イーサリアムが大型アップデート「Ethereum2.0」を間近に控える中、昨今成長著しいDeFi市場が更なる盛り上がりをみせています。そんなブロックチェーン業界ですが、やはり根幹にあるのはビットコインでありそのコミュニティの思想です。
今回は、世界で最も歴史のあるブロックチェーン企業Bitcoin.comの瀧沢さんへ、ブロックチェーンの学習サービスPoL(ポル)を運営する株式会社techtecの田上(著者)がインタビューを実施しました。
古くからビットコインコミュニティに身を置いてきた我々ならではの視点から、ビットコインおよびブロックチェーンの過去と未来について議論を展開します。
話し手: Bitcoin.com 瀧沢理(たきざわまこと)さん
聞き手: 株式会社techtec/PoL 田上智裕(たがみともひろ)
インタビュー概要
- ビットコインとビットコインキャッシュ
1-1. 暗号資産・ブロックチェーンの起源「ビットコイン」
1-2. コミュニティの分裂とビットコインキャッシュ - 投資対象としてのビットコイン
2-1. ビットコインのリスク
2-2. ビットコインの価値の源泉 - ビットコインキャッシュの優位性
3-1. ビットコインキャッシュvs銀行、ビットコインキャッシュvsイーサリアム
3-2. ビットコインキャッシュvsステーブルコイン - 次世代のコミュニティ運営
4-1. 分散型コミュニティの実態
4-2. 分散型コミュニティにおける重要な要素 - インタビューを終えて
ビットコインとビットコインキャッシュ
1-1. 暗号資産・ブロックチェーンの起源「ビットコイン」
田上:先日、Bitcoin.comとPoLとの協業を発表させていただきました。あのリリースはかなり反響があり、Bitcoin.comの知名度を改めて感じましたね。まずは読者の方へ、Bitcoin.comの事業について改めて教えてください。
瀧沢さん:Bitcoin.comはビットコインとビットコインキャッシュに関する情報提供を主に行なっている会社です。ビットコインキャッシュを使ったゲームやウォレットの開発も行なっています。また、最近は個人間でビットコインキャッシュの交換ができるlocal.bitcoin.comも運営中です。
田上:その中で、瀧沢さんはどういったポジションになるのでしょうか?
瀧沢さん:主に日本オフィスやその他様々なことのマネジメントを担当しています。ウェブサイトの情報提供は英語がメインになりますが、日本にも拠点がありますしミートアップも定期的に開催しています。基本的にはビットコインキャッシュの発展に貢献することは何でもやりますね。例えば、ビットコインキャッシュで支払いができるお店を増やしたりですとか。
田上:私は2013~2014年頃にビットコイン界隈に身を置き始めました。これでも相当早い方だと思いますが、瀧沢さんは2011年頃からですよね。当時のコミュニティはどのような環境でしたか?六本木でよくミートアップをやっていましたよね。
瀧沢さん:実はあのミートアップ、最初は渋谷でやっていたんです。日本人はほとんどいませんでしたね。当時はビットコインを使えるお店は特になくて、ビットコイン決済を受け付けるお店が増えたらそこでやる、みたいな感じで各地を転々として開催するようになっていきました。
田上:私が参加し始めた頃には既にミートアップの拠点は定まっていましたね。当時と現在では大きく環境も変わっているかと思いますが、ビットコインは今後どうあるべきでしょうか?コミュニティを含めた将来的な持続可能性について、どのように考えを持っているか教えてください。
瀧沢さん:ビットコインはいつでもどこでも自由に使えるお金だと思っています。自国通貨だと制限がありすぎたり送金手数料が高すぎたり、そういった問題を解消できる可能性を秘めています。その結果、経済の成長速度が高まると思うんですよね。
田上:いつでもどこでも自由に、というのはまさにビットコインの性質そのものですよね。ちなみに、そのようなオープンなものに対してBitcoin.comがそこまでサポートするメリットは何があるのでしょうか?
瀧沢さん:我々Bitcoin.comは、ロジャーの信念から始まっています。ロジャーはいつも、ビットコインを世界規模で発展させるべきだと言っていました。ビットコインの発展を通して、世界経済の発展に貢献したい、そういった想いを持っていますね。
※ロジャー:ロジャー・バー氏。Bitcoin.comの創業者であり、ビットコインジーザスと呼ばれるビットコインコミュニティ最古参の1人
加藤(HEDGE GUIDE編集部):こういった自由な性質を持つものを補足しようとする動きについてはどのようにお考えでしょうか?
