「地域で持続的なインパクトが創出される仕組みをつくる」SIIFが挑む、休眠預金を活用した地域活性化支援

10年以上取引がない「休眠預金」を民間の公益活動に活用する目的で2018年に休眠預金等活用法が施行されました。一般財団法人社会変革推進財団(以下、SIIF)は、休眠預金等活用法に基づく資金分配団体として選出され、4月頃より2020年度のソーシャルビジネス実行団体の公募を開始しています。

今回は、休眠預金活動事業に従事しているSIIFインパクトオフィサーの小笠原由佳さんに資金分配団体として掲げている目標や役割、2次公募までの所感、そしてインパクト評価を用いた今後の具体的な取り組みなどについてお伺いしました。

話し手:社会変革推進財団インパクトオフィサー 小笠原 由佳さん

    国内大学卒業後、プリンストン大学ウッドローウィルソン公共政策大学院終了。国際協力銀行にて、中央アジア・中東欧向け円借款・国際金融業務に従事。大学院へ留学後、ベイン・アンド・カンパニーにて、経営コンサルティング業務とプロボノ事業の立ち上げ、子供の関連NPOへの支援を担当。JICAにてインド・トルコ・インドネシア向け援助業務に関わった後、社会変革推進財団(SIIF)に参画。SIIFでは、インパクト投資や休眠預金活用事業に従事。2児の母。

記事目次

  1. 休眠預金を活用し、地域に社会的インパクト投資の仕組みを構築
  2. 持続的なソーシャルビジネスを採択することが鍵
  3. 地域活性化の成果を可視化するための社会的インパクト評価
  4. 持続可能な事業にするべく地元金融機関とも連携
  5. 多様な形態の関係人口を増やしつつ、地域循環型経済を構築していくことが必要
  6. 編集後記

休眠預金を活用し、地域に社会的インパクト投資の仕組みを構築

Q.休眠預金制度についてお聞かせください。

休眠預金制度の構造としましては、一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)が資金分配団体を選定し、SIIFは22団体のうちの1つとして採択されました。その資金分配団体がそれぞれ実行団体を選ぶ仕組みになっています。SIIFは、唯一出資(初年度は助成金のみ)として申請した団体です。

Q.なぜSIIFは地域活性化を事業テーマに据えたのでしょうか?

今回、SIIFは「地域活性化ソーシャルビジネス成長支援事業」をテーマに据えた理由としては、我々のミッションは個々の団体さんを支援して個別の課題を解決するのではなく、地域に社会的インパクト投資やインパクトマネジメントをする仕組みを作りたいという想いがあるからです。

我々としては、1団体が自立的なビジネスに成長していただくことは重要ですが、地域の金融機関にインパクト評価を学んでもらうことや、地域でそのビジネスがまわり続ける土壌を育てることが地域社会に良い変化をもたらすという考えを持っています。

Q.SIIFならではの休眠預金活用のアプローチをされているようですが、詳しく教えてください。

今回のプロジェクトにあたり、地域に眠る資源を可視化して、それらを活用して得られたインパクトを測り、事業収益を得ながら持続的にインパクトを創出する、という一連の仕組み作りを意識しています。

SIIFが他の資金分配団体とは異なる点として、例えば他団体は分野を絞って公募をしていますが、我々はセクターを分けず、地域の資源活用の点と、ビジネスとして持続可能であるかを重視して審査を行っています。

また、持続性を担保するためのもう一つの特徴として、地元密着型金融機関の信金中央金庫と包括連携協定を結び、助成金がなくなったあとも選ばれた企業が地域で自走できるよう出口戦略を描いています。このように、地域に寄り添った金融機関をソーシャルビジネスとマッチングしていきたいと考えています。

持続的なソーシャルビジネスを採択することが鍵

Q. 第2次公募期間まで終了しましたが、どのような団体から応募が来ていますか?

大変多くの反響を頂き、現在は100件以上のお問い合わせをいただいております。予想外の企業・団体も、想定していたような活動をされている企業・団体も応募していただいているという実感があります。

