豪ドルは、かつて高金利通貨であることに加え、豊富な資源を輸出して上昇基調が続いたことなどから、多くの投資家の関心が集まっていました。その後、世界的な低金利の時代に突入し、コロナショックによりゼロ金利近辺まで利下げを実施しました。
高金利通貨としての価値が薄れたことや、資源ブームが去っています。しかし2021年2月時点では、日本円や欧州通貨よりも金利は高いため、金利狙いの取引をすることは可能です。
この記事では、投資する際に知っておきたい豪ドルのポイントを解説します。
※この記事は2021年2月時点での情報を基に作成しています。
目次
- 豪ドルの変動要因は?
- 豪ドルと中国の関係性
2-1.貿易面での高い割合
2-2.豊富な鉱物・エネルギー資源
2-3.オーストラリアと中国、人材の交流
2-4.資源と株の関係性は? - まとめ
1.豪ドルの変動要因は?
豪ドルの主な変動要因は下記の4点があります。
- オーストラリア中央銀行(RBA)の金融政策(主に政策金利の動向)
- 中国の動向(経済や政治)
- 資源価格の動向(原油価格など)
- 世界経済の動向(リスクオフ・リスクオン)
鉄鉱石や石炭など資源が豊富なオーストラリアは、資源輸出への依存度が高い経済構造のため、世界経済が低迷して資源需要が落ち込むと、オーストラリア経済や豪ドル相場もマイナスの影響を受ける傾向があります。
また、同時期にRBAの政策が変更され、豪ドルにも影響を及ぼします。2008年には、7.25%の高金利通貨としての存在感がありましたが、2021年2月時点では史上最低の0.1%とスワップ(金利差収入)がメリットの通貨ではなくなっています。
しかし、RBAはこれまでも積極的に動くことがあり、今後新型コロナウイルス感染症の収束が見えてきたところでは、利上げ開始時期は想定より早くなる可能性があります。
2.豪ドルと中国の関係性は?
豪ドルは、2008年のリーマンショック後から、高金利・資源という以外に“中国”というキーワードが浮上してくるようになりました。
オーストラリアは、鉄鉱石・石炭などの資源輸出が多いため、資源を消費する世界の国々の景気が上向くと、オーストラリア経済も上向くのですが、最大の消費国が中国です。
実際に、オーストラリアの最大の貿易相手国は中国であることから、オーストラリア経済は中国の景気動向の影響を受けやすいという特徴があります。以下では、豪ドルと中国の関係性について解説していきます。
2-1.貿易面での高い割合
リーマンショック後からオーストラリア経済は中国の成長にサポートされてきた側面が大きく、中国が成長する過程のなかで、中国との関係を徐々に深めてきました。
そして、いつの間にか、貿易総額に占める中国の割合は27%にも達し、中国への輸出は輸出全体の34%と世界最高のシェアになっていることから、豪ドルは中国の影響を受けやすいです。
特に、オーストラリアの輸出を牽引してきたのが鉄鉱石で、2019年度の鉄鉱石輸出の87%が中国向けとなっていたように、豪ドルは資源国通貨であるため、コモディティ市場の動向にも影響されます。そしてその資源の輸出先割合は中国がトップとなるため、中国経済との関係性も非常に重要です。
2019年のデータは下記の通りです。
総額 9,176億豪ドル | 1位 中国27.4% | 1位 日本9.5% | 3位 米国8.8% |
輸出 4,927億豪ド | 1位 中国34.2% | 2位 日本12.3% | 3位 韓国5.7% |
輸入 4,249億豪ドル | 1位 中国19.5% | 2位 米国13.1% | 3位 日本6.2% |
輸出品目 | 1位 鉄鉱石(19.5%) | 2位 石炭(13.0%) | 3位 乗用車(5.0%) |
輸入品目 | 1位 個人旅行(11.0%) | 2位 精製油(5.9%) | 3位 乗用車(5.0%) |
※外務省ホームページ、オーストラリア連邦(Commonwealth of Australia)基礎データより引用
しかし、昨年オーストラリアのモリソン首相が、新型コロナウイルス感染症の原因究明の為、中国へ“独立”した調査団派遣を提唱したことがきっかけで、両国の関係が悪化し、中国はオーストラリアからの輸入に対し様々な制限を加え、オーストラリアがWTOに提訴するなど、混乱が続いています。