瀧沢さん:ビットコインのようなものに対しては、やはり権力者が制限をかけようとします。そのため、制限される前にこちらも対策を講じようという発想で動いていますね。
例えば、よりプライバシー性能を高める仕組みを開発したりしています。実は我々は権力者の動きをポジティブに捉えていたりするんです。新たな制限が設けられる度に、それを機会と捉えてこちらも新しい仕組みを開発するといった具合に。権力者が否定したくてもできない仕組みを作りたいと思っていますね。
1-2. コミュニティの分裂とビットコインキャッシュ
田上:少しビットコインキャッシュについてお聞かせください。まずはビットコインとの違いはどういった部分がありますか?そもそもなぜ誕生したのでしょうか?
瀧沢さん:ビットコインもビットコインキャッシュも、基本的には同じものです。ビットコインキャッシュが誕生した経緯としては、コミュニティの分裂が背景にあります。
まず、2016年頃よりビットコインに人気が出てきて多くの人が使うようになりました。ビットコインは、一定の時間に取引できる量が定められていて、人気が出るにつれて取引の処理が追いつかなくなってしまったんです。これに伴い取引の手数料も高騰していき、これじゃあお金として使えないよねという意見が出始めた結果、取引上限を引き上げようという話になりました。
一方で、私欲に動く人たちが取引上限を上げない方がいいという意見を出し始め、その結果コミュニティが分裂してしまったのです。そこで誕生したのがビットコインキャッシュです。ビットコインキャッシュは、「世界中で使用可能なキャッシュシステム」というビットコイン本来の思想を引き継いでいるので、より早くより安くを目指しています。
※ビットコインは、一定期間における複数の取引を1つのブロックに格納しています。このブロックに格納できる取引上限をブロックサイズといい、長い間1MBのサイズで固定されてきました。ところが、人気が出るにつれて1MBに収まり切らなくなり、先述の問題に発展しまったのです。なおビットコインを送金する場合、送金者は自由に手数料を設定することができます。その手数料を徴収するマイナーもまた、どの手数料を受け取るか自由に選択することができるのです。そのため、マイナーは手数料の高い取引を優先してブロックに格納するようになります。結果的に、手数料が高騰する事態に繋がりました。
田上:コミュニティの分裂とはつまりハードフォークのことを意味しますが、これまで最も大きなハードフォークがビットコインとビットコインキャッシュの件だったと感じています。投資家に対して、このハードフォークについて知っておいた方がいいと思うことは何かありますか?
瀧沢さん:本来、投資家やユーザーはコミュニティの分裂を意識する必要はありません。しかしながら暗号資産の性質上、実際に起こってしまうのです。皆さんは取引所を経由して知らされることが一般的ですが、知識として把握しておくと予期せぬ事態に役立つかもしれません。
投資対象としてのビットコイン
2-1. ビットコインのリスク
田上:ビットコインを利用する場合に注意するべき点は何でしょうか?
瀧沢さん:まずは価格の変動(ボラティリティ)が激しいという点があげられるかと思います。予想できない動きをするので、何が要因なのかわかり辛いです。必ずしも儲かるものではない、という認識を持っておいた方が良いかもしれません。失ってもいい金額の範囲で投資しましょう、ということがいえるかと思います。
田上:それを踏まえ、これから暗号資産に投資を始めようとしている人に、これには気をつけて、といったポイントがあれば教えてください。
瀧沢さん:繰り返しになりますが失ってもいい金額で投資する、という点に尽きるかと思います。具体的には、日常的にトレードする分は取引所に預けておく必要があるため、少額にした方が良いでしょう。まとまった分は、自分の秘密鍵で管理するウォレットに入れておくのが鉄則です。
2-2. ビットコインの価値の源泉
田上:ビットコインは投資対象として見られることが多いですが、ビットコインの価値の源泉についてどのようにお考えでしょうか?よく、マイニングにかかる電力が価値の源泉だなどと言われますが。なぜビットコインに価値があるといえるのでしょうか?
瀧沢さん:そうですね、米ドルや電気代が価値の源泉などと言われていますが、必ずしもそうではないとも思っています。モノの価値というのは、どれだけの人が利用してどれだけの人に有益なものとなっているのかで決まるのではないでしょうか。なので、実際に利用する人が増えるほど価値も高まっていくと考えています。
田上:法定通貨も同じですよね。誰も使わなくなってしまった国の通貨は価値を失いやがてデフォルトしてしまいますからね。
ビットコインキャッシュの優位性
3-1. ビットコインキャッシュvs銀行、ビットコインキャッシュvsイーサリアム
田上:ここからは少しレベルを上げていきましょう。ビットコインキャッシュの優位性について教えてください。まずは、銀行に対して。ビットコインキャッシュは将来的に銀行の提供している国際送金機能を代替すると思いますか?
