2022年3月現在、ロシアのウクライナ侵攻は長期化し出口が見えない状況です。引き続きヘッドラインで相場は振り回されているものの、徐々に反応は鈍くなってきています。ウクライナ関連ニュースに取って代わるように、金融政策への注目が高まっています。
特に、これまでの市場の織り込みよりもタカ派にシフトしつつあるFRBの動向によるUSDの方向性に注目が集まり始めています。ウクライナ関連を材料として戦地に近い欧州通貨が売られて戦地から遠い資源国通貨を買うという展開が一つある一方で、各国の金融政策に注目した取引も活発化してきており、二つのテーマが混同している状況です。
今回は、注目度が高い米FRBの動向を予想するにあたって重要となる米雇用統計と米消費者信頼感指数について詳しく解説していきます。
目次
- 米雇用統計
1-1.前回(2月)の数字
1-2.直近の経済状況
1-3.今回(3月)の予想
1-4.指標発表後の反応予想 - 米カンファレンスボード消費者信頼感指数
2-1.米カンファレンスボード消費者信頼感指数
2-2.前回(2月)の数字
2-3.直近(3月)のミシガン大消費者信頼感指数
2-4.指標発表後の反応予想
1.米雇用統計
1-1.前回(2月)の数字
2月の雇用統計は1月と同様強い結果でした。非農業部門雇用者数(NFP)が前月比+67.8万人と、市場予想を大きく上回りました。
業種別内訳を見ても、広範な業種で改善が見られています。今回は、パンデミックを理由に働くことが出来ないと答えた人が減少しています。
労働参加率は62.3%と前月から上昇し、失業率は4.0%から3.8%に低下しています。オミクロン株の影響で無給休暇に追いやられていた労働者が復職した可能性が高いです。失業率の3.8%は、パンデミック直前の2020年2月以来の水準です。
一般的には労働参加率が上がると、失業率は一時的に上昇します。雇用情勢が良くなることで、これまで就労事態をあきらめていたため失業者としてカウントされず、失業率の計算から省かれていた層が、就職活動を新たに始め、すぐには職が見つからないので失業者扱いとなるためです。
労働参加率の上昇と、失業率の上昇につながります。その為、2月の様に労働参加率が上昇したにも関わらず失業率低下が0.2%ポイントであることは、豊富に求人があるという印象です。
一方、賃金の伸びは減速しており、平均時給は前年比+5.1%と伸びが鈍化しました。しかしこれは、低賃金業種の雇用増加が中・高賃金業種の雇用増加幅を上回っているためです。オミクロン感染からの回復という意味ではしっかりしているといえます。更に労働時間が34.7時間に増えていることを勘案すると、全体的な個人所得は増加している可能性が高いと言えます。
1-2.直近の経済状況
週間ベースの新規失業保険申請件数は、雇用統計調査週に当たる3月19日までの一週間で1969年以来の低水準である18.7万人となりました。全体の失業保険継続受給者数も3月12日までの一週間で135万人と1970年以来の低水準となりました。市場予想を大幅に上回った2月の雇用統計発表時よりも更に雇用市場は改善しています。
ADP雇用者数の3月の予想も+41.3万人となりました。前回の+47.5万人から若干の伸び鈍化したものの、好調な数字が見込まれています。
求人状況は、雇用動態調査(JOLTS)によると1月の求人件数は1126万件となり、過去最高水準を維持しました。採用件数は650万件と小幅に上昇しました。
1-3.今回(3月)の予想
非農業部門雇用者数の予想の中心は前月比+48万人と前回と比べると伸びが鈍化も、かなりの高水準が期待されています。3月の失業率の予想は3.7%であり、改善が予想されています。
1-4.指標発表後の反応予想
FRBにはインフレ抑制と雇用最大化の2大責務が課せられています。最近のFOMCや高官の発言からは、今は何としてもインフレを抑制したいとの思いが強いように感じるものの、雇用市場が足元最大化に接近しつつあるという認識が前提です。
