今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
- レイヤー2とは?
1-1. Optimistic Rollupとは?
1-2. zk Rollupとは? - レイヤー2上で広がるNFT
2-1. Optimistic Rollup上のNFT
2-2. zk Rollup上のNFT - まとめ
昨年からNFTは大きな盛り上がりを見せていますが、その盛り上がりを支えているのはVitalik氏によって考案されたパブリックブロックチェーンのイーサリアムです。
イーサリアムでの取引には「ガス代」という手数料が必要となります。ガス代の価格は、取引量が多くなると高くなる仕組みになっており、昨今のNFTブームで取引量が急増したことからユーザーにとって大きな負担となっています。しかし、このガス代はユーザーに経済的な負担をもたらしている反面、イーサリアムが「チューリング完全なコンピュータ」、つまり、「いかなる計算も可能なコンピュータ」を実現する上で必要な要素になっているのも事実です。
イーサリアムにおけるガス代高騰の解決策として様々な方法が考案されていますが、その一つが「レイヤー2(L2)」と呼ばれるものです。レイヤー2によって処理能力の向上を目指し、ユーザーの負担を軽減することを見込めることから、イーサリアム上の様々なDAppsにも利用できるのではないかと期待感が高まっています。今回は、レイヤー2上で広がるNFTについてまとめたいと思います。
レイヤー2とは?
そもそもレイヤー2とは、レイヤー1と呼ばれるイーサリアムメインネットの堅牢な分散型セキュリティを活用しながら、イーサリアムメインネット(レイヤー1)とは別の場所で取引の処理を行い、スケーラビリティ問題(処理能力問題のことであり、ガス代高騰の要因の一つ)を解消しうるソリューションの総称です。
今回は、レイヤー2の中でもRollupについて焦点を当てたいと思います。Rollupとは、イーサリアムメインネット(レイヤー1)の外側で取引の処理を行い、そこで処理をしたデータをレイヤー1に投げ込むというソリューションです。外側(レイヤー2)で処理したデータをレイヤー1で「巻き上げる」ことからRollupと呼ばれています。取引データはレイヤー1上にあるため、Rollupはレイヤー1のセキュリティによって守られている仕組みになっています。
Rollupの特徴は、取引データがレイヤー1上にあるということであり、これは「Data Availability」と呼ばれています。他のレイヤー2ソリューションとして、「Validium」や「Plasma」がありますが、これらは「Data Availability」がない、もしくは限定的です。つまり、これらはレイヤー2で処理した取引データをレイヤー1に投げ込むことをサポートしていません。
また、サイドチェーンもレイヤー2として注目されることがありますが、Rollupはサイドチェーンで処理した取引データをイーサリアムメインネットに移行することと一見同じように見えます。しかし、この場合サイドチェーンはレイヤー1のセキュリティの保護を受けておらず、別なチェーンから別なチェーンへとブリッジしているだけに過ぎないので、Rollupとは異なります。
イーサリアムの開発のロードマップとしては、「モジュラー型」に向けて進めています。これはイーサリアムが「コンセンサス」「実行」「Data Availability」が全て同じ箇所で行われる「モノリシック型」から、これらの3つの機能を区分化して最適化するというものです。レイヤー2、とりわけRollupは「実行」レイヤーとしての役割を果たすことが計画されています。
レイヤー1のセキュリティの保護を受けながら、Data Availabilityも可能にしているRollupは、「Optimistic Rollup」と「Zero-Knowledge Rollup(zk Rollup)」との2つに分類することができます。今回は、このRollup上で広がるNFTについて紹介していきます。NFTの話をする前に、Optimistic Rollupとzk Rollupについて簡単に説明をしたいと思います。
Optimistic Rollupとは?
Optimistic Rollupは、日本語で直訳すると「楽観的なロールアップ」となりますが、その名の通り、基本的に全ての取引が有効であると仮定しており、デフォルトでは計算を行わないため、処理能力の向上をさせることができます。
しかし、その取引が不正な取引ではなく、正当なものであることを確認する仕組みが必要です。その仕組みを「fraud proof」と言います。誰かが不正な取引に気付いた場合、fraud proofを通じて計算を実行します。つまり、Optimistic Rollupは、実行された取引に対してチャレンジが行われる可能性があるため、確認のための待ち時間が長くなってしまう可能性もあります。
他の特徴としては、Optimistic RollupはEVM互換であるためイーサリアムメインネット(レイヤー1)でできることを行うことができるということです。この特徴は、ユーザーにとっても開発者にとっても馴染みのあるUI/UXを提供してくれることでしょう。
zk Rollupとは?
