブロックチェーンの有用性
  2. 暗号資産へのネガティブイメージ
  3. 暗号資産マイニング(ビットコインマイニング)で使用される電力の論点
    3-1. 全体の消費電力
    3-2. 環境への負荷
  4. 今後見込まれるポジティブな変化
    4-1. 上場マイニング企業の増加
    4-2. 業界全体の環境保護に関する取り組み
    4-3. その他

Fintertechでリーガル及びデューデリジェンスを担当している新藤(www.linkedin.com/in/hidetoshindo)です。

企業活動のグローバル化に伴う社会的影響の増大、インターネットの普及による情報拡散の容易化、深刻な気候変動問題等を背景に、企業の社会的責任 (CSR)が現在ほど問われている時代はありません。このCSRは当然ながら全ての企業が負うべきものですが、特にステークホルダーの多い上場企業相手のビジネスに関わっている方は、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)、ビジネスを進める上で、「SDGsに沿ったものか?」、「SDGs上問題ないか?」という問いかけに直面したことも多いと思います。

大手証券会社グループに属しながら、暗号資産関連ビジネスを提供する当社にとっても、「暗号資産ビジネスはSDGsに沿ったものか?」は避けて通れない命題であり、最近の動向を踏まえて考察していきたいと思います。

SDGsにおけるブロックチェーンの有用性

暗号資産のベースとなる技術、ブロックチェーンについては、SDGs上有用とされる意見・論調も多く、実際に、SDGsの本丸であり策定に大きな役割を果たした国連の主要開発支援機関であるUNDP(国連開発計画)公式サイトにおいて、ブロックチェーンが下記の6つの観点から有用とされる解説も公表されています。

  1. 金融包摂支援(Support financial inclusion)
    例:銀行口座のない人々への送金サービスの提供
  2. エネルギーへのアクセス改善(Improve access to energy)
    例:再生エネルギーとIoT技術(スマートメーター等)の融合
  3. 生産及び消費責任(Produce and consume responsibly)
    例:トラッキングシステムの導入によるサプライチェーンの透明化
  4. 環境保護(Protect the environment)
    例:環境投資(森林保護等)に対するインセンティブ(コイン発行)としての活用
  5. 全ての人に法的 ID を(Provide legal identity for all)
    例:難民・移民等へのデジタルIDの発行
  6. 支援の効果向上(Improve aid effectiveness)
    例:仲介業者を省いた効率的・透明な支援金送付

暗号資産へのネガティブイメージ

一方、暗号資産は、SDGsの文脈において、ネガティブな論調で語られることが一般的だと思います。暗号資産も上記のブロックチェーン有用性観点の①金融包括支援、⑥支援の効果向上、に寄与しているにもかかわらす、主に環境への悪影響、具体的には暗号資産マイニングが膨大な電力を費やす⇒Co2排出量増加・環境破壊を引き起こす、という点がフォーカスされ、ポジティブな面が語られることは少ないと思います。昨今のビットコイン価格の暴落も、この環境に対する懸念の広がりが引き金となったことは否めません。

暗号資産マイニング(ビットコインマイニング)で使用される電力の論点

ビットコインマイニング(暗号資産マイニングにおいて公表・数値化されているデータは、通常ビットコインのものなので、この章ではビットコインに限定して話を進めます)における電力上の論点については、主に①全体の消費電力、②環境への負荷の2点に大別されます。

①全体の消費電力

全体の消費電力については、マイニング全体で特定の一国と同じ電力量を消費、というような論調で語られることが多々ありますが、信頼性の高いデータソースとして良く参照されるケンブリッジ大学オルタナティブ金融センター (以下、同センター)によると、ビットコインマイニングの年間電力消費量は、一国と見なして換算すると世界41位相当、40位のコロンビア一国とほぼ同じ電力を消費していることになります(7/26時点)。ただこの比較法については、同センターも認めている通り比較対象選択による印象操作ができる余地があり、例えばマイニング電力消費量は世界第一位の電力消費国中国の1%、第二位の米国の1.8%と言う表現も可能です。

②環境への負荷

SDGsを考える上でより重要な論点とされる環境への負荷については、マイニング全体における再生可能エネルギーの使用率・再生可能エネルギーを使用しているマイニング業者比率等で説明されます。暗号資産業界・ビジネス上の数値を幅広くカバーする同センター作成の”Global Crypto asset Benchmarking Study”において使用率等は言及されていますが、2018年12月公表結果2020年9月公表結果を比較すると同使用率、同比率共に改善が見られます。

2018年12月 2020年9月
再生可能エネルギー使用率 28% 39%
再生可能エネルギー使用しているマイニング業者の比率 60% 76%
資料:同センターのデータに基づき筆者作成

より直近では、2021年7月に大手マイニング業者で構成されるビットコインマイニング協議会(以下、同協議会)が公表したリサーチ結果に基づく再生可能エネルギー使用率、56%(同協議会所属メンバー限りでは67.6%)という数値もありますが、同協議会と同センターでは調査・計算方法が異なるため(同協議会の数値は単純な聞き取り調査に依拠)、一連の数値を並べて、「2018年:28%⇒2020年:39%⇒2021年:56%、わずか1年で再生可能エネルギー使用率が大幅アップ!」とは一概には言えません。