規模としましても株式会社が多い印象がありますが、数十年事業をされている大企業もあれば、立ち上げまもないベンチャー企業からも応募いただいてます。

業界自体も一言では言えないほど多種多様で、例をあげると中山間事業などといった地域エネルギー事業や地域のファンを継続的にサポートする仕組み作り、そして観光地の顧客関係管理を行うなどそれぞれユニークな取り組みです。

また、応募には大変多くの準備を要するため、事前相談を設けています。先ほども申し上げたように我々は持続性を重視しているので、助成金がなくなった後の成長戦略を描いてもらい、3年以内で自走できるような計画を明記してほしい旨をお伝えしています。

地域活性化の成果を可視化するための社会的インパクト評価

Q. 実行団体を選ぶ際の審査基準を教えてください。

SIIFでは、3つの軸を基準に審査しています。

  • 休眠資源の活用と効果を可視化し、価値化している事業か
  • 社会的インパクトがあるか
  • 企業の財務状況や経営陣の能力を含め、事業性があるか

この2つ目の社会的インパクトに関して詳しく説明すると、SIIFは世界的なインパクトマネジメントプロジェクトの指標を採用しています。その指針は評価項目というよりインパクト評価をする際の視点を表しており、我々はその視点を基準にインパクトを評価しています。

例をあげると、どのような地域課題を解決し、誰がビジネスの受益者になり、どのようなインパクトを与えるのか、そしてリスクの認知と対策などといったものです。これらを一つ一つ確認することで支援団体を選定します。

Q.インパクトを持続させるためにもっとも重要な点は何ですか?

審査基準の一つ目にも挙げたように、事業が持続的に存続するために必要なのは、事業としてマネタイズができ、赤字を出さないことです。事業が止まってしまうと社会に与えるインパクトがなくなってしまうので、継続して運営ができるだけの事業収益が出せることが持続性に繋がると考えています。

Q. 様々な規模の地域があると思いますが、インパクト評価を意識して地域の選定も行われているのでしょうか。

現状としては、探索的に実行をしていくので、限界集落から数万人規模の都市も含め、地域は限定していません。地域はそれぞれに特徴があり、応募していただいている団体の中でも、特定地域に対する解決策の提案もあれば、徐々に関係人口を増やし、最終的に全国展開する手法の提案もあります。そのため、審査では地域を限定せず、我々が価値提供できる団体を重視して採択します。

持続可能な事業にするべく地元金融機関とも連携

Q. 採択した企業へはどのような関わり方をするのですか?

休眠預金等活用法では、選出した企業に対して、助成金の他に包括的伴走支援を行うことが求められており、社会的インパクトマネジメントをさせていただく予定です。具体的には、誰にどのようなインパクトを齎すのかを整理し、数年後に達成すべき指標を定め、定期的に実行団体と成果のレビューをしながら、経営に組み込んでいくサポートをします。

実際にビジネスの場面で経営者がやるような月次や定期の振り返りを社会的インパクトに置き換え、一緒に見直していく支援体制を実施することになります。

Q. 地域の金融機関とは、具体的にどのような連携をしていますか?

現時点では、公募に関して理解していただけるよう信金向けの公募を説明した動画を制作し、それを見た地域の金融機関から、公募の候補団体を紹介していただいています。先ほど申し上げた応募前に必ず実施する事前相談に関しても、各地の信金が候補にあげたい団体へ公募に関する説明をしてくださり、興味がある団体は信金中金さん経由で私たちに繋いでくださっています。

事前相談の場に信金の行員も同席していただく場合もあるのですが、とても勉強熱心でインパクト評価に対する興味関心も高く、このような形で協力していただけていることだけでもすでに意味があったと感じています。

また、たった一つの団体を地域で成功するソーシャルビジネスにしても、後に続かなければ片手落ちになるのではないかと懸念しています。我々の目的の一つでもあるインパクト投資を広めるために、地域の信用金庫にもインパクト志向の資金の流しかたを学んでいただき、少しでもインパクト評価を判断軸に入れて融資先を決める土壌を作っていきたいと考えています。