一方で、zk Rollupとは、オフチェーンで計算を実行して、「ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof)」が用いられたスケーリングソリューションとなっています。ゼロ知識証明とは、「ある主張を、追加の情報を伝えることなく、正しいことを証明することができる暗号方式」です。ゼロ知識証明は「zk-SNARKs(zero-knowledge succinct non-interactive argument of knowledge)」と「zk-STARKs(zero-knowledge scalable transparent argument of knowledge)」という形式で提供されることがほとんどです。
zk-SNARKsでは秘匿化に楕円曲線暗号という技術が用いられており、信頼されたセットアップが必要なのが特徴です。楕円曲線暗号を採用していることから、量子コンピューティングが利用可能になった場合、量子耐性がないということを意味します。一方で、zk-STARKsでは、秘匿化に用いられている基本技術はハッシュ関数であり、信頼されたセットアップが不要です。ハッシュ関数に依存しているため、量子耐性があります。
このSNARKsとSTARKsは「validity proof」として知られ、レイヤー1に投げ込まれます。zk Rollupにおいて、スマートコントラクトはレイヤー2上に全ての転送状態が維持されます。つまり、zk Rollupでは、全ての取引データの代わりにvalidity proofのみを必要とし、含まれるデータが少ないため、ブロックの検証が迅速かつ安価に行うことができます。zk Rollupはゼロ知識証明という秘匿化技術が用いられているためプライバシーの側面でのみ捉える傾向にありますが、情報の圧縮という側面も持っており、それによってより迅速な処理が可能になっています。しかし、zk RollupではEVMをサポートしていないものもあるためその点で、Optimistic Rollupとは異なります。
【参照記事】Scaling|ethereum.org
レイヤー2上で広がるNFT
以下のランキングは、レイヤー2におけるTVL(Total Value Locked)などのデータがまとまっていますが(NFT以外のデータも含む)、先述のような、各Rollupの特徴を踏まえた上で、レイヤー2を活用したNFT関連のサービスはどのようなものがあるのでしょうか。今回は、Optimistic Rollupを採用している「Optimism」と「Arbitrum」、zk Rollupを採用している「zkSync」と「StarkWare」のそれぞれで代表的なNFTマーケットプレイスやNFT関連のプロダクトを紹介します。
Optimistic Rollup上のNFT
Arbitrum:Treasure
Arbitrumは、Offchain Labsが主導となって開発をしているOptimistic Rollupを活用しているレイヤー2であり、非常に安価で速い処理能力を提供します。上のランキングにあるように、約30億ドルのTVLであり、現時点で最大のレイヤー2となっています。Arbitrumは、EVM互換でイーサリアムの開発環境をサポートしていますが、その内部ではArbitrum Virtual Machine(AVM)を実行しています。
Arbitrumにおいて代表的なNFT関連サービスの1つがTreasureになります。Treasureは、Arbitrum上の分散型NFTエコシステムです。元々は、イーサリアムのメインネット上で構築されていましたが、2021年にArbitrumへと移行をして、翌月の11月にマーケットプレイスが立ち上がりました。TreasureのネイティブトークンとしてMAGICトークンがあり、MAGICはTreasureのマーケットプレイスにリスティングされている全てのプロジェクトで利用することができます。
TreasureのマーケットプレイスでNFTの取引を行うには、MAGICが必要になります。MAGICを保有する手段の1つは、イーサリアムのメインネットで自分が保有しているEther(ETH)をArbitrumに移し、分散型取引所であるSushiSwapに移動をして、ネットワークをArbitrumに切り替えてMAGICを購入する方法です。これで利用するための準備は整うので、Treasureのマーケットプレイスで販売可能なアイテムに移動をして「Purchase」ボタンをクリックして購入ができたり、様々な取引が可能になります。
また、TreasureはDAO(Decentaralized Autonomous Organization、自律分散型組織)という仕組みを用いた投票や提案を通してTreasureの改善を行っています。この投票に参加するためには、「gMAGIC」(ガバナンスMAGIC)トークンが必要です。このgMAGICで投票することができるのは、MAGICをステークしている人とArbitrum LPコントラクト内のMAGIC-WETH SLPを持っている人になります。gMAGICは、DAOの長期的な成功にコミットし提供するコミュニティメンバーにガバナンス権が偏重されるという、veCRVモデルの概念を導入しています。このveCRVモデルとは、分散型取引所Curveで用いられているモデルになります。
