南アフリカランドは政策金利の高さが特長で、トルコリラ・メキシコペソと並び、国内の多くの個人投資家に取引されている通貨です。高金利かつ代表的な資源国通貨でもあることから、世界景気に敏感な通貨としても知られています。
しかし、南アフリカという国の名前は耳にしても、残念ながら日本に入ってくるニュースは限定的で、政治的にも経済的にも不安定なためボラティリティーが高く、取引する際にはリスク管理が重要になってきます。
基本的には、高スワップポイント狙いの買いポジションが多い通貨ですが、時にはスワップポイント以上の価格の下落に見舞われてしまい大損害を被ることもあります。今回は、南アフリカランド円の特性について解説していきます。
目次
1.南アフリカの概要
南アフリカ共和国はアフリカ大陸最南端に位置する共和制国家でイギリス連邦加盟国の一つです。アフリカ最大の経済大国で、アフリカ大陸の中で唯一のG20参加国です。
与党アフリカ民族会議(ANC)は1994年当時のネルソン・マンデラ元大統領がアパルトヘイトを撤廃に追い込んで以来、25年間政権の座を守り続けており、2021年現在はラマポーザ大統領が2期目の政権を担っています。
同国はアパルトヘイトが撤廃されたことで民主化が進み、経済の自由化が進み、アフリカを代表する経済大国へと発展しました。2019年時点で米ドルベースでの南アフリカの名目GDPは、3,514億ドルで世界第38位と、アフリカ大陸に位置する国の中ではナイジェリア(27位)に次ぐ経済規模を有します。
また、南アフリカは資源大国として知られており、金やダイヤモンド、プラチナといった鉱物資源が豊富です。こうしたことから通貨「ランド」は資源国通貨に位置づけられています。金は重要な輸出品の一つで、かつては産出量が世界一を誇りました。
貿易では中国や米国、ドイツが主要相手国となっています。南アフリカは中国との結びつきが強く、「一帯一路」構想の連携をアピールするなど友好関係を築いています。その結果2000年代半ばにかけて年5%台という高い経済成長を記録し、新興国のなかでも特に高い成長が期待される「BRICS」(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の一つとして数えられるようになりました。
しかし、近年の南アフリカ経済はやや停滞気味です。巨額の負債を抱える国営電力会社エスコムの経営危機は経済の足枷となっています。エスコムは国内電力の9割以上の供給を担っており、既存発電施設改修の遅れによる計画停電の発生は経済活動に悪影響を及ぼしています。労働組合が呼び掛けたストライキにより工場が操業停止に陥ることが多いことも経済にとってはマイナス要因となっています。
また、人種間差別を遠因として失業率は高止まりしており、97年以降の平均値をとると20%を超えるなど新興国の間でも突出しています。さらに、近年は労働ストライキが経済に与える影響が懸念されるなど、国内情勢は必ずしも安定的とはいえません。国民1人あたりの名目GDPも低く、労働生産性はそれほど高くありません。こうした社会面の不安定さが多く、ランドを取引する際は気を付けなければいけません。
2.南アフリカランド円の特性
続いて南アフリカランド円の特性について解説します。
2-1.投機筋
南アフリカランドは、米ドルやユーロなどに比べて圧倒的に流動性が低くなっています。そのため、ヘッジファンドなどの投機筋が南アフリカランド売りを仕掛けて日本の個人投資家の南アフリカランド円ロングポジションの解消を狙ったような投資行動が年に数回見られています。
2020年3月に、格付け会社ムーディーズが南アフリカの信用格付けを引き下げたことで、南アフリカの長期債務格付けは大手格付け3社すべてで「投資不適格級(ジャンク級)」とされるランクに転落しました。これにより、多くの長期投資家が南アフリカランド投資から手を引かなければならなくなり、現在では、短期投機筋の影響が大きくなっています。
2-2.金利差
南アフリカでは給与の上昇圧力が強く、インフレ傾向が続いています。そのため南アフリカの金利は恒常的に高い水準が維持されています。低金利の日本とは大きな金利差があり、ゆえにランド円はスワップポイントの高さが特徴となっています。