瀧沢さん:法定通貨の場合は、銀行口座を開設することを前提としています。口座にお金を置いてそこを経由して引き出したり送金したり…暗号資産の場合、そもそも銀行が不要です。このメリットは非常に大きいと考えています。
わかりやすい例としては、送金手数料が劇的に安かったり個人情報の流出が起きたりしません。大掛かりな設備投資が必要ない点も大きなメリットですよね。
ただし、銀行がすぐに無くなる訳ではないと考えています。銀行もブロックチェーンを活用した送金システムを構築する可能性がありますし、暗号資産とは違う形でコインのようなものを発行するかもしれません。いずれにせよ、暗号資産の方に寄せていくのではないでしょうか。
田上:続いてイーサリアムとの比較を考えていきましょう。両者は単純に比較をするものではありませんが、イーサリアムはゲームやDeFi(分散型金融)を中心にエコシステム全体で価値が評価されているように感じます。一方で、ビットコインキャッシュはそれ単体で価値を評価される傾向が強いです。今後ビットコインキャッシュにおいても、イーサリアムのようなエコシステムの発展は期待できるのでしょうか?
瀧沢さん:あまり知られていないのですが、イーサリアムのERC-20などにあたるSLP(Simple Ledger Protocol)というものが存在します。これは、ビットコインキャッシュ上で独自トークンを簡単に発行するための規格です。SLPを活用することで、ERC-20だけでなくERC-721で発行できるようなトークンも作成することができます。
※ERCとは、Request for Commentの略でイーサリアムに関するコミュニティからの改善提案を意味します。提案された順番に番号がつき、その中でもERC-20とERC-721が最もメジャーです。ERC-20によって発行されるトークンをFungible Tokenといい、主にICOなどで使われます。一方のERC-721では、Non-Fungible Token(代替不可能)を発行することができ、主にゲームなどで使われます。
ビットコインキャッシュのコミュニティは、他の暗号資産の良いところを見つけては積極的に取り込もうとしています。プライバシー性能でいえばZcashを参考にしたり、そういった姿勢は大事にしているんですよね。
他には、最近だとビットコインキャッシュ上でもDeFiを構築しようとする動きが出てきていますよ。
田上:それは知らなかったです。暗号資産の頂点に立つビットコインないしビットコインキャッシュにも、他の暗号資産をみならう姿勢があったということですね。鬼に金棒ではありませんが、益々良質なプロトコルになりそうで楽しみです。
加藤(HEDGE GUIDE編集部):他の暗号資産の良いところを取り込む動きは意外でした。他に参考にして取り込んだ点は何かありますか?
瀧沢さん:具体的に何かという訳ではありませんが、何か大きな動きに採用されることを狙っているのは、ビットコインキャッシュも同じではないでしょうか。例えば、大きな小売店の決済手段として採用されたり人気ゲームとコラボしたり…
加藤(HEDGE GUIDE編集部):初期の頃からそのような様子だったのでしょうか?
瀧沢さん:ビットコインは「世界で使えるキャッシュシステムを作る」というミッションの元に作られました。我々はその思想に惹かれてコミュニティに参加しているため、今でもそこは変わりません。このミッションを実現するために、これまでも良いところは積極的に取り込んできたと思っていますよ。
3-2. ビットコインキャッシュvsステーブルコイン
田上:次に、ステーブルコインとの違いについて教えてください。ビットコインキャッシュのボラティリティの高さから、TetherやDai、USD Coinといったステーブルコインが登場しました。これにより、ビットコインキャッシュの持つ通貨としての役割はほぼ消滅したと考えられます。その中で、ビットコインキャッシュが社会に提供する機能的な価値は何だと思いますか?
