2020年のコロナショックを起点とした世界各国の金融緩和及び財政出動により、株式市場では米株が最高値を更新したことや、2021年2月には日経平均株価も約30年半ぶりに3万円を超えたという出来事などが注目されました。
この間、為替は株に連動した動きを見せ、リスクオンの米ドル売りが優勢でした。米ドルが金利に連動した理由として、インフレ警戒感の高まりとともに、金利の値動きが相場のメインドライバーになってきたことが挙げられます。
2020年までは超低金利が続き金利の存在感が薄れていましたが、インフレ警戒感の高まりにより、2021年は相場の主役が株から金利に変わってきたといえるでしょう。
相場の主役はこのように変わっていくため、為替取引の際には相場の主役を常に把握しておく必要があります。相場の主役を理解するためには「景気サイクル」という考え方がヒントになります。そこで今回は景気サイクルと株と為替の連動について解説していきます。
目次
- 景気サイクルと各プロダクツの関係性
1-1.景気上昇(回復)
1-2.景気過熱気味(好況)、景気の山
1-3.景気後退(後退)
1-4.景気対策(不況) - 株と為替の関係性の具体例
2-1.コロナショック後から2021年2月までの相場
2-2.2021年3月の相場
2-3.2021年4月の相場 - まとめ
1.景気サイクルと各プロダクツの関係性
経済学の教科書にも載っているように、景気サイクルは回復→好況→後退→不況の4つの局面が順番に繰り返し現れるとされています。では、これら4つの局面で株・金利・為替はどのような動きを示すのでしょうか。
- 景気上昇(回復)
- 景気過熱気味(好況)、景気の山
- 景気後退(後退)
- 景気対策(不況)
順に見ていきましょう。
1-1.景気上昇(回復)
- 株価:先行きの期待先行で上昇。
- 金利:設備投資、住宅投資などの資金需要が高まるに伴い上昇。
- 通貨:リスクオン継続により米ドル売り・円売りが基本で、景気回復期待による資源価格が上昇から、資源国が選好されやすい。また相場に材料がなくなれば高金利の新興国も買われる傾向がある。
1-2.景気過熱気味(好況)、景気の山
- 株価:買いが買いを呼び、実際の企業の実力以上に上昇する傾向がある。利上げが強く意識される段階から下がりだす。
- 金利:インフレ懸念が台頭し中央銀行による利上げが行われる。
- 通貨:初期段階はリスクオンで米ドルと円が売られ、資源国と高金利が買われるものの、その後利上げ期待と共に利上げ期待が強い国の通貨が買われる。最後に実際に利上げが行われると、株が下がりだしリスクオフの米ドル買い・円買いが強まる。
※ 株価上昇の局面においても実体経済がデフレから脱却できない場合には金利上昇はなく、中央銀行も緩和状態を継続するためリスクオン相場が継続する(ゴルディロックス相場)。
1-3.景気後退(後退)
- 株価:景気後退の気配を先取りして下落。
- 金利:消費者の購買行動が控えられ、資金需要が減り、利下げを織り込む形で低下。
- 通貨:利下げの織り込みが大きい通貨や、資源国通貨、高金利通貨が売られる傾向がある。またリスクオフ時には世界の基軸通貨である安全資産米ドルと世界一の純資産国の円が選好されやすくなる。
1-4.景気対策(不況)
- 株価:景気対策により市場に資金供給が増えると期待先行で上昇。景気対策(刺激策)により「谷」を脱すると、景気回復期へ移行。
- 金利:利下げ、場合によっては非伝統的手法である資産買取策などにより、金利を低位に維持しながら民間の資金需要を後押する。
- 通貨:金利が低位安定するため金利には反応せず、株との相関が高まり、リスクオン時には米ドルと円が売られる傾向がある。もしくは、資産買取額が多い国、市場に最も流動性を供給している国の通貨が売られる(減価する)。
景気循環と各市場の動きは長期的に見ると、上記のような連動が見られます。ただし、景気サイクルだけでは相場の動きは語れません。
