2022年3月7日以降の相場は、ロシア軍がウクライナの原発を掌握し、対抗して米国がロシア産原油の輸入禁止を決定するなど事態は一段と悪化しリスクオフの様相が強まりましたが、両国の停戦協議が継続していることで、徐々にリスク警戒感が緩み、株式市場は反転して堅調な流れを示しました。
この記事では、2022年3月の振り返りと、4月に向けての動向を解説します。
目次
- 2022年3月のマーケット振り返り
1-1.日本
1-2.米国
1-3.中国
1-4.欧州
1-5.英国
1-6.オーストラリア
1-7.ニュージーランド
1-8.カナダ
1-9.その他 - 注目材料は英3月CPI
1.2022年3月のマーケット振り返り
一時的に、中国で新型コロナウイルス感染が拡大しました。深センでロックダウン措置が取られたことから、中国経済の不透明感が広がりリスクオフの展開が強まる局面もありましたが、中国政府が市場安定策、景気刺激策、海外での中国企業IPO支援などを表明し、相場は落ち着きを取り戻しました。
リスクオフ時にはUSDが買われ、リスクオン時はUSDとJPYが売られる展開となるなか、USD/JPYだけは一方的に119円台まで上昇しました。EUR/USDは、ECBがタカ派に転じたことによる買いとウクライナ侵攻の悪影響を懸念した売りが相殺されて1.10台を中心に乱高下しました。
1-1.日本
3月のBOJ政策決定会合では、物価上昇圧力は低いものの、円安が物価を押し上げ景気を悪化させるのではないかという為替水準に対する懸念に対してどのような見解を示すのかに注目が集まりましたが、黒田総裁が、最近の輸入物価上昇は円安より資源価格上昇の影響大きく、円安が全体として日本経済にプラスとの構図に変化ない、とはっきり表明したことからJPY売りが強まりました。
関連:ロイター「市況主導の物価高は続かず、緩和継続で経済下支え=黒田日銀総裁」
1-2.米国
ロシア産原油・天然ガスの輸入を全面的に禁止すると発表しました。米エネルギー情報局(EIA)によると、米国が2021年に輸入した原油のうちロシア産の割合は約3%で、米経済にとって大きなダメージはなさそうです。
雇用動態調査(JOLTS)によると、1月の求人件数は1126万件となり、過去最高水準を維持しました。職探しを積極的に行っている人が650万人ですから、一人当たり1.7件の求人があることになります。
2月CPIは予想通り前年比+7.9%と約40年ぶりの伸び率を記録しました。今回はウクライナ侵攻後のエネルギーや食料品価格急騰前の数字であり、来月も更に上昇する可能性が高いと考えられます。
2月調査分のミシガン大消費者信頼感指数の速報値は59.7と予想を下回り、3カ月連続の低下となりました。雇用は依然として力強い状況が続いていますが、1年先の期待インフレが40年ぶりの高水準となる5.4%となりました。向こう一年の家計悪化を見込むとの回答比率が過去最高となるなど、インフレ懸念が米消費者のマインドを悪化させているようです。
注目されたFOMCですが、予想通り0.25%の利上げとインフレ重視のタカ派姿勢が鮮明になりました。2022年中は3月分含め会合毎7回の利上げが見込まれ、ターミナルレート(最終到達金利)は2023年中に2.75%となっています。ただ、サプライズとなったのはlonger run(長期均衡)金利を2.5%から2.4%に引き下げて景気への配慮を見せた点です。政策金利が2023年にターミナルレートを超えて2.75%と引き締めの領域に入る中でも経済見通しは2.2%で2024年も2%と底堅くなる予想なので、状況次第では再びlonger run金利が引き上げられる可能性はあると予想します。
1-3.中国
人民元とロシアルーブル(RUB)の価格変動幅を従来の5%から10%に拡大すると発表しました。変動幅拡大というものの、事実上RUB安の方向に動くだけであり、中国はロシア寄りとは言えども、為替で損失を被らない様にしたたかに行動していると言えます。
中国はゼロコロナ政策継続を表明していますが、新規感染者数の増加が著しく、深センでロックダウンを決定、その他上海など主要都市でも、ロックダウンに近い状態に陥っています。これらのニュースを受けて株が暴落しましたが、中国政府は金融市場の安定化の為、株等をサポートすると示唆したことから、急反発しました。
1-4.欧州
2022年内にEUのロシア産ガスの需要を2/3程度減らすと明言しました。ロシアのエネルギー依存度が高いドイツやイタリアなどに配慮して米英と同レベルではできませんでしたが、短期的には、米国やカタールからの供給増を協議し、EU域内では液化天然ガス(LNG)の受け入れ態勢の整備も急ぐ方針です。
また、欧州連合がエネルギー価格高騰と防衛費の調達の為、大規模な欧州共同債発行を検討しているといったニュースが出ましたが、ドイツなどは反対している模様で、結局EUサミットでも合意できず結論は5月以降に先送りとなりました。
ECB政策決定会合は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて一部では慎重な姿勢を示すと見られていましたが、予想に反してタカ派的な結果となりました。PEPPの購入を3月末で終了させるのは予想通りでしたが、APPについては、これまでの第2Q:400億EUR・第3Q:300億EUR・第4Q:200億EURから、4月:400億EUR・5月300億EUR・6月200億EUR・第3Q:データ次第、と大幅に前倒しされました。スタッフ予想もインフレについて、2022年は+3.2%から+5.1%に、2023年についても+1.8%から2.1%に上方修正しました。