今後見込まれるポジティブな変化

上記で述べた通り、マイニングにおける環境負荷を示す指標、再生可能エネルギー使用率等は徐々に改善されている傾向は伺えるものの、未だ暗号資産に対するネガティブなイメージを覆すまでには至っておりません。

しかし今年に入ってから顕著となっている下記の動き・変化は、暗号資産を SDGsの文脈で語るうえで、ポジティブな事項と考えます。

上場マイニング企業の増加

上場している大手マイニング企業は下記の通り既に複数存在していますが、今年に入り米国において SPAC 経由又は既存上場会社の合併により、Core Scientific 社、Cipher Mining 社、Gryphon Digital Mining 社も上場することが既に公表されています。

上場すると当然ながらステークホルダーの数は大幅に増加し、より透明性の高いビジネス運営、積極的な情報公開、昨今のESG投資を意識した株主対応を行うことは容易に想像できます。

【主な上場マイニング企業】

会社名 上場取引所 時価総額(円換算)7/27時点
Argo Blockchain ロンドン証券取引所 約800億
Hive Blockchain Nasdaq 約1,060億
HuT 8 Mining Corp トロント証券取引所 約770億
Marathon Digital Holding Nasdaq 約3,200億
Riot Blockchain Nasdaq 約3,600億
資料:筆者作成

業界全体の環境保護に関する取り組み

暗号資産業界レベルの動きとして、今年4月に暗号資産版パリ協定と言える暗号資産気候協定(Crypto Climate Accord)が発足しました。すでに同協定への調印者(Signatory)は62社、支援者(Supporter)は76社に達しており、調印・支援者の業種も暗号資産関連企業のみならず、IT企業・NGO等多種に渡っています(7/27時点)。また協定の内容も下記の通り野心的なものです。

長期的には、2040年までに暗号資産業界全体における温室効果ガス排出量を0(ネットベース)にする。またその過程で、
●協定調印者は、2030年までに電力消費における温室効果ガス排出量をネットベースで0にする。
●協定調印者及び支援者で、2025年のCOP30(国連気候変動枠組枠条約締結国会議)までに、再生エネルギーを100%動力源とするブロックチェーンの採用等のための基準・ツール・技術を開発する。

また今年の6月には、マイクロストラテジー社及び前述した上場マイニング企業を中心メンバーとして、ビットコインマイニング協議会が発足しました。同協議会は、ビットコインマイニングにおける透明性の向上・ベストプラクティスの共有、ビットコインの有益性の啓蒙等をミッションとして掲げ、その第一弾として7月に前述のマイニングリサーチレポートを公表しました。

その他

今年6月に中国で打ち出されたマイニング禁止の方針も、環境面から見ると、よりマイニング過程の透明性の高い国・環境意識の高い地域への移転を促す効果があることから長期的にはポジティブな要素でしょう。

ビットコインの話からは外れますが、暗号資産時価総額第二位のイーサリアムが、コンセンサスアルゴリズムをより電力消費量の少ないプルーフオブステークに移行する計画も、SDGs的にはプラスと言えます。

急激な暗号資産価格の上昇(時価総額増大)及び関連ビジネスの広がりから注目を浴び続けている暗号資産業界ですが、2008年のサトシナカモトの論文発表を契機にスタートと考えても僅か10数年余り、歴史ある他業種と比較すると未だ黎明期の産業に過ぎません。

ポジティブな面よりネガティブな面にフォーカスされがちなのは目立つ新参者の常でありますが、暗号資産業界は、それに加えて、目に見える・触れられる実体物を生み出すわけでなく、筆者が長年過ごした証券業界以上に、一般人にとって便益が伝わりにくいというハンデを背負っています。世の中のあらゆる産業が電力を消費し、何らかの形で環境負荷を与えているのに対し、暗号資産業界が殊更環境に悪影響を与えているような印象※を持たれてしまうのは、エネルギー消費に見合う便益・有用性が一般的に理解されていないことが原因だと思います。

※ケンブリッジ大学オルタナティブ金融センター資料(FAQ:”Is Bitcoin mining an environmental disaster?”)によると、ビットコインマイニングの全てが世界中で最も非効率 な石炭火力発電所1箇所で行われたと仮定しても、その Co2 排出量は世界全体の 0.35% (2021/7/13 付の数値で試算)

ただ前述した通り、ビジネス自体の透明化、関連数値・測定手法の標準化・信頼性アップへの取り組みは確実に進むと思われるので、当社としても、既存金融グループの一員かつ暗号資産業界の片隅に位置するという特異なポジションを活かし、暗号資産ビジネスの健全な発展、有用性の啓蒙に貢献していきたいと思います。

The following two tabs change content below.
新藤 秀人

新藤 秀人

日系大手証券で経営法務・デリバティブ等のマーケット商品法務等、国内外の様々な法務業務に従事後、2018年からFintertech社に参加。リーガル/デューデリジェンス責任者として暗号資産関連等のフィンテックビジネスに従事。ニューヨーク州弁護士。LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/hidetoshindo/