前回3月のFOMC以降、FRBの見方は市場織り込みに対して先行してきています。これまでは、織り込まれ過ぎた市場を冷ますような発言を挟み、株価に対する配慮も見せ、市場織り込みに後から追いつく形で市場インパクトを抑えながらタカ派転してきましたが、今後はインフレ抑制する為には、想定以上にかなりタカ派な姿勢であることを見せつつ、個人の需要を抑えなければなりません。
実際、3月FOMC後に行われたパウエル議長の講演では、FOMC以上にタカ派姿勢を強め、0.50%の大幅利上げの可能性も強調しました。議長の発言を受けて、市場では年内に0.50%の大幅利上げが複数回実施されるとの見方も出始めています。
参照:ブルームバーグ「パウエル議長、急ペースの利上げの可能性に扉開く-インフレ抑制で」
従って、雇用市場の拡大は大幅利上げに対するハードルを下げるものとなるだけに、事前予想通りもしくはそれ以上の強い数字が出てくると、さらなるUSD買いの動きが期待されます。ただ、米国以外にも殆どの国が金融引き締めのスタンスを取っているので、相対の売り通貨は、一向にタカ派になりきれないJPYやタカ派転したり利上げを実施しているがスタグフレーション懸念があるEURやGBPが選好されやすいでしょう。
2.米カンファレンスボード消費者信頼感指数
2-1.米カンファレンスボード消費者信頼感指数
米カンファレンスボード消費者信頼感指数とは、消費者の観点から米国経済の健全性を図る指標です。米国の民間調査会社コンファレンス・ボードが毎月、現在の景気・雇用情勢や6ヵ月後の景気・雇用情勢・家計所得の見通しについて5000世帯を対象にアンケート調査し、1985年を100として指数化したものです。個人消費の先行指標とされ、消費者心理を反映した指数と言われます。
米国の消費者マインドを探ることのできる代表的指標として本指数以外にミシガン大消費者信頼感指数が挙げられます。しかし、この二つはサンプル数が異なります。ミシガンが速報値300なのに対して、カンファレンスボードは5000です。またミシガンはサンプル数は少ない分発表の時期が早いため、カンファレンスボードよりも先行指標として注目されることが多いです。
2-2.前回(2月)の数字
ミシガン大の数字がインフレ懸念を織り込んで悪化しているのに対して、カンファレンスボードの数字はそこまで落ち込んでいません。前回も1月よりは悪化しているとはいえ予想を上回る110.5と持ちこたえています。しかし、物価指標と違い、景況感系の指標はコロナ前の水準には到達できていないのは事実です。
2-3.直近(3月)のミシガン大消費者信頼感指数
参考として、直近のミシガン大学消費者信頼感指数を確認しておきます。インフレ懸念が強まり2011年以来の低水準の59.4となりました。
1年先のインフレ期待も5.4%と前月の4.9%から大幅に上昇し、5-10年先のインフレ期待は3%と前月から変わりませんでした。家計状況の悪化を見込む比率は1940年の統計開始以降で最も高い水準となっています。インフレ高進が実質所得に与える影響拡大が浮き彫りになりました。実質所得と家計純資産の減少が個人消費や心理に大きな影響を及ぼしていると思われます。
2-4.指標発表後の反応予想
景況感系の指標は、基本的にインフレの悪影響を受けてあまり良くない数字が出ると市場は予想しているでしょう。特にミシガンが悪く、またウクライナ問題により資源価格が更に上昇しています。カンファレンスボードの予想も前回より低く107.8となっています。
現在は、ウクライナ問題で売られ過ぎた株式が若干反発気味であり、欧州とは違って米国のスタグフレーション懸念はそこまで織り込まれていません。従って、予想を大きく下回るようなことがあると、株式の下落と共にリスクオフの展開となることが予想されます。その場合、通貨としてはこれまで大きく買われてきたUSD/JPYやクロス円ロングの調整売りの材料として使われる可能性が高いと考えます。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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