NFTにおけるレイヤー2とレイヤー1のブリッジ

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今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社から寄稿いただいたコラムをご紹介します。

目次

  1. Roninサイドチェーンの概要とRoninブリッジのハッキング
  2. レイヤー2で広がるNFT概要
  3. レイヤー1とレイヤー2間のNFTブリッジ
    3-1. レイヤー2上のNFTをレイヤー2でクレームする
    3-2. レイヤー2上のNFTをレイヤー1で引き出す
    3-3. レイヤー1上のNFTをレイヤー2上にNFTをデポジットする
    3-4. このブリッジの長所と短所
  4. まとめ

以前の寄稿で、レイヤー2(L2)上で作成されたNFTについて取り上げましたが、イーサリアムのブロックチェーンやレイヤー2が抱える問題は、資産、特にNFTのサイロ化です。NFTがレイヤー2上に作成されると、そのNFTはそのレイヤーに固定されます。そのため、レイヤー2上のNFT資産をレイヤー1に引き出せないというNFTサイロの問題が発生します。レイヤー2にNFTアプリケーションを導入するためには、複数のレイヤーにまたがってNFTを作成・転送する方法を持つことが重要になります。

Play to EarnゲームであるAxie InfinityのサイドチェーンRoninにおいて悪用されて、Roninブリッジから資金が流出するという事件が起きました。この事件でもそうであるように、ブロックチェーンにおけるハッキング被害ではブリッジの部分であることが度々あります。そのため、より安全なセキュリティを備えたブリッジが必要とされています。

今回は、L2 NFTとL1 NFTのブリッジについて現在提案されている内容について触れていきたいと思います。また、Roninにおける事件の概要も併せて述べたいと思います。

Roninサイドチェーンの概要とRoninブリッジのハッキング

Roninサイドチェーンは、Play to EarnゲームAxie Infinity用にSky Mavisが作成したイーサリアムのサイドチェーンです。取引時間と取引手数料は、イーサリアムに比べて圧倒的に低いものであり、Axie、Land、SLP、AXS、WETHなどのNFTも含む全てのアセットを移すことができます。また、RoninではProof of Authority(PoA)が用いられており、少数のノードによって運営がされています。

Roninブリッジにおける事件の概要について簡単に述べます。2022年3月23日に、SkyMavisのRoninバリデーターノードとAxieDAOバリデーターノードが攻撃され、2つのトランザクションで173,600ETHと2,550万USDCがRoninブリッジから流出しました。攻撃者は、盗んだ秘密鍵を使用して、偽の引き出しを偽造していました。29日、ブリッジから5,000ETHを引き出せないというユーザーからの報告を受けて、この攻撃の発見に至りました。執筆時点(2022年3月末)では、Axie InfinityとSky Mavisの利害関係者ユーザーの資金が失われないようにする方法について話し合っています。また、Roninに資産を持っているユーザーの資産は全て安全に保たれているとのことです。この記事の公開時には、進展があるかもしれません。

レイヤー2で広がるNFT概要

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次に、以前に寄稿したレイヤー2におけるNFTについて簡単に振り返りたいと思います。レイヤー2、主にRollupにおけるNFTについて前回ご紹介しました。Rollupは、イーサリアムのメインネットの強固なセキュリティの恩恵を受けた上で、トランザクションの処理能力を向上させることができるソリューションです。

他の処理能力を向上させるソリューションとして、サイドチェーンがありますが、サイドチェーンは独自のセキュリティを持っており、イーサリアムメインネットのセキュリティの保護がないという点でRollupと異なります。前章で紹介したRoninはこのサイドチェーンに該当し、PoAという独自のコンセンサスメカニズムによって運営がされています。

Rollupには、Optimistic RollupとZero Knowledge Rollup(zk-Rollup)の2種類があります。この2つのRollupの主な違いは、トランザクションの検証方法にあります。Optimistic Rollupは、その名前の通り「楽観的なRollup」です。つまり、全てのトランザクションは正しいものとして処理を行い、不正のトランザクションのみを検証するという方式を採用しており、この検証方法を「fraud proof(不正の証明)」といいます。一方で、zk-Rollupでは、ゼロ知識証明(Zero Knowledge Proof)という秘匿化技術を用いています。ゼロ知識証明とは、「ある主張を、追加の情報を伝えることなく、正しいことを証明することができる暗号方式」です。ゼロ知識証明は、秘匿化技術ですので、プライバシー保護の文脈で利用される場面が多いですが、Rollupにおけるゼロ知識証明の用途としては、情報の圧縮やコミュニケーションコストの削減といった側面で利用されます。それによって、処理すべき量が少ないにも関わらず、正しさを証明することができるものとなっています。この検証方法を「validity proof(有効性の証明)」と言います。

この検証方法が技術的な違いとして挙げられますが、他の違いとしてはEVM(Ethereum Virtual Machine)互換であるかどうかという点があります。EVM互換とは、端的に説明をするとイーサリアムと同じように扱うことができるということです。ユーザー視点では、Metamask(イーサリアム上のアプリケーションを使う際に最もポピュラーなウォレット)を扱うことができるということと思っていただければ良いと思います。Optimistic RollupではEVM互換ですが、zk RollupではEVM互換ではないという違いがあります。

