なぜ世界不況になると円高になるのか?その時にどう投資すべきか?

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世界不況を受けて株が売られると「投資家のリスク回避のために、安全資産である円が買われた」と報道されることが多いように、円高になることが多い傾向にあります。一方で、国内メディアでは国の借金などの報道が繰り返されています。これでは円が安全資産だという説明に違和感を持つ方も一定数いることでしょう。

また、リーマンショックのように米国と欧州が金融危機に苦しんでいる一方、日本の銀行は相対的に健全だということであれば、世界中の株が下がって比較的安全な円が選好されるというのは納得できますが、日経平均株価が下落しても円が買われるという日本側だけの事象を見てしまうと違和感が出てきてしまいます。

今回は現役ファンドマネージャーである筆者が、円と日本経済を中心に外国為替市場のメカニズムを解説しながら、これらの違和感の解消をしつつ、求められる投資行動について考えていきたいと思います。

目次

  1. 外国為替相場の特徴
  2. 円高要因と円安要因
    2-1.円高要因
    2-2.円安要因
  3. 最近の世界の潮流
  4. まとめ

1.外国為替相場の特徴

商品の輸出入、外国証券や海外不動産への投資、企業の海外進出など、国際的な取引の多くは外国為替を利用して金銭の受払いが行われます。取引に際しては、まず決済通貨を決め、自国通貨から決済通貨に交換しなければなりません。その通貨の交換比率を「為替レート」と呼びます。為替市場は株式市場のように取引できる時間帯が決まっているわけではなく、月曜日から金曜日まで24時間いつでもどこからでもアクセス可能です。

近年、グローバル化が進み人と物の流れが活発化するに伴って、またアクセスが簡単な為替市場に多くの投機筋が参入してきたことで、為替レートの変動要因が増加しています。為替レートは24時間世界のあらゆるニュースに反応し、基本的には2国間の強弱によりレートが変動します。更に、そこから2次的・3次的にその他の通貨ペアにも影響が波及するなど、為替市場は非常に複雑化して読みづらくなってきています。

その中の一つの反応の仕方として、ここ数年世界不況になると円高という動きをするケースが多かったのは確かです。しかし、大昔からそうであったわけではなく、この流れが永遠に続くわけでもありません。何かちょっとしたことをきっかけに全く違った動き方をするようになるかもしれません。常に最新の情報を元に分析を継続しないと、ついていけなくなってきています。

2.円高要因と円安要因

以下では円高になる要因と円安になる要因について解説していきます。

2-1.円高要因

不況時に円高になる主な要因としては、以下の3つがあります。

純資産国=安全資産

日本は国内メディアからは借金大国のようなレッテルを貼られていますが、実は日本は世界最大の対外純資産を持つ国で、その観点から言えば円は世界的に見て安全資産だと言えます。

借金をするには相手が必要で、誰かが借金しているということは誰かが貸しているということになります。国というくくりのなかに「政府」や「家計」が存在しているにもかかわらず、マスメディアでは政府を国と置き換えて片サイドしか報道されていない傾向があります。

「国の借金」を正確に言うと「政府」の借金となり、貸しているのは国民です。言い換えれば、単に「日本は政府の借金も家計の資産も莫大にある」という事実を示しているに過ぎません。

しかも政府の借金は100%自国通貨建てで、ほぼ国内で消化されており、さらに政府は通貨をいくらでも発行できます。発行し過ぎるとインフレになるので問題ですが、今はデフレで困っているので政府の借金は問題にはならないはずです。

深刻な問題になり得る本当の意味の「政府の借金」は、自国通貨以外での海外からの借金、例えば新興国での米ドル建ての債務などです。数年前にはEURの発行権を持たないギリシャで深刻な財務問題がありましたが、日本はこれらの国とは根本的に異なります。

経常収支黒字

日本は政府だけでなく生損保のような機関投資家も大量に外国の債券を保有しており、両者合わせた米債保有残高は中国を抑えて世界1位となっています。リスクオフになると、日本国内での資金繰りに備えて保有している米国債等を売却し、資金を日本に持ち帰ります。また、恒常的に外国の債券が満期を迎えたり、利金が入り獲得した外貨を円転したりすれば、これも円高要因となります。

