今回は、6月前半(6月1日〜6月14日)の暗号資産・ブロックチェーン業界について、田上智裕氏(@tomohiro_tagami)が解説したコラムを公開します。
目次
- 次世代コンテンツプラットフォームCivilがクローズ
- クリプトママの再任が決定
- DeFi市場へビットコイン資金が流入
- マイクロソフトが身分証明にブロックチェーンを活用
- デジタルガレージが暗号資産OTC市場に参入
- まとめ・著者の考察
6月前半(6月1日〜6月14日)の暗号資産・ブロックチェーン業界は、次世代コンテンツプラットフォームのCivilがクローズし話題となった一方で、マイクロソフトのDIDに関する新たな取り組みが始まりました。また、DeFi市場も新型コロナウイルスから回復し一層の盛り上がりをみせています。本記事では、6月前半の重要ニュースを解説と共におさらいしていきます。
次世代コンテンツプラットフォームCivilがクローズ
広告に頼らない新たなビジネスモデルを生み出し、「持続可能なジャーナリズム」の構築を目指すブロックチェーン企業Civil(シビル)が、その歴史に幕を下ろしました。
2016年に設立されたCiviは、ブロックチェーンと独自トークンCVLを活用することで、新たなコンテンツ事業の構築を目指していたサービスです。具体的には、Civil上でコンテンツを公開することでCVLトークンを獲得することができたり、読者からコンテンツ制作者へCVLトークンを通した直接的な支援ができたりします。
2017年にはConsenSysより500万ドルの出資を受け、2018年にもAP通信やForbesといった大手企業との提携を発表していました。しかしながら、2018年のICOに失敗したことでプロジェクトに陰りが見え始め、最終的には新たなビジネスモデルの構築は極めて困難と判断し、今回のクローズを発表しています。
Civilは、ブロックチェーンを使った新たなビジネスモデルの創出が期待されるプロジェクトの1つであり、多くの注目が集まっていただけにクローズを惜しむ声が相次いでいます。
【参照記事】ジャーナリズムの改善を目指した分散型メディアプラットフォーム「シビル(Civil)」がプロジェクト終了へ
【参照記事】Blockchain journalism startup Civil is no more
クリプトママの再任が決定
米国証券取引委員会(SEC)でコミッショナーを務めるHester Peirce氏が、トランプ大統領の任命を受け再任する方針であることが明らかとなりました。これにより、2025年まではコミッショナーとして引き続き活動することになります。
Peirce氏は、「クリプトママ」の愛称で知られる暗号資産擁護派の人物です。これまで度々棄却されてきた暗号資産のETF承認について、イノベーションを妨げるとして異議を唱え続けてきました。
また2020年に入ってからも、暗号資産にセーフハーバールールを適用させることも提案し話題となっています。セーフハーバールールとは規制における特例のことを意味し、緩和された特定の規制を満たすことで法令違反とはしない制度のことです。セーフハーバールールが存在することにより、黎明期の産業におけるイノベーションを促進させることができると考えられています。
Peirce氏は、暗号資産におけるセーフハーバールールとして、プロジェクトが独自トークンを発行してから3年間は証券法の適用外として扱う、といった提案を行なっていました。発行直後のプロジェクトは、証券法に準拠するための資金や人材が揃っていないことが多く、このままではベンチャー企業を潰してしまうといった主張を展開しています。
【参照記事】仮想通貨擁護派の米SECコミッショナー、2025年まで続投へ トランプ大統領が任命
【参照記事】Hester Peirce nominated for second term as SEC commissioner: report
DeFi市場へビットコイン資金が流入
現状のDeFiは、暗号資産をロックすることで利用できるサービス多く、市場規模の計測指標として、市場にロックされている暗号資産の総額を用いるのが一般的となっています。そんなDeFi市場におけるロック額が7日、2020年2月以来の10億ドルに回復しました。
要因としては、DeFi市場へのビットコイン資金の流入があげられます。これまでのDeFiサービスは、ほとんどがイーサリアムを使って開発されたものであり、エコシステムもイーサリアムに閉じたものになっていました。そんなDeFi市場に、昨今ビットコイン資金の流入が拡大しているのです。
背景には、イーサリアム上でビットコインを取り扱うことが可能なトークン、WBTCの盛り上がりがあります。WBTCは、ビットコインを担保としてイーサリアム上に発行されるトークンです。このWBTCの活用がDeFiエコシステム内で進んだことにより、ビットコイン保有者の資金が市場へ流入したと考えられます。