Optimistic Rollupの代表的なプロジェクトとしてOptimismとArbitrum、zk-Rollupの代表的なプロジェクトとしてzkSyncとStarkNet/StarkExがあります。前回の寄稿では、Optimism上のNFTマーケットプレイスとしてQuixotic、Aribitrum上のNFTマーケットプレイスとしてTreasure、zkSync上のNFTプロジェクトとしてzkNFT、StarkEx上のNFTマーケットプレイスとしてImmutable Xを取り上げました。

【関連記事】レイヤー2(L2)上で広がるNFTの世界

レイヤー1とレイヤー2間のNFTブリッジ

このようにレイヤー2上で構築されるNFTは広がりを見せてくると考えられます。それと同時に、より安全にブリッジできる仕組みも必要になります。そこで、最後に、イーサリアムの改善をするためフォーラムに提案がされている内容を紹介したいと思います。

レイヤー2上のNFTをレイヤー2でクレームする

ユーザーは、NFT IDを指定することで、NFTをクレームすることができます。レイヤー2のL2_NFT_CollectionコントラクトはIDの割り当てを検証して、それに応じてRollupでNFTをミントします。そして、ユーザーは通常通り、Rollup内においてNFTを自由に送り合うことができます。

レイヤー2上のNFTをレイヤー1で引き出す

ユーザーは、L2_NFT_Collectionコントラクトにトランザクションを送って、レイヤー1上の受取人への引き出しを始めます。NFTは、L2_Depositコントラクトに預けられ、必要に応じて後ほど取り出せるようにNFTがロックされます。そのロックされたNFTはL1_NFT_Collectionにクロスメッセージを送り、指定されたレイヤー1の受取人はNFTをミント・引き出しができるようになります。また、L1_NFT_Collectionにクロスメッセージが送信された際に、特定のNFTについてのチェーンオーナーシップ(レイヤー1やレイヤー2における所有権)を更新するために、L1_NFT_Collectionに新しい記録が追加されます。そして、NFT IDを指定することでNFTをクレームできます。

レイヤー1上のNFTをレイヤー2上にNFTをデポジットする

この場合は、「レイヤー2上のNFTをレイヤー1で引き出す」ことの逆の操作をすることで実行ができます。ユーザーは、L1_NFT_Collectionコントラクトにトランザクションを送信し、レイヤー2上の受信者への移行を始めます。NFTは、L1_Depositコントラクトに預けられ、必要に応じて後ほど取り出せるようにNFTがロックされます。そのロックされたNFTは、L2_NFT_Collectionにクロスメッセージを送り、NFT IDを指定することでレイヤー2上のNFTを再度ミント・クレームすることができます。NFTがすでに作成されており、レイヤー2にデポジットされている場合、NFTを受け取る際にはメタデータが更新されたものを受け取ることができます。

このブリッジの長所と短所

このレイヤー1とレイヤー2のNFTのブリッジにおける長所としては、他のレイヤー2のNFTをクレームすることができたり、作成したNFTをいつでもレイヤー1からレイヤー2、レイヤー2からレイヤー1へ転送することができたりします。また、1つのNFTプロジェクトが複数のRollupにおいて拡張することもできることから、既存のNFTプロジェクトも実用性が高いとされるレイヤー2への移行することも可能になり、より活発にNFTの取引を行うことができることが考えられます。

短所としては、レイヤー1とレイヤー2との行き来ができるだけで、他のレイヤー2間でNFTを直接することができません。また、デポジットと引き出しの2回レイヤー1でのトランザクションを実行するため、トランザクションコストが高くなってしまうということが挙げられます。レイヤー2同士のNFTの転送が行うことができるようになれば、よりNFTを扱う際の幅が広がり、より実用的に利用できるケースが増えていくのではないでしょうか。

まとめ

今回は、レイヤー1上のNFTとレイヤー2上のNFTをより安全な形でブリッジをするための提案内容について紹介しました。レイヤー2は、イーサリアムのメインネット(レイヤー1)のスケーリングソリューションとして期待されており、レイヤー2上で構築されるNFTにも注目が集まっていくことが期待されます。しかし、レイヤー2でのNFTがレイヤー1に転移することができずに、レイヤー2に閉ざされてしまうという懸念がありますが、レイヤー2上のNFTプロダクトの活用事例が増えていくことで、様々な提案がされていくでしょう。また、Roninブリッジのハッキング被害が遭ったように、取引時間や取引手数料というUXの側面だけではなくて、安全性という観点は無視できない要素となっていくと考えます。

【参照記事】Bridging NFTs across layers

ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。

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守 慎哉

Fracton Ventures株式会社リサーチャー。DAO分野に強みを持ち、コモンズ・公共財におけるガバナンスのあり方などのリサーチを担当。その他CoinPost×あたらしい経済で立ち上げた「CONNECTV」の共同編集長をも務める。