2-2.豊富な鉱物・エネルギー資源
世界屈指の資源国であるオーストラリアは、金、銅、石炭、石油、鉄鉱石、液化天然ガスなどの鉱物・エネルギー資源を生産し、世界に輸出しています。
- 金の生産量 世界第2位
- 銅の生産量 世界第6位(埋蔵量では世界第2位)
- 液化天然ガスの生産量 世界1位
オーストラリアの輸出のうち19.5%程度が鉄鉱石、次いで石炭が13%など、5割以上を鉱物資源が占め、多くは中国に輸出され、その規模は実にオーストラリアの輸出割合の4分の1を占めています。
したがって、鉄鉱石や石炭、金、銅などの資源価格が豪州経済に及ぼす影響は甚大であり、輸出先である中国の経済状態からも影響を受けることになります。
2-3.オーストラリアと中国、人材の交流
2012年、オーストラリア政府は投資家用ビザ制度を改定しました。海外の投資家が500万豪ドルを指定された投資先に一定期間投資すれば、オーストラリア国内に居住権が得られるようになったのです。
このビザ制度を利用して中国人富裕層のオーストラリア移住が加速しました。元々オーストラリア国内に居住していた中国系住民も加えると、2016年の国勢調査時点で中国系豪州人は人口の3.9%を占めるようになるなど、オーストラリアと中国の結びつきは経済以外にも広がりを見せていました。
こういった移住ブームにのり、中国人留学生の数が増えてくると同時に、中国人観光客も増えてきました。2019年の統計では、オーストラリアを訪れた外国人観光客のうち最多が中国人の15%となり、その中国人観光客が消費した金額は、オーストラリア全体の消費の27%に達するなど、経済的にも無視できない存在になっていました。
しかし、ここ数年、オーストラリア政府と中国政府の関係に変化が生じたことで、オーストラリア国民の間で中国への不信感が高まっています。2019年に発表された世論調査によれば、「中国を信頼している」と答えた豪国民の割合は23%と、2018年時点の52%から大幅に低下しました。
2-4.資源と株の関係性は?
オーストラリアは1991年度からコロナショックが起きる前まで28年連続して経済成長を続けていましたが、オーストラリア経済の強みは、豊富な資源が要因の一つとして挙げられます。
世界市場が必要とする鉄鉱石や石炭、液化天然ガス(LNG)といったオーストラリアが輸出している資源・エネルギーの価格は高値で推移してきた一方、オーストラリアが生産できないIT製品や携帯電話、電化製品、自動車などの工業製品は年々、価格が低下してきました。
このように資源国は、結果として株との相関性が非常に高くなります。したがって、昨今世界経済をけん引している米中の株価の方向性と豪ドルの方向性は概ね連動している局面が増えてきています。
3.まとめ
豪ドルと中国は、資源・貿易・人材交流・世界景気センチメントと含めて密接な関係があります。
中国を始め世界の貿易活動が鈍ることで、資源価格が下落すれば、オーストラリア経済を圧迫する材料となります。結果として、RBAによる緩和的な金融政策期待が高まることで豪ドル下落に拍車がかかります。
中国の景気が良ければ、活発な生産活動を支えるためにエネルギーが必要になり、オーストラリアの資源輸出が増えることから、豪ドルにプラス材料となります。
オーストラリア国内雇用の2割は貿易に依存しています。中国とオーストラリア両国の関係が崩れて、オーストラリアから中国への輸出が減少し、雇用も減るのでオーストラリア経済がダメージを受け豪ドルが下落する相関があります。
これらが、そのまま直接豪ドルの流通に関係があるわけではありませんが、2021年2月時点では、市場参加者がこういった関係性を持っていることから、豪ドルは中国関係での影響を受けることを覚えておきましょう。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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