Q. 信用金庫と連携した実行団体の出口戦略についても詳しく教えて下さい。

出口戦略とは、ベンチャーキャピタルのようにIPOやバイアウトすることではなく、助成金がなくなった時に自立してビジネスを回す戦略のことを指しています。信用金庫が紹介してくださる団体は、信金で支援するにはまだ早い、金銭以外にもスキルやノウハウの支援が必要な団体で、SIIFが支援した後に信金が融資という形で支援するのが理想的な流れだと考えています。

このように、地域の信金と連携をして取り組んでいるのですが、一方で地域に目を向けると、高齢化や過疎化が進む中で、今後は共助の役割が重要になっていくと考えています。SIIFではそのような共助を増やすための解決策を議論しています。

多様な形態の関係人口を増やしつつ、地域循環型経済を構築していくことが必要

Q.東京に住む人が地域のコミュニティと向き合っていくことに関してどのようにお考えですか。

私自身も関係人口をどのように構築していくか模索中です。従来の関係人口の議論では移住がゴールになっていることも多いのですが、年に1度だけその地域を必ず訪れてくれる人やふるさと納税という形の関わり方など、多様な関わり方も増えてきています。自分にとって、地域と一番居心地の良い距離、関わり方、場所を一人一人が考え始めているということではないかと思います。関係人口を構築するための様々なICTソリューションがありますので、東京に住んでいる人も今後活用が進んでいくのではないでしょうか。

また、今後は地域循環経済を作っていくことも大切です。今の経済はグロール化が進んだことにより、新型コロナウイルスの影響でも実感できたようにある意味脆弱な社会になってしまっています。国外からの物品の調達に依存するのではなく、地域での生産を増やし、サプライチェーンを短くすることが自立した社会になるためには重要だと考えています。地域でエネルギーや農産物などを作ることで、個々の商品価格は少し高額になるかもしれませんが、災害による被害を減ずることができるようになり、CO2排出量削減にもつながると思います。

Q. 最後に、公募期間まで残すところわずかですが、メッセージをお願いします。

休眠預金のプロジェクトは行政では拾いきれない課題を民間企業で解決するという趣旨で行なっており、その思いに賛同している方々が参加してくださっています。新たな解を見つけるプロセスは簡単ではないので、実行団体と共に伴走支援として一緒に走り続けたいと思っています。

インパクト評価という言葉は上から目線の印象があるかもしれませんが、非営利活動においての活動意図に準ずる目標設定を行い、一つ一つステップの合意を取りながら、そして改善を重ねながら共に事業を回していきたいと考えています。取り組みたい活動があるものの、リソース不足で実行するのを難しく感じているという団体が来てくれることを望んでいます。

編集後記

助成金が受け取れなくなった途端に事業が存続できなくなる団体は少なくありません。その課題を解決するために始まったSIIFの休眠預金を活用した新たなチャレンジ。インパクト評価を用いて事業成果を可視化し、伴走支援や地域の金融機関との連携を通じてインパクトの持続性を高める、とても画期的な取り組みです。

今回は、グローバルな金融の視点やシビアなビジネスの目線でソーシャルビジネスやインパクト投資を捉えるインパクトオフィサーの小笠原さんに、SIIFとしてインパクト評価を用いた持続的なソーシャルビジネスを作り上げたい想いと、今後の地域活性化への期待について伺うことができました。

長期的な視点を持ち、地域の金融機関を巻き込むことによって共助の仕組みづくりを構築する素敵な取り組みに感銘を受けました。彼らの取り組みを皮切りに、インパクト評価をより多くの地域の金融機関に理解され実行されることで、持続可能なソーシャルビジネスが増える起因となるでしょう。

【関連サイト】SIIF「休眠預金等活用法に基づく実行団体の最終公募開始のお知らせ」(PDF)

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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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