円安は日本にとって悪いことなの?原因や影響をファンドマネージャーが解説

2022年7月現在、テレビや新聞の大手マスメディアの間で、円安が話題となっています。一昔前であれば円安は輸出企業にとってプラスであり、日経平均株価も上昇することが多かったためポジティブなイメージで報道されていました。

しかし、最近は円安にもかかわらず日経平均株価は上がらず、円安の副産物として物価上昇を招いていると所謂「悪い円安」論が席巻しています。円安の原因は日銀の緩和政策にあると、暗に日銀を批判する論調の報道も見かけるようになっています。

2013年に黒田日銀がスタートして以来、物価上昇・デフレ脱却を目標に異次元の緩和がスタートしました。政治も大手マスメディアもそれを好意的に捉えてきたはずでした。

いざ物価上昇の兆しが見えてきた途端、物価上昇を抑制しろという論調の報道ばかりであることに違和感を感じる人もいるかもしれません。

今回は、円安の日本経済に対する影響を考え、円安が日本にとって悪いことなのかについて解説していきます。

※本記事は7月18日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 物価高騰の原因
  2. 円安の要因は日銀の緩和政策なのか
  3. 日銀が緩和政策を解除したらどのような影響があるか
    3-1.個人消費意欲が消滅し、むしろデフレへ逆戻りする可能性も
    3-2.景気の下押し圧力になる可能性も
  4. 円安は日本にとって悪いことなのか
  5. まとめ

1.物価高騰の原因

物価高騰の原因が円安、円安の原因を作ったのは日銀の緩和政策というような論調の記事が散見されます。そもそも物価高騰は、原油をはじめとする一次産品価格の上昇から始まりました。

物価高の発端はコロナ禍による供給制約です。供給制約が解消されないうちに、ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギーだけでなく食品の供給不足にも繋がったことが、世界的なインフレの主な要因です。

日本に限れば、一次産品を全て輸入に頼っています。円安による輸入価格の上昇も関係しているものの、主因とは言えないでしょう。

2.円安の要因は日銀の緩和政策なのか

円安になった主因はFRBの急速な利上げによるドル高です。EUR/USD・GBP/USD・AUD/USDなど、USD/JPY以外の通貨ペアも軒並みここ数カ月はドル高方向にシフトしています。

これらどの国も利上げを実施するか、これからしようとしている国であるにもかかわらず、USD高となっています。日銀の緩和政策も理由の一つであるものの、それが全てとは言うことはできません。

相場の参加者の割合は、1割実需・9割投機筋という説もありますが、今回のUSD/JPYの急上昇も殆ど投機筋が要因と言っても過言ではないでしょう。

投機筋は様々な材料を元に取引をするものの、基本的に実需や資本フローが流れている方向に対して順張りで参戦してきます。

USD/JPYの場合、日米のお金の流れで押さえておきたいのが、日本が資源を輸入に頼っているということです。日本は2021年夏以降、毎月単月で貿易赤字に転落しています。資源価格が高騰するとともに貿易赤字が拡大しているのです。

日本は資源を米国から輸入していません。しかし決済通貨がUSDであるため、USD買いJPY売りのフローが発生します。投機筋はこの流れに順張りで参入したと考えられます。

続いて2022年初めからは、FRBの引き締めスタンスが強化されたことがきっかけで、日米金利差拡大を期待して、USD/JPYの買いを投入したと思われます。

当時緩和政策を維持していたのは日銀だけではありません。ECBもスイス中銀もRBAも多くの中銀は緩和スタンスを維持していました。日銀の緩和政策だけが狙われたわけではなかったのです。

2022年7月現在ECBやスイス中銀など、これまで日銀と同じくマイナス金利政策を取っていた中銀が利上げ方向に方針を変えたため、日銀の緩和政策維持が目立っています。

