アメリカ雇用統計から見る米ドルの動向は?インフレや市場センチメントも解説

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アメリカでは再度労働市場や賃金動向にマーケットの視点が移っています。

今回は2023年3月雇用統計の詳細と、インフレや市場センチメントについても解説します。今後の米ドルの方向感も説明します。参考にしてみてください。

※本記事は2023年4月17日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。


目次

  1. 雇用統計の詳細
  2. 雇用統計前の市場のセンチメント
  3. 為替市場を中心にした今後の市場動向
  4. まとめ

1.雇用統計の詳細

2023年3月分の、雇用統計について詳しく見ていきましょう。

速報値 市場予想 前月
非農業部門雇用者数 23.6万人 23万人 32.6万人
失業率 3.5% 3.6% 3.6%
平均時給 +4.2% +4.3% +4.6%(改定前)

強弱混在の数字となっており、トレンドの見極めは難しいでしょう。非農業部門雇用者数は増加しているものの、前月からは低下しています。前月がある程度強かったため、調整したのでしょう。

失業率は低下しています。インフレ鈍化のサインとしては、失業率の上昇が望ましかったものの、労働市場がまだ堅調だと分かる数字になりました。

平均時給は低下しており、伸び率も低下してきています。しかしながらまだ高い水準が維持されているという状況です。そのためFRBは、インフレ鈍化をしっかりと確認できてはいない点に注意しましょう。

労働参加率は62.6%と3年振りに高い水準となりました。労働者が労働市場に戻ってきている動きが確認できます。

これまではレジャー関連の雇用者数や、医療関連の雇用者数の数字が伸びてこず、労働者が不足しているという状況でした。今回は一部回復の兆しが見えています。一方で小売りや人材派遣分野で雇用者数が減少しており、セクター別で見るとマチマチな動きが見られています。

プロトレーダーの筆者としては、今回の雇用統計の数字がインフレ鈍化のサインも見えているものの、中央銀行として安心感を持てるような内容ではなかったと結論付けています。今後はCPIの発表等もあるものの、賃金動向の消費行動への影響が注目されるでしょう。

労働市場自体は賃金動向の低下は若干見られるものの高い水準にあります。雇用統計からは、何かしらしっかりとした数字を読み取ることはできない内容となったということです。

2.雇用統計前の市場のセンチメント

トレードを行う上で市場参加者がどのように考えて雇用統計をチェックしていたのか?という視点は重要です。トレードで利益を出すには数字の内容だけでなく、市場参加者がどのように予想していて、ポジションをどのように傾けているのかを把握しておきましょう。

今回の雇用統計前における、市場参加者の視点を整理していきます。

まず2023年4月に発表されたADP雇用統計は、予想を大きく下回る数字となりました。米国債金利は低下し、株安の動きとなりました。これはシンプルに景気後退を織り込みにいった動きであり、またインフレ鈍化のサインになると判断されたためと推測できます。

ADP雇用統計は、これまで市場を大きく動かす経済指標ではありませんでした。あくまで参考にするための経済指標という位置付けでした。

しかし今回は市場が大きく反応し、労働市場への注目が集まっていることが確認できました。雇用統計も、より重要性が増したとも言えます。

新規失業保険申請件数の数字が季節調整によって大幅に増加しました。数字の増加は、昨年発表された数字から反映されています。調整後の数字でもまだ労働力が強いことが把握できたため、強弱混在の経済指標となったとも言えるでしょう。

では、市場参加者のポジション動向を考えていきましょう。市場参加者はユーロドルやポンドドルのチャートの動きを見るとわかる通り、足元は短期的にドル売り方向でポジションを保有していることがわかります。

ドル安方向のトレンド
※図はTradingViewより筆者作成

上のチャートは青色がユーロドル、オレンジがポンドドル、水色がAUD/USDとなっています。昨年の秋口からドル安方向のトレンドが続いていることが分かります。

これは2022年のドル高のポジション解消のフローが入っています。短期的にはドルショートの目線を強める投資家も多く、ドルショートのポジションが多く入っていると推測されます。

またこのような動きは、3月のアメリカの金融不安から始まっています。短期債の金利を中心に、米国債金利は低下方向で推移しています。景気後退を織り込む動きが続いていました。

これまでは短期ゾーンを中心とした米国債金利の上昇は、インフレ鈍化の材料となるため、金利上昇と株安という動きとなっていました。しかし3月からは、景気後退を織り込んだ金利低下の株安の動きになっています。

そのような中でドル安が進行しており、雇用統計で市場参加者は、これまでのトレンドを肯定するような、インフレ鈍化が確認できるような内容を期待していました。具体的には、平均時給の低下や失業率の上昇、労働参加率の大幅低下です。

発表された数字は強弱混在ではあったものの、市場は最初、ドル高で反応しました。ここからドルロングを解消したい投資家が、現在多いのではないかと推察できます。

3.為替市場を中心にした今後の市場動向

チャートでは2022年秋口からドル安トレンドが続いており、先物市場でもドルショートのポジションに傾きつつあることを確認できました。市場では年内の利下げを織り込んでいるものの、FRBから年内の利下げは否定的なコメントを出しており、市場とのギャップが発生しています。

そのためプロトレーダーの筆者としては、一旦ドル安のポジション解消のフローが出やすくなる可能性が高いと考えています。CPI等の経済指標を確認しながらではあるものの、ドル安方向への値幅よりはドル高方向への値幅の方が、短期的には出やすいでしょう。

ただしアメリカの利上げは、そろそろ打ち止めになる予想が強まっています。利上げのゴールが近いため、ドル高も短期的な反発に留まる可能性があります。

ドル円は市場があまりにも円高方向での予想が合致しているため、夏くらいまでは下落しても125円ほどで収まると考えています。大きな方向感は出ず、レンジ内での推移となる可能性があります。

市場の意見が合致しているほど相場はその方向にはいかず、往々に反転します。周りと同じトレード戦略を取る場合は、慎重に検討しましょう。

4.まとめ

プロトレーダーの筆者が、雇用統計と今後の市場動向を解説しました。

トレード戦略を立てる際には、数字からのトレンド判断は欠かせません。しかしトレンドを作るのは人間であり、人間の心理がチャートを動かしていることは、知っておきましょう。

今後も労働市場や賃金動向に視点が集まるという状況は変わりません。経済指標発表前に市場参加者が、どのような視点でポジションを保有しているのかを考えてみると、今後のトレードのヒントになるでしょう。

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山田 ももこ

ライター/編集者 新卒で投資ファンド運用会社に入社。営業企画や、人事、外国債券運用を経験。投資信託や資産形成に関する知識を活かし、「とっつきにくいお金の分かりやすく」をテーマに複数のメディアで執筆中。