米政府は1940年頃から、政府が際限なく債務を増やさないように一定の債務上限を定めてきました。ただし、この債務上限は、その後必要に応じてどんどん引き上げられ、「上限」という意味をなさなくなっています。
2011年には米債務上限を巡って民主・共和両党が対立し、結果的に米国債が史上初めて格下げされました。株式市場も暴落する混乱が起こったことをきっかけに、この問題への注目度が高まりました。2021年7月31日に債務上限撤廃措置の期限が切れたため、再び債務上限問題が発生しました。
このまま放置すると米政府の資金が尽きてしまうことから、米議会は債務上限関連法案を通過させなくてはなりませんでした。しかし、毎度のように民主・共和の両党は簡単に合意せず、デフォルト期日ギリギリまで揉めることが予想されていました。2021年12月9日には米上院にて債務上限引き上げ関連法案が可決されたことで、デフォルト回避へ一歩前進した状態です。(2021年12月10日現在)
今回は、債務上限問題が与える為替市場への影響について解説していきます。
目次
- 債務上限問題とは
- 債務上限問題の歴史
- 債務上限問題の影響
3-1.債券への影響
3-2.米国経済への影響
3-3.他の格付け会社の動向
3-4.為替市場への影響 - 今回の債務上限問題の影響
1.債務上限問題とは
米国における連邦政府の債務残高の上限額とは、米財務省が発行できる債券(国債発行枠)の上限額のことを指し、上限額は法律で規定されています。債務が法定上限に達すると、国債の新規発行を行うことができなくなるため、政府は議会の承認を得て、上限を引き上げます。
引き上げられない場合は、歳出や国債の元利払い等に支障が生じ、債務不履行(デフォルト)に陥ります。米国では過去に何度も債務上限の引き上げが政治問題となってきました。
2.債務上限問題の歴史
米国では、共和党と民主党の対立から債務上限引き上げ法案がなかなか可決せず、政府機関が一時停止し、多くの政府機関の職員が自宅待機を余儀なくされた、という事態が過去に発生しました。デフォルトの瀬戸際に追い込まれ、世界同時株安になったこともあります。
ここ数年の債務上限問題の主な動きを以下に挙げます。
2011年8月
2008年のリーマンショックへの対応に伴う財政支出の増大により、財政赤字が急激に膨らみ、2011年8月初頭には債務残高が法定上限に到達する見込みとなりました。8月2日に債務上限引き上げに関する法案がギリギリのところで成立し、瀬戸際で債務不履行を回避できました。
しかし、8月5日に米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(以下、S&P)が、財政再建策が中期的な債務安定には不十分であり、また、政策決定の有効性、安定性、予見可能性が弱まっていると判断し、米国債の格付けをAAAからAA+に1ノッチ引き下げを発表し、市場に混乱が広がりました。
2013年10月
暫定予算の成立が遅れ、政府機関が一部閉鎖されました。市場が混乱したため、急遽2014年2月まで債務上限の適用を停止して対処しました。
2015年10月
債務上限の適用を2017年3月まで停止する法案を可決し、債務不履行を回避しました。
2018年12月
暫定予算の期限が切れ、政府機関の一部が閉鎖されました。その後2019年3月まで債務上限の適用の停止が決まりました。
2019年3月
債務上限の適用を2021年7月まで停止しました。
3.債務上限問題の影響
3-1.債券への影響
返済が滞りそうな期日に償還を迎える短期債券が売られ、金利は上昇します。この場合、短期金利が長期金利を上回る逆イールドの状態になります。
多くの投資家はインフレが加速するリスクやFRBの利上げリスクを補うために、償還期間の長短に関わらず米国債や1年以内の財務省短期証券(Tビル)と呼ばれる最も短期の債券には高利回りを求めます。
債務上限問題が発生し、デフォルトの可能性が騒がれ出すと、資金の枯渇が予想される期日近辺に満期を迎えるTビルの利回りが、それ以降に満期を迎えるTビルよりも高くなります。その時期に政府の債務が上限に達し、一時的に支払いができなくなるものの、いずれはこの問題は解消されることを見越した投資行動です。
しかし債務上限問題が解決されず、米国債のデフォルト(債務不履行)や、米国破綻を織り込む場合、全ての年限の債券が売り圧力に晒されやすくなります。これまでの「米債は安全資産である」という概念が崩れ去り、リスクオフの際に米債が選好され、米金利が低下するような動きが少なくなる可能性があります。
また米国ですらデフォルトとなれば、他国の債券への信頼も揺らぐでしょう。全世界的に債券市場投資への見直しが入る可能性があります。米国よりも、日本やドイツが選好され、金利低下要因になるかもしれません。
ただし、米債は基軸通貨かつ自国通貨建ての債券です。政治問題が解決されれば本質的なデフォルトにはなりません。ごく短期の債券のみに影響が出る可能性の方が高いでしょう。
3-2.米国経済への影響
キャッシュ不足が懸念されれば、米政府は必要な重要機関を除いて政府機関を閉鎖することになります。働く人の給料など維持費を払えなくなるからです。
すると短期的に収入が得られなくなる人が増え、経済全体にダメージが出てきます。閉鎖期間が長引けば長引くほど悪影響が強まり、経済指標へも現れてくるでしょう。
また米金利が上昇した場合、一般市民のローン金利の支払いも膨れ上がり、個人消費力の低下につながります。
3-3.他の格付け会社の動向
2011年にS&Pが米国債を格下げして混乱を引き起こしましたが、その他大手2社の動向にも要注意です。
2017年時点の見解では、ムーディーズは政治要因によって債務支払いが遅延されたとしても引き下げないとしていますが、フィッチは債務返済がスムーズにいかない事態になるのであればAAAを見直す可能性について言及しています。万が一フィッチが格下げ実施すれば、2011年の様にドル安・株安・債券安の米資産売りとなる可能性があります。
3-4.為替市場への影響
直接的な為替市場への影響は少ないでしょう。2011年の様にリスクオフとなるなら、クロス円売りになるかもしれません。
ただし短期金利が上昇しても、長期債が崩れないようであれば、リスクオフにはなりにくいと思われます。今後は、政府機関が閉鎖された場合その期間、デフォルトが万が一発生した場合、格付け会社が格下げをした場合、以上3点が注目ポイントです。
4.今回の債務上限問題の影響
2021年は、2022会計年度継続予算、債務上限一時停止(2022年12年16まで)、1兆ドルインフラ投資法案、1.7兆ドルの歳出法案、の4つの重要議題が同時並行で進みました。
一度10月18日がタイムリミットだとされましたが、10月から政府部門閉鎖、10月半ばで政府余剰資金が尽きてデフォルトとなる恐れがありました。
【参照記事】ブルームバーグ「米、債務上限引き上げデフォルト回避の見通し=ムーディーズ」=議事要旨」
債券市場ではデフォルトを警戒し既に10月後半から11月前半に償還を迎える国債が売られました。債務上限問題は2022年の中間選挙を念頭に、バイデン大統領の優先施策について米国民の受け止め方を自党に有利な形に方向付けようとする与野党の駆け引きの一部となり、両党がなかなか合意できない状態になりました。
2021年10月、債務上限を拡大し、政府資金を確保する法案が発効し、資金が枯渇して米国債がデフォルト(債務不履行)に陥る危機を当面回避しました。2021年12月上旬まで続いていましたが、12月9日に米上院にて債務上限引き上げ関連法案が可決されたことで、デフォルト回避へ一歩前進した状態です。(2021年12月10日現在)
【参照記事】ロイター「米上院、債務上限引き上げ関連法案可決 デフォルト回避に一歩前進」
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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