3.日銀が緩和政策を解除したらどのような影響があるか

3-1.個人消費意欲が消滅し、むしろデフレへ逆戻りする可能性も

直近の5月の日本のCPIは総合が前年比+2.5%、生鮮食品除きが+2.1%、生鮮食品及びエネルギー除きでは+0.8%です。日銀のインフレターゲット2%を超えた要因はエネルギーが一番でその次は食品です。財務省が発表している貿易赤字の要因の上位3つは石油・石炭・天然ガスとなっています。

ここで、金融引き締めの効果について考えてみましょう。金融引き締めの効果があるのは、住宅などの国内個人消費の需要の抑制であり、生鮮食品や・エネルギー価格には関係ありません。

日本は黒田バズーカによる緩和政策を開始して以来、低金利を活かした内需の強化ができませんでした。財務省と政府の緊縮財政により需要が少なくなり、消費税を10%に増税したことで、国内が疲弊しているところに、コロナショックが発生しました。他国と比較して財政出動が弱かったために、国内の需要が回復していません。

このような状態で下手に日銀が引き締めに移行すると、僅かに残った個人消費意欲が消滅し、むしろデフレへ逆戻りする可能性があります。むしろ財政出動が必要でしょう。

3-2.景気の下押し圧力になる可能性も

仮に日銀が緩和スタンスを転換したとして、円安は止まるのでしょうか。今のFRBと同等の利上げを日銀が出来るのであれば、大きな円高への回帰が見込める可能性があります。

10年のYCCのレンジを±0.5%に拡大するといった程度の話であれば、短期的には日銀の方針転換と捉えられるでしょう。しかし円高方向に動いたとしても金利の絶対水準があまり変わらないのであれば、円高方向への動きは限定的になる可能性があります。

世論が高まり日銀へ緩和解除の圧力がかかり、FRBが利上げ継続している最中に日銀が緩和を解除すれば景気が後退の可能性もあります。円高にもならずに輸入物価は変わらず、更に景気の下押し圧力になるという可能性もあるでしょう。

4.円安は日本にとって悪いことなのか

円安を止められれば、輸入物価は下がるかもしれません。逆に言うと円安のデメリットはその程度なのです。

国際的に協調して原油価格抑制に向けて政治力を発揮しし、物価高騰の要因の殆どを占めるエネルギー価格が下がることの方が、資源輸入国の日本にとってメリットは大きいでしょう。

例えば、エネルギー価格が下がることの悪影響は、エネルギー会社の利益率が多少下がる程度でしょう。

一方で為替水準は、日本国内に輸出企業も輸入企業もある以上、どちらが良い・悪いとは言えません。むしろ日本全体で見た場合、円安になった方が、GDPの計算上は輸出企業のウェイトが高い日本GDPの数字は改善します。

リーマンショック後から長期に渡り円高局面が続いた時、苦しんだ輸出企業は生産拠点を海外に移すという企業努力で乗り切りました。その弊害として日本国内で工場が減り、日本で生産をする場合でも、アジアから安い労働者を受け入れて日本国内のデフレ化が進行しました。

今後もし円安が定着するのであれば、逆の展開、つまり生産拠点の国内回帰が長い年月をかけて起こる可能性もあります。国内で安い物を作り円安の力を借りて輸出する、かつての日本の姿に戻るということです。

日本の給与水準は30年間成長していません。アジアの中でも低く、日本で生産した方が安くモノができるという状態です。もし円安の定着により、国内に生産拠点が回帰するのであれば、また長い年月をかけて、国内の職が増え、給与が増え、需要が増えるという、好循環が巡ってくるかもしれません。

5.まとめ

日本は貿易黒字が多ければ輸出企業にとって不利な円高になり、それに対して対策を取れば、貿易赤字になり、円安になりと、局面は移行しています。

成熟した国家にとって、円安円高はどちらになっても良い面・悪い面の両面があります。不利な状況になれば対応していく、それによってまた貿易構造が変わっていく、ということの繰り返しであり、一概に円安が悪いとは言えません。

ただし円安でも円高でも、スピードが速すぎるのは問題です。企業経営者が決断し、行動する時間が足りなくなるからです。為替は水準調整ではなく、変化のスピードがポイントになります。

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HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム

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