また、DeFiを構成する要素の1つである分散型取引所(DEX)でも、市場の着実な盛り上がりが伺えます。DEXの市場規模は1年で5倍以上の成長率を記録し、2020年の上半期における取引量は3Bドルを突破しました。収益は年間1200万ドルにも及ぶといいます。
【参照記事】DeFi管理の仮想通貨総額、再び10億ドル規模に回復
【参照記事】DeFi recovers from COVID crash, retakes $1 billion in total value
【参照記事】Surging volume and near-record earnings at decentralized exchanges
マイクロソフトが身分証明にブロックチェーンを活用
マイクロソフトが、ビットコインのブロックチェーンを使った身分証明ネットワーク「ION(Identity Overlay Network)」のベータ版を公開しました。2019年5月に公開したプレビュー版の改善を重ね、今回正式に商用を開始しています。
IONは、ユーザーが自身のデジタル情報を暗号化された状態で管理するためのシステムです。ブロックチェーンを用いることで、管理者なしにユーザー情報を管理することができます。つまり、FacebookやTwitterが提供しているようなログイン機能を使わずとも、様々なサービスにアクセスできるようになるのです。
ブロックチェーンを活用したデジタル情報の管理システムは、一般的にDID(Decentralized IDentity)と呼ばれます。マイクロソフトをはじめ複数の企業や団体が、以前よりDIDの構築に取り組んできました。今回のIONも、分散型認証財団(DIF:Decentralized Identity Foundation)とマイクロソフトが提携することで実現しています。
日本でも2019年に、経済産業省と株式会社リクルート、株式会社techtecの三者による調査事業の中で、DIDを活用した学位・履修履歴、研究データの不正および改ざん防止の取り組みが行われています。
【参照記事】マイクロソフトがビットコインベースの分散型ID管理ツール「ION/イオン」のベータ版をメインネットで公開
【参照記事】ION – Booting up the network
デジタルガレージが暗号資産OTC市場に参入
デジタルガレージの子会社で、金融領域におけるブロックチェーン活用を担うクリプトガレージが、暗号資産の大口OTC市場に特化した決済サービス「SETTLENET(セトルネット)」の商用化を開始しました。
SETTLENETは、カナダに拠点を置く老舗ブロックチェーン企業Blockstreamの提供するLiquid Network上で、取引所を仲介させることなく異なる暗号資産の交換を可能にする「アトミックスワップ」を実現するシステムです。
暗号資産のOTC市場はまだまだ未成熟であり、取引成立後でも暗号資産と法定通貨を交換するまでに契約逃れなどの決済リスクが存在しています。そのため、現状はある程度信頼できる第三者を仲介させることで取引を行っていますが、カウンターパーティーリスクの可能性をゼロにすることはできません。
クリプトガレージは、2019年1月より日本政府の規制サンドボックス制度の元で実証実験を行ってきました。今回、Liquid Network上でのアトミックスワップ、すなわち第三者を仲介させることなく、当事者間での資産の同時交換を実現したと発表しています。
まずはLiquid Network上で発行されるビットコイン担保の「L-BTC」と、日本円担保の「JPYS」の取引をサポートするといいます。今後は、ステーブルコインのテザーやカナダドル担保のL-CADなどにも対応予定です。
【参照記事】デジタルガレージ子会社が「暗号資産OTC市場」に特化した決済プラットフォームを開始【クリプトガレージ】
【参照記事】Blockstream launches Bitcoin OTC trading platform in Japan
まとめ・著者の考察
ビットコインやイーサリアムなど、一口にブロックチェーンといっても様々な種類が存在します。現在のブロックチェーンの大きな課題の1つに「インターオペラビリティ問題」と呼ばれる、異なるブロックチェーン間でのアセットに互換性がない点があげられます。
そのため、イーサリアム上でビットコインを取り扱い可能なWBTCや、異なる暗号資産の交換を可能にするアトミックスワップを実現したSETTLENETは、今後のブロックチェーン市場の更なる盛り上がりにとって欠かせない仕組みになるのです。
なお、インターオペラビリティ問題の解消に取り組んでいる代表的なプロジェクトには、PolkadotやCosmosなどがあります。
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田上智裕
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