【参照記事】Arbitrum Rollup Basics
【参照記事】Roadmap – Treasure Docs
Optimism:Quixotic
Optimistic Rollupを採用しているもう1つのソリューションがOptimismです。Optimismは、公益法人であり、前身の組織はPlasma Groupとして知られています。公共財の成長と持続可能性を促進するインフラストラクチャを作成することによりイーサリアムの価値を維持することを理念として掲げています。Optimismは、取引が成立したかどうかがわかるという即座のファイナリティ、大幅に安い取引手数料、イーサリアムの強力なセキュリティを継承していることによる分散性が特徴になっています。Optimismでは、EVMと互換性のあるOptimistic Virtual Machine(OVM)を使用しています。
前節で紹介したArbitrumとOptimismを比較すると、どちらもOptimistic Rollupを採用していることから大きな違いはありませんが、より細かい部分に目を向けるとfraud proofのやり方に違いがあります。Arbitrumのfraud proofでは、トランザクション履歴の特定の不一致しているポイントを見つけ出そうとしますが、Optimismのfraud proofでは、より全体的に見ています。このことは、OptimismよりもArbitrumの方がより高いトランザクション容量を持ち、より高いパフォーマンスを持つことを意味します。
このような特徴があるOptimismというレイヤー2上に構築されたNFTマーケットプレイスがQuixoticです。Quixoticは、2021年12月にベータ版がローンチしました。その1ヶ月後には、総取引量が100ETHを達成しました。このマーケットプレイスでは、OptiPunks、Optimistic Bunnies、OE40などのコレクションをサポートしています。まだベータ版であるため、多くの機能を備えていないのが現状ですが、より多くの機能が急速に登場しています。OptimismへEther(ETH)を移すことで、Quixotic上で取引を行うことができます。
【参照記事】About Optimism
【参照サイト】Quixotic
【参照記事】Trying NFTs on Optimism
【参照記事】Arbitrum vs. Optimism: What’s the Difference Between These Ethereum Rollups?
【参照URL】Rollup Rollup! Top Layer 2s compared // Arbitrum vs Optimism vs Polygon
zk Rollup上のNFT
zkSync:zkNFT
Matter Labsがzk Rollupのソリューションとして開発をしているのがzkSyncです。zkSyncは、ゲームのルールは全ての人に等しくなるようにするために手頃な価格で使えるようにする「公平性」、無条件に許可を必要とせずに強力な検閲耐性をもたらす「インクルージョン」、潜在的な対しても対抗をして分散化の道を目指そうとする「レジリエンス」を掲げて開発がされています。
zkSyncは、イーサリアムのスケーリングおよびプライバシーエンジンであり、将来的には、EVM互換のzk RollupであるzkSync2.0の実装を目指しています。このzkSync2.0には、ゼロ知識証明と互換性のある方法でスマートコントラクトを実行する仮想マシンである「zkEVM」を利用します。zkEVMはパブリックテストネットで2022年2月に公開されました。
zkSync2.0の前のバージョンにおける機能を4つ挙げます。1つ目は、スケーリングソリューションとして、EtherとERC20トークンの送受信を迅速かつ安価に行うことができることです。2つ目は、スマートコントラクトをサポートしていることです。これはRustベースのタイプセーフなプログラミング言語であるZincでコントラクトを作成することもできますし、既存のSolidityのコードを利用することもできます。3つ目は、トークン同士の交換(アトミックスワップと指値注文)に適しています。そして、4つ目はNFTをネイティブでサポートしていることです。
この4つ目の機能として紹介をしたzkSyncのNFT機能を実証するために構築されたNFTマーケットプレイスがzkNFTです。zkNFTはまだアルファリリースの段階で、現段階で行える機能は主に3つあります。まず、1つ目がミントです。他のミントプラットフォームと同様に、全てのNFTメタデータを入力し、NFTを約0.25ドルでミントすることができます。裏側では、Protocol Labsが提供するnft.storageを用いて画像はIPFSにピン留めされます。2つ目が管理です。zkSync NFTコレクションを表示して、NFTを他のアドレスに送信できます。他の人のコレクションや個々のNFTなどを表示することもできます。そして、3つ目はスワップです。zkSync APIは技術的に任意の資産のスワップを可能にしていますが、現在はNFTからNFT、NFTからEther(ETH)へのスワップが可能です。NFTかEther(ETH)でオファーを出して、オーナーはそれを受け入れることができます。これらの3つの機能がリリース時に備わっているもので、ミント・送信・スワップの際に追加料金はかかりません。