中央銀行であるSARB(南アフリカ中銀)は、インフレ目標を設定しており、前年比の消費者物価指数(CPI)上昇率を+3~6%の範囲内に収めるように政策運営を行っています。したがって、CPIの動向には注目する必要があります。
2-3.経常収支
南アフリカは恒常的な経常赤字体質にあり、資金調達を海外に依存していることから、グローバルな資金移動の影響を受けやすいという特徴があります。また、中国は南アフリカにとって輸出入の最大の貿易相手国なので中国経済の動向にも十分注視していく必要があります。
南アフリカに限った話ではなく、新興国にとって国家や企業が海外で起債して調達した資金の多くは、経済成長や国家の発展に大きな役割を果たします。したがって、格付けの動向にも注意しなければなりません。
2-4.流動性
南アフリカランドを取引する上では流動性リスクを意識しなければなりません。先進国通貨と比べ市場での流動性が低く取引量が少ない、また信用力もあまり高くないという特徴があり、金融危機などの事態に陥った場合には、外国資本が急激に流出し、通貨価値が暴落するといったリスクが顕在化することもあります。
時には、値幅が拡大し価格の提示が一時的にできない事態に陥ることもあります。事実、2008年のリーマンショックでは、南アフリカランドは対円で12円台から7円台後半へ大幅に下落しました。ドル円でイメージするなら一気に50円も円高になったということで、その値動きの凄まじさが分かるでしょう。
2-5.資源
南アフリカランドは、世界有数の鉱物資源国で金やダイヤモンド、プラチナ、鉄鉱石、石炭、銅などの鉱物資源に恵まれているため、金などの鉱物資源価格に影響を受けやすいのが特徴です。一方で、石油や天然ガスの生産量はほとんどなく、ほぼすべての石油資源を輸入に依存していることから、エネルギー価格の影響は受けにくいのも特徴です。
しかし、長年の採掘で地表にある金やプラチナ、ダイヤモンドなどは掘り尽くしたため、現在は地下数千メートルの鉱脈から採掘しています。鉱山労働者は非常に過酷な環境下で労働を強いられており、待遇改善を求めてストライキが頻発しています。
また、金は精製コストが高くなってきてしまい、生産力が落ちています。生産量は1970年の全盛時と比較して現在は1/6程度の水準まで落ち込むなど、年々減少傾向にあることから、最近は金価格との関連性は弱まっています。
2-6.エネルギー
南アフリカ国有の電力会社エスコムは国内の電力供給の9割を担っていますが、発電施設の老朽化によって電力供給能力が低下しており慢性的な電力不足に陥っています。供給が不安定で、たびたび計画停電を行っているので、国内の経済活動に悪影響を及ぼしており、南アフリカランドの慢性的な下落要因のひとつとなっています。
2-7.失業率
2019年は28.7%で世界1位の失業率となっていますが 、特に15~24歳の若年層の失業率は50%を超えていて、2人に1人以上が仕事に就けない状況にあり、社会不安や治安の悪化に結び付いています。
2020年には新型コロナウイルスの影響で失業率は更に悪化し、30%を大きく超えてしまいました。南アフリカ政府は、失業率を半減させるために5%の経済成長率を目標としています。
まとめ
ファンダメンタルズの面ではネガティブな材料が多いように見える南アフリカランドですが、南アフリカランドへの投資が絶対にNGかといえば、そうとは言い切れない部分もあります。これだけの鉱山資源が埋まっている国であるのは強みです。
持っているだけで高い金利を付けてくれるのでスワップ取引を行う投資家にはメリットのある通貨ですし、同国内の失業率関連・電力関連・格付け関連のニュースに注意しながら、慎重に買い場を探すという方針で検討すると良いでしょう。
HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム
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