「譲渡不可能なNFT(NTT)」とは?そのユースケースと可能性

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今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社から寄稿いただいたコラムをご紹介します。

目次

  1. NTTとは?
    1-1. EIP-1238:Non-Transferable Non-Fungible Token
    1-2. EIP-4671:Non-Tradable Token
  2. NTTのユースケース
  3. NTTとNFTの棲み分け
  4. まとめ

2022年1月26日に、イーサリアムの創業者であるVitalik Buterin氏が「Soulbound」というブログ記事を公開しました。この記事のタイトルにある「Soulbound」とは「譲渡が不可能なアイテム」のことを指し、「譲渡不可能なアイテム」をNFTに適応させて「譲渡不可能なNFT」について議論がなされている内容になっています。

今回は、このVitalik氏のブログのテーマにもなっている「譲渡不可能なNFT」、つまり、「Non-Transferable Non-Fungible Token」もしくは「Non-tradable Token」(どちらも略をすると「NTT」)についてその概要とどのようなユースケースがあり得るのかについて触れていきます。

NTTとは?

「Non-Transferable Non-Fungible Token」または「Non-tradable Token」はどちらもイーサリアムの改善提案には正式には採用されておらず、執筆時点では提案されている段階です。どちらも「NTT」と略され、「譲渡ができないNFT/トークン」のことを意味しますが、この2つには明確な違いはありません。現在、譲渡不可能トークンとして利用されているものがありますが、それらはERC-721(NFT)の規格を応用して作られたものがほとんどです。

EIP-1238:Non-Transferable Non-Fungible Token

Non-Transferable Non-Fungible Tokenは2018年7月にGitHub上にEIP-1238(Ethereum Improvement Proposal)として提案されました。このNTTの規格はバッジと呼ばれる公開鍵を利用したステートメントを識別するためのインターフェースを定義しており、この規格を使うと様々なDAppsやスマートコントラクトは、ユーザーをフィルタリングしたり異なるバッジを持っているユーザーに対してそれぞれ異なる経験を提供したりすることができます。さらに重要なことはこの規格はユーザーが自分のバッジをステークする方法を定義していることです。バッジは譲渡することはできませんが、ステークした後に失ったり、期限切れになったりはします。

ここで、なぜバッジに焦点を当てたのかについて述べます。バッジは、一度割り当てられたら譲渡することができないトークンと見なすことができ、ウェブサイトや何かしらのアクションを行わせるコントラクトによって用いられます。例えば、あるユーザーがカンファレンスで論文の投稿を積み重ねるとグラントを要求するために論文バッジを使うことができます。このバッジは評価のように機能しており、譲渡されないことが重要になります。バッジの蓄積を例に挙げましたが、他にもゲームで貯まるポイントなどの経験値や有料サブスクリプションの有効性にも用いることができます。

EIP-4671:Non-Tradable Token


Non-Tradable Tokenは2022年1月にEIP-4671として提案されました。概要としては、NTTは大学の卒業証書、オンライントレーニング修了証、政府発行の文書(国民ID、運転免許証、ビザ、婚姻届など)、バッジ、ラベルなど本質的に個人的な所有物を表します。また、NTTは取引や販売を目的として作られたものではなく、金銭的な価値はありません。ただ所有していることを証明するためのものです。

この提案のきっかけとなったのは、世界各地で独自のコントラクトを使用して証書を作成したことです。これらは、取引ができないトークンを一般的なトークンの1つにしかすぎないと認識していますが、このタイプのトークンに共通のインターフェイスを提供することで、より多くのアプリケーションの開発を可能にして、ブロックチェーン技術を個人の所有物を検証するための標準的なゲートウェイとして位置づけることができます。1つのNTTコントラクトは、1つの当局による1種のバッジを表すとみなされます。つまり、ある大学の卒業証書は1つのNTTコントラクトであり、ある地方自治体の運転免許証は1つのNTTコントラクトということです。

この規格が議論されているフォーラムでは、前節で扱った「EIP-1238」と何が違うのかについて質問が投げかけられていましたが、EIP-4671の提案者はこのことが分かっておらず、質問されて初めて知ったということでした。

また、この投稿の末尾に最初のNTTとしてEIPクリエイター・バッジを作ることを提案していました。これはイーサリアム財団によって作成され、EIPを提案した人に帰属されるNTTを考えているようです。個人的には、NTTのわかりやすいユースケースの一つであると思います。