例えば、各市場の反応の大きさやタイミングは異なり、他の要因によっても変わります。同じニュースに対しても、投資家の事前織り込みの度合いによって、また各市場の水準によって、反応の仕方が異なります。
ここで知っておきたいことは、相場は実際のニュースや経済にも反応するものの、金融政策の方向性への期待を先取りする形で、先行して動き出すことが多いということです。そのため、実際に想定通りの結果となった際には、利食いのフローが出て相場は逆方向に動くことがあります。これを「Sell the fact」と呼びます。
したがって、市場参加者の「期待」を事前に察知する必要があり、実際に利上げが発表されてから追いかけると尻尾を掴まされることになりかねません。
2.株と為替の関係性具体例
では、具体的に株と為替の関係性について、実際の相場の動きをもとに確認してみましょう。
2-1.コロナショック後から2021年2月までの相場
実体経済と乖離しながらも、日経平均株価が3万円台を回復するまで上昇した背景の1つとして、景気対策として市場に大量の資金供給がされたことが挙げられます。
経済活動が制限され、本来の行き先である設備投資等に資金が流れず、行き場を失ったお金が株式市場などの金融市場に流れ込み価格を押し上げました。好調な米国株式市場も同様に、コロナショックで急落した後、V字回復を見せ、米主要株価指数はそろって高値更新をしました。
このケースはサイクル的には“回復”局面に当たり、リスクオンの米ドル売り、円売りが拮抗し、2021年2月頃まではドル円は105円を中心とした揉み合いとなりました。また、セオリー通り資源国通貨は対米ドルで軒並み買われていることから、ある程度株と為替は連動していた時期と言えます。
2-2.2021年3月の相場
2月末から3月末にかけては、引き続き行き場を失ったお金が株式市場に流れ込み、株は上昇する傍ら、急激に米でインフレ懸念が台頭し米金利が急上昇しました。
このケースはサイクル的には“好況”局面の後期に差し掛かっており、株と為替の連動性はなくなり、金利と為替の連動性が強まったことから、米金利上昇につられて全面米ドル買いとなりました。米ドル円は、105円を中心とした揉み合いから一気に110円を超えるまで上昇しました。
2-3.2021年4月の相場
4月に入ると、行き過ぎた米金利が調整のため低下し、米ドルが売られました。本来の景気サイクルの順番からすると、“好況”の次は“後退”が訪れ、金利の低下とともに株も下がることが予想されます。
しかし、巨額の財政出動継続により、引き続き金余りの状況は変わらず、株が底堅く推移したことからサイクル的には“好況”局面の前期に戻った印象です。
この時期には、株と為替が連動しリスクオンの米ドル売り・円売りとなる一方で、米金利低下による米ドル売りも混在する形となり、株と為替は一部で連動していたものの、結果としては米ドル売りが強まり、ドル円は108円台で揉み合い、ドル円以外の通貨では資源国通貨が買われました。
まとめ
為替市場で取引する際、株式市場の動向はもちろん重要ですが、局面によって株価に連動する時としない時があることをお分かりいただけたと思います。
為替市場と株式市場の相関関係については、長年にわたって多くの投資家が興味を持ち続けてきました。しかし、両市場の相関関係はすべて明らかになっておらず、また、為替と株の関係だけでは為替市場の動きを正確に把握することはできません。為替市場を分析する手がかりとして、景気サイクルの考え方を知っておくと便利でしょう。
もちろん、為替と株の関係は、景気サイクルのようなファンダメンタルズの状況だけでなく、政治や金融政策の方向性といった様々な要因が絡み合っています。時間の経過とともにマーケットの状況は変化し、その過程で相関関係も変化していきます。このため、取引する際はとにかく情報を多く集めて複数の要因を考慮することが大切です。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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