ビットコインのロードマップはどのように決まるのか。意思決定プロセスを解説

今回は、ビットコインの開発プロセスについて、田上智裕氏(@tomohiro_tagami)から寄稿していただいたコラムをご紹介します。

目次

  1. ビットコインにおけるロードマップの策定と意思決定
    1-1. BIPとは
    1-2. BIPの種類
    1-3. BIPのワークフロー
  2. ビットコインコミュニティにおける議論
    2-1. フォーラム
    2-2. Reddit
    2-3. テレグラム
  3. まとめ

ブロックチェーンの実現するWeb3.0の社会では、Webサービスの運営は「Decentralization」を前提に行われます。これを自律分散型組織(DAO:Decentralized Autonomous Organization)といい、コミュニティ主導で開発が進行します。この概念は、元祖ブロックチェーンであるビットコインに端を発するものです。

本記事では、分散型プロジェクト(DAO)の元になったビットコインがどのように運営されているのか、ロードマップは誰が決め誰が開発しているのかについて紹介します。

ビットコインにおけるロードマップの策定と意思決定

1-1. BIPとは

ビットコインでは、コミュニティからの意見によってロードマップが決まります。これをBIP(Bitcoin Improvement Proposals)と呼び、ビットコインの改善提案を意味します。この改善提案は、基本的に全ての分散型プロジェクトに存在するものであり、イーサリアムの場合はEIPと呼んでいます。つまり、改善提案の仕組みが存在しないものは分散型プロジェクトとはいえないでしょう。

コミュニティからBIPが提出されると、コア開発者と呼ばれる人々が提案に対して議論を開始します。優れた提案であると判断された場合、ビットコインのGitHubを通してコードの監査が行われます。監査を経て実際に承認されるには、コア開発者たちの多数決による投票が必要です。なおコア開発者たちもまた、コミュニティによって選出されています。

この時、中心となって議論の旗を振る役割を持つ人物は存在しません。そのため、1つのBIPについての議論は非常に長くなります。分散型プロジェクトは、特定の権力者による恣意性の影響を受けないものの、中心となる人物がいないことが意思決定の遅さを生み出してしまっています。

実際、ビットコインが動き始めて既に10年が経過しているものの、正式に承認されたBIPは30以下となっています。また、その中には現在進行形で議論されているものも存在するため、いかに意思決定が難しい運営組織なのかがわかるでしょう。

1-2. BIPの種類

BIPは、大きく分けて「Standards」「Informational」「Process」の3つにカテゴライズされています。それぞれ見ていきましょう。

  • Standards:プロトコルやブロック、トランザクションなどビットコインのコアな部分に関わる提案です。これらの仕様が変更される場合、ビットコインエコシステム上に構築される全てのアプリケーションに影響を与える可能性のがあるため、意思決定は慎重に行われます。
  • Informational:ビットコインの設計やコミュニティのガイドラインに関する提案であり、機能的な変更は含まれません。なおこのタイプのBIPには、コミュニティの合意を得ていないものも存在しています。
  • Process:ビットコインネットワークを取り巻く外部要素に関する提案です。外部要素のため、ビットコインのソースコードに手を加えることはありません。

1-3. BIPのワークフロー

ビットコインコミュニティには特定の旗振り役は存在しませんが、BIPが承認されてから実際に開発が完了するまでは、提出者が責任を持ってその後の対応を進めるルールになっています。具体的には、BIPフォーマットと呼ばれる形式文書を作成し、フォーラムなどを利用してコミュニティからフィードバックを受けます。

提出されたBIPが全てコミュニティにおける議論の場に上がる訳ではありません。全てのBIPを取り上げていてはキリがありません。そのため、まずはメーリングリスト(bitcoin-dev@lists.linuxfoundation.org)に投稿し、そこで簡単な審査が行われます。審査を通過した場合のみ、正式にBIPとして議論が始まるのです。

議論が始まった後も、下図のように承認と却下を繰り返すことが多くなっています。ビットコインは、一度変更を加えるとブロックチェーンの性質上元に戻すことが容易ではありません。そのため、事前に何度も議論を重ねる必要があるのです。

ビットコインコミュニティにおける議論

ビットコインにおける意思決定は、GitHub上で展開されるBIPを通して行われていることがわかりました。ここからは、そこに到るまでの議論がどこで行われているのかについて紹介していきたいと思います。

グローバルが通念であるブロックチェーン業界では、基本的に全てのコミュニケーションがオンライン上で行われます。使用されるツールは、ビットコインやイーサリアムなどプロジェクトごとに異なっており、中には専用のコミュニケーションサイトが作成されているものもあります。