NTTのユースケース

この前の章でもいくつかNTTのユースケースを記しましたが、他のNTTの用途としてRadicalxChange(RxC)のMatt氏が提唱した新しいDAOのガバナンスモデルについて紹介したいと思います。

このモデルでは、DAOを構成しているメンバー全員に対してNTTが配布され、このNTTの保有者はオンチェーンで記録されたイベント(提案されたプロポーザル、可決されたプロポーザル、オンチェーンで記録されている取引など)に対して正当なものか不当なものかを投票するための議決権を付与されます。従来のガバナンスモデルだと、より多くのお金を持っている人がより多くの議決権を得てしまうという金権政治に陥ってしまうリスクがあり、健全なガバナンスを行うことが難しくなり特定の人に権力が集中してしまうという懸念があります。しかし、RxCのNTTを用いたガバナンスモデルだと、譲渡不可能なNFTの保有者全員が同じ投票力を有しているので、権力が集中することなくコミュニティにおいて権力を分散させることができます。

証明書やアイデンティティをただ単に譲渡不可能にするだけではなく、このようにガバナンスにおいても応用するということも考えることができます。共通の規格が採択されたら、NTTの様々な応用例が他の技術と組み合わせたコラボレーションが多く生まれるかもしれません。

【参照記事】Open Collectiveとの思索的なDAOの概要

NTTとNFTの棲み分け

現在ブロックチェーン技術を用いて「唯一の証明」をする際には、NFTが用いられていますが、その役割をNTTが補ったとすると、NTTが実装された後の世界においてNFTはどのように利用されていくことになるのでしょうか。

NFTとNTTとの違いを改めて述べたいと思います。イーサリアム上でNFTとして利用されているERC-721やERC-1155は、OpenseaやRadibleなどのNFTマーケットプレイスで売買することができますが、EIP-1238やEIP-4671(まだ、ERCとしての規格は実装されていません)の考えに基づいて発行されるNTTはマーケットプレイスなどで売買されることはありません。つまり、NFTが利用される場面というのは「唯一の固有のものを取引する」ときということです。

NTTではなく、NFTが用いられるケースは主に3つ考えられます。1つは、ゲーム内アイテムとしての用途です。ゲーム内で獲得したり、自分が育てたものは自分固有のものであるのでNFTとして表現されるべきです。また、ゲーム内で他のプレイヤーのアイテムと交換したり、アイテムを売却してゲーム内通貨(トークン)を得ることを可能にするならば、NFTが最適です。

2つ目は、デジタルグッズとしての用途です。これは大まかに捉えると、物理的な「モノ」のデジタル版とみなせます。私たちが日常生活で「モノ」を売ったり買ったりするように、デジタル世界においても同じ体験を提供するにはNFTが用いられるでしょう。仮想空間上のグッズを表現する際には、NFTとNTTが混在して行くことになると考えられます。

そして、3つ目はポピュラーな用途ではないかとは思いますが、共有所有権としての用途です。先ほどの「NTTのユースケース」でも触れたRxCのDAOのガバナンスモデルで用いられています。このモデルで用いられているNFTはホルダーがDAOのガバナンスに参加できるという用途で、コミュニティ内でこのNFTを売買し合うことでよりガバナンスに積極的に関与したい人はより多くのNFTを保有するためにNFTを購入しようとします。特定のNFTを決まったコミュニティ内で、売買することでよりガバナンスに積極的に関与したい人へ所有権が移り変わっていくことから、俯瞰して見た時に、そのコミュニティ内での共有所有権のように見なすことができます。NFTを転送し合うことで、共有所有権を実現しているので、NTTではなし得ないことです。

まとめ

今回は、譲渡不可能なNFTであるNTT(Non-Transferable Non-Fungible Token、Non-Tradable Token)についてその概要を述べ、応用例についてもいくつか紹介しました。ほとんどのNFTはマーケットで取引をされているものばかりですが、取引ができないからこそ効果を発揮し、価値を見出すことができるものもあるのではないでしょうか。NTTの共通規格はまだありませんが、規格ができたら様々なユースケースが生まれてくることでしょう。

ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。

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守 慎哉

Fracton Ventures株式会社リサーチャー。DAO分野に強みを持ち、コモンズ・公共財におけるガバナンスのあり方などのリサーチを担当。その他CoinPost×あたらしい経済で立ち上げた「CONNECTV」の共同編集長をも務める。