貿易収支黒字

日本は以前のように貿易収支が大幅黒字ではないため、円高圧力は弱まってきていますが、輸出企業が海外で物を売って得た外貨を円転すれば円高要因となります。特にリスクオフ時ということになれば、輸出企業の外貨売り円買い圧力の方が強まるケースが多い傾向です。

輸出企業は物を売って得た外貨の円転のタイミングは自由ですが、輸入企業は基本的に決められた決済日に向けて外貨を調達しなければならないという自由度に差があるからです。

2-2.円安要因

一方で円安になる要因には以下のようなものがあります。

対外直接投資需要が強い

日本企業がM&Aなどにより海外企業を買収した場合や、ほぼゼロ金利の日本国債の魅力が薄れたことから金利が高い海外債券を大量に購入すれば、円安要因になります。

金利差

銀行預金や債券投資では、金利が高い方がより多くの収益を得ることができます。リーマンショック前に流行った「キャリートレード」は、金利の低い円を借りて金利の高い国の資産を購入することですが、これが代表例です。

また、例えば日米の政策金利が同じだとしても、基軸通貨として君臨している米ドルの方が何かと便利ということで、需要が高いことが多くあります。この需要の高さは通常の金利差に上乗せされて収益に繋がります。

特に最近は日銀のマイナス金利政策により、金融機関は日銀口座で円を保有しているだけで手数料を払わなければならない状況なので、余計に円安要因に繋がっています。

3.最近の世界の潮流

色々円高・円安要因を挙げてきましたが、それだけでは為替の変動要因は説明しきれません。短期的に相場変動要因の80%以上の割合を占めると言っていい投機筋の存在が大きいのです。

投機筋は基礎的な変動要因については理解した上で、直近のニュースや、市場参加者のポジショニング等など、「他の投資家が何をしそうか」ということを常に考えながら行動しています。

例えば「世界不況になると皆が円高を想定して円を買う」と予想するなら、実際に投機筋が大量の円を買い進め、結果として円高になってしまいます。そういった観点から、世界不況になった際の安全資産は米ドルと円というのが定石でした。しかしコロナショック前後から少し変化が出てきました。

例えばリーマンショックの時も今回のコロナショックも、定石通り米ドルと円が強いことは変わりありません。違いがあるのは米ドルと円の力関係です。

リーマンショック時は直前まで諸外国の金利が上昇し続け、低金利の円との差を利用した円売り外貨買いポジションが大量に溜まっていたことから、円売りポジション解消の動きの方が圧倒的に強かったのですが、今回は日米に金利差があまりなく、事前に円売りポジションも溜まっていなかったことから、米ドルと円が同程度の強さとなってしまいリーマンショックの時のような円高とはなりませんでした。

しかし世界不況にもかかわらず円高にならなかったという事実は大きいものです。投機筋が世界不況の際の定石から円買いを外すようなことになれば、今後の値動きは全く違ったものになるかもしれません。

4.まとめ

短期的な為替レートは、投機筋がファンダメンタルズをベースに作成した将来のシナリオを元に売買することで変動しています。つまり、現時点の為替レートは将来の先読み分まで反映されており、発表された材料は既に織り込み済みで、自分だけが知っている材料など殆どないということを認識しないといけないのです。

為替(FX)で勝つには出てきた材料を元にしたその先の読みが重要で、初心者のうちは読みが甘く投機筋の餌食になる可能性が高いので、投機筋と同じ短期スパンではなく、長期目線で資金に余裕を持たせたエントリーをお勧めします。

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HEDGE GUIDE 編集部 FXチーム

HEDGE GUIDE 編集部 FXチームは、FXに関する知識が豊富なメンバーがFXの基礎知識から取引のポイント、他の投資手法との客観的な比較などを初心者向けにわかりやすく解説しています。/未来がもっと楽しみになる金融・投資メディア「HEDGE GUIDE」