【参照サイト】zkNFT
【参照記事】How to use zkSync
【参照記事】The best comparison on zkRollups today
StarkWare:ImmutableX
Zk Rollupを採用しているもう一つのソリューションとして、StarkWareがあります。StarkWareとはSTARKベースのブロックチェーンソリューションの開発をしているチームです。StarkWareは、主にzk Rollupを備えているStarkExとStarkNetを開発しています。これらは、STARKベースのvalidity proofを用いることによって処理能力とレイヤー1のセキュリティを備えており、一般的な計算をサポートするように設計されているので、あらゆるユースケースに活用できます。また、STARKを使用してアプリケーションをスケーリングするために使用されるチューリング完全なプログラミング言語としてCairoが用いられます。
StarkExは、アプリケーションの特定のニーズに適するように設計された許可制のオーダーメイドのスケーリングエンジンです。一方で、StarkNetは、スマートコントラクトの独自の開発をサポートする非許可制の分散型zk Rollupです。また、StarkWareの構想としてL2の上に再帰的に構築されるアプリケーション専用であるレイヤー3(L3)を考えており、StarkExはL3に移植される予定で、StarkNetのスタンドアローンインスタンスもL3として提供予定です。
このStarkWareベースのzk RollupであるStarkExを活用しているレイヤー2のNFTソリューションが「ImmutableX」になります。以前の記事でも触れましたが、ImmutableXとは、イーサリアムにおけるNFT向けの最初のレイヤー2ソリューションであり、即時取引やアセットの発行・交換の際のガス代をゼロにするなどを目指すものです。
ImmutableXのマーケットプレイスにウォレットを接続し、Ether(ETH)をデポジットすることで、Gods UnchainedやGuild of GurdiansなどのNFTの取引ができるようになります。ユーザーは、取引などプロトコルに役に立つアクションを行うことでネイティブトークンのIMXを得ることができます。IMXは、ガバナンスやステーキングなどに用いることができます。また、報酬が与えられたアクションに対して一定量の「ポイント」を獲得することができ、デイリーリワードプールから各ユーザーのポイントに比例してポイントが付与されます。
Rollupはイーサリアムメインネット(レイヤー1)にデプロイされますが、この制限によって制約がかけられます。そこで、StarkExはアプリケーションとユーザーに安価なオプションを与えるためにValidium zk-proofというシステムを導入しました。
ImmutableXでは、「zk Rollup」モードと「Validium zk-proof」モードをユーザーが選択できるようになっています。このモデルを「Volition」モデルと言います。Validium zk-proofでは、処理能力は非常に高いのですが、データが常にクライアントに対して利用可能な状態ではないとData Availabilityが可能になりません。このVolitionモデルによって資産は常にレイヤー2ソリューションとしてイーサリアムのセキュリティによって直接保護され、ユーザーの選択をサポートするということが重要とのことです。
補足ですが、先ほど取り上げたzkSyncを開発しているMatter Labsが公開したブログによると、StarkExはzk Rollupとは言えないという指摘もされています。
【参照サイト】StarkEx – Starkware
【参照記事】How to collect NFTs on Layer 2
【参照サイト】ImmutableX
【参照記事】Explainer on how our design architecture powers the future of NFTs.
まとめ
今回は、イーサリアムのレイヤー2上で広がるNFTについて、レイヤー2、とりわけRollupの概要について説明をした上で、各Rollup上での代表的なNFTマーケットプレイスやNFT関連プロダクトについて紹介しました。他にもレイヤー2上のNFTプロジェクトがあるので、ぜひこれを機会に調べてみるのも良いかもしれません。また、本文でも触れましたが、イーサリアムはモジュラーへの移行を目指しているためレイヤー2は今後、NFTだけではなく様々な領域で拡大していくことが期待されています。レイヤー2を活用したNFTサービスが今後広がっていくかもしれません。
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
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守 慎哉
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