ただ、ラガルド総裁の記者会見は市場の過熱感を抑えるかのようにハト的でした。ECBの基本方針としては、テーパリング終了後に利上げとなっていますので、利上げのタイミングに自由度を持たすためには、まずはAPPを終わらせなければならないということで今回の決定となりましたが、利上げに関しては、前回のテーパリング終了後“shortly after”という表現から、今回は“some time after”と若干時間の余裕が感じられる表現に変えてきています。更に、第3Qにデータ次第ではQE復活の余地があることも示唆するなど、当面はインフレ対応を優先するものの、ウクライナの影響については現時点で予測することは困難なため決定を先送りしたということでしょう。
ドイツ3月ZEWは期待指数が予想の+5に対して▲39.3とコロナ直後の水準まで大幅に悪化、ウクライナ戦争の悪影響が色濃く出てしまっています。また、ZEWの所長も、極端なインフレ高騰により先行き数カ月でスタグフレーションが見込まれていると述べました。
1-5.英国
米国に歩調を合わせる形で、2022年末までに段階的にロシア産原油の輸入停止と発表しました。更に天然ガスの輸入依存度の引き下げも検討するとのことです。英国の原油の総需要の内ロシア産は8%程度です。
雇用統計は、賃金が予想以上の伸びを示しました。失業率は3.9%、失業保険申請件数は▲4.81万件と改善が続いています。また、週平均賃金(前年比)の総合も+4.8%と市場予想を上回りました。
BOE政策決定会合は8-1で0.25%の利上げ決定となりました。2月会合時に5-4で0.25%の利上げが決定された際は、4名が0.5%の利上げを主張していましたが、今回反対した1名は据え置きを主張するハト派サプライズとなりました。インフレは4月に8%まで上昇する見通しですが、同時に物価上昇が家計の実質所得の減少に繋がり、中期的な成長見通しのダウンサイドリスクになっているという指摘が見られており、ウクライナも含め不確実性が高まる中、あらゆる選択肢を準備しておくといった慎重なスタンスに変化しているようです。
1-6.オーストラリア
ロウRBA総裁が、ウクライナ侵攻が供給制約を長引かせるとの見通しを示し、政策金利の年内引き上げが妥当であるという認識に変更しました。債券市場は既に年内の複数回の利上げを織り込んでいますが、為替市場ではRBAの徹底したハト姿勢により相対的にショートになっている状態です。
関連:ブルームバーグ「豪中銀総裁、年内利上げ「妥当に思われる」-ウクライナ危機言及」
更に、2月雇用統計は文句なしの数字となりました。雇用者数は大幅に増加、労働参加率は過去最高水準の66.4%に上昇しながらも失業率は4.0%に低下となりました。この結果を受けて、AUDは底堅く推移しています。
1-7.ニュージーランド
第4QのGDPは前期比+3.0%となりました。第3Qがオークランドのロックダウン等でマイナス成長となっていましたが、早々にゼロコロナ政策を諦めたことで反発しました。
1-8.カナダ
2月カナダ雇用統計は予想以上の改善となりました。失業率は5.5%と、前回の6.5%から1%の大幅低下となり、雇用者数は正規雇用、パートタイム雇用いずれも増加するなかで+33.66万人と前回の▲20.01万人から回復し、労働参加率は65.4%と前回の65.0%から上昇しました。また、時間当たり賃金も前年比+3.3%と前回の+2.4%から大幅に上昇しています。
2月CPIも1991年8月以来の高水準となる前年比+5.7%まで上昇しました。ウクライナ問題解決後の原油価格急騰を考慮すれば、この先数か月で更に上昇する可能性が高いです。
1月小売売上高も予想を大幅に上回る前月比+3.2%となっているように、カナダの経済指標は全体的に改善傾向が強いです。
1-9.その他
UAEがOPECプラスに対して原油増産ペースの加速を呼びかける考えを表明しました。その他、イランの核合意の話や、米国がベネズエラに接近しているといった話とも合わせて、原油価格の高騰を抑えるため政治が動き出しています。
更にサウジアラビアが中国向けの原油の一部を人民元決済にすることを検討しているというニュースを受けて、人民元に買いが入りました。
2.注目材料は英3月CPI
インフレターゲットの対象であるCPIの前年比が注目されています。前回1月のCPI前年比は+5.5%と1992年3月以来、約30年ぶりの高い伸びを示しました。この結果を受けて2月のBOE政策決定会合では0.25%の利上げが決定されましたが、一気に0.50%の利上げを行うべきという主張を行うメンバーが9名中4名となりました。
その後のロシアの軍事侵攻を受けた先行き不透明感がある中で、直近の3月BOE会合では、9名中8名が0.25%の利上げを主張しましたが、1名が金利据え置きを主張するなど、積極的な利上げを主張する動きは見られませんでした。ポイントは、物価上昇が家計の実質所得の減少に繋がり、中期的な成長見通しのダウンサイドリスクになっていることへの指摘が見られていることです。
今回の英CPIの予想は前年比+5.9%と前回からさらに大きく伸びると見込まれていますが、もし予想を上回る結果となるなら、次回以降の大幅利上げに向けた市場の期待が強まり、一時的にGBPは買われると思います。特に、FRBのタカ派的利上げとBOEのハト的利上げを受けて、GBP/USDはショートに傾いていそうなので1.3400程度までの反発はあると思いますが、急激な物価上昇は経済に悪影響を与えるかもしれないというBOEの見方が残っている以上、上値は限定的となりそうです。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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