瀧沢さん:ステーブルコインの特徴として、円やドルなどの法定通貨にペッグ(連動)している点があげられます。これは、問題点でもあると考えています。なぜなら、その法定通貨に何か問題が起きた場合に、ステーブルコインも影響を受けてしまうからです。
この状態を自由なお金といえるのでしょうか。そもそも暗号資産は、オープンで非中央集権な思想を持って生まれたものです。法定通貨を担保にしたステーブルコインは、この思想に反していると思います。
また、発行体が担保資産を本当に保有しているのかという問題もあります。いわゆるTether問題が該当しますが、結局は信頼に依存してしまっていますよね。この状態は、長期的には綻びが出てくるのではないでしょうか。
次世代のコミュニティ運営
4-1. 分散型コミュニティの実態
田上:ビットコインに関してはこちらの記事でも紹介しましたが、机上と実際は異なるかと思います。最後のトピックとして、分散型コミュニティの開発・運営について教えてください。ビットコインキャッシュの改善提案(BIP)はどのように出されるのでしょうか?
瀧沢さん:ビットコインキャッシュの開発はコアメンバーと呼ばれる人々が行なっています。日々チャットやRedditでディスカッションを行い、オンライン会議も頻繁に開かれているんです。
実はアップデートの間隔も決められていて、しっかりとマイルストーンを定めて運営しています。もちろん、開発状況は全てオープンです。
田上:実際にビットコインキャッシュの開発を行なっているのはどのような人たちなんですか?また、開発者(コントリビュータ)はどのように決められるのでしょう?
瀧沢さん:オープンなコミュニティであるが故に、そこはかなり曖昧というか、開発者の選定基準などは特にありません。これまでコアメンバーとしてやってきた人たちが新たに連れてきたり、そもそもオープンソースなので自由にコミットすることもできます。
4-2. 分散型コミュニティにおける重要な要素
田上:オープンソースの話が出ましたが、初期の頃からビットコインコミュニティに貢献してきた身として、ブロックチェーンプロジェクトの目指す分散型の組織を作り上げるのに重要な要素は何だと思いますか?
瀧沢さん:これは多くの人が参加することに尽きると思います。コミュニティの参加者が増えるほど分散化が進み、特定の人物の影響力を減らすことに繋がります。なので、テクノロジーに明るくない人でもどんどん参加してほしいと常に考えています。
田上:あえて分散型組織のデメリットをあげるとしたら?
瀧沢さん:意思決定の遅さですかね。日々、様々な要望がコミュニティから出されますので、なかなか決まらないことが多いです。一部からは逆に管理してほしいという要望も出ているぐらいで。しかしながら、もちろん管理者がいないので困ることがあります。
他には、コミュニティが世界中に広がっているので、各国の情勢によってバックグラウンドが大きく異なります。言語だけでなく文化の違いもあるので、コミュニケーションを取るのが難しいこともありますね。それはそれで、個人的には楽しいのですが。(笑)
加藤(HEDGE GUIDE編集部):サステナブルなコミュニティについてお聞かせください。ビットコインはマイニングによる電力消費の問題が長年指摘されているかと思います。そのため、イーサリアムはPoWからPoSに移行中な訳ですが、ビットコインキャッシュのコミュニティ内ではどのように考えているのでしょうか?
瀧沢さん:PoSへの移行も有り得るという考え方は持っていますよ。それがコミュニティやマーケットにとって本当に良いことなのであれば、そっちに移る可能性が十分にあるということです。そういう考え方をコミュニティ全体で共有できていると感じています。
ビットコインが生まれてから早や10年、当時の環境とは大きく変わっています。つまり、次の10年も何が起こるかはわからないということです。必ずしも、ビットコインが暗号資産の頂点に居続けられるとも思っていません。そのあたりは、マーケットが評価して選ぶのではないでしょうか。
田上:それでは最後に、暗号資産への投資を始めようか迷っている人に一言お願いします。
瀧沢さん:未だに暗号資産って怪しくないの?盗まれたりしないの?と感じている人は多いと思います。そんな人こそ、まずは気軽に100円とかでいいので使ってみてほしいです。ウォレットさえあれば誰でもアクセスすることができますからね。
インタビューを終えて
ブロックチェーンという技術が誕生してから10年が経過しました。ICOやDApps、DeFiといった様々な要素が生まれた中でも、全ての元になるのはビットコインです。ビットコインを知らずして、ブロックチェーンを語ることはできません。
業界に古くからコミットしているBitcoin.comの瀧沢さんと話していると、ブロックチェーン業界はオープンかつ分散性に長けたコミュニティであることを改めて感じます。まさに、Web3.0の時代が作られつつあるのだと思いました。
ビットコインやビットコインキャッシュは、最も安全かつ安定した暗号資産の1つです。この機会に学びを深めてみてはいかがでしょうか。
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田上智裕
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