ビットコインの場合、大きく分けて「フォーラム」「Reddit」「テレグラム」の3つがあげられます。ビットコインコミュニティは、数あるブロックチェーンプロジェクトの中でも最もオープンな場です。コミュニティにはいつでも誰でも参加することができるため、下記のリンク先から実際に議論の様子を確かめてみると良いでしょう。

2-1. フォーラム

多くの分散型プロジェクトが独自のフォーラムを作成しています。後述するRedditやテレグラムなどでオープンな議論がされた後に、最終的にフォーラムに情報を集約することが一般的です。従って、過去の意思決定プロセスを知るにはフォーラムを確認すれば良いことになります。

  • Bitcointalk:ビットコインの生みの親であるサトシ・ナカモトが立ち上げた、最初のビットコインフォーラムです。ビットコインに関する初期の議論は全てここで行われ、現在もメインのフォーラムとして運営されています。
  • Bitcoin Forum:初期の頃より中心となってビットコインの開発を進めてきたbitcoin.orgに紐づけられたフォーラムです。bitcoin.orgは、サトシ・ナカモトとシリウス(別名:Martti Malmi)によって発足されました。サトシがビットコインコミュニティを離れてからは、bitcoin.orgの所有権は複数の人物に分散されています。bitcoin.orgもまたDAOとして運営されているのです。
  • Bitcoin.com:初期のビットコインコミュニティの発展に大きく貢献したBitcoin.comの運営するフォーラムです。2017年のハードフォーク以降、Bitcoin.comは主にビットコインキャッシュをサポートしていますが、本フォーラムではビットコインについても議論されています。
  • Bitcoin Garden:ビットコイン関連ニュースを配信するWebサイトBitcoin Gardenの運営するフォーラムです。後発ながら、近年多くのユーザーを獲得し急成長を遂げています。

この他にも、ビットコインエコシステムで活動する学生や若手起業家を中心としたBitco.inや、暗号資産のQ&AプラットフォームStackExchangeなどが利用されています。

2-2. Reddit

2020年5月に独自トークンの導入を開始した人気掲示板サイトReddit(レディット)でも、ビットコインに関する議論が行われています。

  • r / Bitcoin:Reddit上で展開されているビットコイン関連のメインスレッドです。150万人以上の会員が参加しています。
  • r / BitcoinMarkets:ビットコイン取引専用のスレッドです。投資情報にアクセスしたい場合はこのスレッドを参照すると良いでしょう。
  • r / BitcoinMining:ビットコインマイニング専用のスレッドです。ビットコインに関する話題の中でも、マイニングについての議論が最も白熱します。マイニングは事業として行なっている人が多いため、自身の都合を無理にでも通そうとする意見が頻繁に見受けられます。
  • r / BitcoinSerious:ビットコインに関する真面目な議論を行うスレッドとされています。ビットコインの課題について議論を交わしたり、他の参加者に意見を求める投稿が多くなっています。
  • r / LocalCommunities:それぞれの国ごとに分けられたスレッドのリストです。どの国でビットコインが盛り上がっているのかを確認する際に参照すると良いでしょう。日本のスレッドも存在しています。

2-3. テレグラム

プライバシーへの関心が高い暗号資産業界では、匿名性の高いチャットツールであるテレグラムが好まれています。ビットコインのコミュニティでもテレグラムを使った議論が展開されています。

  • Bitcoin Chat:ビットコインに関するあらゆる議論が行われているチャットです。
  • Bitcoin Dev:ビットコインの最もメジャーなクライアントソフトであるビットコインコアについて議論されているチャットです。テレグラムの参加者数としては非常に多く、開発に関する内容も見受けられます。

まとめ

ブロックチェーンを活用した最初のプロジェクトとして誕生したビットコインですが、その性質ゆえにこれまでの運営形態とは大きく異なる実態となっています。全ての意思決定がオープンであるため、特定の人物による恣意性を排除することはできるものの、開発スピードは遅くなってしまいます。

また紹介した通り様々なツールを使って議論が行われているため、過去の意思決定プロセスが追いにくい状況であることも、分散型プロジェクトの課題であるといえるでしょう。

なお、イーサリアムではこういったビットコインの実態を考慮し、Ethereum Foundationという組織を中心に据えることで比較的スピーディーな意思決定を実現しています。ビットコインは唯一無二の完全な分散型プロジェクトであり、端的にどちらが良いかを判断することはできません。

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田上智裕

田上智裕

株式会社techtec 代表取締役。リクルートホールディングスでの全社ブロックチェーンR&Dを経験後、2018年に株式会社techtecを創業。「学習するほどトークンがもらえる」ブロックチェーンのオンライン学習サービス「PoL(ポル)」を運営。メディアでの執筆や海外での講演などを中心に、ブロックチェーン業界の発展にコミットしている。